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「リヴァイアサン」 ポール・オースター

2017-02-16 01:17:18 | 読書
 
読む前は億劫なのだが。しかし、読み始めるとグイグイ読まされる。この繰り返し。やはり読ませるな、オースターは。
自爆事件が発端だ。その爆死した人物は主人公の友達だ。爆死した人物はベンジャミン・サックスという。べつに宗教の絡みがあるわけではないし、危険な思想を持っているわけでもない。主人公と同じ文筆家だ。その主人公がベンとの出合い、交遊を回想しながら語られる。この中のエピソードはベンの人生を中心に広範囲で多様だ。こんなところはオースターらしい。どれも面白い。
p148あたり。ベンの長期留守中にその妻のファニーと情事に落ちる。当初は、主人公も知らなかったが、寧ろベンの方がファニーがいながら、複数の他の女性と関係を持っており、それはファニーも公認なのだという。特殊な夫婦関係と思われる。しかし、真相はわからない。このあたりは、グレアム・グリーンの「情事の終わり」を思い出す。
主人公も不義を繰り返す。
第3章。ある惨事がサックスを襲う。パーティー中に階段から転落する。幸い怪我も軽く後遺症もない。しかし、それをきっかけに腑抜けになってしまうのだ。しかしそれはサックスが自らそう仕向けたようである。ファニーとも別れたがるようになり、仕事もしなくなる。ファニーに愛想をつかされるようはかったりする。ついには新作を書こうという口実で家を出ていく。表向きはバーモントにある別荘で創作に専念するためだ。そうではあったが、一人でいると逆に魂を取り戻したようで、元気になったと思われた。3章の最後は、事故をきっかけに自暴自棄になって自分をどん底に追い詰めるべく、行動していたが、バーモントで一人こもっている間に元気を取り戻し、再起しかけた。その途端別の不幸を目の当たりにし、再起しかけたことが無効となり、自暴自棄になったという事実しか残らなかった。
第4章。3章終盤の悲劇は、実は読者の想像を越えた真相があったのだ。サックスは小説を書く力を再び取り戻した矢先、森を散歩していたら道に迷い、一夜森のなかで過ごすことになる、翌朝明るくなって道に出ることができ、トラックを運転する気のいい少年に拾ってもらう。ところがここで予想もつかなかった展開が。家まで送ってもらう途中、故障車に出くわした二人、気のいい少年は何か助けることはできないか運転手に近づいた。しかし何があったのかわからないがその運転手に少年は射殺されてしまう。動転したサックスはとっさにシートの下にあったバットを手にし、その運転手を撲殺してしまう。運転手は何やら大金を所持していた。その金だけを持って逃げることにした。何もかもファニーに告白しようと、元の家に帰ったとき、3章の終盤の悲劇に出くわしたわけだ。ファニーにはもう頼れない。次に頼れるマリアの元に向かった。そこでまた驚きの展開。撲殺したあの運転手はマリアの親友リリアン(リリアンは第1章でマリアのエピソードで既に登場済み)の夫のディマジオということがわかる。オースターらしい皮肉な因果。罪を償うというわけではないが、今は夫との不和で生活も困窮しているリリアンにその大金を渡すことが、自分にできる唯一のことと考え、リリアンを訪ねる。
全く知らない人物(しかし何か悪いことをしていると思われる人物)を不可抗力で殺害してしまう。そしてその人物が大金を持っていて、その大金で何ができるのか?というくだりは同じオースターの「ムーンパレス」と似ている。ついでに言うと、途中ファニーが美術展の企画をしている場面があるが、そのアーティストはブレイクロックであり、「ムーンパレス」で象徴的に紹介されていたアーティストだ。
大金(ざっと16万ドル)をリリアンに託すにしても、素直に受け取ってもらえるのか?そもそも夫を殺害した自分が信用してもらえるのか?リリアンの家に向かったサックスだが、いざ会ってみると互いに腹の探り合いで埒があかない。ついには、オースター的なナンセンスとも言えるやり取りが始まる。16万ドルを一度に渡すのではなく、1日5千ドルずつ渡し、金がつきるまで続けることにした。リリアンの方は全く関心を持たないし、金にてもつけない。リリアンの娘マリアと心が通じ、奇妙な同居が始まる。マリアとは親子のようでさえあるのに、相変わらずリリアンとは不毛な関係が続く。しかし、奇妙なことにお互い愛を感じるようになる。このままハッピーエンドかと思いきや、リリアンとは近づく一方マリアの方が疎外感を感じるようになり、マリアが嫉妬に泣き出して止まらなくなった時にリリアンと喧嘩をしてしまう。そこで脆くも関係が壊れてしまう。失望したサックスは、返すための残りの金を全部もって家を出てしまう。
その後サックスは、正体を隠し「自由の怪人」と称して、時折自由の女神像を爆破して世間を騒がせるようになる。なぜそのような行動をするのか?理由は理解できなかった。
「風が吹けば桶屋が儲かる」的に、主人公とサックスの出会いから、様々な人物とのかかわりを経て、爆死するに至る、その謎が明らかになっていく。その途中のエピソードはさすがオースター、すべて面白い。濃厚で重量感のある内容で、読むのに時間がかかるが苦痛ではなく楽しむことができた。
不思議なのは、結局主人公は爆破犯の正体はサックスであることは知ったが、爆死したのがサックスであるのかは想像でしかない。リリアンにはマリア・ターナーを通じて初めて会おうと試みたが、結局約束の日時にはどこへか消え去っていた。そもそも、リリアンは存在したのか?いや、サックスでさえ存在したのか?主人公の回想という体裁を取っていおるため、(もちろん小説の中でという意味だが)現実の話なのか?それとも主人公の創作なのか?何とも曖昧で不安定な読後感も感じる。
 
20161112読み始め
20170125再開
20170214読了