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大塚博堂「旅でもしようか」(1977)
誰しも、なぜか心に刻まれて、いつまでも忘れられない曲やメロディというものがあるだろう。しかも、それが特に好きなアーチストの曲というわけでなく、なんとなく耳にしたのがきっかけで、場合によっては歌っているアーチストのことすら知らずにいたりする・・・そんな体験をしたことがある人は少なくないのではないか?
私にとって、この「旅でもしようか」は、そんな曲である。歌っている大塚博堂のことは、これを聴いた当時(1979年頃)には、この曲が流れたNHKのスポット広告(後に知ったのだが、NHK-FMのスポット広告だったらしい)の画面に記された名前しか知らなかった。その時は、誰が歌っているかということはどうでもよく、なんていい曲なんだ!という思いしか抱かなかった、中学生の私がそこにいた。
博堂のことは、それから数年後、ふと思い出してレコード店でレコードを探してみて、初めて実体として認識した。パーマ頭に口ひげにサングラスという、パッとしない風貌。ジャンルとしてはフォークシンガーのカテゴリーだった。
これも後に知ったことなのだが、NHKのスポット広告に使われたこの曲は、「季節の中に埋もれて」というシングルのB面であった。
そんな、周辺事情はどうでもいい。この「旅でもしようか」は、私の中では最高にすばらしい曲なのである。
曲は、フォークっぽくなく、軽快な弦楽とコーラスとともに始まり、続いて博堂の透きとおった声が流れてくる。音大で声楽を学んでいた(中退したようだが)博堂の清らかなヴォーカルで、
♪少しだけ心がすりきれて来たから ひとりでこの街飛び出す
♪ぼくだけの時間を 無駄づかいしながら 時計を忘れた 旅でもしようか
♪道づれなんかいらない 歌がひとつあればいいさ あしたは あしたは いずこの空の下
という、こんな旅をしてみたいと思わないではいられないフレーズが歌われるのである。
作曲は博堂本人だが、作詞の藤公之介という人を私は知らない。おそらく、フォーク系の作詞家なのであろう。彼の詩にも大きな拍手を贈りたい。
しかし、このシングルB面の曲が、彼のベスト盤(「FOREVER」(1981))に入っていることからして、博堂ファンにおけるこの曲の人気は高いのであろう。
博堂は、この曲を出してから4年後の1981年に37歳でこの世を去っている。私はそのことすら、かなり後で知ったのであるが、現実に彼が存在しなくても、彼の歌声だけはいつも私の中で流れていたし、今も流れている。
この曲は、私自身を過去への旅に誘い、かつ未来への旅を想像させてくれる。
そんな曲を世に出してくれた博堂に、Have a nice trip!