金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)198

2010-01-17 09:23:12 | Weblog
 藤次は血相を変えた慶次郎の手を拒めなかった。
あっさりと鬼斬りを手放した。
 慶次郎は毟り取るように奪った鬼斬りを睨み付けた。
両手で持って膝に打ち当て、へし折ろうとした。
しかし、その程度で折れるわけがない。
どうしようかと考えている時に戦況が動いた。
 隊列を組み直した魔物の軍勢ではなく、その後方からだった。
麓の一揆勢から法螺貝が吹き鳴らされた。
新たな布陣でゆっくり前進して来た。
彼等も大花火を警戒してか、間隔を広く取っていた。
先頭は鉄砲隊と弓隊。ヤマト等を矢弾で撃退するつもりらしい。
 力勝負であればヤマト等にも戦いようがある。
しかし、遠間から矢弾を放たれては打つ手がない。
ことに身体の大きい慶次郎等、人間は的になり易い。
 狐狸達には防御の「気の盾」があるが、盾を張れる時間には限りがある。
気の質量にもよるが、そんなに長時間は使えない。
どうやら大軍との戦いには向かないようだ。
 ヤマトは秀家に、「豪姫を砦に運び介抱しろ」と指示した。
 秀家は言葉の意味を理解したのか、ムッとした顔。
ここで砦に退いては武家の面目が失われると思っているらしい。
 慶次郎が言い添えた。
「豪姫が目を覚ませば再びここに戻ろうとするだろう。
それを止められるのはお主だけだ」
 秀家は渋々と応じた。
豪姫を抱きかかえて立ち上がった。
無念そうに、みんなに一礼してから砦へと足を向けた。
 鬼斬りを藤次から毟り取った慶次郎だが、戦況の推移に、
再び鬼斬りを藤次に「預けて置く」と戻した。
そして足下の槍を拾い上げ、敵勢を見据えた。
長巻き「鬼斬り」よりも槍の方が性に合うのだろう。
 藤次はというと、嬉しそうに鬼斬りを振り回し始めた。
遣い心地を試しているらしい。
流石は京の兵法家「吉岡流」の息子。
鬼斬りは柄が長いが僅かの間に掌中のものとした。
 ヤマトは他の者達を見回した。
「怪我してる者は砦に戻り、守りを固めろ。
命の惜しくない者は俺に続け」

 坂東に乗って峠道を駆け上る佐助の耳に、聞き慣れた音が届いた。
銃声の音が途絶え、代わって「ポンポコリン」の腹鼓。
聞き間違えようがない。赤狐・哲也と緑狸・ポン太の仲間達だ。
狸達の腹鼓に合せて、狐達が木切れを打ち鳴らしていた。
 後ろに相乗りしている伏見の狐・ひょん吉が得意そうに言う。
「当たりだったな」
 峠道を上りきった。

 峠道を上りきると道幅の広い場所に出た。
崖の上になっていて視界を遮る樹木がない。
八王子方向がよく見渡せた。
 遠くに見える町灯りが八王子に違いない。
八王子の右手の山奥、甲斐との国境の灯りは、おそらく篝火。
あの辺りの湯治場に主人・真田幸村と一行が居る筈だ。
ただ、篝火が焚かれる理由が分からない。
何があったのだろう。
 そして下を見れば砦のある辺りに篝火が焚かれていた。
その手前には無数の松明。それが波のように砦方向に動いていた。
どうやら一揆勢は砦の攻略に手間取っているらしい。
戦火は湯治場まで広がっていないと知り、とりあえず一安心した。
 中山才蔵は率いて来た者達を休ませた。
霧隠れの里の実家を発つときに父が、「念のため八王子まで同行させる」と、
強引に十騎と十五人を貸してくれた。
いずれも中山家の手練れ者ばかり。
 一休みさせて発とうとした時だった。
後方から怪しげな気配が近付いて来た。
 坂道を駆け上がって来たのは大きな黒犬。
それも背中に赤ん坊を乗せていた。
奇妙な組み合わせに、みんなは目を見張るばかり。
才蔵も同様だった。
 驚かされたのはそれだけではない。
後を追いかけるように老婆が現れた。
普通の老婆に坂道を駆け上がれるわけがない。
「あやかし」なのだろうか。
漂わせている気配からして怪しい。
 黒犬と老婆は人目が気にならぬらしい。
崖の縁に立って才蔵達と肩を並べた。
黒犬と老婆は荒い呼吸を整えながら、下の様子に目を凝らした。
無邪気なのは赤ん坊。欠伸を連発しながら才蔵達をチラチラと見た。
 さらに騎馬が駆け上がって来た。
星明かりに照らし出されたのは猿飛佐助。
後ろに狐を相乗りさせていた。
意外なところで一人と一匹に出くわしたものだ。
 ヤマトの話しでは、佐助と伏見の狐は江戸見物に向かったとか。
一揆と聞いて引き返して来たのだろうが、戻って来る道筋が違う。
江戸ではなく、川越方向から戻って来たとしか思えない。
何やら隠し事が有るようだ。
 佐助とは幾度か話した事があった。
元服してるとはいえ才蔵より三つか四つ年下で、まだまだ子供。
人の言葉の裏を勘繰る事をしない。
ただし忍びとしては大人顔負けの働きをするので侮れない。
ことに体術は見事の一言に尽きる。
 才蔵は佐助に声をかけた。
「佐助、こっちだ」
 驚いた顔で佐助が馬を寄せて来た。
「才蔵殿、どうしたのですか」
「実家に戻っていたのだが、一揆と聞いてな」
「連れの方々は」
「うちの者達だ」
「それは心強い」
 才蔵は佐助に鎌をかけた。
「川越はどうだった」
 佐助は不審に思わないようで、「見つけられませんでした」と答えた。
 やはり隠し事をしていた。
それも何かを探しているらしい。
しかし、それ以上は問わない。
今は眼下の一揆勢。
 佐助と狐が崖の縁から下の様子を窺う。
砦へ波のように押し寄せる松明の列を見ても動じない。
一人と一匹は想定していたのだろう。
佐助が狐を振り返り、「間に合った」と安堵の声を漏らした。
 才蔵は狐に、「聞える腹鼓はお前の仲間達だな」と確かめた。
それ以外に考えられないが、確証が欲しかった。
 当然だとばかりに狐が頷いた。
「そうだ。仲間達は下で戦っている」
 老婆が、その遣り取りに興味を抱いたらしい。
首だけを動かし、こちらを窺う。
狐を値踏みするかのような視線。続けて佐助。そして、才蔵。
 才蔵を見て老婆の表情が強張った。
目が大きく見開かれ、口は半開き。
幽霊でも見たかのようだ。
 それでも驚愕から立ち直るのは早い。
身体の向きを変えて才蔵に正対した。
柔らかい視線で、顔のみならず全身を舐め回した。
何やら一人頷くと、納得したように才蔵の顔に視線を戻し口を開く。
優しい声色で、「貴方は」と問うてきた。




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寒い。とっても・・・。
ことに現実はもっと寒い。
例えば、ハイチの地震。
政府に統治能力がないところに、この大地震が起きた。
混乱していた国を、さらに混乱させる大地震。
誰が陣頭指揮に立つのだろう。
米国か、国連か・・・。
手を束ねるている間に死者が増えてゆく。
そして、救援物資や援助金が闇に消えてゆく。
 ひるがえって日本。
小沢VS検察の戦いの余波で、ハイチへの本格的な救援が遅れている。
救援物資や援助金よりも大救助隊の派遣が先なのではなかろうか。
阪神大震災の教訓で、最初の一歩が大切なのは身に染みている筈。
ガレキに埋もれている人々の生存が限界が来る前に派遣しなきゃ。
それとも、・・・もう手遅れなのか。


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