《本記事のポイント》

  • 共和党系の州政府は減税に舵を切り始めた
  • ルーズベルトの指導で同じ失敗を繰り返す!?
  • 経済成長路線をとっていれば、戦争は必要なかった

 

アメリカでは2期連続でGDP(国内総生産)成長率がマイナスになる可能性が高くなってきた。アトランタ地区連銀(連邦中央銀行)の7月1日の発表によると、4-6月期もマイナス2.1%のGDP成長率となる見込みだという。

 

4-6月期のマイナス1.6%に続いて2期連続のマイナスで、アメリカ経済は景気後退の中で物価が上昇するスタグフレーションに入ったと見るべきであろう。

 

ジャネット・イエレン財務長官やジェローム・パウエル連邦準備制度理事会議長は、「国民には蓄えた貯蓄が十分にある」と口を揃えて平静を装っているが、賃金は物価上昇に追いつかず、庶民は蓄えを減らしつつインフレに対応している状況にある。

 

 

共和党系の州政府は減税に舵を切り始めた

アメリカではガソリンや食料品などに限った消費者物価指数が25%と高騰し、インフレはもはやコントロールできなくなってきている。

 

そうした中で、20州以上の共和党の知事が、物価高騰の痛みを和らげようと減税に訴え始めた。このような措置は、昨年の3月に可決された1.9兆ドル(約258兆円)の新型コロナ対策法案可決後、エコノミストのステファン・ムーア氏が各州に助言したことがきっかけとなっている。

 

新型コロナ対策法に基づき、連邦政府が経済対策として、州と自治体に3500億ドル(約47兆円)の資金援助を行った。

 

もとよりムーア氏は、連邦政府による州へのバラマキには反対の立場をとる。政府が配るお金は、国民から"奪ってきたお金"で、いずれ増税となって跳ね返ってくる。「フリーランチなどない」からだ。

 

だが州に分配されたお金をもとに、州が減税政策を講じれば、国民に福祉としてばら撒くよりも、州経済を発展させられると考えたのだ。共和党系の21州に加えて、民主党系の15州でも、何らかの減税が実施され、減税を行う州は計36州に及んでいる。

 

こうした政策に対し、オバマ政権で経済顧問を務めたハーバード大学の経済学者ジェーソン・ファーマン氏は、国民に減税でさらにお金を渡せば、消費者の需要が高まり、さらなる価格上昇につながると否定的だ。

 

また7月5日付のワシントン・ポスト紙は、「この動き(減税措置)は、各州がパンデミックと戦い、地域経済を立て直し、潜在的な不況に備えるために必要な援助を吸い上げる恐れがある」と批判した。

 

しかし実際は、バラマキではなく減税に転じた共和党系の州では、民主党が強い州よりも経済状態は改善した。

 

そもそもバイデン大統領は州政府に資金を分配する際に、減税措置を講じてはならないと定めていた。

 

この減税措置禁止は、国民の保有する権利について定めた修正憲法9条および10条違反として裁判所によって退けられ、21州は裁判所で勝利している。

 

ワシントン・ポスト紙も、「異議を唱えたほぼすべてのケースで、これらの法的努力が勝利した」と記事で書いている。

 

要するに、官僚機構の権限の拡大を助長するようなバラマキではなく、経済的にも憲法的にも正しいことが州レベルで行われ始めたのである。

 

減税によって供給サイドを強化できなければ、FRB(連邦準備制度理事会)の利上げ率が高くならざるを得ず、ハードランディングの度合いが高まってしまうからだ。腕の悪い外科医にかかって、患者が瀕死の状態に陥るのと似ていると言える。

 

 

ルーズベルトの指導でルーズベルトの失敗を繰り返す!?

「ミルトン・フリードマンは退場した!」「政府は国民だ!」「ニューディール政策が必要だ」

といったスローガンを掲げるバイデン氏は、国家丸抱えで国民の面倒を見るという「大きな政府」論者。

 

インフレがもはやコントロールできないと言われている中であっても、富裕層への増税も視野に入れた「よりよき再建(Build Back Better)法案」の成立を諦めていない。1兆ドル規模と、以前より規模は縮小されているものの、 炭素税を含む増税法案となっており、 成立すればエネルギー供給に打撃となるのは必定である。

 

不況下で増税という手段に訴えたのは、1930年代の大恐慌時代に大統領を3期務めたフランクリン・ルーズベルト大統領だ。

 

富裕税に当たる金の兌換比率の改定や、個人所得税の最高税率を79%に、法人税の税率を15%にそれぞれ引き上げて、ニューディール政策を7年にわたって行うも、失業率は高止まりした(関連書籍『大きな政府は国を滅ぼす』参照)。

 

ルーズベルトは、不況を利用し、「小さな政府」路線から「大きな政府」路線に針路を変更し、「反アメリカ革命」に乗り出したと言える。

 

当時、このルーズベルトの仕掛けた戦争に気づいた人がいる。ジョサイア・ベイリー民主党上院議員(ノースカロライナ州選出)だ。

 

ベイリー氏らが中心となり、減税、財政均衡、政府サイズの縮小、企業活動の適正な利潤、州の権限の維持などを求める保守主義のマニフェスト(Conservative Manifesto)が発表され、現在まで続く保守主義の源流をつくり出した。

 

 

経済成長路線をとっていれば、戦争は必要なかった

トランプ前政権の経済顧問を務めた経済学者のラッファー博士は、本誌の取材に応え「もし(外国から輸入される幅広い品目に関税をかけることになる)スムート=ホーリー法が成立せず、関税が引き上げられなかったら、そして両政権が増税していなかったら、大恐慌は起きていなかったし、1920年代からの繁栄を続けられたと思います」と述べている(関連書籍)。

 

要するに不況下で増税を行わず、民間の力を解放するような経済成長を第一に掲げていれば、「戦争に訴える必要もなく、何年も前に景気は回復していた」のである。

 

さてバイデン氏は、必要な限りウクライナを支援する(as long as it takes)と宣言している。ルーズベルトと同様に、戦争経済で景気回復を狙っているのかもしれないが、国の経済成長を目指せば、対外的に戦争に訴えずとも不況が大恐慌になるのを避けることができる。

 

バイデン氏はカトリックの信徒。隣人愛は神への愛を持つ者が実践する徳目でもある。

 

だがそれは、他者への共感の思いを持つことなく生まれることはない。本当の意味で、共感を持つなら、貧しい人々を貧しい状態に留める再分配政策ではなく、経済全体のパイを増やして貧困層が中所得層となる道を開く経済成長路線をとることだ。それが隣人愛の実践になるだろう。

 

隣人愛と神への愛は同じ真理の別の側面にすぎない。隣人愛を示した時、バイデン氏は支配欲を超えて、神への愛を示すことになる。

 

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