★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇クララ・ハスキルのシューベルト:ピアノソナタ第21番/ベートーヴェン:ピアノソナタ第18番

2021-07-01 10:06:09 | 器楽曲(ピアノ)


シューベルト:ピアノソナタ第21番 D.960
ベートーヴェン:ピアノソナタ第18番

ピアノ:クララ・ハスキル

録音:1951年6月8日、1960年9月14日~20日

発売:1976年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード)  PC‐1598(6551 093)

 これは、名女流ピアニストのクララ・ハスキル(1895年―1960年)がシューベルトとベートーヴェンのピアノソナタを録音したLPレコード。クララ・ハスキルは、ルーマニア出身のピアニスト。古典派と初期ロマン派の作曲家の作品に長じ、とりわけ当時優れたモーツァルト弾きとして知られる。さらに室内楽奏者としてエネスコやイザイ、カザルスと共演したが、中でもアルテュール・グリュミオーの共演者として多くの録音を遺している。フランスを拠点に活動していたが、ナチスを避けてスイスに出国。第二次大戦後は、スイスとオランダを拠点に演奏活動を展開。1950年以後世界的な脚光を浴び始め、カラヤンなどの著名指揮者と共演を行い、聴衆の圧倒的な支持を受ける。終生病弱で、1960年12月7日、アルテュール・グリュミオーとの共演のため訪れたブリュッセル駅頭で転倒し、心臓麻痺のため急逝した。現在、スイスにおいて「クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクール」が開催され、その名を現在に遺している。クララ・ハスキルの遺した録音を聴くと、終生病身とは思われないほどの自由闊達なピアノタッチが印象的であり、こんこんと湧きだす泉のような霊感に溢れた演奏内容は、実に生き生きした印象をリスナーに与える。シューベルトの遺作のピアノソナタは、第19番、第20番、それにこの第21番の3曲がある。いずれも死の3か月前の1828年9月に作曲されている。その前年の1827年3月には、敬愛していたベートーヴェンが亡くなり、シューベルトは大きな衝撃を受ける。そして、自作のピアノソナタにベートーヴェンのような強固な造形力を盛り込もうと努力し出来上がった作品が3曲のピアノソナタとなって結実するのである。シューベルト:ピアノソナタ第21番でのクララ・ハスキルの演奏は、思慮深く、しかも自然の流れに身を任せるような流麗な音楽を紡ぎだす。それでいて、音の一つ一つがきらきらと輝き始めるような、激しいエネルギーが込められている。これが、生涯病魔に悩まされたピアニストの演奏とは到底思えない健康さに満ちているのに驚かされる。シューベルトがこの曲に込めた造形力の力強さも如何なく発揮されている。次の曲は、ベートーヴェン:ピアノソナタ第18番。この曲は、その前の曲ピアノソナタ第17番「テンペスト」の陰に隠れ、目立たない曲だが、内容はすこぶる充実している。クララ・ハスキルの演奏は、ここでは力強く、闊達に展開される。全体にすっきりとまとまり、ベートーヴェンの前向きの明るい精神が良く表現された演奏だ。(LPC)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする