世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

なりたい自分

2017-07-21 04:16:21 | 黄昏美術館


エドマンド・デュラック

原題「庭の中の婦人」


偽物の画家だが、悪すぎるものではない。馬鹿なことになるほど、いいことにはなっていないからである。

馬鹿というものは、美しい女性を描く時、よくこういう女性を描く。細やかな姿に、色っぽい視線、かなりの美形、抑えめだがきついファッション。何かを基準に、自分好みに改造しているのだ。

馬鹿はこういう美形になりたいのである。

美しく、堂々としているが、やさしくはない。これでもかと整った美形を見せつける。かっちりと完璧に美形を縁取った輪郭に、どこか若さを失いかけているあせりを感じる。

本当はこんなに若いわけがないからだ。

馬鹿というものは、自己活動を他者に押し付けて、自分ではあまりやらないがゆえに、すぐに老いるのである。老いとは愚鈍ではない。怠惰なのだ。

ずると盗みで理想的な美形になれたとしても、それはつかの間だ。すぐに崩れていく。だが最近は、その崩れることを防ぐために、もっとひどいことをするようになった。

美魔女と言ってね、そろそろ廃れるだろうが、年をとっても美貌を保つために、馬鹿は人間ではないということをやりはじめたのである。

そうしたら、美人というものが、まるで吸血鬼のようになったのだ。

なりたい自分などというものは幻だ。所詮、嘘を組み合わせてつくる、馬鹿のあこがれだ。






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薔薇の降る道

2017-07-20 04:17:13 | 花と天使・第2巻


画像がよくないですが、また天使をたくさん描いてみました。

色鉛筆の絵を描き始めてから、いろいろなメーカーの色鉛筆を集めています。これもいろんなのを使っています。

たとえば真実の天使は、頭のわっかはファーバーカステル、顔はステッドラー、服と翼はトンボ、髪はヴァンゴッホを使っています。

メーカーによって微妙に色や風合いが違うのを楽しんでいます。






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のぞき穴

2017-07-19 04:17:16 | 黄昏美術館


エルンスト・フックス


偽物の画家だが、興味深い作品である。

のぞき穴から他人を見ている目が秀逸だ。うらやましい、と言っている。ああなりたい、あれが欲しい、と言っている。

わがままなのだとは思いはしない。馬鹿なことだとも思いはしない。貴族的な風貌の中に押し込められた、実に幼い魂が、自分というものから影のように逃げて、自分がなりたいと思う他人に、吸い付くような視線を向けるのだ。

それも、絶妙な場所から。誰にもわからないようなところから、ずっと見つめ続けているのである。

馬鹿はいつもこんな目で他人を見ているのだ。動いているが、まるで魂のないような目つきである。

こういうものが馬鹿なことをし続け、人から欲しいものを奪うことに何の呵責も感じなくなると、もはや妖怪のようなものになる。

もうだれも愛せない。愛さない。おそろしい馬鹿になるのである。






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全くの嘘

2017-07-18 04:17:16 | 黄昏美術館


ヤチェク・イェルカ

原題「どうか乱暴にドアを閉めないで」


ポーランドの画家らしい。現代人の、嘘の上に建設した文明を揶揄しているかのようである。

ほとんど中身がないに等しい丘の上に立っているのが、巨大な都市ではなく、粗末な田舎家であるのが印象的だ。それも実に豊かな本物らしい家が描かれている。

嘘でもいいから、普通の生活が欲しいという、馬鹿の切ない願望が現れているのかもしれない。

長い人類の歴史を通して、馬鹿はさんざんに馬鹿をやりながら、あらゆる高い文明を食い荒らしてきたが、結局なりたかったのは、善良な普通の人間だったのだ。

親にも神にも、普通に愛される、普通のよい子だったのだ。

それを得るために、この時代、馬鹿はあらゆる暴虐をやった。他人から霊的財産を盗み、顔を盗み、人生を盗み、まったく違う自分になろうとした。本当の自分というものを、全く違うもので作ろうとしたのだ。

その結果がこれなのである。

頑丈に、本物とほぼ同じように作ったようでいて、それはドアを乱暴にしめるくらいのことで、全て崩れ去ってしまうのだ。






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受胎告知の天使

2017-07-17 04:19:00 | 画集・線刻派

2003年、切り絵。

「涙の聖母」と対の作品として制作されたもの。






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飛ぶうさぎ竜

2017-07-16 04:17:54 | 花と天使・第2巻


お釈迦様の絵にならって、四つ切画用紙サイズで描いてみました。

少し画像がぶれるのは、大きすぎてスキャナを使えないからです。

星や薔薇を散らして、バックはパステルで塗りました。

すると、美しくなりました。

うさぎ竜が光ってるみたいです。






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荘厳なる桑子

2017-07-15 04:17:47 | 黄昏美術館


デューイ・ヒューイン


美しく見えるが、これは男の身勝手である。

崇高なほど美しく描いてやるから、おれの言うことを聞けと、画家が言っているのだ。

女性は本来こんなものではない。もっと生き生きとしている。魂が目に輝いている。いろいろなことをしている。

こんな置物のようなものではない。

男は知るまい。男が描くこんな絵を見て、女が苦い思いを抱いていることを。巧みな表現の中に溶かして、実に痛いことを女に要求している、男のずるさを、女が見抜いていることを。

もうこういう手管は通用しない。男は女性の明るさを認めるべきである。

本当の自分というものを馬鹿にして、このように自分を奇妙に作りまくっていくと、人間は恐ろしいものになっていく。

そういうことを感じさせるものである。





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時の香炉・6

2017-07-14 04:16:24 | 夢幻詩語


その時また、空に戦闘機が現れた。ノエルは「ああ、第3陣だ」と言いながらそれを見上げた。そして深いテノールの美しい声で言った。

「本当に、戦争をしている国を治めるのは難しい。まるで、ガラスのアコーディオンを弾いているようだ」

それを聞くと、シリルはふと軽やかな笑みを見せた。

「本当に、それはまた、難しい。おもしろい言い回しですね。使ってもいいですか」

「いいですよ。どうぞ」

ふたりは目を見かわして笑った。

それからしばらく雑談をしたあと、ノエルはシリルの屋敷を辞した。シリルは久しぶりに誰かと深い話ができたと喜び、ノエルを門まで送り出した。

「よかったらまた来てください。わたしはずっとここに住んでいますから」

「ええ、いつかまた」

握手を交わすと、ふたりは門の前で分かれた。灰色の背嚢を背負っている青年の姿が見えなくなると、ふとシリルは気付いた。

「なんであんな若者がいるんだろう? 今どき、あれくらいの年頃の男はみんな戦争に行っているはずだが」

首をかしげながら、シリルが振り返ると、いつの間にかそこにアンブロワーズがいた。義足はもう直っていた。ベルタに直してつけてもらったのだ。アンブロワーズは青い顔をし、胸の前で硬く手を結びながら、シリルに言った。

「だんなさま、田舎に山が二つありますね」

「ああ、あるが、どうしたんだ、アンブロワーズ」

「それ売りましょう。売って金にして、もっかい選挙に出てください。そして今度こそ、ジャルベールに勝ってください」

「アンブロワーズ……」

シリルはアンブロワーズの顔をしげしげと見つめた。醜いワニのような鼻をした男の目に、涙があふれていた。薔薇の香りがした。

銀杏並木の道を歩きながら、ノエル・ミカールはため息をついた。きっと彼の言うとおり、アマトリアは負けるだろう。わたしは、この難しい時代を、やらねばならないのか。たったひとつの、ガラスの楽器だけを、道具にして。

ノエルは手にまたあのオルゴールをとった。薄紅色の、自分に引け目を感じているかのような薔薇の蓋をあけると、あの音楽が流れだした。

国には不思議な王様住んでいる。
誰も知らない王様が
ひとりで笛を吹いている。

ふたを閉めると、またあの薔薇が目に入った。

わたしは薔薇としては、がんばらなければならない花なのです。

ノエルはほほ笑んだ。目が明かるんだ。やれるかぎりのころはやろう。すべてを背負っているのは僕なのだから。

銀杏の落ち葉が彼の肩に落ちた。秋の香が深まろうとしていた。


(おわり)








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時の香炉・5

2017-07-13 04:16:47 | 夢幻詩語


長い話をしている間に、ノエルもすっかりこのシリル・ノールという老人に魅せられていた。押しつけがましいかとも思える口調に、驚かされることもあるが、心の中から発露する言葉には、澄み渡る空を見るような明るい何かがあった。庭の薔薇を見ていながら、はるかに違う何かを見るような目つきをすることがある。ノエルはこの老人に何かをやりたいという気持ちが起こり、ポケットからオルゴールを取り出した。例の、ふたの模様が少し気に入らないオルゴールを開けると、音楽が流れ始めた。

シリルはそれにはっとした。

「おや、童謡ですね」

「ええ、この国に古くから伝わる、子供の歌です」

「国には不思議な王様住んでいる、ですね」

「ええ、誰も知らない王様が」

そういうと、シリルはあごを撫でながら、少し考え込んだ。ノエルはオルゴールの蓋を閉め、それをテーブルの上に置いた。ふと、ふたに描いてあるうすべにの薔薇の模様が、何となく気に入らなかったわけがわかった。そうだ、この薔薇は、薔薇らしく咲けなくて、それに引け目を感じているんだ。だから、どこかぎこちないのだ。

薔薇らしく咲けない薔薇って、どんな薔薇なのか。ノエルは興味を持って立ち上がり、庭の薔薇に近づいてみた。そして薔薇の花に顔を近づけ、よくよく薔薇を見てみた。

たしかに、普通のうすべにの薔薇にしては、形がおとなしい気がする。色がくすんでいるような気もする。

わたしは、まだ薔薇としては、がんばらなくてはいけない花なのです。

ノエルは驚いた。誰かの声を聞いたような気がしたからだ。だがそれを花が今いったのだとは、とっさにはわからなかった。不思議なことを、自分が想像したのだと、彼は思った。

「アマトリア東部地方の民謡が、元なんですよ、その歌は。こんな伝説があるのをご存知ですか?」

突然シリルが言ったので、ノエルは振り向いた。

「え?」

「この国にまだ王制があったころ、変わった王様がいたでしょう」

「ああ、ギー18世のことですか。当時の大国だったカラヴィアに対等の親書を送ったという」

「ええ、誇らしくね。しかしあの王は、後に王位をはく奪されて、都を追い出された。それ以後の行方はようとして知れない」

「われらのアマトリアは、時の神のすべる国である。あなたの国はいかなる国か。たしかそういう手紙を、カラヴィアの王に送ったのでしたね。それでカラヴィアが怒って、戦争になりかけた」

「有名な手紙です。すばらしい。自分というものが何かを、ギーは知っていたのだ。だが」

「確かギー18世を追い出したのは」

「カジミール1世です。傭兵上がりの大臣ですよ。ギーははめられたのだ。嫌な噂を流されてね。民意を失った。政治というものは、民のためにやるものだが、民がいつも政治をわかっているかというと、そうではない。馬鹿なやつというものは、いつでも単純な嘘に騙されるのだ」

「わかります」

シリルは喉の奥で、何かうめくような声を一瞬あげた。決して言ってはならないことを、言おうとしているように思えたからだ。

「こんな伝説を知っていますか。今でもギー18世は生きていて、不思議な香炉で香を焚いているんだそうです」

「香を?」

「ええ。その香が焚かれている限り、この国の時は永遠に流れて行って、どんな試練があろうとも、決して滅びはしないそうです」

「滅びはしない? ギーが」

「ええ、王様が、国を忘れない限り」

「いいお話ですね」

ノエルは微笑んでシリルを見た。シリルはずっとノエルより年上のはずだが、その目はまるで愛おしい子供を見つめているような目だった。

(つづく)





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時の香炉・4

2017-07-12 04:17:53 | 夢幻詩語


ラジオのニュースは、キール海での海戦は順調に作戦が進んでいると伝えていた。吾らに戦勝国の栄誉が神から与えられる日もそう遠くないだろう、とアナウンサーががなっていた。そしてそれに続いて、今は重大な時代故、政権が変わるのは好ましくない。ゆえに現ジャルベール政権を尊重して、来年の選挙が延期されることが決定されたと伝えられていた。

ノエルは少し眉をひそめた。民主国家らしくない。戦時体制だし、仕方のないことではあるかもしれないが、まるで口調が独裁者のようだ。世論はどうなっているのだろう。ノエルがもう少し何かを知りたいとラジオに耳を澄ました途端、シリルがラジオのスイッチを切った。

「ふん」

そう言いながら、シリルはお茶を一気に飲み干した。

「民主主義というのは、堕落ですよ」

と、シリルは切り捨てた。ノエルは黙って聞いていた。シリル・ノールは薔薇の庭の中央に立ち、まるで万民の視線を浴びている政治家のように身振りを大きくしながら、言った。

「市民革命は王制をひっくり返し、人民に政権をもたらしたが、その結果どうなったと思います? 市民が政権の主となるためには、市民というものをみんな全く平等にしなければいけないんですよ。それでは政治が難しくなりすぎる。高い力を持つものも、田舎でこそ泥をするようなやつも、みんな一緒くたに同じ権限を与えるんだ。そんなことになっては、どんな馬鹿でも政治家になれる。嘘ばっかり平気でつけるやつばかりが、のしあがる」

シリルが身振りを大きくして薔薇に触れたとき、薔薇の小さな棘が指に触れた。シリルは一瞬、ウッと黙った。薔薇が風にゆれ、何かをシリルに言おうとしているかに見えた。シリルの言っていることに、全くその通りだと言っているようにも見えた。

そのままシリルが立ち尽くし、何も言わないので、ノエルが言った。

「先の選挙では、大方の予想を裏切って、ジャルベールが当選したのでしたっけね」

「対立候補のスキャンダルが明るみに出たからです。たいしたことでもないのに、人民はそれに踊らされてみんなジャルベールに入れたんだ。ほんとは彼ではいけなかったのに」

「わかります。ジャルベールはなりは立派だが、どこかおかしい」

「狸だからですよ」

「狸?」

「なんにもわかってないのです。隣国が見抜けていないからあんなことができる。カラヴィアは我がアマトリアに嫉妬しているんですよ」

「ほう? なぜ? キール海の漁権戦争で負けたからかな」

「それもありますが」

そのとき、ベルタが焼きたての小さなお菓子を持って来た。シリルは小さく歓声をあげ、それを歓迎した。女性が現れてくれたのを感謝するかのように、シリルはベルタにお礼を言ってから、言った。

「なに、我がアマトリアには、彼女のような美しくもやさしい女性がたくさんいるからです。カラヴィアには、実にベルタのようないい女はいない。それが彼らは悔しいんですよ」

それを聞くと、ベルタはとんでもないというような顔をして、笑いをかみ殺しながら、屋敷に戻っていった。ノエルもおかしそうに微笑んだ。

「それは真実かもしれませんね。人間というのは時に、実にくだらない理由で、愚かなことをしますから」

ノエルが言うと、シリルも我が意を得たりという顔で笑った。

「何、本当にそうなんですよ。政治なんてのはね、そんなことばっかりなんですよ」

そういうとシリルは、ベルタが持って来てくれたお菓子を一口かじり、その軽やかな甘さをほめたたえた。こんなものが作れる女性が、カラヴィアにいるものかと。

(つづく)





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