夏の甲子園の決勝で神奈川県代表の慶應義塾高校が、宮城県代表で大会2連覇を狙っていた仙台育英高校を破った。
初優勝と思いきや、1916年(大正5年)に全国中等学校大会で優勝していたので、何と107年ぶりに2回目の優勝を飾ったことになるという。
驚きを通り越して「へえ!」だ。
準決勝で鹿児島県代表の神村学園を6対2で下した仙台育英の2連覇が最も考えられていたのだが、そうではなかった。
神奈川県代表では常連が強豪の東海大相模と横浜高校だが、その2校を破って県代表を掴み取ったわけだから、並々ならぬ実力を持っていたのだろう。
それにしても私を含め下馬評に上がってはいなかった高校だ。
仙台育英高校には150キロ近くの速球を投げるプロ注目の投手が2人おり、誰が見ても慶応高校の劣勢は明らかだった。
それがそれが、5回には一挙に5点をもぎ取るという慶応高校の一方的な展開になった。終わってみると8対2の大差だ。
優勝インタビューで森林監督のモットーである「エンジョイ ベースボール」が繰り返されたが、この「自分の競技を楽しむ」という考えは、最近のアスリートの口からよく言われるフレーズでもあり、さして珍しくはないが、次の言葉は考えさせられる。
<野球の新しい姿と多様性へのきっかけになったと思う。>
この発言の意味するところは一言でいえば「自由な髪形」のことである。
およそ集団競技の中でほとんどの競技者が「坊主頭」なのが高校野球である。サッカーにしてもラグビーにしても、ランニング競技にしてもほとんどの場合、髪型は自由である。
校則で男子の髪形を坊主頭にしている高校は今はまず存在しないが、かつてスポーツの盛んな高校ではそれが普通だった。
しかし高校生でも国際大会に出場する機会が増えるにつれて、各国の男子ジュニアの姿を見て次第に「坊主頭でなくても・・・」という感慨を抱いた生徒が多くなったに違いない。
それでもこと甲子園野球に関する限り、坊主頭への規制が揺らぐことはなかった。
しかしやはり時代の要請だろう、「坊主頭になるので野球部に入るのをやめた」という生徒が増えて来たのだ。
何も坊主頭でないからと言って野球に差し支えがあるわけではない、自由にしよう、しかもそれを自己管理、つまり自主性に任せよう――こういった高校が増加しているという。
その典型というべきが、今度の優勝校慶応高校だったのだ。
たしかに時代の潮流ではある。自由な髪形のサッカー人気に取られて行くのを残念に思う人々には共感を得るに違いないが、何事にもほどほどというものがある。
坊主頭の方がいい、という生徒がいたずらに肩身の狭い思いがしないよう配慮をして行かなくてはなるまい。また茶髪は許されるのかなどという議論も湧き上がるかもしれない。
それはともかく、「陸の王者慶応!」というスタンドの大声援は誰をも鼓舞した。テレビのこっち側にもある種の懐かしさを以て。