モーツァルト:大ミサ曲 ハ短調 K.427
キリエ
グローリア
クレード
サンクトゥス
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
管弦楽:ベルリン放送交響楽団
独唱:マリア・シュターダー(ソプラノ)
ヘルタ・テッパー(アルト)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)
イヴァン・サルディ(バス)
合唱:聖ヘトヴィッヒ大聖堂聖歌隊
録音:1959年9月30日、10月4日、10月10日
LP:ポリドール MH 5048
モーツァルトは、カトリックのラテン語の典礼文に付けた教会音楽を生涯に3曲作曲した。一曲は、モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、もう一曲は、有名な「レクイエム」、そして今回のLPレコードの「大ミサ曲ハ短調」である。この大ミサ曲は、誰からの依頼ではなく、自発的に作曲した作品で、初演は1783年8月25日。未完成ながら演奏時間は1時間を超え、その充実した内容で聴くものに感動を与えずにおかない。後年作曲したレクイエムも未完成である点では似ているが、レクイエムは鬼気迫るものがあるのに対し、この大ミサ曲は、大らかな神のあたたかい眼差しが溢れているかのように感じられ、聴きごこちという点だけを取るならば、圧倒的にこの大ミサ曲の方に軍配が上がる。モーツァルトは、この曲を作曲するに当たり、バッハやヘンデルのフーガ、対位法などを研究して、その成果を盛り込んだ。要するに、一度忘れ去られたバロック時代の音楽の成果をふんだんに取り入れた曲であることでも注目される作品なのだ。この大ミサ曲はモーツァルトがウィーンに来て初めてのミサ曲であり、同時に唯一のミサ曲ともなった。モーツァルトはザルツブルク時代、コロレド大司教の好みによってできるだけ短いスタイルで作曲したが、ウィーンではこの束縛から解放され、1時間を超えるミサ曲を書くことができた。このLPレコードの演奏は、フェレンツ・フリッチャイ指揮のベルリン放送交響楽団という、当時の最高のコンビによって行われている。フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)は、ハンガリー、ブタペスト出身の名指揮者。1945年にブタペスト国立歌劇場の指揮者となり、以後、ベルリン市立歌劇場およびベルリン放送交響楽団(RIAS交響楽団)常任指揮者、ハンガリー国立交響楽団音楽監督、ヒューストン交響楽団音楽監督、ベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任。しかし、1962年に白血病の症状が悪化し、翌1963年2月20日、48歳の若さで他界した。そのあまりにも早い死を悼んで死後フリッチャイ協会が設立された。フリッチャイは、リズム感に溢れ、メリハリの効いた指揮で定評であったが、このLPレコードでは、ミサ曲らしい宗教的雰囲気を醸しだすことに見事成功している。また、ソプラノのマリア・シュターダーをはじめとして、当時の最高の独唱陣を配し、さらに、聖ヘトヴィッヒ大聖堂聖歌隊もその見事な合唱を聴かせてくれている。(LPC)