戦争や銃弾の話になると、有名な話の一つに、
「戦場で12.7mm(50口径)弾で人を撃つことは国際法で禁じられている」
とまことしやかに語られることがよくあります。
(12.7mmというのはメートル法での表記。この弾丸を開発したアメリカはヤード・ポンド法なので、インチ表記にすると.50口径となる。)
上の画像でいうと、一番左の12.7x99弾のこと。
一見してわかる通り、NATO諸国の標準的な突撃銃に使用される5.56mm弾と比べても、
または軽機関銃用の7.62mm(.308WIN)弾と比較しても、そのサイズと迫力の違いは明白です。
実際のところ、12.7x99弾はライフル弾としては最大クラスのもので、対物銃や重機関銃などに採用されています。
(ちなみにロシアではこれよりもわずかに大きい、12.7mmx107の銃弾が採用されている)
で、最初の話に戻ります。
「戦場で12.7mm(50口径)弾で人を撃つことは国際法で禁じられている」
恐らく、FPSゲームやまたは軍事趣味などで銃についての知識を少しでもかじった人ならば、
大半の人は一度は聞いたことあるんじゃないかな?ってぐらいよく言われている話です。
では実際はどうなのか?
実際のところ、12.7mm弾を使用するM2重機関銃は戦車やハンヴィー(高機動多用途車)などにもよく搭載されているし、
そういう車両に搭載される重機関銃というのは、ヘリなどに対しての防御火器でもありますが、
当然戦車砲に比べれば小回りの利く対人用火器としての使用も念頭において装備されています。
戦車に搭載されたM2(左)とM240汎用機関銃(右) | ハンヴィー車上のM2 |
また、この場合で言う国際法とは、陸戦における使用禁止兵器などのルールを規定しているハーグ陸戦協定のことを指しますが、
協定の条項を読めば、第23条5項にて「不必要な苦痛を与える兵器、投射物、その他の物質を使用すること」を禁じているのみであって、
50口径という弾の大きさについては規定されていないわけです。
(稀に捕虜・戦病者の人道的取り扱いを規定するジュネーブ条約と混同している人がいて、
「50口径弾の対人使用はジュネーブ条約で禁止されている!」と言う人もいるが、誤りです。)
むしろ大口径弾は弾道直進性に優れ、長射程での命中精度も安定していてガラスや壁なども貫通できる為に、
50口径弾を使用するアンチ・マテリアル・ライフル(対物銃)は長距離狙撃用途が主であり、
狙撃という任務の性質上、それは明確に人間個人に照準を合わせて発射されるわけです。
このように、実際のところ、50口径弾を対人使用することを禁じている条約はないし、またクラスター爆弾や対人地雷と違って、
「50口径弾は非人道的なので対人使用は控えよう」と自主規制してる国もないわけです。
50口径弾は著しく人体を損壊する可能性があるので非人道的と解釈する人がいるのならば、そうかもしれないけど、
そもそも敵勢力に所属する人間を殺傷することを目的に開発された兵器類に、人道的なものなんてないのかもしれません。
アンチ・マテリアル・ライフル(対物銃)については、「50口径弾対人使用禁止」神話と合わさって、こんな話がセットで語られることがよくあります。
「50口径弾を対人使用することは禁止されてるから、この銃弾を使う狙撃銃はカモフラージュとして便宜的に「対物銃」と呼ばれている。」
聞けばなるほどともっともっぽい話ですが、実のところ、これもガセです。
この種の大口径ライフルは第二次世界大戦時には「対戦車ライフル」と呼ばれていた種類であり、
当時の戦車相手ならば装甲の薄い部分を狙えば、弾丸が貫通して中の乗員を殺傷したり、
機関部や弾薬庫などを狙い撃ちして戦車そのものを戦闘不能にすることもできたわけです。
しかし、戦車の装甲技術の発達により、大口径ライフルで戦車の装甲を貫通させるなんてことは現実的ではなくなり、対戦車用途としては廃れ、
代わりに軽装甲目標やヘリなどに対してはある程度の効果が期待できるとされて「対物ライフル」と呼ばれるようになっただけです。
だから実際のところ、単に「対戦車」と呼ばれていたものが「対物」にランクダウンされただけであり、
「50口径を人間に撃つのは非人道的」云々とはまったく関係ない話です。
まぁこのように50口径弾は非人道的云々は何故か広く浸透したガセ軍事トリビアなのですが、
例えハーグ陸戦協定やジュネーブ条約に正しく規定されてる禁止事項だったとしても、戦場においてはそれら全てが遵守されるとは限らず、
また破ったところで処罰されるとは限らないことも覚えておくといいかもしれません。
あとやっぱり基本的には、銃弾の大小関係なく、兵器なんて概して非人道的なものであると思います。
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