★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇アイザック・スターンのラロ:スペイン交響曲/ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

2023-06-26 09:41:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ラロ:スペイン交響曲
ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番

ヴァイオリン:アイザック・スターン

指揮:ユージン・オーマンディ

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

LP:CBS/SONY 18AC 768

 アイザック・スターン(1920年―2001年)は、ウクライナに生まれ。生後間もなくアメリカに渡る。サンフランシスコ音楽院でヴァイオリンを学び、1936年サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲第3番をモントゥ指揮のサンフランシスコ交響楽団と共演して、デビューを果たす。初演後、演奏されることのなかったバルトークのヴァイオリン協奏曲第1番を初演者の依頼によって再演奏し、その存在を世界に知らしめた。また、新進演奏家の擁護者でもあり、パールマン、ズーカーマン、ミンツ、ヨーヨー・マ、ジャン・ワンはスターンの秘蔵っ子たちだ。アイザック・スターンは、日本とも縁が深い。宮崎国際音楽祭では、初代音楽監督を務め、2002年には宮崎県より県民栄誉賞を贈られる。宮崎国際音楽祭での功労を称えて、宮崎県立芸術劇場コンサートホールは、宮崎県立芸術劇場アイザックスターンホールと改称された。2000年には80歳で来日し、日本で来日記念アルバムも発売された。 さらに日本国から「勲三等旭日中綬章」を授与されている。私にとってアイザック・スターンを印象強いものにしているのが、映画「ミュージック・オブ・ハート」である。この映画は、実話を基にしており、主人公(メリル・ストリープ)が荒れた小学校の臨時教師となり、音楽による子供たちとの交流によりお互いに成長していく姿を描いた作品。この映画の最後のカーネギーホールの場面でアイザック・スターンが登場し、主役のメリル・ストリープと会話を交わし、合奏の一員としてヴァイオリンを弾く。その醸し出す雰囲気は如何にも好々爺ふうで親しみやすい。1960年に、カーネギー・ホールが解体の危機に見舞われた際には、救済活動に立ち上がった。そのため現在、カーネギー・ホールのメイン・オーディトリアムはスターンの名がつけられている。このLPレコードは、その巨匠アイザック・スターンが、ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団とラロ:スペイン交響曲、それにヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番を演奏した貴重な録音。ヴァイオリンの音色は輝かしく、活き活きとしていて、しかも力強く、骨太で男性的だ。そして、アイザック・スターンのヴァイオリンは、歌うときは思いっきり歌う。この2曲はいずれも、そんなアイザック・スターンのヴァイオリン演奏の優れた点を思いっきり発揮できる作品だ。今聴いても、この2曲の決定盤と言ってもいいほど、完成度の高い録音になっている。録音状態も頗るよい。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ダヴィッド・オイストラフのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番/第7番

2023-06-05 09:40:18 | 協奏曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第3番/第7番

ヴァイオリン:ダヴィッド・オイストラフ

指揮:ルドルフ・バルシャイ(第3番)
   キリル・コンドラシン(第7番)

管弦楽:モスクワ室内管弦楽団(第3番)
    モスクワ放送交響楽団(第7番)

発売:1974年

LP:ビクター音楽産業 MK‐1060

 モーツァルトは、生涯に8曲のヴァイオリン協奏曲を作曲している。そのうちこのLPレコードには、第3番と第7番の2曲が収められている。ヴァイオリン演奏は、旧ソ連最大のヴァイオリニストであるダヴィッド・オイストラフ(1908年―1974年)、指揮者は、これも旧ソ連を代表する名指揮者であるルドルフ・バルシャイ(1924年―2010年)およびキリル・コンドラシン(1914年―1981年)である。もうこれだけの役者が揃えば名録音は間違いない、と思って聴くと予想通り、愛らしくも、機知に富んだモーツァルトのヴァイオリン協奏曲の名品が、極上の演奏となって耳に飛び込んでくる。“ザルツブルグ協奏曲”と呼ばれる第1番から第5番のモーツァルトのヴァイオリン協奏曲は、1775年4月から12月と短期間に作曲されている。第3番は、如何にもモーツァルトらしい作風である、軽快さ、明るさ、優美さとが織り交ぜられており、美しいメロディーが曲全体に散りばめられ、ヴァイオリンの魅力が余す所なく発揮される。一方、第7番は、第6番とともに自筆原稿が失われているものの、第7番は、草稿の写しが残されており、それには1777年7月16日に作曲されたことが記されている。しかし、ソロ・パートの重音技法や管弦楽法、各楽章の形式など、当時のモーツァルトの様式にそぐわない点が指摘されるなど、現在ではモーツァルト作ではないか、少なくとも他人による加筆があることは間違いない作品とされている。この第7番以後、モーツァルトは、ヴァイオリン協奏曲を作曲していない。今考えると不思議と言えば不思議なことではあるが、当時、ヴァイオリン協奏曲の位置づけは現在考えるほど高いものではなく、このためモーツァルトはヴァイオリン協奏曲に拘らなかったようだ。第7番の完成は、“ザルツブルグ協奏曲”から2年しか経ってないが、内容は一層充実感が増しているように聴こえる。“ザルツブルグ協奏曲”が貴族的な優美さに徹した内容とするなら、第7番は偽作の疑いがある曲とは言いながら、より自由な新しい音楽空間を探り当てたような爽快感を聴いていて感じ取ることができる。曲としてのスケールも一回り大きくなったように感じられる。ダヴィッド・オイストラフは、この2曲を集中力の限りを尽くして弾いている。メリハリの利いたダイナミックな演奏を聴き終えた後は、清々しさだけが残り、改めて名人芸の凄さを感じさせられる演奏となっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アルテュール・グリュミオーのヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番

2023-05-01 09:38:59 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

指揮:マニュエル・ロザンタール

管弦楽:コンセール・ラムルー管弦楽団

録音:1966年3月、パリ/1963年、パリ

発売:1975年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PC-1561

 このLPレコードは、フランコ=ベルギー楽派の創始者の一人であるヴュータン(1820年―1881年)のヴァイオリン協奏曲2曲を、フランコ=ベルギー楽派を代表する名ヴァイオリニストであったアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が演奏した貴重な録音である。ヴュータンは、ベルギー出身のヴァイオリニスト兼作曲家。若い頃は、モーツァルトの再来と言われていたほどの神童ぶりを発揮。晩年はブリュッセル音楽院で後進の指導に当たり、イザイ、フーバイなどのヴァイオリニストの逸材を数多く輩出した。ヴュータンのヴァイオリンの演奏スタイルは、洗練された音色と華麗だが常に優雅なフィーリングを忘れず、しなやかなボーイングと節度を保ったヴィブラートをきめ細かく駆使するフランコ=ベルギー楽派の演奏スタイルそのものだったという。現在、ヴュータンのヴァイオリン協奏曲は、そうしょっちゅう演奏される曲ではないので、この録音の存在価値は一段と高い。このLPレコードで、改めてヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番を聴いてみると、2曲とも内容が充実したヴァイオリン協奏曲であること、そして何回も繰り返し聴くうちに、徐々に曲の真価が理解でき、古今のヴァイオリン協奏曲の名曲なのだという実感が自然に湧き起こってくる。この2曲のヴァイオリン協奏曲は、現在の演奏会でもっと演奏されてもいい曲だと思う。感覚的にも決して古めかしくなく、優雅な味わいは特に素晴らしい。ヴュータンは生涯で7曲のヴァイオリン協奏曲を書いた。第4番は、4つの楽章からなっている。全体は実に堂々とした印象の曲で、4つの楽章からなっていることもあり、あたかもヴァイオリン独奏付きの交響曲風な趣を持っている。一方、第5番は、全体が単一楽章で構成されており、劇的で実に起伏に富んだ、充満した内容となっている。この2曲のヴァイオリン協奏曲をアルテュール・グリュミオーは、実に見事に曲の特徴を捉え、鮮やかで華麗な技巧で表現する。この2曲は、特にヴァイオリニストが持つ資質の高さによって、その真価がはじめて蘇る性格の曲だけに、アルテュール・グリュミオーの起用は当を得たもの。ロザンタール指揮コンセール・ラムルー管弦楽団の伴奏も、伴奏の域を出たような熱演を聴かせる。マニュエル・ロザンタール(1904年―2003年)は、フランス国立管弦楽団首席指揮者・音楽監督(1934年―1946年)を務めたフランスの指揮者。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヤッシャ・ハイフェッツのメンデルスゾーン/チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

2022-11-03 09:44:06 | 協奏曲(ヴァイオリン)


メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヤッシャ・ハイフェッツ

指揮:シャルル・ミュンシュ

管弦楽:ボストン交響楽団

発売:1975年

LP:RVC(RCAコーポレーション) SX-2710

 「パガニーニのあとにパガニーニなし、ハイフェッツのあとにハイフェッツなし」と称えられた“ヴァイオリニストの王”ヤッシャ・ハイフェッツ(1901年―1987年)は、ロシアに生まれ、12歳でベルリンでデヴューを果たした神童であった。ロシア革命のとき米国に亡命し、1925年には米国の市民権を得ている。その後、世界各国で演奏活動を行い、その名を不動のものにしていく。ハイフェッツの演奏は、極限まで技術的に完璧に磨き上げられ、時には“冷たい”とも評されるほどであった。しかし、今このLPレコードを聴いてみると、“冷たさ”は微塵も感じられず、むしろ、繊細で温か味のある演奏に感動さえ覚える。これは、時代の流れがそう感じさせるのであろう。このLPレコードは、ハイフェッツがまだヴィルトゥオーソとしての活躍を続けていた時期に録音されたもので、いうならば技心ともに絶頂期あった彼の最後の年代に属しており、今となっては何とも貴重な録音なのである。藁科雅美氏は「ハイフェッツの演奏は“磨き上げらた大理石”ともいわれ、そのあく(灰汁)のない表現は古今無双とたたえられている」と、このLPレコードのライナーノートに記しているが、正にハイフェッツの存在は他に例えもなく大きなものであった。このLPレコードは、メンデルスゾーンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を語るとき、何人も避けて通れない録音であることだけは確かなことである。A面に収められたメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲では、ヤッシャ・ハイフェッツのヴァイオリンは軽快に一気に弾き進む。細部のフレーズは丁寧に演奏されるが、旋律はあまり華美にならずあっさりと弾かれる。さりとて、無機的な感触は少しも感じられず、根底にあるのは濃いロマンの香りであることが、引き進むうちに自然とリスナーに伝わって来る。シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の伴奏は、ハイフェッツを意識してかテンポを速めに取り、流れるような演奏でハイフェッツのヴァイオリンを盛り立てて行く。ここでは完成度の高いメンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲を聴くことができる。一方、B面のチャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲では、メンデルスゾーンとは異なり、ハイフェッツのヴァイオリンは、一音一音を確かめるように、ゆっくりと曲を進めて行く。外面的な華美な表現を意図するのではなく、曲の内面から湧き上がるような情緒の濃い表現をとりわけ強調するかのような力強い演奏内容になっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲/ロマンス第2番

2022-09-22 09:41:11 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
        ロマンス第2番

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット

管弦楽:ロンドン交響楽団

発売:1980年

LP:日本グラモフォン(フィリップスレコード) 13PC‐266(6570 303)

 ヘンリック・シェリング(1918年―1988年)はポーランド出身で、その後、メキシコに帰化した名ヴァイオリニスト。ベルリン、パリで学び、第2次世界大戦後にメキシコ市民権を得ている。その演奏スタイルは、正に正統派を絵で書いたようであり、実に堂々としていて、どのような曲でも真正面から取り組む真摯な演奏姿勢により、当時の多くの聴衆から圧倒的支持を得ていた。正統的演奏スタイルといっても、少しも堅苦しい所はなく、ヴァイオリンの持つ人間味溢れる音色を存分に表現することに長けていた演奏家でもあった。そんなシェリングが、これも正統派の指揮者ハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900年―1973年)とのコンビで、十八番のベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲を録音したのがこのLPレコードである。演奏内容は、両者の特徴である正統派の真髄を随所にちりばめた録音となっており、同曲を代表する録音の一枚として、現在に至るまで、その存在意義を少しも失ってはいない。このLPレコードで宇野功芳氏は「シェリングの高雅な美音は言語に絶する。音色に色と香りがあり、繊細な感受性がにじみ出ている。その表現は懐かしさの限りであり、同様に極めて高貴な強弱のニュアンスの芸術的なことにも驚かされ、聴いていて心の底から慰められてしまう」とヘンリック・シェリングの演奏を絶賛している。ヘンリク・シェリングは、ベルリンに留学して、カール・フレッシュにヴァイオリンを師事した後、パリ音楽院に入学、ジャック・ティボーに師事し、1937年に同校を首席で卒業する。メキシコ時代は教育活動に専念するが、第2次世界大戦後の1954年に、ニューヨーク市におけるデビューが高い評価を得てから以後、世界を代表するヴァイオリニストとして世界各地で演奏活動を展開した。一方、このLPレコードで堂々たる指揮ぶりを見せているハンス・シュミット=イッセルシュテットは、ドイツの正統派を代表する名指揮者。第2次世界大戦後は、北ドイツ放送交響楽団をベースとして活動したが、シュミット=イッセルシュテットの統率の下、同管弦楽団は飛躍的な進歩を遂げた。こほかにも、ベルリン・フィルやウィーン・フィルを初めとする世界の100を超える主要なオーケストラも指揮した。ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団首席指揮者などを歴任。このLPレコードは、ヘンリック・シェリングとハンス・シュミット=イッセルシュテットの二人の正統派の演奏家による記念碑的録音と評価される。(LPC)

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