世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

オキナグサ

2022-04-30 05:11:23 | 花詩集

前に進みたくても
どうしても進めない時がある
そんな時は一旦進むのをやめ
焦る心を少し落ち着かせてから
静かに周りを見回してみると良い

するとそこには
手をつけずに放っておいた宿題や
あなたのために誰かが流した涙や
あなたが気まぐれに殺しては
捨てていった人の心なんかが
腐りかけて山になった
トカゲの死骸のように
うずたかく積みあがっていたりするものだ

それらを一つも片付けようとしないで
前に進もうとしても無理なのだよ

あなたが今までのあなたであり得たのは
あなたが何も知らなかったからだ
あなたが今前に進めないのは
何も知らないでいることは
もうできないからだ

誰かや何かのせいにしてはいけない
それは自分をも捨てることだから
宿題をやりなさい
少しずつでいいから
時の女神は
必ずあなたを待っていてくれるから



(花詩集・11、2004年4月)




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ナノハナ

2022-04-29 05:23:57 | 花詩集

冬の最後の叫びが
大地の皮膚を裂いていく
その中から
春の悦びがあふれ出す
氷にとじこめられていた
何万もの光の鳥の群れが
いっせいに空に飛び立つように
地球の大合唱が始まる

ああ
解き放たれたこの悦び
再び出会えたこの悦び

菜の花が
あんなにも金色に咲くのは
このすさまじいほどの悦びを
誰かと共にしたいと
地球が思ったからなんだ

菜の花が
あんなにもまぶしく歌うのは
地球のことばを
目に見える形にして
私たちにも伝えたかったからなんだ

だから
すべての命は
みんなこの地球の
ことば そのものなんだよ



(花詩集・10、2004年3月)





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ウメ

2022-04-28 04:59:43 | 花詩集

それは春とは名ばかり
風にまじる氷がまだ針のように頬を刺す頃
何があったのか
庭園の梅の木の下で
少女は泣きながら
恋人の不実をなじっている

彼はやさしくないのよ
こんなに私を傷つけるんだもの

年を経た梅の木は
こまやかな枝の先々の紅の粒を
ぽちぽちと裂きはじめた
すると澄んだ香りが
薄絹のようにひるがえって
少女の肩をそっと抱いて ささやくのだった

お嬢さん
男というのはね
ごめんという一言が言えないために
百万倍のむだな苦労をする生き物なのさ

梅の木のそのささやきが
彼女の心に届いたらいいのだが さて
不謹慎だとは思ったが
傍らで聞いていた私は
笑いをかみ殺すのにひとしきり苦労した
やれやれ

いつの世も
女の苦労の種は
変わらないんだなあ



(花詩集・9、2004年2月)




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クロマツ

2022-04-27 06:03:26 | 花詩集

辛そうですね
辛いですか

大きな壁が立ちはだかって
一歩も動けませんか
壁は そろそろ自分自身と
話をしなければならない
時がきたという印です

たいして疑問を持たずに生きてきた
自分というものについて
深く考え直さねばならない
どこが悪かったのか
何を改めねばならないのか
何をするべきなのか

チョウチョウのように着飾って
ひらひらとうろつくだけでは
だれにも何も伝わりません
本当のあなたは何をしたいのか
何を求めているのか
ちゃんと考えているのですか
氷のような手で魂をもてあそびながら
こざかしい技と力だけで
すべてをつかもうとしてはいませんか

乗り越えられないのは
やり方を間違えているからです
正しいことを学びなさい
余計なものを脱ぎ捨てて
本当の心で飛びなさい
その時 初めて
すべては何のためにあったのか
あなたにもわかることでしょう



(花詩集・8、2004年1月)




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ノグルミ

2022-04-26 05:29:57 | 花詩集

石のように重い屈託を胸に抱えて
すがりつくように神社の石段を上っていた
伝わらない思いがあふれて
喉を割ってほとばしるほどだったのに
私は声を出せずに泣いていた
泣きながら石段を上っていた
その前を ふと細い枝がさえぎった

それは痛々しく幹の曲がったノグルミ
昔 根っこごとふらついて
倒れかけた木は
地面すれすれのところでもう一度幹を持ち上げ
そのまま伸びて
天に梢を豊かに広げているのだった

(大丈夫 いけるさ
 おれだってそうだったんだもの)

ノグルミは言った
私は笑った 泣きながら笑った
また明日も生きていくのか
いつ伝わるかわからない想いを抱えて

わかってる あきらめたりしない
でも泣きたいときは泣きたいんだよ
私だって

ノグルミの声を振り切って
再び石段を上っていく
涙はとめどもない でも

あきらめたりしない
あきらめたりしない
あきらめたりしない



(花詩集・7、2003年12月)




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プラタナス

2022-04-25 04:45:59 | 花詩集

昨日あなたは
ちょっとした間違いをしましたね
そう この木は言っています
本当は真っすぐいかなきゃ
いけなかったのに
間違えて道をそれてしまったと

木の声が聞こえるのかですって
そういうわけじゃあないのですけど
とにかくこれから
あなたは少しずつ魂が傾いてくる
そう木は言っています
だから注意するようにと

木が人間のように話す声が
聴こえるというわけではないんですよ
ただ
魂の奥の奥の広がりには
人間も木も動物も風も星も
全て同じになれる国があって
私たちはいっしょに
そこに入っていくのです
そしてそこから帰ってきたときには
木の言葉は私のものになっているし
私の言葉も木のものになっているのです

そこでは言葉は
目に見えぬ理屈やただの記号ではなくて
一枚の透明な布や
奇麗な光る色石だったりするのです

本当なのになあ



(花詩集・6、2003年11月)




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ノギク

2022-04-24 04:59:45 | 花詩集

愛することに 臆病なのではないの
時には 本当に誰かを愛するために
遠い遠い道を 歩かねばならないから

空からぶら下がる たくさんの光の種を
一つ一つ吟味しながら
ああでもないこうでもないと
悩みながら生きている
本当の愛は きっと
こうやって
魂の奥から流れてくる 乳のような汗が
少しずつ重なって できてくるのね

孤独の鉛を 棒のように伸ばして
しめった旗をぶら下げて
物乞いのように虚ろな瞳で
いつまでもいつまでも
一体何を探しているの?
足元に踏んでいる一群れのノギクの
小さな声にさえ 気づかないほど

なぜあなたは学ばないの?
踏まれることも傷つくことも
全て飲みこんで生きることを
小さなノギクでさえ 自分で決めるのに

失うことも得られぬことも
苦しむことも
全ては
愛のためにあるのに



(花詩集・5、2003年10月)




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クサギ

2022-04-23 05:16:10 | 花詩集

ゆるやかに震えながら天を指す
雑木の幹の間を歩いていた
深い芳香に気づいてふりむくと
白いクサギの花が小暗い森の隅で
星だまりのように光っていた

吸い込まれるように近寄ると
クサギの大きな一枚の葉には
糸屑のようないも虫が軍をなして
むさぼり食べられているのだった
はりはりはりと 音もなく

(ああ、痛い…)

さて わたしは
クサギをたすけてよいのか
虫をたすけたがよいのか
森の神にでも聞かねばわからないと思い
しばし答えを探すように
静けさに耳を傾けていたのだ


柔らかな葉をむしばまれながら
クサギは
同じ生の割れ目の中で
痛みを分け合っていることが
森の幸せなのだと言う
小さな虫たちの 生きる痛みを
わかりたいのだと 言う

深い芳香が 風の一息に
ひるがえる
クサギよ




(花詩集・4、2003年9月)





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アカバナユウゲショウ

2022-04-22 05:05:12 | 花詩集

失敗したって いいんだよ
転んで すりむいたって
いいんだよ

だから

泣かないで

泣かないで

少しでいいから
笑って

さあ

涙を ふいてあげたいのに
私の手は あなたに届かない

だから だから
お願い

泣かないで……




(花詩集・3、日付なし)





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紫陽花の葉陰で

2022-04-21 04:51:26 | 花詩集

雨にぬれた紫陽花を見ていると
嘘をついた人のことを思い出す

小さくて透明な
一匹の美しい蝸牛のこどもを
隠すために
あの人はたくさんの嘘をついた

魂のない言葉や
まやかしのモノや光で
何を思いどおりにしたかったの

神様は
一匹の蝸牛を愛するためにさえ
雨を降らすのよ

始まることさえなかった愛の幻を
紫陽花の葉陰で夢見ている
花はそんな蝸牛にささやき続けるの

雨の中に隠れたその歌を
風に潜みこむその声を
蝸牛にわかるように
やさしいことばで

くりかえし くりかえし



(花詩集・2、2003年7月)




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