金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)199

2010-01-20 19:57:31 | Weblog
 才蔵は見知らぬ老婆の問いかけに、「えっ、何か」と聞き返した。
老婆は最前、才蔵の存在に明らかに驚いていた。
何が老婆を驚かせたのだろう。
何が何やら。それほど驚くことなのだろうか。
 老婆は表情を消した。
「知り人に、あまりに似ていたもので驚いた」
「ほう・・・。婆さんはどこの村の者だい」
 才蔵の問いを無視して、逆に尋ねてきた。
「貴方の名は」
 才蔵は、「中山才蔵」と答えながら、
前にもこういう遣り取りがあったのを思い出した。
あの時は場所は鞍馬で、相手は白拍子だった。
「どこの生れなの」
「この先の高麗」
「高麗の中山家ね」
「いかにも」
 老婆は満足そうに頷くと、これ以上は無用とばかりにソッポを向いた。
 才蔵は梯子を外された思いにとらわれた。
今の会話に何の意味があるのだろう。
あの白拍子といい、この老婆といい、何を考えているのだろう。
 新たな騎馬が接近していた。
一騎だ。
勢いよく駆け上がってきた。
こちらが視界に入ったらしい。
警戒して手前で馬を止め、様子を窺う。
 佐助が相手を見て、「小太郎殿」と声を上げた。
知り合いらしい。
先方も佐助を見て安心したのか、警戒を解いて馬を寄せてきた。
 佐助が才蔵と小太郎を引き合わせるより先に、老婆が割り込んできた。
「小太郎ではないか」
 声の主を見て小太郎が目を丸くした。
「これは於福殿、ようくご無事で」
「あれくらいで殺されはせん」
 小太郎が老婆と他の者達を見回した。
「お仲間で」
「まさか。偶然ここで一息入れてるだけだ。お主は」
「一揆勢と聞いて駆け付けて来ました」
 於福と呼ばれた老婆の目が光った。
「すると、あやつ等も居るのか」
「御代官の世話になっているので、見知らぬ振りは出来ぬでしょう」
 その時だった。
いきなり黒犬の黒太郎が天高く雄叫びを上げた。

 黒太郎は四肢を踏ん張り、喉も張り裂けんばかりに雄叫びを上げた。
獰猛な雄叫びが、一瞬だが狐狸達のポンポコリンを切り裂いた。
それは夜空に長く糸を引くように響き渡り、山々に木霊した。
以前であれば率いていた群れの犬達が呼応した。
しかし今、黒太郎はただの一匹でしかない。
 率いていた群れは、縄張りに侵入してきた魔物達と戦い、壊滅した。
生き残ったのは深傷を負った黒太郎のみ。
 狐狸達の雄叫びに誘われ、後先を考えずに駆けて来た。
来てみれば、眼下から微かにだが異な気配が漂ってきた。
あの夜の魔物達に似た気配だ。
生きているのか、死んでいるのか、判然とせぬ気配。あれに違いない。
予想せぬ遭遇に全身が総毛立ち、怒りがいきなり頂点に達した。
 背中の赤ん坊が耳元に口寄せ、囁いた。
「行こうよ」
 依存はない。
一緒にいる老婆は好かぬが、この赤ん坊は気にいっていた。
今や一心同体。まるで兄弟のような感じがした。
 黒太郎は跳ねるように駆け出した。
手足の力が弱く、跨がるのも無理な筈の赤ん坊だが、
振り落とされるような事はない。
余裕を持って背中でなりゆきを楽しんでいた。

 小太郎は、黒い犬の後を追おうとする於福を呼び止めた。
「どうするつもりですか」
「それは犬に聞いとくれ」
 それだけ答えると於福は黒犬を追って駆け出した。
敵だが何故か憎めない老婆だ。
孔雀の頼みで鎌倉から老婆を追跡して来たのが悔やまれる。
出会いが違っていたら仲間になれただろう。
 於福を追うように、「我等も行くぞ」と才蔵。
家中の者達、騎馬十騎と徒十五人を引き連れ、峠道を駆け下った。
 小太郎も佐助と後を追う。
佐助に馬を並べ、ぴょん吉に尋ねた。
「今の老婆と赤ん坊をどう思う」
「普通、死んだ瞬間に魂は身体から切り離される。
だけど不思議な事に、あれ達は己の死んだ身体に居座っている。
承知の上なのか、単なる偶然なのか、それとも、・・・天の配剤なのか。
まあ、敵には回したくはないな」
「犬は」
「あれは魔物じゃない。しかし、強さは魔物と互角だろう」

 ヤマト達は砦の向かいの、道を挟んだ森に身を隠した。
一揆勢の鉄砲隊、弓隊の矢弾から慶次郎達を守るためだ。
慶次郎の他には十五人。
真田親子、新免無二斎、吉岡藤次、孔雀、神子上典膳、善鬼等がいた。
これに若菜と狐狸七匹。
赤狐と緑狸を先頭に、獣道を奥へ奥へと移動した。
 不意に、狐狸達のポンポコリンを切り裂き、夜空に雄叫びが響き渡った。
怒りと悲壮感が入り混じった犬の遠吠えだ。
 ヤマトは哲也に、「この遠吠えに聞き覚えは」と尋ねた。
「この辺りには群れを率いる山犬がいるそうだ。もしかすると、それかもな」
 哲也の言葉にポン太が頷いた。
「聞いた事がある。かなりの暴れ者らしい」
「そいつが動くのかな」
 ヤマトの疑問に哲也が、「そうなったら、どうする」と逆に聞き返した。
 若菜が割って入った。
「敵に回れば叩き潰すだけよ」
 傍に孔雀がいるせいかどうかは知らないが、やけに攻撃的だ。
日頃の若菜からは考えられない。
天狗の娘と、尼僧の方術師では相性が悪いのだろうか。
 慶次郎達は森の奥に埋伏した。
一揆勢を誘い込んで戦うつもりでいた。
しかし、一揆勢は森の中にまで追ってはこない。
慎重に森の手前に陣を敷き、奇襲を警戒して篝火を焚いた。
そして鉄砲隊と弓隊が、いつでも矢弾を放てるように隊列を組んだ。
 魔物の部隊は離れた所で静観。
状況次第で駆け付けられる場所を選んで陣を敷いていた。
 慶次郎が、「追っては来ないな」と落胆の声。
深い森に誘い込み、同士討ちさせようと目論んだか不発に終わってしまった。
だからといって、こちらからは攻められない。
森から飛び出せば、矢弾の的だ。




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これで199回。200も目前。
ここまで長くなるとは、我ながら呆れています。
文章作法も知らずに、ここまで来ました。
(まあ、知らない者の強みかな)
とにかく、物語進行より文章の組み立てが気になります。
でも、あまり拘ると先へ進めません。
水曜と日曜を締め切りと決めて、毎回見切り発車です。
(読みづらい箇所があったら御免なさい)
それではラストまで、よろしくお付き合いください。

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