キマグレ競馬・備忘録

競馬、MLB、スポーツ観戦、趣味など気になる事を書いています。

本「デス・ゾーン」

2022年05月20日 | Book
登山家で起業家の栗城史多の生涯を追ったノンフィクション。
著者は北海道放送のディレクターで、若い頃から親交があったが、栗木が有名になっていくとともに疎遠になり、最期を見届けることになってしまう。
栗城史多は、エベレスト単独無酸素登頂を目指したネット生中継で有名になった。ヒマラヤ登山の実態は、一般人には判り難いものだが、栗城は斬新な映像と登山の生中継で人気者になった。メディアや講演を通じて多くのファンを獲得し、エベレスト登頂の生中継を目指すが、何度も失敗して登山家としての能力に疑問を持たれるようになる。そして最後の登頂では、最も困難と言われるルートを選択し、体調不良を訴えて下山中に滑落して亡くなった。著者は彼がなぜエベレスト登山を目指したのか、なぜエベレストでなければならなかったのか、なぜ困難なルートを選んだのか等々、彼の行動の不可解な点について考察する。
栗城さんのことは、テレビのドキュメンタリーで見たことがある。彼が単独無酸素でカメラを持って雪山を登っていく。たった一人で雪を掻き分け、冬の登山の過酷さや孤独感が感じられる素晴らしい映像だと思った。しかしこの本によると、これは実は演出であり、周囲にサポートする人達がいて手伝っていた。栗城以外の人が画面に映らないように指示していたらしい。彼の登山家としての実力は未知数であり、彼にとって登山はあくまで映像表現の対象であって、普通の登山家が持つ山への情熱というものはなかった。しかしファンは登山家である栗城を見せられ、大きな期待を持って彼のことを見ていたが、何度もエベレスト登山に失敗する彼を見て失望する。 期待は徐々に批判に変わり、それをはね返そうとする栗城にとってプレッシャーになっていく。結局彼にとってのエベレストは死に場所になってしまった。
この本を読んで、彼の登山の裏事情を知るとともに、生き方についても色々考えさせられることがあった。とても良いノンフィクションだと思う。

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