自衛隊が最新鋭のF-35ステルス戦闘機を導入したり、それがさっそく事故ったり、
ネットやニュースでステルス戦闘機というワードをよく見かけるようになっている。
さてそこで、「そもそもステルス機とはなんぞや?」という解説。
自衛隊にも導入され始めたF-35 |
1, ステルス機とは
ステルス機とはステルス性能を有する航空機のことである。
ステルス性能とは、目に見えなかったりすることではなく、
一言でいえば「レーダーに映りにくい特性」のことを言う。
ジェット戦闘機は世代ごとに区分がされており、
従来の主力戦闘機のほとんどは第4世代戦闘機と呼ばれているが、
ステルス性能を有する戦闘機のことは一歩進んで第5世代戦闘機とも呼ぶ。
2, ステルス性能の価値
現代の航空戦において、航空機はレーダーによって遠方何百kmも先から探知することができるが、
ステルス性能を有する機体は被探知距離を大幅に縮小、半減させることができる。
基本的にステルス機といえど被探知距離がゼロにはならないのだが、
接近するまで発見されにくくなるだけでも大きなアドバンテージとなる。
またレーダーは鳥などもキャッチしてしまうとキリがないので、一定サイズ以下の飛行物はノイズとしてカットする機能があり、
ステルス性能によってレーダーに映るサイズが小さい機体は、鳥などと誤認されて同様にカットされる。
それで結果的にレーダーには映らないステルス機となるのだ。
また現代の戦闘機同士の戦いでは遠方からレーダーでロックオンし、
射程何十kmの空対空ミサイルを遠距離から撃ち合う形で始まることが主流であるが、
ステルス機の場合は相手から発見されてない場合、一方的に攻撃をすることが可能なので有利となる。
爆撃機の場合は相手国からの迎撃を回避しつつの爆撃が可能となり、
ハイテクな現代戦においてステルス性能というのはことさら重要な項目となっている。
世界で初めて実用化されたステルス機であるF-117攻撃機と、手前はB-2ステルス戦略爆撃機 |
3, ステルス性能はどうやって実現しているか
まずレーダーの仕組みの話から。
レーダーというのはまず電波を飛ばし、そのレーダー波は何か物体に当たると反射し戻ってくる。
その反射してきたレーダー波の方向や時間から、物体の位置を計算して表示しているのだ。
ステルス性能というのは、このレーダー波をそっくり反射させにくくすることで実現している。
つまり別の方向に受け流したり、跳ね返さず吸収したりして、レーダーには実際よりも小さな物体に映る。
この指標はRCS(レーダー反射断面積)と呼ばれている。
RCSが低ければ低いほど、レーダー波を反射せず、探知されにくいステルス性能を有するということである。
機体形状を工夫することでRCSを低減させることができるが、故にステルス機というのはかなりのっぺりした印象の機体が多い。
それは航空力学とは相反する形であったりするので、戦闘機のような運動性能が求められる航空機には本来向いておらず、
事実、最初に登場したステルス機は爆撃機であった。
しかし近年の技術の進歩によって、コンピュータが電子的に操縦を補佐したり、RCSに最適な機体形状の計算が効率化したりして、
運動性能とステルス性能を併せ持った戦闘機が実現できつつあり、それが第5世代戦闘機と呼ばれているのだ。
ちなみにレーダーやロックオンの仕組みについては過去記事で取り上げたことがあるので、詳しくは以下も参照してもらいたい。
戦闘機のロックオンと空対空ミサイルの仕組みについて - 独りで歩いてく人のブログ
4, ステルス戦闘機のデメリット
強力で万能に見えるステルス戦闘機にもデメリットは存在する。
まずは運用コスト。
RCS低減のために特殊な電波吸収材でコーティングされたステルス機は、性能を維持するために出撃のたびに整備を要する。
この電波吸収材自体の費用や、メンテナンスの手間などで運用コストが嵩みがちである。
例えばアメリカ空軍においてF-22ステルス戦闘機の1時間飛行によるコストは約68,000ドルで、F-15Eの2倍、F-16の3倍の飛行コストがかかるという。
しかし最新型のF-35ステルス戦闘機は約半額の32,000ドル程度に抑えられてF-15Eとほぼ同額であり、
また航空整備士によるとF-35の洗練された機体設計と電子機器はメンテナンス性も従来機の半分程度の手間であるというので、
メンテナンス性についてはある程度解決されつつある問題なのかもしれない。
次に適材適所という面。
実際のところ航空任務にはステルス機でなくても良い任務が存在する。
領空侵犯に対するアラート任務などが代表的だろう。(より専門的に言うなら領空ではなく"防空識別圏")
例えば航空自衛隊などは領空に接近する外国機に対して戦闘機をスクランブル発進させるが、
横付けして警告し、場合によっては威嚇射撃なども実施する。
こういった任務だと目視内にまで接近するためにステルス機である必要がなく、運用コストの安い従来機が適しているし、
他にもステルス機でなくても良い任務というのはいくらでも存在するのだ。
次に搭載能力の問題。
ステルス性能を最大限に発揮するためにはRCS低減に適したシルエットでないといけない。
あまり角ばったりしないことが条件のひとつだとされているが、
つまり通常の戦闘機のようにミサイルや爆弾を主翼や胴体下に吊るして運搬すると、その分ステルス性能が低下するのだ。
これの対策としてステルス機は機内のウェポンベイ(兵装庫)に武装を格納するのが基本だが、
そうすると機外に吊るして運搬できない分、兵装搭載量は減少する。
F-22ラプター |
5, 今後のステルス戦闘機
アメリカ空軍は現在3種のステルス機を運用している。
B-2戦略爆撃機と、F-22戦闘機と、最新型のF-35戦闘機だ。(F-117攻撃機は2008年に退役済み)
F-22ラプターは世界最強のステルス戦闘機として名高くも、
制空戦闘に特化しすぎてる故に使い所がほとんどないが、(大国間で戦争が起こらない限り不要なのである)
ロシアや中国などはF-22に対抗できるステルス戦闘機の開発に躍起になっている。
F-35はF-22よりも汎用性を重視しあらゆる任務に対応でき、
今後は日本を含め世界中のアメリカの友好国にセールスされ普及していく戦闘機である。
ロシア空軍はF-22への対抗としてSu-57、通称Pak Faを2018年から配備しており、既に実戦投入もされている可能性があるという。
中国空軍もステルス戦闘機としてJ-20を既に配備しており、F-35に対抗する輸出型としてJ-31も現在開発中である。
日本の航空自衛隊も2025年以降の実用化を目指してF-3ステルス戦闘機の開発を表明しており、
他にもヨーロッパなどいくらかの地域でステルス機は研究開発されている。
任務内容によっての費用対効果の観点から全作戦機がステルス機になることはないだろうが、
軍事先進国の主力戦闘機がステルス機に置き換わっていくことはほぼ間違いなく、
今後はアンチステルスレーダーなどのシステム開発も盛んに行われ、
いたちごっこの様相を呈していくだろう。
軍事記事目次へ |