サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

145日目「ベルナール・ビュフェ展(目黒区美術館)」目黒

2010年02月11日 | 姪っ子メグとお出かけ
姪っ子メグ この前、上野で「レオナルド藤田展」に行ったじゃない。あれは、充実した企画展で、とくに第二次世界大戦後に、戦争協力者ということで日本画壇にスケープゴートにされて、傷心の藤田が、ニューヨークに一時期行くけど、結局フランスに帰化して、カトリックに改宗する。その晩年のアトリエや宗教画がよかったけど、今回の同時開催の「藤田嗣治展」は小さな企画だけど、GHQ関係で在日していたF・シャーマンという人の所蔵コレクションが中心ね。
キミオン叔父 ああ。自画像とか裸婦像とかいつもの藤田らしい細い丸みを帯びたタッチのスケッチなんかも多かったけど、面白かったのは絵葉書と絵手紙だね。
絵葉書の方は1905年ごろ友人に宛ててパリから出したものだね。絵手紙は、第二次大戦後、1949年かな、一足先にニューヨークに渡っていた藤田がシャーマン宛てに出したものだね。これが愉しい書簡でさ、ニューヨークの町をユーモラスにカラー彩色でスケッチしている。もう、日本には戻らないと思い決めていたんだろうね。早く妻をこちらに出させてくれと頼み込んでる。
あと、今回はこれも戦後の作品だけど、お皿や壷にユーモラスな画を書き付けたり、人形を作ったり、水墨画風のゆったりした作品があったり。それまで、戦争大作を描いてきたわけで、その反動のような気もするね。
たぶんこのシャーマンという人と、奇妙な友情のようなものが成立したのかもしれない。
それにしても、藤田のデッサン力は群を抜いているね。あとは、この人の1940年に帰国してから数年間の戦争画というのをちゃんと見ていないんだ。どこかでまとめて企画してくれないかな。もしかしたら、昨年お亡くなりになったけど、夫人が公開を拒否していたのかもしれないけど。
あたしも、こんな素敵な絵入りの手紙を書けたらいいのになあ、と思うな。なんか、もうメールで無味乾燥にすませてしまうようになってしまって、イカン、イカン。



おじさんのお気に入りのひとりのビュッフェだけど、戦後すぐぐらいの20歳そこそこの写真が飾ってあったじゃない、かっこいいねぇ。ちょっとジェームス・ディーンを彷彿とさせる。
占領下にあったフランスで絵の勉強をしてるんだけど、この人の絵は、自画像にしても、裸婦像にしても、風景画にしても、アトリエでの静物画にしても、とても暝いよね。灰色か、ちょっとブルーがかかった白か。暖色系がほとんどない。そして、人物はすべてあの異常に細い身体ね。
1940年代から50年代の作品に絞られていたけど、59年の「赤い鳥」。これ、日本では初公開らしいけど、いきなり黒で縁取られた真っ赤な魚がどーんと。その下に、裸婦がバギナを見せて横たわっている。異常な迫力ね。
油彩だけど「サーカス」連作も初公開だね。これは1955年だ。奇怪なピエロとかサーカスの住人が登場して、ちょっと他のタッチと違うな。
今回の趣旨は『木を植えた男』の著者ジャン・ジオノとの出会い。このふたり年齢は30歳以上違うんだけど、ビュフェがプロヴァンスで反骨の文学者として存在していたジオノを尋ねて、意気投合したんだろうねぇ、5年ほどそこに住み着いているんだね。
ジャン・ジオノはもともとは銀行員だったらしいけど、孤高の文学者で、第二次世界大戦時は、投獄されていたり、発禁になったりしていた。この人は、なにより『木を植えた男』の原作者だけど、発表当時は「反戦」とみられて出版されなかった。そこで、彼は著作権を放棄したんだな。そして世界中で「勝手に」翻訳され、ついにはアニメ作品にもなった。
日本でもいろんな出版社から、それぞれの翻訳、挿画で出ているものね。原作自体はとても短いものだけど、いまや「エコ文学」の代名詞みたいになってるわよね。執筆されたのは1953年、おじさんの生まれ年じゃないの、半世紀前よ。善意のエコボランティア運動みたくとらえる馬鹿な人たちもいるけど、ほんとうは、もっともっと孤独で純粋な魂を描いたものよね。
彼の戦時に書いた『純粋の探求』という論稿に、ビュフェが版画を制作して挿画本となったんだね。その本の内容は今回の企画展ではじめて知ったの。ジャン・ジオノは群れを恃まず、という孤高の魂を持っていた。まず、ひとりで世界に拮抗すること。その姿勢に、若きビュフェは尊敬の念を覚えたんだろうな。
「明日世界が滅ぶとしても、私は1本の木を植える」か・・・。すごいね。
今回のカタログはおもしろい造本だね。ケースだけあって、別にビュフェの作品がポストカードのようにまとめられていて、それをケースにセットするみたいな形だ。これは、褒めてあげたいな。

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