金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)448

2015-06-03 20:58:43 | Weblog
 言うだけ言うと宋典は一人頷いた。
自分で自分に満足しているのが分かった。
みんなに喋ったので、胸のモヤモヤが晴れたに違いない。
「喋り過ぎたかな」そうは思っていない顔色。
 壺を持って立ち上がった。
ゆっくり、みんなを見回した。
「そろそろ帰るわ」酒だけは手放さず、すっきりした顔で部屋から出て行く。
 何美雨は宦官を黙って見送り、卓に片肘ついて一頻り考えた。
宦官の言いたい事だけは分かった。
帝が毒殺されようが失敗に終わろうが、何皇后とその皇子の運命は定まっていて、
どんなに手を尽くそうが逃れられない。
たとえ毒殺の黒幕を捕らえようが運命は一時的に停止するだけで、
時が過ぎれば再び動き出すのは必定。
何進大将軍も当然ながら巻き込まれて家運が傾く、ということ。
 何美雨は何一族の運命には興味がなかった。
大切なのは己だけ。
禍が自分に及ばないように手を打たねばならない。
それも妙手を。
 心配そうに覗く黄小芳に命じた。
「何家の家宰と内密に会う手筈を整えて頂戴。
人目につきたくないので、街中で会いたいわね」
 黄小芳は詳しく聞かずに了承した。
三日後にそれが実現した。
後宮の四人乗り馬車で外郭へ出た。
警護の女武者二騎の先導で街中を進む。
 とある屋敷の前で馬車が止まった。
門構えが小さいので馬車での乗り入れは出来ない。
黄小芳が先に下りた。
「ここですよ」
 何美雨と侍女二人が下りて屋敷を見回した。
黄小芳から事前に、「老後の為に買い取り、親戚に留守を預けている」と聞いていた。
三人は感心した。
下働きで、これだけの屋敷を買い取るとは、たいしたもの。
忠勤だけで銭は貯まらない。
時として、あくどさも必要とする。
だが敢えて三人は問わない。
どんな汚れ仕事をしていたのか知っているので、「然もありなん」と合点した。
 馬車が止まる音が聞こえたのだろう。
中から中年女がコロコロと転がるように飛び出して来た。
「叔母様、お待ちしてました」
 丸々と太っていて愛嬌があり、黄小芳の身内にはとても見えない。
 黄小芳が問う。
「先様は」
「すでに到着なさってます。
離れに案内し、お茶を出して置きました」
「先様は一人」
「はい。連れはいません」
 馬車と女武者二騎を表に残し、主従四人は中年女の案内で屋敷に入った。
表から見るよりも奥行きがあった。
庭も広い。
「どれだけ貯めれば・・・」
「私達には無理よね」と劉春燕、劉茉莉の二人。
 何美雨一人で離れへ向かった。
庭先の池の側に、こぢんまり建てられていた。
足音で分かったのだろう。
入ると何家の家宰、楊徳が低頭して迎えた。
「お招きにより参上いたしました」堅苦しい。
「だいぶ待たせたようね」
「いいえ、お気遣いなく」
「みんなに変わりはない」
「ええ。
それよりもお嬢様、そろそろ戻られてはどうですか」
「無理よ。
それに後宮の暮らしにも慣れたし・・・」
 黄小芳がお茶を運んで来た。
何美雨の前に熱いのをソッと置く。
それから楊徳を見て軽く頷き、お茶を入れ替えた。
用事を済ませると、何も言わずに退室した。
 何美雨は宋典から聞いた話しを、後宮の、王宮の空気として伝えた。
次第に楊徳の顔色が失われて行く。
聞き終えた頃には、悄然と項垂れていた。
 何美雨は気の毒そうに楊徳を見た。
「ねえ、楊徳。
何家を見限って逃げるなら今よ」
 聞いた楊徳は唖然とし、何美雨を見上げた。
そして表情を一変させた。
「何を仰有いますか。
この楊徳、最後まで何家に踏み留まります」
 何美雨は挑むような目色で楊徳を見た。
「それなら一つ、手立てがあるのよ。
貴男なら才覚もあるし、見知りの者も多いでしょう。
貴男なら何とかなるかも知れないわ」




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