玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

勇敢な眞鍋さん、情けない城内氏 (その4)

2009年08月05日 | 日々思うことなど
いつのまにかシリーズ化してしまったポスター問題だが、今回は眞鍋さんと城内氏がこの事件において何を考えていたか推測してみる。
もちろん私はエスパーじゃないし、眞鍋さんのファンでも城内氏の支持者でもないので、お二人が実際のところどういう考えだったのかはわからない。以下に書くことはすべて私の想像にすぎない。


城内氏がポスターを作ろうと思ったことがすべての始まりだから、城内氏の心理から考えてみる。
ついこのあいだまで「芸能系国会議員」を批判していた「信念を貫く男」が、なぜ人気女性タレントを自分のアイキャッチに起用しようと考えたのか。
誰かに押し付けられたとか仕組まれたといった陰謀論をとらないかぎり(そんな証拠はまったくない)、城内氏が眞鍋さんのファンだったと考えるのが自然である。一年前に対談したときからなのか、それ以前からなのか知る由もないが、たぶんかなり前からだろう。対談の動画(すでに削除されている)を見た人の感想を読むと「目尻を下げた城内氏、顔をこわばらせる眞鍋さん」という印象が共通している。
選挙戦術として眞鍋さんの起用がどれだけ「本気」だったのかというと、私はそれほどではなかったろうと思う。本気で人気取りの戦力にするつもりなら、わざとポスターを少なく刷って「眞鍋を探せ作戦」なんてまどろっこしいやりかたはしない。実際に選挙区に来てもらって、城内氏のとなりで手を振ったり応援スピーチしてもらうことで彼女の人気をしゃぶりつくそうとするはずだ。だが、城内氏にはそんな発想自体なかったようだ。

たぶん、城内氏にとって眞鍋さんは「選挙の女神」のような存在だったのだと思う。受験生が恋人や好きなアイドルの写真をお守りにするように、城内氏は眞鍋さんとの2ショットポスターを幸運を呼ぶ護符にしたかったのだ。だからわざと少なく刷って「レアカード」にした。知る人ぞ知る状態を保ちたかった。むしろ眞鍋さんを使って即物的な人気取りをするような発想を嫌っていたかもしれない。眞鍋さんが「特定候補を応援するつもりはない」と明らかにしたのに写真使用の権利にこだわった不可解な判断も、合理性ではなく呪術的な理由だったとすれば理解できる。
一人の男としては、アイドルに幸運の女神になってもらいたいという気持も理解できる。私自身いい年していまだに可愛い女性アイドルが大好きだ。だが、立候補を予定している44歳の元衆院議員がやることにしては「あまりにも幼稚すぎる」と批判されても仕方がない。
逆に、本気で人気取りのため使うつもりだったのにああいうやり方をしたのであれば実務能力に欠けている。「信念を貫く」硬派のイメージとも矛盾してしまう。どちらにしてもたいへん情けない。

ポスター事件で明らかになったのは、城内氏に他者の人格を尊重する気持が薄く、トラブルを収束させる能力が皆無 ― それどころか、普通なら収まるところを無駄な騒動にしてしまう ― という事実だ。
前の記事に書いたマジシャンの姿はその寓話である。「つぎはぎだらけで薄汚い仕掛け」は眞鍋さん自身の意思を無視して契約(実際には取れていなかった)と既成事実で縛りつけようとするやり方を、「ズボンが落ちてパンツ丸見え」は愚かな対応に固執して恥を恥とも思わない鈍感さを表している。タレントの人格を無視して事務所との契約によって選挙キャラクターに仕立て上げるおぞましさについては"extra innings"iteau氏の記事に詳しい。

 城内実氏と眞鍋かをり氏の件 - extra innings
彼女個人の思想信条のみを重視するならば、彼女の所属事務所には城内氏は何の関係もないはずで、事務所の許諾云々はまったく関係ない話である。子供じみた言い訳以前の話、これが言い訳として通用すると考えるメンタリティ自体、有権者を愚弄しているとしか言いようがない。

城内氏の言い訳は、要は、芸能人の支援をカネなりコネで買った、と言っているのと同然であって、カネで買ったものをそうではないように見せかけて有権者に提示する行為自体、政治家としていかがなものか。


 城内実氏問題 - 無断使用とはどういうことか - extra innings
城内氏が最後まで結局理解できていないのは、思想信条の自由がごく個人的な権利であり、基本的人権であるということだ。

私個人の政治思想の意思を他者が代弁することは出来ない。

無断使用とは、私に無断で私の意思を捏造されることであり、徹頭徹尾、それ以外のものではあり得ない。

このような個人的な基本的人権を、当人ではない第三者(事務所)の許諾でどうこう出来るという発想自体が問題なのである。

政治的意思の表明は単なる商品の宣伝とは違う。その人自身の人格・尊厳に密接に関わることだ。
事務所が勝手に決めた契約でタレントが幸福実現党の候補者の宣伝を強制されたらたまったものじゃない。これは幸福実現党だからということではなく、自民党でも民主党でも無所属の候補者でも同じである。ごく当たり前のことなのだが、タレントを事務所の奴隷のように思っている人がかなりいる。城内氏を擁護する人たちの中では一般的な感覚のようだ。嘆かわしいことである。

堅苦しい人権論ではなく損得の点から考えても「眞鍋ポスター」はありえない。
タレントのキャラクター作りのために事務所が勝手に好物とか特技を設定する、という話はときどき聞く。本人があまり納得していなくても、キャラが立つことで人気が出れば芸能人としてメリットになる。小倉優子の「こりん星のお姫様」設定は本人が考えたのか事務所が作ったのか知らないが、今のところはバラエティータレントとして役に立っているようだ(ゆうこりんはときどき愚痴はこぼしても「こりん星人やめます」とは宣言しない)。
だが、特定候補を応援しないのがポリシーの眞鍋かをりさんに「城内候補を支持する」キャラクターを設定(政治的色付け)しても得するのは城内氏だけである。本人は嫌がる、事務所は仕事が減る、ファンも「なぜ?」と当惑する。
城内氏は自分の作った2ショットポスターが眞鍋さんに損害を与えるだけだとわかっていたのだろうか? これまでの話を聞けばどうやらぜんぜんそういう心配はしていない。「写真の使用許可を取った(つもり)のだから使う権利がある」という理屈を繰り返すだけで、自分の身勝手さに気付いたとか反省したという兆しはカケラもない。まったく驚いてしまう。いや、このような人物が存在することよりも、多くの支持者を集め有力候補と目されていることのほうがよほど信じられない。



それでは真鍋さんは今回の事件で何を考えていたのだろうか。
間違いなく眞鍋さんにとってポスターや「応援メッセージ」の存在は寝耳に水だった。7月29日のスポーツ新聞で初めて知った眞鍋さんは急いで事務所に事実関係を確認し、ブログで「特定の候補者を応援するつもりはない」と報道を否定する(事件の経緯についてはまとめwikiを参考にした)。

眞鍋かをりのココだけの話 powered by ココログ: ポスター掲載の件
今朝のスポーツ新聞に掲載されていましたポスターについてです

候補者の方と私が一緒に写っている写真が使われていますが、その方とは全く関係ございません。

1年ほど前に一度だけ対談でお会いしてそのときに写真を撮りましたが、何故その写真がポスターになってしまっているのかわからず困惑しています。

私は特定の政党や政治家の応援はしていませんし応援コメントも出していません。
何故このような使われ方をしたのか確認して対処したいと思います。

とりあえずご報告まで。

補足

きちんと確認をしてからコメントすべきというご意見をコメント欄にて

いただきました。ありがとうございます。言葉足らずですみませんでした。

もちろん更新前に事務所にどこまで把握しているのかを聞いて

その上で自分がそういった声明を出して良いか確認をしています。

いろいろとむこうの事情もあると思いますので

ただ私が言えるのは

政治に関して特定の人物を応援することはありえない

ということだけです。

彼女があわてていたことは写真の勘違いからもわかる。「候補者の方と私が一緒に写っている写真が使われています」と書いているが、実際に無断使用されたのはオフィスプロペラに委託された宣材写真であり、対談時のツーショットではない。どう見ても情報不足による勘違いであり、事件の本質とは無関係なのだが、城内氏を擁護する人の中には陰謀の証拠のように騒ぐ人たちがいる。はっきり言って頭が悪すぎる。

あわてていて、たぶん怒ってもいただろうけれど、彼女の文章は実によく配慮されたものだった。
城内氏の実名をあげず、批判せず、何も要求していない。「政治に関して特定の人物を応援することはありえない」と自分のポリシーを曲げるつもりがないことを明らかにした上で、「何故このような使われ方をしたのか確認して対処したいと思います」と城内氏が自主的に対応(ポスターとパンフレットの回収、謝罪)する時間を与えている。これほどまで被害者に気を使ってもらいながら、「事実を確認せずいきなりヒステリーを起こした」などと眞鍋さんを中傷した城内氏の支持者は恥を知るべきだ。
逆に、本当に攻撃的な文章にしてみたらどうなるか。

城内みのる氏が私の写真を無断で使用し、応援メッセージを偽造したことに強い怒りを感じています。直ちにポスターとパンフレットを撤去するよう要求します。要求が受け入れられない場合は、損害賠償請求と選挙管理委員会への告発を覚悟してください。

私としてはこれくらいやってくれたほうが痛快なのだが、タレントとしての好感度を考えると政治家とのケンカは望ましくない。城内氏へのバッシング(当然それに値すると思うけれど)の口火を切ることは避けたい。誤算だったのは、城内氏が常識外れの「信念を貫」いて、写真使用許可を取ったつもりだからポスターを使い続ける、という自爆宣言をしたことだ。
城内氏の愚かしい対応を見て眞鍋さんがどう思ったか知らないが、「とても相手にしていられない、自分の意思ははっきりさせたから、あとは事務所に任せよう」と呆れても不思議はない。本当にお疲れさまでした。

勝手にこんなことを想像されると迷惑かもしれないが、ブログを書いたときの真鍋さんはよほどの覚悟を決めていたと思う。
事務所が「ちょっと待て、こちらで確認して対処する」と止められたら一日や二日は待ったかもしれないが、それ以上は我慢しなかったろう。たとえ事務所と対決しても、「自分のポリシーを無理やり曲げられそうで困っている」と明らかにしたはずだ。もしも事務所がヘタれて「エラい人には逆らえないから城内氏を応援してやれ」と命じられたら、それこそ事務所を飛び出す覚悟で戦っただろう。最終的に芸能界引退といった可能性も視野に入れていたのではないか。
そこまで覚悟を決めていたからこそ、素早い対処をしながら城内氏へのあからさまな批判や要求を避け、自主的な判断に期待したのだろう。城内氏がしっかりしたポリシーと倫理観をもっていれば「予期せぬ行き違いがあった」ということで騒ぎになる前に自ら引いたはずだ。ところが実際の城内氏は、誰もが想像できないほど独特の「信念を貫」き、誰の得にもならない騒ぎを爆発させてしまった。

こうして振り返ってみると、城内氏は常に利己的で感情的であり、眞鍋さんは周囲に配慮しつつ自分のポリシーを曲げていない。城内氏のやり方ははっきり言って公序良俗に反しているが、眞鍋さんは芸能界という特殊な世界の中で筋を通した。城内氏の政治活動がどうなるか、眞鍋さんの今後の芸能生活がどうなるか私にはわからないが、お二人が今回の事件で見せた人間性が変わらなければおのずと明らかだと思う。