★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ジャン=ピエール・ランパルのモーツァルト:フルート協奏曲第1番/同第2番/フルートと管弦楽のためのアンダンテ

2021-10-18 09:38:31 | 協奏曲


モーツアルト:フルート協奏曲第1番KV313/第2番KV314
       フルートと管弦楽のためのアンダンテKV315

フルート:ジャン=ピエール・ランパル

指揮:テオドール・グルシュバウアー

管弦楽:ウィーン交響楽団

LP:RCV E-1009

 これは、モーツァルトのフルート協奏曲を、20世紀最大のフルート奏者であったジャン=ピエール・ランパル(1922年-2000年)が録音したLPレコードだ。2曲といっても、第1番は、1778年マンハイムで作曲されたのに対し、第2番はオーボエ協奏曲をフルート協奏曲に編曲したもの。つまり、モーツァルトはフルート協奏曲を1曲だけしか書かなかったことになる。同じ年に作曲したフルートとハープのための協奏曲と同様、第1番、第2番共に実に流麗な曲であり、思わずフルートの音色に聴き惚れてしまう。同じことはフルートと管弦楽のためのアンダンテにも言える。それにしてもモーツァルトは1778年、1年だけでフルートの曲を作曲することをどうして止めてしまったのであろうか?一説には当時のフルートの性能が今ほどよくなかったという説があるのだが・・・。ランパルは、我々の世代は“フルート=ランパル”といった図式を思い描くほどの神様的存在だった。その優美でたおやかな音色を一度でも聴くとたちまちランパルの信者になってしまうほど。そしてその音色を聴くにはLPレコードが一番良い。ランパルは、マルセイユに生まれ、18歳で医科大学に進んだが、1943年にパリ音楽院に入学し、音楽の道を歩むことになる。1947年にジュネーブ国際コンクールで優勝しソロで活動を開始。1956年からは、パリ・オペラ座管弦楽団の首席奏者に就任。1962年に同楽団を退団後は、世界各地で演奏旅行を行った。また、アイザック・スターンやムスティスラフ・ロストロポーヴィチと室内楽の演奏も行なった。現在、権威あるフルートの国際コンクールとして「ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール」が催されている。モーツアルト:フルート協奏曲第1番は、1778年の1月または2月に、マンハイム作曲されたものと推定されている。第2楽章のアダージョは、かなり難しということで、後に代わりの第2楽章を作曲した。「フルートと管弦楽のためのアンダンテ」は、第1番のフルート協奏曲の第2楽章のアダージョの代わりに作曲された作品ではないか、という見方もされている。フルート協奏曲第1番は、オランダ人のドゥ・ジャンのために書かれた曲だが、この「フルートと管弦楽のためのアンダンテ」は、ドゥ・ジャンのために書かれた2番目のフルート協奏曲という見方もある。このLPレコードでのランパルの演奏は、流麗極まりないものであり、そのフルートの音色を聴くとたちまちのうちに誰もがランパルの虜になってしまう(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジークフリート・ベーレントのロドリーゴ:アランフェス協奏曲/テデスコ:ギター協奏曲第1番 

2021-10-07 09:40:13 | 協奏曲


ロドリーゴ:アランフェス協奏曲
テデスコ:ギター協奏曲第1番 

ギター:ジークフリート・ベーレント

指揮:ラインハルト・ペータース

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5192

録音:1966年5月9日~13日 ベルリン、イエス・キリスト教会

 私は、ギター音楽を聴く機会はそう多いとはいえないが、昔、AMラジオのスピーカーから流れてくるロドリーゴのアランフェス協奏曲だけは例外で、よく聴いたものだ。その第2楽章の何とも言えないエキゾチックなメロディーを聴くと、何か時空を超えてはるか遠くのアランフェスの城はどんな処であろうかと想像を働かせながら聴いたものである。そして今、このLPレコードを改めて聴いてみると、何か遠くのアランフェスの空気が、ジークフリート・ベーレント(1933年―1990年)の柔らかいギターの音色に乗って、頬に吹きかかるような錯覚に捉われる。アランフェスに行ってみたくなる気分に捕らわれる。これはLPレコードの音質だからこそ余計言えることだと思う。ほぼ同時代に書かれたB面のテデスコのギター協奏曲第1番も、心に沁みわたる佳作である。現代スペインの楽壇の大御所ホアキン・ロドリーゴ(1901年―1999年)は、悪性ジフテリアのため4歳で失明するが、バレンシア音楽院からパリのエコールノルマルへと留学し、音楽を習得。また同時に、デュカスの教えを得ることもできた。スペイン戦争時代はドイツにいたこともあったが、1939年からは、マドリードに定住し、作曲に集中。ヴァイオリン、チェロ、ハープ、さらにギターによる作品を次々と発表した。ロドリーゴ自身はギターを弾かなかったようであるが、このスペイン的楽器をこよなく愛し、独奏曲の十数作品に加え、管弦楽との協奏曲も作曲した。アランフェス協奏曲のアランフェスとは、マドリードから約47㎞ほど南の土地の名前だ。乾燥した中央スペインの高原地帯にあって、アランフェスは森の緑に恵まれ、オアシスを形成しているため、昔から王侯の憩いの場所になっていた。ロドリーゴ自身の言葉によると、アランフェス協奏曲は、「憂愁にとらわれたフランシス・デ・ゴヤの影、貴族的なものが民衆的なものと溶け合っていた18世紀スペイン宮廷の姿」を表した作品だという。一方、このLPレコードのB面には、テデスコ:ギター協奏曲第1番が収められている。マリオ・カステルヌオーヴォ=テデスコ(1895年―1968年)は、イタリアのフィレンツェ生まれ。ファシスト勢力の圧迫を避け、1939年にアメリカに渡り、以後アメリカを拠点に作曲活動を行った。如何にもイタリア人らしい表情豊かな作曲家であったが、中でも目立つのがアンドレス・セゴビア(1893年―1987年)との出会いから生まれた数十におよぶギター曲で、その代表作がギター協奏曲第1番である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハインツ・ホリガー&イ・ムジチ合奏団のアルビノーニ:オーボエ協奏曲Op.9

2021-09-27 09:38:12 | 協奏曲


アルビノーニ:オーボエ協奏曲Op.9の2、11、5、8

オーボエ:ハインツ・ホリガー

ハープシコード:マリア・テレサ・ガラッティ

管弦楽:イ・ムジチ合奏団

LP:日本フォノグラム(PHILIPS) SFX-7964

 オーケストラが演奏の前、音合わせ(チューニング)をするとき、オーボエが最初に吹き、それに続いて第一ヴァイオリン、さらに他の楽器が続く。そんなオーボエが主役を演じる協奏曲の中でも白眉とも言えるのが、一連のアルビノーニのオーボエ協奏曲だ。このLPの最初の曲である作品9の2を聴くと、流麗この上ないホリガーのオーボエの音色に忽ち引きつけられ、聴き惚れる。そんな魅力的なオーボエの音こそLPレコードで聴いてほしいものだ。その人間的な音が目の前に迫ってくるようだ。アルビノーニ(1671年―1750年)は、ヴィヴァルディより7年早く、ヴェネチアで生まれた。育った家が裕福であったため、当初は音楽で生計を立てる必要はなかったようである。しかし、その後、職業的なヴァイオリニストとして生計を立てるようになる。アルビノーニは、多作家で、約50曲のオペラをはじめ、数多くのカンタータ、アリアを書き残しており、当時は、オペラ作曲家として、その名が通っていたという。しかし、音楽史上では、器楽曲の作曲家としての方が大きな役割を演じ、ヴィヴァルディの作風にも大きな影響を与えたほど。作品9の「五声のためのコンチェルト」は、1722年に出版された最後の作品集。ソロ楽器と弦楽4部のコンチェルト12曲からなる。全体は、ソロ楽器として、①ヴァイオリンによるもの②オーボエによるもの③2本のオーボエによるもの―の4曲づつ3つのグループに分けられる。このレコードには、そのうち、オーボエのソロ・コンチェルトの4曲が収められている。アルビノーニは、管楽器の中では、特にオーボエに興味があったらしく、生前出版された42曲のコンチェルトのうち、16曲にオーボエを用いている。このレコードでオーボエを演奏しているのは、スイス出身のオーボエ奏者・指揮者、作曲家であるハインツ・ホリガー(1939年生まれ)である。ベルン音楽院、バーゼル音楽院、パリ音楽院で学ぶ。オーボエのソリストとしては、1959年ジュネーヴ国際音楽コンクール優勝、1961年ミュンヘン国際音楽コンクール優勝の受賞歴を誇り、国際的に名声あるオーボエ演奏家である。生前カザルスは、ホリガーを「偉大な芸術家、信じられない程のヴィルトゥオーゾ」と絶賛したという。ホリガーは、オーボエの演奏技法と流麗な響きの可能性を切り開き、18世紀において重要な役割を演じていたオーボエを、再び現代に蘇らせた、偉大なオーボエ奏者である。(LPC) 

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◇クラシック音楽LP◇ツェラー&サバレタのモーツァルト:フルートとハープのための協奏曲/ライネッケ:ハープ協奏曲

2021-09-23 09:37:24 | 協奏曲


モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299
ライネッケ:ハープ協奏曲ホ短調op.182

フルート:カールハインツ・ツェラー

ハープ:ニカノール・サバレタ

指揮:エルンスト・メルツェンドルファー

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW 5121 

録音:1962年10月22、23日(モーツァルト)
   1962年18日ベルリンUFAスタジオ(ライネッケ)

 モーツァルトのフルートとハープのための協奏曲は、1778年にモーツァルトが一挙にフルートの曲を書いた年に作曲された。内容は、誠に典雅な雰囲気に満ち溢れた曲であり、幸福なモーツァルトそのものといった趣の曲だ。そんなモーツァルトを、フルートのカールハインツ・ツェラー(1928年―2005年)とハープのニカノール・サバレタ(1907年―1993年)が、互いに親密な会話をしているように、限りなく美しく演奏している。リスナーは、あたかも馥郁と香り立つ花が部屋いっぱいに咲き乱れている中にいるような雰囲気に包まれるようだ。そんな曲を聴くには、絶対にCDよりはLPレコードがの方が良いのである。モーツァルトは、7~8歳の時、神童としてヨーロッパ中を演奏旅行した。今のように鉄道も飛行機もなく、馬車の旅であったわけで、子供のモーツァルトにとってさぞ体力的にきつい旅であったろうことが想像できる。このとき、モーツァルトはパリに立ち寄っているが、1778年、22歳時にも、ふたたびパリに立ち寄っている。しかし、この時、母を失うなど、恵まれた旅とはいえなかったが、作曲の面では、充実した作品を遺している。交響曲第31番「パリ」、7曲のヴァイオリンソナタ、そして4曲のピアノソナタなどが挙げられる。それに加え、フルートの作品をほぼこの1年の間に書き上げている。その中の1曲がフルートとハープのための協奏曲である。この曲は、アマチュアのフルート奏者のギネス公の依頼によって書かれた。フルートとハープという珍しい楽器の組み合わせの作品を書いたのは、ギネス公とその娘が、それぞれの楽器の名手であったという事情によったもの。モーツァルトは、フルートもハープも、マンハイム-パリ滞在中以外はほとんど書いていない。これは、当時、これらの楽器が十分な機能がなかったためと言われている。一方、ライネッケ:ハープ協奏曲は、名ピアノストでもあったライネッケ(1823年―1910年)がライプツィヒのゲヴァントハウス管弦楽団の音楽監督を務めたいた時代の作品。作曲者としてのライネッケは、メンデルスゾーンの影響を深く受けた合計200あまりの作品を遺している。ハープのニカノール・サバレタは、スペインの出身で、マドリード音楽院で学ぶ。自分で考案した8つのペダル付きのハープの多彩な表現で人気を集めた。フルートのカールハインツ・ツェラーは、ドイツ出身で、1960年~1969年の間、ベルリン・フィルの首席奏者を務めた後に独奏者として活躍した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カール・ベーム指揮ベルリン・フィルのモーツアルト:協奏交響曲K.364/K.297b

2021-05-27 09:45:00 | 協奏曲

モーツァルト:ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364
       オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための
       協奏交響曲K.297b

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
       
         トマス・ブランディス(ヴァイオリン)
         ジェスト・カッポーネ(ヴィオラ)
         カール・シュタインヌ(オーボエ)
         カール・ライスター(クラリネット)
         ゲルト・ザイフェルト(ホルン)
         ギュンター・ピースク(ファゴット)

録音:1964年12月、1966年2月、ベルリン、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE8009

 このLPレコードにはモーツァルトの2曲の協奏交響曲が収められている。イタリアで生まれドイツでも流行った合奏協奏曲に、当時出現した交響曲の様式とを融合させたものが協奏交響曲。この協奏交響曲は、協奏曲のように独奏者を置くが、協奏曲ほど独奏を誇示せず、全体としては交響曲に近い構成をとっている。このLPレコードのA面に収められているヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲K.364は、1779年にザルツブルクで作曲された作品。この少し前にモーツァルトは、マンハイムとパリの旅行を行っている。この時母を亡くし、悲嘆にくれたモーツァルトであったが、両都市から受けた音楽的刺激は大きなものがあった。ザルツブルクに戻り、作曲したのが協奏交響曲K.364である。一方、このLPレコードのB面に収められているオーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴットと管弦楽のための協奏交響曲K.297bは、協奏交響曲K.364よりも前、パリに到着した1778年4月に作曲された。2週間ほどで作曲された作品だが、初演の折、指揮者が楽譜を紛失したようで、演奏されなかった。モーツァルトは、思い出しながら新たに曲を書き上げたようだ。その後、この楽譜の写本が見つかり、復活したわけだか、何故か、初版のフルートがクラリネットに置き換えられていた。このため、この写本を巡りその真偽を巡り、論争が巻き起こってしまった。現在までのところ、作品自体はモーツァルトのものにまず間違いなかろうということで、一件落着しているようだが、写本の出所が不明確など、疑問の余地が残されているのも事実。これら2曲でのカール・ベーム(1894年―1981年)の指揮は、真正面から曲に取り組み、鮮やかな指揮の冴えを見せる。このためリスナーに少しの古めかしさも感じさせない。時を超えて今曲がつくられたかのような錯覚を持つほどである。全体に軽快なテンポで終始し、さすがにカール・ベームだけのことはあると納得させられる演奏内容だ。それに加え、独奏者たちとオーケストラの結び付きが誠に濃厚なもので、一部の隙もない。全体としては、少しも堅苦しいところはなく、特に、モーツァルトがパリ旅行で身に着けた滑らかな旋律の動きが心地良い。K.364では第2楽章の憂いを含んだ表現が絶妙で、思わず引き寄せられるほど。一方、K.297bについては、真偽問題を含む作品であるが、聴いていると、やはりこれはモーツァルトの作品以外には、ちょっと考えにくいというのが正直な感想。モーツァルト特有の軽快さに溢れた曲だ。ここでもベームの巧みな手綱さばきが一際光る。(LPC)

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