上巻
マルセル・ペリクールの葬儀から話が始まる。娘のマドレーヌ、孫のポール。名前から、前作のエドゥアールはマルセルの息子だ。つまりマドレーヌと姉弟で、にっくきプラデルはマドレーヌの夫だ。しかしプラデルは前作での犯罪から監獄に入っており、ポールはその間に出来た子供となる。7歳でやや吃音ぎみだ。マルセルの葬儀の時、建物の3階から突如羽ばたくような格好で飛び降りる。このあっという間の展開。やや江戸川乱歩的な展開だ。
話のテンポは速い。そして、登場人物それぞれが腹に一物を持っているようで不穏かつ嫌な雰囲気だ。アンドレがまともにも思われるが、ポールの家庭教師であったが今となってはそれも叶わず、屋敷に居候しづらい立場となる。キャラクター的には前作で言うところのアルベールと言ったところか。ポールはエドゥアールと言ったところか。
マルセルの弟のシャルルは金食い虫で、しょっちゅうマルセルに金の無心をしていた。そのシャルルは公共工事のスキャンダルをアンドレの勤める新聞社の社長であるジュール・ギヨトーに握られ、口止め料として、多額の広告費を支払うはめになりさらに金に窮する。
ポールの看護人としてフランス語を全く話せないポーランド人のヴラディがやって来る。長い間笑顔を見せることのなかったポールだが、笑顔を見せるようになる。すぐ採用され屋敷の3階に住み込む。同じ階にはアンドレも住み込んでいる。
ポールはオペラに興味を持つ。と言うよりソランジュ・ガリナートというオペラ歌手の歌を気に入る。歌手に手紙を書いたり、8年ぶりのパリでのリサイタルに行きたいと望む。満席であったが、ギュスターヴに手を回させ席を確保。リサイタルに感動し、公演後は本人が登場し友達になってくれた。今回はこういったファンタジックな子供の夢物語が主題なのだろうか。いかにもフランス映画っぽい。
ポールはソランジュにイタリアに招待された。もちろんマドレーヌが付き添いで行く予定だ。ところがルーマニアの石油株に財産の大半を投資したものの、叔父のシャルルとギュスターヴの策略で株が紙切れになりそうな危機を迎える。使用人のリオンスに代わりにポールの付き添いを頼もうとしたがつかまらない。そこでヴラディに頼むことにした。ギュスターヴは頼れない。シャルルはペリクール家に恨みを持っておりあからさまに敵愾心を見せるようになる。新聞社の社主もまるで取り合わない。マドレーヌは一気にピンチを迎える。そもそもマドレーヌはギュスターヴに冷たくした、その仕打ちでこのような罠にかけられたのだ。マドレーヌが財産をすべて失うとともにギュスターヴは多額の財産を得る。しかもレオンスと付き合うようになり、屋敷まで奪われてしまう。
衝撃はそれだけではない、ポールはなぜ3階から飛び降りたのか、ついに明らかになる。つまりアンドレに虐待を受けていたのだ。ただの虐待ではない、性的な虐待をも受けていたのだ。ただ一人信頼できる人物、ポールの祖父であるペリクール氏だ。そのペリクール氏が死んだとき悲観し、ポールはペリクール氏の棺桶の上に飛び降りたのだった。
アンドレのそのような振る舞いは予想外だった。実は悪いやつだったのか?
数年後ギュスターヴは会社をやめ航空機開発事業を始める。ここからマドレーヌの復讐が始まる。元夫プラデルの会社の元部下だったデュプレを探偵として雇う。レオンスがマドレーヌに優しくしたのはそもそもギュスターヴの策略だった。レオンスがペリクール家の金を横領していたのは、当時から付き合っていたロベールというヒモ男に貢いでいたからだ。
エミリー・ヴァン・キャンプ出演の海外ドラマ「リベンジ」のフランス版といった様相を見せてきた。ただリベンジの主人公のように今は金持ちではないが。復讐にも金がいるというジレンマも垣間見れる。
アンドレも復讐の対象だが、なかなか隙がない。堅実な生活をしているからだ。ただ性的嗜好や、欲に負けそうになると鞭で自らをぶつという変な性癖がある。
下巻
女性をモデルにした新聞の切り抜きをファイリングしているポールにマドレーヌはポールが思春期を迎えたかと焦る。頼れる父親役の男性がいない。そこでデュプレに頼る。しかし案の定。そんな思春期の悩みなどとは全く関係のないことがわかる。それらの切り抜きは医薬品の広告だった。やがてポールは子供だてら医薬品会社を立ち上げる。
ソランジュはドイツからリサイタルに声がかけられている。ポールはドイツの独裁的な情勢に不穏なものを感じている。ドイツの独裁者達の思想にも。それに共感しているかのようなソランジュに対しても許せない気持ちが芽生えてきた。そしてソランジュとはもう連絡を取らないと宣言する。しばらくたって来たソランジュの手紙には、実はひそかにドイツに対して一泡ふかせてやりたいという計画であることが書かれていた。真意を理解したポールではあるが、不幸なことにベルリンまでの切符を手に入れる金がない今の経済事情。
アンドレは自分が立ち上げる新しい新聞の準備で忙しい。ギュスターヴは航空機会社のターボジェットエンジンの開発に邁進する。ただ、マドレーヌの策略で、レオンスの愛人のロベールをスパイとして清掃人として潜り込ませており、部品を隠したりなど、こそっとちょっかいをかけている。
いよいよターボジェットエンジンの公開実験の日、エンジンに点火する。始めうまくいったのだが、直後エンジンは爆発する。ロベールが燃料に水銀を混ぜていたのだ。実験失敗により打ちのめされるギュスターヴ。おまけに「フランス再興の会」の会長を退くことにもなった。代わりにサケティが会長となる。
続いて現在はギュスターヴとレオンスが住んでいる、旧ペリクール邸に強盗に入る。レオンスとロベールがその役。金庫の中の書類を盗むのが目的だが、その理由はわからない。
その後マドレーヌはポールに、行きたがっているベルリンに行こうと持ちかける。しかし、ソランジュのコンサートは明後日、マドレーヌのチケットはなぜかレオンス・ジュベール名義。
いよいよポールはヴラディを連れてベルリンに行く。同時にレオンス(あのエンジン開発をした、そして失敗したギュスターヴ夫人)に扮したマドレーヌも同じ列車に乗る。食堂で隣同士の席に座るが、他人の振りをする(というお遊び)。ポールとヴラディがソランジュと再会しているあいだ、マドレーヌはレオンスに扮した状態で夫からことづかって、エンジンの研究成果を引き継いでくれる相手を探しているということで、ドイツ軍と交渉をする。なるほどそういう目的だったのだ。ドイツ軍はしばらく考える時間をくれという。しかしドイツ軍が強奪できないように対策を打っていて、資料の半分はポールの車椅子のシートに隠しているのだ。
さて計画通りコンサートが始まるその時、打ち合わせ通りヴラディが当初の背景を破って剥がし、廃墟が描かれた真に見せたかった背景を露出させる。さらにソランジュが歌ったのは、ナチスが嫌う、明日みんなで死ぬという歌だった。怒ったナチスの幹部達は早々に退席してしまう。残ったのは、ソランジュ、ポール、ヴラディの3人。そして今日のこのコンサートで果たしたかった計画の成功を喜び合う喜び合う。追われるようにベルリンを立ち去るソランジュだったが、そこで回想する自分の(不幸な)過去。父親の虐待。恋人の死(虐殺された?)その怒りを最後のコンサートにぶつけ、帰りの汽車の中で生命を終える。
それと平行し、マドレーヌのドイツ軍との交渉の返事を聞きに行く場面。ここでも様々な伏線を張り、結果的には交渉成立。エンジンの情報と交換で大金を得る。すぐ後にドイツ軍からリムジンが差し向けられる。怪しい。車に乗ったら最後、そこで始末されるのでは?いやそうではなかった。丁重にパリへ送り返してもらった。という安心の展開。その頃パリでは、国家機密であるエンジンの情報をナチスに漏らしたということでギュスターヴは指名手配されていた。妻であるレオンスと共謀して。つまり、レオンスに成り済ましてドイツへ渡ったマドレーヌだが、果たしてどうなったか?そして手に入れた金はどうなったか?色々想像しなかった展開。
ポールが作った薬の立ち上げパーティー。そこに集まったのは、マドレーヌ、ヴラディ、デュプレ、共同開発者である薬剤師のブロツキー、そしてレオンス、ロベールというバラバラなメンバー。互いにだましあっているような仲のようだが、ポールからすれば家族のようだという。そこがこの小説の雰囲気なのだ。
ギュスターヴが陥れられ、シャルルも陥れられる。同時にギヨトーも脱税疑惑で失墜する。最後はアンドレだ。アンドレは他と違い、ポールへの虐待に対する母親の復讐なので、動機が違う。文章偽装を駆使してアンドレを女性殺害の容疑で罠にはめる。正統なミステリーであれば、文書を偽造したり、指紋のついた身の回りのものを本人不在のあいだに家に侵入し盗み出し、反抗現場に置くと言うのはスマートではないかもしれない。しかしこれはミステリーではなく復讐がテーマであるので、目をつぶって、リベンジの爽快さを味わうべきだろう。
前作もそうだが、(勝手な先入観だが)フランス人らしいというのか、多弁で饒舌だ。おしゃべり好きという印象だった。それもあり、淀みなく一気に読ませる流れがある。
復讐に関しては、デュプレのマドレーヌに対する献身的な(正当な報酬を受けての行動なので当然ではあるが、それを越えて何かあるのではないかと思わせる律儀な)姿勢があり、犯罪的なスパイ行動が大きく占めるのと、文書偽造のプロをうまく活用した作戦であること。それが要だ。
上巻
20190202読み始め
20190209読了
下巻
20190209読み始め
20190215読了