古森病院@福岡市博多区 病院管理者のブログ

ベイサイドプレイス近隣にある長期滞在型病院です。投稿記事は管理者の独自見解であり、医療法人の見解ではありません。

精神障害者をどう裁くか

2017-03-08 09:17:05 | 
古森病院@福岡市博多区です。

先日、光文社新書の本を買いました。
「精神障害者をどう裁くか」
岩波明さん(精神科医)が著者で、2009年に発刊されています。

刑法第39条 
  心神喪失者の行為は、罰しない。
2 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

心神喪失、心神耗弱とは

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心神喪失者等医療観察法
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sinsin/index.html

心神喪失者等医療観察法より

医療観察法制度の概要について
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)は、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。
 本制度では、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、検察官は、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。
 検察官からの申立てがなされると、鑑定を行う医療機関での入院等が行われるとともに、裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で、本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。
 審判の結果、医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定入院医療機関)において、手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに、この入院期間中から、法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により、退院後の生活環境の調整が実施されます。
 また、医療観察法の通院による医療の決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、保護観察所の社会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づいて、原則として3年間、地域において、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定通院医療機関)による医療を受けることとなります。
 なお、この通院期間中においては、保護観察所が中心となって、地域処遇に携わる関係機関と連携しながら、本制度による処遇の実施が進められます。

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いわゆる触法精神障害者についての司法の
対応は大きく二つに分かれます。

➀心神喪失あるいは耗弱者として扱われ、刑法第39条に則り
責任能力なしとして不起訴→重大事件の場合、医療観察法に乗り、措置(強制)入院となる。

重大事件でない場合→精神保健指医の診察で
措置入院もしくは保護者の同意により医療保護入院にならなければ
そのまま放置。(司法→医療 はあっても 司法→医療→司法のルートはない)

➁厳密にいえば心神喪失者ないし心神耗弱者ではあるものの、法的には責任能力ありとされ、
そのまま起訴されて収監に至る。


管理人は同じ触法精神障害者なのにも拘わらず、重大事件であっても
➀と➁に分かれる場合があり、その処遇の違いの根拠について、今までよく理解できていなかったのですが
この本を読んで、明快に理解できました。

要するに、➀は医療(投薬)でコントロールできる精神疾患であれば(統合失調症や双極性障害など) 
措置入院が選ばれ
➁は投薬ではコントロールできない精神疾患(知的障害、発達障害、認知症などがその代表)であれば、
責任能力の有無にかかわらず収監が選ばれる、ちなみに、重大犯罪でなければ(窃盗、器物損壊など)
誰か(家族や弁護士さんなど)が相当申し立てないと精神鑑定すらされず(精神鑑定申請にはお金も
手間もかかるため。ちなみに加害者には精神鑑定を受けさせてくださいと権利を主張する能力が
ないことがほとんどである。)、責任能力があるものとして扱われる場合も珍しくない。

もっとも、仮に➀であっても この考え方だけで処遇を決めるのはあまりにも杜撰なため、
心ある検察関係者に当たれば事案を慎重に検討し、司法精神科医師と連携を取り その結果 
責任能力あると判断されればきちんと判決を受けて 刑事処分となる場合もあるようです。

不起訴になった後も重大事件でなく、本人の状態が措置入院するほどでないと
精神保健指定医に判断されれば、犯罪が行われてもそのまま野放しとなり、
仮に入院しても、病勢が落ち着けば主治医の裁量で退院が決められるので、
法的に問題を起こさないという担保はとれないまま退院となり、地域にもよるものの
どこにもつながれないままであれば また何らかの反社会的行為を起こす人が出てきます。
これは今回、相模原障害者施設で起こった殺傷事件の加害者が措置入院後 何らフォローがなかったので
今後変わってくる可能性があります。


過去記事参照 措置入院患者さんの退院後について
http://blog.goo.ne.jp/admin/editentry?eid=bc43271944189206b9400913c5b06741&p=2&disp=10


刑務所には法を犯した(といっても必ずしも重大犯罪とは限らない)知的障害者や認知症、発達障害者、
パーソナリティ障害者が多く収監されているそうです。認知症は加齢による疾患ですが、
それ以外の人たちは生まれつき 脳の認知機能に問題があり、いずれにせよ
善悪の判断がまさにできない人たちですが、投薬コントロールで改善できないからという理由だけで
医療の対象から外れ、収監となってしまう現状があります。精神医療は投薬だけでなく、
認知行動療法(http://seseragi-mentalclinic.com/cbt/)などを始めとした心理療法もあるのですが、完全に無視されています。
また認知症もある程度は投薬でコントロールできるのですが、
なぜか触法認知症の方々は収監されているケースが多いのが現状のようです。

ちなみに現行刑務所にはこういう障害者の認知のゆがみを修正させるような教育システムはないので
本当にただ隔離しているだけであり、死刑判決にでもならない限り、また社会に復帰してきます。

措置入院措置者も含め、彼らに必要なのは退院ないし出所後の福祉制度であり、
我が国の福祉制度が発達していないために出所後に食うに困るから あるいはサポートがないからと
いう理由で、また反社会的行為を行い、刑務所を出たり入ったりする
というのは 税金の使い道として明らかに高コストだと考えます。どの道 お金がかかるわけですから
教育効果の乏しい認知症や明らかな知的障害者は医療福祉につなぎ、
刑務所に入る方は無駄に長い間 隔離するだけでなく 
心理職を中心に医療従事者も入れて 医療刑務所化し
(現在はほとんど医療刑務所は身体疾患を持つ人だけに限られている)再教育システムを機能させ、出所後は
福祉に繋ぎ、
社会秩序の安定に資するべきだと管理人は考えますが、こういった実態が
司法精神医療関係者あるいは司法関係者や矯正関係者以外に
広く知られていないために 今日にいたるまで杜撰な触法精神障害者管理が行われている
(こういう現実の周知に貢献されたのは 元議員で収監された経験をお持ちの山本譲司さんです。 
http://www.poplarbeech.com/danwa/002457.html)ということのようですので、
まずこのような実態について 広く知っていただくことが重要と考え 
今回記事を作成いたしました。

http://komori-hp.cloud-line.com/


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