A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

御祓い

2012-08-01 22:37:32 | つれづれ
そういえばこんなこともあった。
僕の会社は物流倉庫の会社なので、たまにグループ会社からの一時預かりに近い荷物も預かることがある。ある時その営業担当者から僕に電話があった。ちょっと言いにくそうな口調で。

「あのさ、ちょっと変なこと聞くんだけどいいかな?」
「いいですよ。何でもどうぞ」
「この間預かって1号棟のエレベーターホール前に置いた○○さんからの荷物知ってる?」
「知ってますよ。店舗用の什器でしょ?」
「そうそう。それでその荷物に、御祓いをしてもらいたいんだ」
「御祓いですか?」
「そう。実はなんか、いわくつきの品物らしくてね。その什器を使っていた店で『見た』だの『聞こえた』だのと問題になってね。それでウチで一時預かりを依頼されたんだ」
「お店の方はどうされたんですか?」
「うん。店員等の間で噂が広がって収拾がつかなくなったんで、改装して什器、総入れ替えなんだ」
「そうですか、大変ですね」
「そうなんだよ。……じゃ、頼んだよ」

何を見たとか、何が聞こえた、とかは聞けなかったが、とりあえず僕はいわれた仕事を進めようと思った。
しかしながら「御祓い」なんて、どこに頼むのだ? 神社なんか初詣と、娘の七五三くらいしか縁がないぞ。

困った僕は、とりあえず大家さんの総務部門に相談してみた。
「大丈夫ですよ。ここの氏神様は深川ですから、後で相談してみましょう。スケジュール調整とか費用とかは、その後で」
……ということで、比較的あっさり話は進んだのだった。
聞いてみたところ、地鎮祭やら、新しい倉庫の開所やら、神社とのご縁はそこそこあるらしい。また、持ち込まれた荷物を御祓いしたいという要望は、数こそ少ないが他にもあったらしい。
科学万能の世の中では神仏の出番はあまりないのかと思っていたが、地元に密着した生活の中に、きちんとそんな関わりが残っていたことを改めて知ったのであった。

その後、具体的な調整は営業担当者にお任せしたので、この案件の後日談がどうであったのか、残念ながら僕は知らない。ある日ふと気づいた時には、この荷物は既に運び出された後であった。

しかし、以外なことからこの荷物に関わる話を聞かされることになった。
この荷物を置いていたエレベーターを使う上の階の社員が、搬入時に在庫確認のために撮ったデジカメの写真の中に『映っている』ものがあったらしいのだ。

どういう経緯だったか覚えていないが僕もその画像を見た。
テーブルの側面の金属の部分に、おかっぱ頭の少年の顔に見えるような光の輪郭が映っている。
しかしそれは、表面の凹凸にフラッシュの光が反射した偶然のように思えないこともない。

怪異はごく普通の生活の間に潜んでいるものではあるが、それは偶然や誤解と紙一重である。
少なくとも僕は、もしこの写真が本物の怪異だとしても、どんな因果があって少年が什器に捕らわれてしまったのかの説明ができない。人間はもっと自分の思いを寄せるものに『憑く』ものではないだろうか?

店舗の、業務用のカウンターテーブル。その一見無機質な物体に、どんな思いが寄せられたというのだろうか?

荷物が引き取られた今、それを確かめる術はない。
もしかしたら何事もなく別の店舗に運ばれたのかもしれない。
その店で、何も起こっていないことを僕は願っている。