きつい冬もときどきは必要だ、と祖父は言う。それがなにかをかたづけ、なにかをよりすこやかに育てる自然のやりかたなのだ。例えば、氷は木の枝のうちの弱いものを選んで折ってしまう。もっと強い枝を出させるためだ。こうして、やわな木の実しかつけられない弱い枝を冬のうちに一掃し、夏から秋にかけて、かたく実のしまったドングリや栗、チンカンピン栗、クルミなどの幸を山にもたらすのだ。
フォレスト・カーター「リトル・トリー」
だれかが、はりねずみの あしに さわりました。
「きみは だれですか? どうしたのですか」と、
ひくいこえで だれかが ききました。
「ぼく、はりねずみ。川に、おっこちたの」
「では せなかに おのりなさい」
ノルシュテインとコズロフ「きりのなかのはりねずみ」
をとめごの 夢はこてふを 野に放ち はねかへりくる しほさゐの声
ことごとく はしき芽を摘み しづをゆき はてのはて見る くらきものの世
月の書に しをりを挟み たづさへて 長き夜をゆけ ひとりしもゆけ
くづれゆく あだしよの洞 逃げ行くも 影すらもなき 音に聞く城
己が荷の 山のごときを あふぎ見て 恐るるものは 奈落に落ちよ
とこしへに 消ゆることなき 入れ墨を 眼に彫りて 荒れ野に向かへ
あたらしき ものの寄せ来る しほの音の 己の中に 聞こゆる日まで
「どうやってきみは、仲間の職人のなかからおれをさがしだしたの?」
「あなたが不安になっているのを、感じとったのよ」と、娘は言った。「わたしのことが心配で不安になっているのを。それであなただとわかったのよ。」
オトフリート・プロイスラー「クラバート」
昔おまえが殺した女が
おまえを訪ねてくる
あなたの子供を産みました
責任を取ってください
昔森の奥であなたはわたしを犯した
その時孕んだ子供を
ようやく産みました
責任を取ってください
あなたがわたしを埋めた
森の土を食わせて養いました
あなたがわたしを沈めた
河の水を飲ませて養いました
名前は罪と名付けました
責任を取ってください
罪という子供は
蛙のように醜い顔をしている
恐ろしい腕で父親の家を壊し
汚い寝小便で寝床を汚す
食い物という食い物を食い尽くし
糞をひっては親の顔に塗り付ける
おまえがおれを産んだのか
おれみたいな汚い馬鹿を
おまえが産んだのか
全部責任をとれ
何もかもをおれのためにやれ
馬鹿みたいな子供を作った責任を
すべて背負え
昔おまえが殺した女が
おまえを訪ねてくる
あなたの子供を産みました
責任を取ってください
全部責任を取ってください
難民たちは、当然なことながら、食料も充分には持っていず、見るからに疲労困憊、老いも若きも、ふらふらになって、足を運んでおります。
そうした難民北上時代のある夏の、ある日のこと、
――もう、見てはいられない!
と、誰かが口をきったことが契機になって、この山村では、有志の者十人ほどが相謀って、村端れの廃屋二、三棟を手に入れ、修理の上、寝具を入れたり、食器、炊事道具類を調えたりして、そこを臨時の難民収容所に充てました。
井上靖「孔子」