鉄道員(ぽっぽや) 価格:¥ 5,040(税込) 発売日:2001-12-07 |
健さが、南富良野にやってくる・・。この一報が 上川管内南富良野町の町役場に入ったのは、 1998年秋のことだった。町の中心部、JR幾寅 駅周辺でのロケを希望する旨の依頼書を、プロ デュ-サ-が届け出た日である。
「驚きましたよ。それまでCМの撮影があったくらいで、町がテレビド や映画のロケ地に使われた記憶がありませんでしたから」と
話すのは、当時、町役場の振興課広報統計係長 だった山田和彦さん。ましてや主演は大スタ-高 倉健。驚いたのも無理はない。ではなぜ、数ある 駅の中から幾寅駅に白羽の矢がたったのか。 「カメラマンの推薦だったと聞きました。撮影条件に合う駅を探して、 その年の春から、個人的に道内各地の駅を回られていたそうです」
駅舎の建物が木造で、古いまま生かされていたことと、周囲に撮 影の支障になる高い建物がなかったこと。さらにホ-ムから改札 まで階段を数段降りるという造りが、名カメラマンとして鳴らす木村 に、幾寅駅を選ばせたのだ。本格的にスタッフが南富良野入りした のは、99年1月半ぱの厳寒期。約2週間のロケだった。町の広報 用の写真撮影と、炊き出しの手伝いに、山田さんも連日、現場に 通った。健さんの第一印象を「背筋がピンと伸びていて、六十代後 半という年齢を少しも感じさせない。若若しさがなんといっても格好 よかった」と山田さんは振り返る。作品中でも、雪のホ-ムに征服 姿でたたずむ高倉健は、凛として美しい。「ただ立つだけで絵にな る俳優」は、今の日本にそういない。それが頑なまでに鉄道員とし て自分の生き方を貫く音松の姿と、見事なまでに重なったのだ。 今も役場に保管されている当時の炊き出し献立表には、「豚汁」 「雑煮」「甘酒」といった、冬ならではの温かいメニュ-が並ぶ。中 でも健さんが大のお気に入りだったのが「イモ団子」。控え室に ホットプレ-トを据え、焼きたてをおいしそうに食べたという。エキ ストラ出演を含め、撮影の陰には町を挙げての協力があった。とこ ろで、今回の取材行を計画した際、「JRで行かなければ」という思 いが私の頭をよぎった。駅と鉄道が主役の作品の取材に車で向か うのは、なんだか違う気がしたのだ。富良野から各駅停車のワンマ ン列車に乗り、幾寅を目指す。途中、線路の脇で元気よくシカが跳 ねる様子が見えた。映画の中にも、妻役の大竹しのぶが乙松に 「子どもができた」と報告する場面を、シカの親子が雪の中から見つ めているカットがある。それを追体験したような気持ちだった。ホ-ム を降りると、看板には「ようこそ幌舞駅へ」。駅舎内には撮影に使わ れた小道具や衣装などが展示され、テレビに「鉄道員」の映像が 流されていた。駅を一歩出ると、奈良岡朋子演じる女店主が営ん でいた「だるま食堂」ほか、セットに使用された建物がそのまま残 され、観光スポットとなっている。駅周辺は映画そのままの空気が 色濃く漂う。冬に訪れればなおのこと、劇中に入り込むような気分 になるだろう。そして、いないと分かっていてもつい、目の端でホ- ムに立つ健さんの姿を探してしまうに違いない。 (矢代真紀・NPO法人「北の映像ミュ-ジアム」推進協議会)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます