★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇メニューインのベートーヴェン:ロマンス第1番、第2番 /ショーソン:詩曲 /サン=サーンス:序奏とロンド・カプリツオーソ、ハバネラ/ヴィエニアフスキー:伝説曲

2024-03-14 09:39:57 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ロマンス第1番/第2番
ショーソン:詩曲
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリツオーソ/ハバネラ
ヴィエニアフスキー:伝説曲

ヴァイオリン:ユーディ・メニューイン

指揮:ジョン・プリチャード

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝音楽工業(SERAPHIM) AA・5029

 ヴァイオリンの音色は、人間の音声に近く、ヴァイオリンの名演を聴くと、身も心も心底からリラックスできる。私は、若いときはヴァイオリンよりピアノの方が圧倒的に好きであったが、歳をとるに従い、ヴァイオリンの音色に愛着が出てきて、今では「ピアノとヴァイオリンのどっちが好きか」と問われると、どちらとも言えないと答えてしまうかもしれないほど。このLPレコードは、ヴァイオリンのとびっきりの小品の名曲を、かつてヴァイオリンの名手として、その名を世界に轟かせたユーディ・メニューイン(1916年―1999年)が録音した、極上の一枚なのである。ベートーヴェンの第1番と第2番の「ロマンス」は、あの闘争的なベートーヴェンが、よくぞこんな優美な曲を作曲したものだ、と思わせる小品の名曲中の名曲。1802年から03年にかけて、ウィーン郊外のハイリゲンシュタットで作曲された。ショーソンの「詩曲」は、夢のような甘美な世界へとリスナーを誘う。1896年に作曲され作品で、最初から最後まで神秘的な美しいメロディが流れるが、静かに消えて行く終結部は、作曲者の短命を予言したかのようである。サン=サーンスの「序奏とロンドカプリチオーソ」と「ハバネラ」は、一度聴いたら忘れられないメロディーが印象的。「序奏とロンドカプリチオーソ」は、サラサーテに捧げられ、彼によって初演された。「ハバネラ」は、ハバネラのリズムを用いた甘い恋歌だが、高度の技巧を要求する曲でもある。そして、ヴィエニアフスキーの「伝説曲」を聴けば、リスナーは、城壁で囲まれた中世の街に迷い込んでしまったかのような気分にさせられる。これらの曲を演奏するメニューインのヴァイオリンは、理知的でぴーんと筋の入った演奏でありながら、情感もたっぷりと含んでおり、これらの小品の名曲の演奏には、最適な演奏家であることは間違いない。ユーディ・メニューインは、米国出身の名ヴァイオリニスト。7歳でサンフランシスコ交響楽団と共演してデューを飾る。第2次世界大戦後の1947年にドイツを訪れ、フルトヴェングラーと共演。メニューインはユダヤ系だが、何故かユダヤ系音楽家が支配的な米国の楽壇からは冷たい目で見られ、以後、英国を拠点に活動するようになる。1951年に来日。この頃から メニューインの名声は世界的なものとなる。体力の克服のため坐禅やヨーガ、菜食主義を実践したことでも知られる。1985年英国に帰化。英国からはサーとロードの勲位を授与されている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ナタン・ミルシテインのグラズノフ&ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲

2024-01-22 09:42:05 | 協奏曲(ヴァイオリン)


グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲
ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ナタン・ミルシテイン

指揮:フリューベック・デ・ブルゴス

管弦楽:ニュー・フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝EMI (SERAPHIM)EAC-30341
 
 ナタン・ミルシテイン(1903年―1992年)は、ウクライナ出身の名ヴァイオリニスト。11歳のとき名教師と謳われたレオポルト・アウアーの指導でペテルブルク音楽院に入学。ロシア革命後、キエフに戻り、ウラジミール・ホロヴィッツと知り合い、しばしば共演する。1929年にアメリカ・デビューし、ニューヨークに居を構える。1975年、グラミー賞受賞、1968年、レジオン・ドヌール勲章を受章。傑出した超絶技巧の持ち主ではあったにも関わらず、フランコ・ベルギー楽派の優美な演奏スタイルで知られ、“ヴァイオリンの貴公子”と称された。1942年にはアメリカ合衆国の市民権を取得している。大の飛行機嫌いだったせいもあり、来日をせず、日本での知名度は今一つであった。全盛時代には、ハイフェッツ、フランチェスカッティ、オイストラフに継ぐ巨匠として高い評価を得ていた。ナタン・ミルシテインは、グラズノフとドボルザークのヴァイオリン協奏曲を3度録音しており、これは3度目の録音。グラズノフとドボルザークのヴァイオリン協奏曲が今知られているのは、ナタン・ミルシテインが積極的に取り上げてきたためとさえ言われているほど。このLPレコードのライターズノートに浅里公三氏は「このフリューベック・デ・ブルゴスとの3度目の録音が、あらゆる点で最も優れており、ミルシテインの極め付きの最良のレコードとなっている」と評価している。この2曲のヴァイオリン協奏曲は、そうしばしば演奏されるわけではないが、内容の充実した聴き応え十分のヴァイオリン協奏曲である。グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲は、ミルシテインの師であるアウアーにより初演され、ハイフェッツやミルシテインなどアウワー門下によって、これまで弾き続けられてきた、鮮やかな名技性と華麗な管弦楽法によって構成される魅力的な作品で、ロシア国民楽派の作風を受け継いだスラヴ的な曲。一方、ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲は、ドボルザーク唯一のヴァイオリン協奏曲であり、スラヴを代表するヴァイオリン協奏曲。作曲に関してはヨアヒムから様々な助言を受け、彼に「深い尊敬をこめて」献呈された。このLPレコードでのナタン・ミルシテインの演奏は、グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲おいては、端正な中にロマンの香り豊かな演奏を聴かせる。一方、ドボルザーク:ヴァイオリン協奏曲では、スラヴ的な情熱を内に秘めた構成力の強固な演奏で、リスナーを魅了する。(LPC)
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◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのバルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番/ヴァイオリンとオーケストラのラプソディ第1番

2023-11-13 09:36:03 | 協奏曲(ヴァイオリン)


バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第2番
        ヴァイオリンとオーケストラのラプソディ第1番

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:ベルナルト・ハイティンク

管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

録音:1969年11月、アムステルダム

発売:1976年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) X‐5637(6500 021)

 バルトークは、ヴァイオリン協奏曲を2曲書いている。第1番は1908年に作曲されたが、長い間放置され、1959年になって出版された。一方、今回のLPレコードに収められている第2番は、1938年に作曲された曲。この2曲が作曲された間には、「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」「2台のピアノと打楽器のソナタ」などの傑作が生み出されている。このヴァイオリン協奏曲第2番を聴く際には、バルトークの米国への亡命ということを考えなければ、この曲の真の理解には繋がらないであろう。当時、ナチスがオーストリアを併合し、バルトークの祖国であるハンガリーも同じ運命を辿ることは、容易に想像できた時なのである。そんな苦悶の中で作曲されたのが、このヴァイオリン協奏曲第2番なのだ。このためか、全3楽章のいずれも、息詰まるような緊張感が覆う。決して取っ付きがいい曲とは言えないが、当時のバルトークが置かれた精神状態を考えながら、何回か繰り返し聴いて行くうちに、その内向した精神の深さと、その中から必死になって活路を見い出そうとするような、強靭な精神性に貫かれた、この曲の真髄に触れることができるのである。バルトークは、米国に亡命した後は、生きて故郷のハンガリーの土を踏むことはなかった。この曲は、そんな自分の将来を予兆でもするかのように、苛立ちと苦悩とが混ざり合った陰鬱な雰囲気に覆われている。普通なら、そのような曲は、人の心を掴むことは難しい。しかし、そこはバルトークである。現在、聴いてみると、現代人が多かれ少なかれ、誰でも持っている将来に対する漠然とした不安(戦争、地球環境破壊、原子力発電事故など)を、ものの見事に表現し切っている曲のように私には聴こえる。一方、ヴァイオリンとオーケストラのラプソディ第1番は、1928年に作曲された。バルトークには珍しい、ジプシーのヴァイオリンの即興演奏風の香りがする、民族色濃い作品だ。ジプシー音楽といっても、ヴァイオリン協奏曲第2番ほどでもないが、この作品もバルトーク独特の気難しさが漂うので、そう気楽には聴けない。ヘンリック・シェリング(1918年―1988年)のヴァイオリンは、これら2曲を実に緻密な演奏で表現し切っており、見事な出来栄えを聴かせてくれる。特に、ヴァイオリン協奏曲第2番では、確信に満ち、説得力のある、その弓使いが強く印象に残る。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのメンデルスゾーン/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

2023-10-09 09:39:03 | 協奏曲(ヴァイオリン)


メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:アンタール・ドラティ

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐261(6570 305)

 往年の名ヴァイオリニストのヘンリック・シェリング(1918年―1988年)が、名指揮者アンタールドラティ(1908年―1988年)指揮ロンドン交響楽団の伴奏を得て、ヴァイオリン協奏曲の二大名曲であるメンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を収録したのが、このLPレコードである。中庸を得た演奏、そして実に美しいヘンリック・シェリングのヴァイオリンの音色が聴くことができ、聴き応えがのある演奏がたっぷりと収録された録音だ。アンタールドラティ指揮ロンドン交響楽団の伴奏は、奥深く、堂々とした演奏であり、この二大名曲を聴くのに誠に相応しいものに仕上がっている。ヘンリック・シェリングは、ポーランド出身であるが、後にメキシコに帰化し、音楽教育にも力を注いだヴァイオリニスト。ベルリンに留学し、カール・フレッシュにヴァイオリンを師事。ブラームスの協奏曲を演奏して、1933年にソリストとしてデビューを果たす。第二次世界大戦後は、メキシコの大学で音楽教育に携わり、1946年には市民権を取得。その後、米国での演奏活動が切っ掛けで、世界的ヴァイオリニストとして注目を浴びることとなる。その演奏スタイルは、あくまで知的で中庸を得たもので、その上、ヴァイオリンの音色が美しいという特徴を持ち、たちまちのうちに世界中のリスナーの心を奪った。このLPレコードのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲の演奏においては、これらのヘンリック・シェリングの演奏の特徴が如何なく発揮され、流麗とでも言ったらいいほどの美しさに溢れた、最高のコンチェルト演奏をたっぷりと聴かせてくれる。一方、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、リスナーによっては「もう少し土臭さがあったら」と思う人もいよう。しかし、このLPレコードでのヘンリック・シェリングの演奏は、敢えて妙な演出はせずに、純粋な音楽として、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲に真摯に向き合った結果だと言える演奏内容となっている。ここでも伴奏のアンタール・ドラティの指揮の素晴らしさが一際光る。アンタル・ドラティは、ハンガリー出身。フランツ・リスト音楽院で作曲とピアノを学ぶ。1924年ハンガリー国立歌劇場で指揮者としてデビューを果たす。アメリカでのオーケストラ指揮者としてのデビューは1937年。その後、1940年にアメリカに移住し、1947年には帰化。BBC交響楽団首席指揮者、ミネソタ管弦楽団首席指揮者、ロイヤル・フィル首席指揮者、デトロイト交響楽団音楽監督などを歴任した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのラロ:スペイン交響曲/ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

2023-06-26 09:41:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ラロ:スペイン交響曲
ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

LP:CBS/SONY 18AC 768

 アイザック・スターン(1920年―2001年)は、ウクライナに生まれ。生後間もなくアメリカに渡る。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番をモントゥ指揮のサンフランシスコ交響楽団と共演して、デビューを果たす。初演後、演奏されることのなかったバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番を初演者の依頼によって再演奏し、その存在を世界に知らしめた。また、新進演奏家の擁護者でもあり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンはスターンの秘蔵っ子たちだ。アイザック・スターンは、日本とも縁が深い。宮崎国際音楽祭では、初代音楽監督を務め、2002年には宮崎県より県民栄誉賞を贈られる。宮崎国際音楽祭での功労を称えて、宮崎県立芸術劇場コンサートホールは、宮崎県立芸術劇場アイザックスターンホールと改称された。2000年には80歳で来日し、日本で来日記念アルバムも発売された。 さらに日本国から「勲三等旭日中綬章」を授与されている。私にとってアイザック・スターンを印象強いものにしているのが、映画「ミュージック・オブ・ハート」である。この映画は、実話を基にしており、主人公(メリル・ストリープ)が荒れた小学校の臨時教師となり、音楽による子供たちとの交流によりお互いに成長していく姿を描いた作品。この映画の最後のカーネギーホールの場面でアイザック・スターンが登場し、主役のメリル・ストリープと会話を交わし、合奏の一員としてヴァイオリンを弾く。その醸し出す雰囲気は如何にも好々爺ふうで親しみやすい。1960年に、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際には、救済活動に立ち上がった。そのため現在、カーネギー・ホールのメイン・オーディトリアムはスターンの名がつけられている。このLPレコードは、その巨匠アイザック・スターンが、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団とラロ:スペイン交響曲、それにヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番を演奏した貴重な録音。ヴァイオリンの音色は輝かしく、活き活きとしていて、しかも力強く、骨太で男性的だ。そして、アイザック・スターンのヴァイオリンは、歌うときは思いっきり歌う。この2曲はいずれも、そんなアイザック・スターンのヴァイオリン演奏の優れた点を思いっきり発揮できる作品だ。今聴いても、この2曲の決定盤と言ってもいいほど、完成度の高い録音になっている。録音状態も頗るよい。(LPC)

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