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今週の一番付記「マギ」があまりに面白いので「すもももももも」を全巻買ってしまった件

2009年10月11日 | マンガ
【10月第1週:マギ 第17夜「旅立ちの日」◆】
http://www.tsphinx.net/manken/wek1/wek10431.html#607

【漫研】
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「マギ」(作・大高忍)が本当に「面白い」です。「マギ」はアラビアンナイトの時代を模した(?)世界で、ユーラシアの大陸の各地に出現したダンジョンの謎に挑む冒険活劇!…のように見せて単純にそれだけではない物語が展開しているようです。いや、実はあんまり「楽しい」ものだから、大高忍先生の前作「すもももももも」(ヤングガンガン連載)を全巻買ってきてしまいました。それで「マギ」は作者のテーマから観て「すももも」の“続き”という言い方もできそうですが、そう単純に言ってしまっていいのか迷う所もあります。

「すももも」ってどんな話かというと、自分を好きだ(結婚したい!)と言ってくれる女の子がいて、その子が信じて信じて…徹底的に信じ抜いて愛し抜かれて、ようやく腰を上げる少年の話…まあ、要するに徹頭徹尾ヘタレくんの話なんですよね。(小さな一歩を踏み出す…という話でよければ連載数話で結論が出ている)一方、「マギ」は偶然知り合った不思議な少年アラジンと冒険を共にしたアリババが、うだつが上がらず下向きの人生を歩んでいる自分に対して「君は勇気ある人だ。僕は君の事が大好きだ」と言ってもらった。その時の感動を胸に、別れ際にしたアラジンとの約束を果たすため、アリババは王の道を歩み始めるという物語になっている…と思います。(まだ全貌が分らない)



僕、あの時からね…
僕は、あの時からきみのことが大好きになったんだ!

きみがたとえどんな理由で、自分に自信をなくしていたとしても、
大丈夫だよ。
きみは卑怯者なんかじゃないよ。
勇気ある人だよ。

絶対に。


読んでみると分ると思いますが、アリババは素質のない人間ではないのですが“王を決める裁定”としてはアラジンのこの評価は多少…いや相当甘いと思いますwでも、おそらくその事を一番よく分っているのはアリババなんですよね。彼は「いつかダンジョンを攻略する!」なんて事を言いながら、アラジンに会わなければいつまでもダンジョンに入らなかったかもしれない自分を知っている。だから「君は絶対に勇気がある人だ」と言ってくれるアラジンに対して涙を溜める。…そして“アラジンの大好きなアリババ”を演じ抜くために、手に入れた財宝を全て他人のために使って、自分はもしかしたら二度と会えないかもしれないアラジンとの約束を果たすために旅立つんですよね。

それこそ10巻以上かけてようやく決意を固める「すももも」の主人公・孝士くんに対して、アリババは正に一会の邂逅で自分の人生の全てを決めている。それは決意するまでを描いた「すももも」に対して、決意したその先を描く「マギ」という図が観えてくる。これをそのまま当て嵌めれば“続き”だよね?という言い方はできそうなんですが…。しかし、一つの冒険、一つの約束という凝縮された時間の中でその決意をするという行為は、キャラクターたちにまるで違った情景を与えているんですよね。実際、もも子=アラジン、孝士=アリババとして構造を「読もう」としたんですけど、どうもしっくり来ない…というか合わない。……え?なら最初から、ジャンルの違う話を続編とか言うなって?いや、そうなんだけどね…でもねえ。やっぱり、ここらへん誰かに信じてもらった(愛してももらった)事に殉じる…ってのは大高先生の根の部分だと思うのよ。だから、やっぱり「すももも」は決意するまでの話で、「マギ」は決意してからの話だと思うんです。

しかし、こう書いて行くと「すももも」が微妙に劣った作品のように受け取る人もいるんじゃないかと思いますが……そんな事は全然ありません。むしろ後半の筆のノリ方は凄かったです。何かが“降りている”観さえありました。「すももも」自体は以前、アニメ化(この作品もかなりの良作だった!)された時に読んだんですが、その時はまだ終了していなくって、フツーというか……ヘボいというか……何だか“けっこう仮面”寸前みたいなのが出てくる、ええ加減なエロコメ(?)に観えたんですけどねえ…。(※ええ加減だからと言って「詰らない」作品というワケではない)
最初は「このキャラはエロ担当!」と言うか「このキャラはギャグ担当!」とか「こっちは嫌味なやられ役!」とか、かなり単純な取り決めだけでキャラを置いて、だからあまり「造り込み」が感じられないキャラが大半だったのですが、連載が続くにつれ、それらのキャラは一体何を思ってそこに存在るのか?という事を次第に掘り進めて行った(そうせざるを得なかった)ように思えます。それがそのまま筆の勢いに乗っていった感じですね。
結果として大高先生は、非常に分りやすいキャラを置きつつ、同時に必要なキャラには奥行きを感じさせるネームを引く人になっていて、その「すももも」で得た成果が「マギ」では最初から全開で出ている。しかも、まだ物語が詰って来ていない為もあって、筆のノリは十分すぎる程、伸びしろを残している状態なんですよね。ちょっとドキドキせずにはいられないです。





あのね~半蔵クン…ワタシね…
ホントは今もキミのこと……全然、信用してないの。

だって人ってニコニコしてても本当に考えている事なんか
他人には分らないものじゃない?

絶対に


「すももも」の中で僕が気に入ったキャラクターは、虎金井(こがねい)天々姐さんと猿藤(えんどう)優介くんというキャラです。いや、上述したようにほとんど全てのキャラが良いキャラに育った作品なんですけどね。でも、特に天々姐さんはよかったです。彼女は「悪役」で他人を騙すことによって喜びと希望を与えて、それで最後の最後に絶望に突き落とす事に悦びを感じている「悪役」なんですね。まあ「悪役」としてはよくいるキャラです。
しかし、同時にこの作品にはええ加減なマンガ独特の“優しい空気”が漂っているというか、(多少強引でも)実は皆いい人で収めるような力場を感じさせていて…実際、この天々姐さんにも半蔵くんという、自分の事を少しながらも分ってくれるキャラがいて、この人が救われて行くような線が観えてないワケではなかった。しかし、その半蔵くんに天々姐さんが言い放った言葉が上掲のセリフ(天々姐さんの画もいい。ここら辺の頃は筆のノリ方が凄かった)。この時点で「すももも」は天々姐さんが絶対に救われない人である事を描いてしまった。

さっきから言っている、ええ加減なマンガって、決して悪い意味で使ってないんですが。たとえば上手く行かないような所はギャグでまとめちゃってもいいから、こんな人でも救われるんだよって言ってあげてもよかったと思うんですけどね。それがええ加減な話の良さって所があって。(実際に、ラストはそう見えるような締め方をしている)…でも天々姐さんというキャラクターを突き詰めて考えて行くと、この人は自分の幸せを決して信じる事ができない人である…という結論に行き着いてしまう。何故なら、ずっとそうやって人を騙して幸せを踏みにじる“遊び”をやって来たから…。だから自分が幸せそうに見えても、それは幸せなフリをしているだけ、という問いかけから逃れられなくなってしまった。それを全部分っている事としたのが「他人は絶対に分らない」と言い放ったあの画とセリフなんですよね。キャラを完うさせる名シーンだと思っています。

いま、一人の猿藤くんも、二面性を抱えた動作自体は天々姐さんに近い、人を落とし入れるために現われたキャラなんですが、まあ、こっちは登場と同時に“改心”の可能性が既に観えていたキャラではあるんですけどねw気がつくとこちらは、主人公の孝士との対比が利いた、完全に「シャドウ」なキャラに育っていました。孝士は武術家になるのをずっと嫌がって逃げて来た(ヘタレヘタレ言うてましたが、彼の武術家ではなくって検事になるという努力がニセモノだったとは思わないんですけどね)。…じゃあ、嫌でも親の言いなりで武術家としての道を進んでいればそれで幸せだったか……という問いにおいてですね。逆に言うと「すももも」は猿藤の本格登場まで、ず~っと「シャドウ」(ライバル)が出てなくって、それ故ヘタレ期間を長く保った連載でもあるんですけどね。



何言ってんだよ
口先と陰謀しか能がないうちの一族が
政界から完全に干されたら失業しちゃうよ


そして、この猿藤くんが、その呪縛から逃れるために呪縛の元=親(一族)を捨てるという選択をしなかった所が好きですね。確かに自分は縛られていたんだけど…なぜ縛られていたかというと、やはり(悪い一族であっても)家族は大切なものであり、彼らの笑顔が見たいからこそ自分は頑張って来ていたんだという根に立返るからなんですね。欺瞞や陰謀まみれであまりに辛い世界ではあったんだけどwまあ、僕がフリーダム至上主義な考えはあんまし好かないみたいなせいもありますが(汗)そのキャラクターとしての結論の置き所にはすごく納得しています。

天々姐さんも猿藤くんも、当初はそんなキャラの練り込みを感じさせるわけでもない、ええ加減なキャラに思えたんですが、そのキャラを突き詰めて行った時に置いた「着地点」はええ加減なものになっていない(別にええ加減でもいいのに!)そこらへんが「すももも」を改めて読み返した時の収穫でした。
そして「マギ」は、まだ彼らに匹敵するようなキャラは持ち込まれていないんですよね!(猿藤くんの暗さと明るさは少しアリババを想起させない事もないですけどね)…いや、作品にフィットさせた珍奇な設定や、外装のキャラなら別の作品に持ち込めるとは限らないし、また再びそういったアイデアが出るかどうかも分らない。でも、天々姐さんや、猿藤くんで練り込まれていったのは内面であって、練り込まれたキャラの内面というのは作品を越えて持ち込めるもののはずなんです。それがまだ出ていない…なのにこんなに面白い。いや、何が言いたいかと言うと…

まだ「マギ」は、キャラも筆のノリも、その真価を見せていない。

…はずだ!って事です。でも、世界観や設定は「すももも」の頃からは比べるべくもない程の奥行きを既に感じさせてくれているwものすご~~っく、期待している連載です。期待が外れるのもまた一興ではあるんですが…wどこまで行ってくれるのか「楽しみ」です。


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6 コメント

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Unknown (てんもん)
2009-10-12 22:41:59
『マギ』は、最初からある程度面白かったですが、なぜかその面白さが、ある一定水準を超えることが無かったです。
まるで、「描こうと思えばいくらでも盛り上げることができるのに、作者が抑えて止めていた」みたいに。
そのことは、
アリババの過去のチラ見せの場面に顕著です。盛り上げていけた話でしたが、キャラに語らせずにナレーションで済ませてしまった。
間違いなく、作者が計算して抑えていました。
つまり、まだまだ序盤なんだから、こんなところで浅く盛り上げてたまるか、という、作者の作品に対する自信が見えました。
それを分かってからアリババへのアラジンの評価のセリフを読むと、燃えました。
アラジンの評価を守る為に、ヘタレ実力者だったアリババが、当初の目的だったはずの財宝を他人の為に使いつくし、まだまだ、アラジンが好きと言ってくれた自分はこんな程度の実績しか残せない人間じゃないんだと、次に再会する時には、もっともっと器のデカい人間になってなけりゃ嘘だろうと。
自信を超えた覚悟を完了した場面に、ゾクゾクしました。
漫画内のキャラクターとはいえ、間違いなく『人間が成長した瞬間』を見られる事は、それだけで素晴らしい体験だと思いました。同時に、『こんなこと言ってもらいてぇ』『俺だってまだまだ満足なんかしちゃいねえ』という思いが湧きました。
そういう思いを、もし読んだ人間の数%が湧き起こしたのだとしたら…この作品を含め漫画という媒体の力も、まだ先があるのだと信じられる気がしました。
『マギ』の着地点、期待して読んでいきたいですね。
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Unknown (てんもん)
2009-10-12 22:54:21
ちなみに。
最近のサンデーは、新連載が育ってきた感じがします。売上は落ちてますが(^^;
マギもさることながら、キングゴルフの化け方、アラタカンガタリの化け方も、素晴らしかった。
特にアラタ。
アラタがイジメられていた設定と、カムイ(武器)の中にアラタを信じて入ってくれたツツガとナグがいる設定、アラタを別人だと認識してからの、それでも信じてくれるコトハの健気さ、そして、カンナギの「お前のカムイは……重い」というセリフと共に、敵だったカンナギがアラタに希望を見い出してきている場面。
ゾクゾクしました。
すげえ。
作者の思惑や話運びが見事に実を結び、さらに作者の思惑を超えてき始めた分岐点な気がしました。
キャラクターと共に、作者や作品も成長する。
漫画に限らず、『物語』というものは、やはり凄く面白い。
『今』に生まれて、良かったです。
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Unknown (てんもん)
2009-10-13 16:45:15
ハヤガミ、でしたね(^^;
失礼しました(^^;
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Re:てんもんさん (LD)
2009-10-14 00:45:58
> 「アラタカンガタリ」

うちのチャットで井汲さんという方が「ふしぎ遊戯」をなぞって来ていると言われていて、僕もそう思っているんですが…。
現世と異世界の繋がり…?連鎖…?のようなものをもっと見せてくれるのかな~と思っていた事もあって、ちょっと様子見な状態です。

あと、コトハは可愛いです!(`・ω・´)

> 「キングゴルフ」

僕は最初「アイシールド21」の阿含がゴルフをやったら?みたいなマンガに思っていましたw
連載当初から大体この路線だったとは思うんですが、軸をぶれさせずに話を積んできた結果、正に“育って”きた感がありますね。
惜しむらくは画やネームの引き方に「華」がない事でしょうか(汗)どうにもページが止まらない所があります。
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アラタカンガタリ (井汲 景太)
2009-10-15 00:29:39
す、すんません、私の見方は半分以上ネタとして見ていますので、あんまり本気に取らないでください…(笑)。いやまあ、申し訳ないんでちょっとは真面目な話もすると、私は“門脇君は「改心フラグ」をぼかすかバラ撒きながら突き進んでいる人”だとばかり思っていたんですね。なので、心が曲がったまま(笑)異世界に飛んできてしまったのはちょっと意表を衝かれて、「ああ、そういう話にするつもりだったんだ!」と渡瀬さんに感心した所がありました。それで、照れ隠し(?)に、ちょっと茶化し気味に書いている、という所もあります。

あとコトハは可愛いですね(お約束)……………のはいいんだけど、いずれアラタが異世界に戻ってきたとき、修羅場が勃発しそうな。ここをどうまとめるつもりなのか?という所は気になっています。やっぱり門脇君は「張ったらタイマンダチ」で、アラタこそが真のラスボスだったりするのかなあ?とか妄想しながら読んでいます。
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Unknown (Unknown)
2017-10-13 22:03:46
天々のキャラはいいですよね。
すごく分かりやすい悪役ですが、半蔵を想う恋心は本物っていうのが。
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