世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

グリマルディ

2016-07-31 04:33:15 | 花と天使

グリマルディ






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ドリスティスターマン

2016-07-30 04:27:10 | 花と天使

ドリスティスターマン






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スヴニールドアンネフランク

2016-07-29 04:27:38 | 花と天使

スヴニールドアンネフランク






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コルチェスタービューティ

2016-07-28 04:20:23 | 花と天使

コルチェスタービューティ






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ブラックバッカラ

2016-07-27 04:39:20 | 花と天使

ブラックバッカラ






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長い髪のシリク⑤

2016-07-26 04:21:59 | 夢幻詩語

  5

やがて、ヴァスハエルと二人の天使たちが、白い袋をいっぱいにふくらませて、車に戻ってきました。天使たちは、人間の嘘の影で満たした大きな袋を、トランクにしまい込むと、ドアを開けて、車の中に戻って来ました。

「ほら、こんなものがあったよ」
とセロムが言いながら、シリクに小さな緑色の石を差し出しました。シリクはありがとう、と言ってそれを受け取りました。石は、菊の花のようなきれいな文様があって、耳を澄ますと、かすかな声で歌っていました。

「みんな悲しんでいた。苦しみに満ちていた」
「助けてあげようね。きっとまた、やって来て、人間たちのためにいいことをたくさんしてあげよう」
二人の天使は、シリクを抱きしめて、言いました。ヴァスハエルは舵を取って、車を動かしました。シリクは石を握りしめました。

車はしばらく、人間世界の上を飛びました。天使たちは、人間世界の様子を眺めながら、心の中でこれから何をしていけばいいのかを、考えていました。シリクは、運転席のヴァスハエルの方を見て、唇をかみしめました。そして、思い切って、尋ねました。

「お上、なぜわたしは、外に出てはいけなかったのですか。わたしも、人間のために、働きたかったのに」

するとヴァスハエルは、かすかにため息をつき、しばし沈黙を噛んだ後、言ったのです。

「おまえはまだ、悪いことをしたことがないからだ」

シリクは驚きました。天使というものは、悪いことというのも、勉強しなければならないのです。つらくても、それができなければ、悪いことをする人間たちを助けることが難しいからです。しかしシリクは、悪いことをするのがとてもいやで、悪いことの勉強をすることを、ずっと避けてきたのでした。

シリクは抗議しました。

「そんなことはありません。わたしは、コオロギを踏んだこともあるし、神の鏡を砂で汚してしまったこともあります」

ヴァスハエルは深いため息をつきました。
「そんなことは悪いことには入らないのだよ。悪いことというのは、もっと難しいのだ」

ほかの二人の天使たちは顔を見合わせました。彼らは、悪いことを教えてくれる教室に行って、勉強をしたことがあるからです。でもシリクだけは、絶対にそこには行きたくないと言って、絶対に勉強しなかったのです。

「おまえは変わった子だ。悪いことは絶対にしたくないと言って、よいことばかりをする。それを悪いことだとは言わないが、とても苦しい道だ。おまえはすべてを助けてやりたいと言って、よいことばかりを頑固なまでやり続けるが、それは本当におまえを苦しめるだろう。そういうおまえは、今はまだ、ゲルゴマキアのようなところに行ってはいけないのだよ。そんなところに行けば、おまえはあまりのことにショックを受けて、消えてしまうかもしれない」

「なんとおかしなことを。魂は消えてしまうことはありません」

「そうだとも。だが、消えてしまうと同じ事が、おまえの身に起こるのだ。今はまだおまえにはわからない。勉強しなさい」

そういうと、ヴァスハエルは、舵を上にあげました。車は高く飛び上がって、人間世界を離れていきました。

天国に戻ると、三人の天使たちは、ヴァスハエルの館について行って、そこの厨房で真実の薬を作る手伝いをしました。ヴァスハエルの作った真実の薬は、金色の真珠のような形をしていて、見るとため息が出そうなほどに美しいものでした。しかしそれを、天国の水で薄めた影の中に入れると、見る間に光が衰えて、小さくなってしまうのです。

シリクはあまりのことに、小さな悲鳴を上げました。しかし、真実の薬が、完全に溶けてしまわないうちに、ヴァスハエルは芥子粒のようにかすかな銀の毒を入れました。シリクは驚きました。なぜならそれは、天使にとってはとても悪いことだったのです。真実の薬に毒を入れるなんて、シリクにはすぐには信じられませんでした。でもその銀の毒のおかげで、真実の薬はみなまで溶けてしまわずに、小さな光は残ったのです。

ヴァスハエルはそれを確かめると、それにきれいな麦粉を混ぜて、柔らかなパンの生地にしました。天使たちは、それを小さくちぎって丸め、清らかな火で焼き上げ、かわいい菓子をこしらえました。

「これを、人間たちに食べさせるのだ。百万個のパンの中に一個の割合で、混ぜるのだよ。そうすれば、人間たちの魂は、少しずつ真実に気付いて、正しい道に戻っていく」
ヴァスハエルは言いました。

「ああ、それはとてもいいことです」
「すばらしいことです」
天使たちは口々に、喜びの声をあげました。シリクは銀の毒のことが少し心に引っかかっていましたが、何も言わずに、みんなと一緒に喜びました。

仕事が終わると、天使たちはあいさつを交わして、それぞれの仕事場に戻っていきました。シリクも、自分の花園に戻って、ひなぎくたちにただいまと言いました。

「お上のもとで、とてもよい仕事をしてきたよ。わたしもいつか、人間世界に行って、人間たちを助けてやりたい」

そうすると、花園のどこかから、コオロギの声が聞こえました。

「ああ、あのコオロギだ。足は具合がいいだろうか。幸せにしてあげることができたのだったら、いいのだけど」
シリクがそう言うと、ひなぎくたちが、少し悲しげに笑って言ったのです。

「シリク、あなたはもう少し、影を勉強しなければ」

「ああ、同じことをお上にも言われたよ。でも、できないものはできないんだ。やりたくないものはやりたくないんだよ。わたしは、悪いことをするのは、いやなんだ。ああなぜ、お上はあのすばらしいお菓子に、銀の毒など入れたのだろう。そんなことをすれば、人間が苦しいことになるかもしれないのに」

するとひなぎくたちがまた言いました。
「真実を知るためには、人間は苦しいことも味わわねばならないのよ」
「ああ、そうだとも。でもわたしなら、毒をお菓子に入れることなんてできない。でも、お上にはできるんだ。それが人間のためなんだね。でも…」

シリクがくちびるをかみしめて黙ってしまうと、コオロギが驚いたように、愛の歌を高く奏でました。シリクが、今にも消えてしまいそうに見えたからです。でもシリクは消えませんでした。シリクはコオロギの心に気が付いて、信じられないほどきれいな笑顔で、答えてくれたのです。

「ありがとう、コオロギよ。…ねえ、こんなわたしは、君たちを悲しませてしまうのだろうか。でもわたしは、どんなに無理をしても、こんな自分しかできない。やっぱりわたしは、みんなの幸せのために、これからもよいことばかりをたくさんしていくんだ」

シリクはまた目を明るくして、言いました。コオロギはほっとしたように、歌を低めました。ひなぎくたちは笑って、もう何も言いませんでした。

かわいいシリクの長い髪が、また一層長くなっていることに、シリクが気づくのは、もう少し後のことでした。


(おわり)





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長い髪のシリク④

2016-07-25 04:23:13 | 夢幻詩語

  4

やがて車は、天国の門を抜け、天国と人間世界の間にある、中津原に差し掛かりました。そこには月のような太陽があって、緑の草原が豊かに広がっていました。山はみな丘のようで、海はみな池のようでした。いろいろな霊魂が住んでいて、毎日不思議な仕事をしながら、中津原の世界を作っていました。

シリクは車の窓から下を見ました。人間に似ているけれど、かわいい目をしていて、ちょっとウサギのような顔をしている、美しい霊魂たちが、緑色の石に触って、不思議な魔法の儀式をやっていました。
ああ、あれは草にやる水を作っているのだ、とシリクは思いました。遠い昔、自分もあんなことをして、水を作っていたことを思い出したのです。

車は中津原をすぐに通り過ぎ、人間世界に向かいました。前方に、青い人間世界が見えてくると、天使たちは、ため息をつきました。なんと美しい世界だろう。あの中で、今も、嘘や悪がたくさん生きていることなんて、とても信じられない。
ヴァスハエルは舵を握りしめました。そして、シリクの方を少し見て、小さなため息をつきました。

空気の精は一層踏ん張って、エンジンを回しました。地球の引力を感じたからです。ヴァスハエルは舵を回し、車をゲルゴマキアに向けました。天使たちは息をつめました。これから向かうところがどんなところか、わかっていたからです。

そこは、大きな大陸の真ん中ほどにある、黒い大地でした。病気にかかった猫の背のような、生える木もまばらな山々があって、川もやせており、人々は石の多い冷たい土を耕して、貧相な麦を育てては、何とか命をつないでいました。盗みをする人間はたくさんいて、ずるいことをして人をだましたり、何も勉強せずに怠けてばかりいる人間もたくさんいました。人間たちはいつも、互いを馬鹿にしあってばかりいて、傷ついて苦しんでばかりいました。そんな人間の心の中には、薄い闇のような嘘の影が霧のようにいつも立ち込めていて、人間の奥にある美しい魂を、窒息する部屋の中に閉じ込めていました。

この過酷な世界で生きなければならない人間の魂に、少しでも美しい真実を食べさせてやるために、ヴァスハエルはゲルゴマキアにやってきたのです。

やがて車は、ゲルゴマキアの中ほどにある、小さな麦の畑の上空に停まりました。青い麦が風に揺れています。ゲルゴマキアの中では、一番まともな農夫の一家が働いて作っている畑でした。ヴァスハエルにはわかるのです。こんなまじめな人間がひとりでもいれば、天使がそこにやってくることができて、人間を助けることができるのです。

車が麦畑の上で完全に停止すると、ヴァスハエルは傍らの席に置いてあった、大きな白い袋に手を触れました。それが人間の嘘の影を入れるための袋なのです。天使たちは心焦りつつ、ヴァスハエルが差し出してくれる袋に手を出しました。シリクは、もう天にも上るような気持ちで、車のドアを開けようとしました。そのときでした。

「おまえはやめなさい!!」
叫ぶが早いか、ヴァスハエルが外に出ようとするシリクを、手で払ったのです。シリクはあまりに驚いて、車の奥に転んでしまいました。
ユヌスとセロムはただ目を丸くして、ヴァスハエルとシリクを交互に見ていました。ヴァスハエルは苦しそうな顔をして、シリクに言いました。

「おまえは外に出てはいけない。みなが嘘の影を袋にためこんで帰ってくるまで、車の中で待っていなさい」

シリクはヴァスハエルの怒りに驚いて、顔を上げることもできずに、車の後ろの席に震えてうずくまっていました。何が何だかわかりませんでした。だがお上の言うことに逆らうことはできません。

「すぐに帰ってくるから、待っておいで」
「おみやげに、おもしろいものがあったら、持ってきてあげるよ」
ユヌスとセロムは、シリクに優しく声をかけて、車の外に出ていきました。ヴァスハエルも、後を空気の精にまかせ、袋を持って出ていきました。

車の中に残って、うずくまったまま、シリクはしばらく泣いていました。なんでお上が自分をはねのけたのか、わからなかったからです。自分もお上の役に立ちたいのに、人間のためによいことをしたいのに、それができないのなんて、とてもつらいからです。

空気の精が、やさしくシリクの長い髪に風を吹きかけました。悲しまないで、愛しているから、と空気の精はシリクに声をかけました。するとシリクは、少し力が戻ってきて、涙を拭きながら、顔をあげました。

「なんでだろう? なんでわたしは、外に出てはいけないのだろう?」
言いながら、シリクは車の窓から外を見ました。麦畑の傍らには、みすぼらしい木の小屋があって、その奥では、灰色の服を着た人間の女が、赤ちゃんに乳を飲ませていました。シリクはそれを見て、思わず愛を送りました。なんてかわいいのだろう。なんて貧しいのだろう。何かをしてやらなくてはたまらない。あんなによい子なのに、あんな暮らしをしているなんて。

シリクは涙を流しました。人間世界とはこういうものなのだ。絶対に、この世界をよくしてやりたい。そのためには、なんだってしてやりたい。ああ、ひなぎくをもっと白くしなくては。そしてひなぎくをこの世界に咲かせるんだ。そうしたらこの世界は、もっと白く、正しく、美しくなって、あの子も、幸せになれるに違いない。

シリクは涙をかみしめながら、心に硬く決めました。


(つづく)





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長い髪のシリク③

2016-07-24 04:16:08 | 夢幻詩語

  3

車は岸辺を離れ、天国の花園の上をしばらく飛びました。やがて、天国の門のある、月桂樹の森が向こうに見えてきました。

「これからどこに行くのですか?」
セロムが尋ねました。するごヴァスハエルは舵を空気の精にまかせ、言いました。

「人間世界の、ゲルゴマキアというところに行くのだ」

それを聞いて、ユヌスが驚いて言いました。
「それは、遠いところだ。一体何をしに行くのです?」

ヴァスハエルはふとシリクの顔を見ました。シリクは頬を赤くして、前方を見つめていました。大天使の仕事を手伝えると思うだけで、わくわくする気持ちをとめることができなかったのです。ヴァスハエルはそれを見て、少し困った顔をしました。だが何も言わないまま、天使たちに説明をしました。

「ゲルゴマキアには、影の中をさまよい、悪いことばかりをしている人間がいっぱい住んでいる。そこに行って、袋いっぱいに、人間の心の影を集めてくるのだ」

「心の影を?」
と言ったのはシリクでした。
「そんなものをどうするのですか?」
言ったのはセロムでした。するとヴァスハエルは豊かな微笑みをして、天使たちに答えました。

「人間のための、よい真実の薬をつくるためだよ」

「真実の薬?」
そう問い返したのはユヌスでした。ヴァスハエルは微笑みを変えず、説明しました。

「人間の魂というものは、本当は真実を食べねば生きていけないものなのだ。だが人間は今も、虚偽の世界に生きている。そんな人間の魂を生かすためには、真実の薬を飲ませてやらねばならない。そのことは知っているね」
「はい、もちろん知っています。今も、たくさんの天使の使いたちが、人間たちのもとに真実を届けています」
シリクが言いました。ヴァスハエルはシリクに微笑みかけました。

「わたしはこのたび、人間たちのために、とてもいい真実の薬を新しく考案したのだ。だがその薬は、効き目が良すぎて、そのまま人間に食べさせれば、人間がショックを受けて、とても痛いことになってしまう恐れがあるのだ。それでわたしは、人間たちの中から嘘の影をとってきて、それをできるだけ無力化したもので、薬を薄めて、人間たちに飲まそうと思うのだよ」

「ああ、それはよい方法です!」
とセロムが目を輝かせました。
「きっと人間たちには、よいことになるでしょう!」
とユヌスが続きました。
ヴァスハエルは微笑んで受け取りつつ、シリクの方を見ました。シリクも目を輝かせて、ヴァスハエルを見ていました。


(つづく)





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長い髪のシリク②

2016-07-23 04:23:23 | 夢幻詩語

  2

そんなある日のことです。シリクがいつものように、ひなぎくのための水を準備していると、彼の耳に、チェロの調べのようなとても麗しい不思議な声が聞こえてきたのです。

「わたしのもとに来なさい」

シリクは驚いて、反射的に背中の翼を伸ばしました。呼ばれてしまった。行かねばならない。シリクは水晶の水差しを傍らに置き、翼を動かして飛び上がりました。彼はお上に呼ばれてしまったのです。呼ばれた者は、すぐにお上のもとに行かねばならないのです。

シリクは天国の園の上を、二十分も飛んで、天国を流れる緑の川の、白い岸辺に来ました。そこには深紅の衣装を着た、立派な天使がいらっしゃいました。大天使ヴァスハエルとおっしゃる天使です。シリクはそのお姿を見て、びっくりしました。なんであんなすばらしいお方が、自分のような小さなものを呼んだのだろう。ですが呼ばれた者は必ず行かねばなりません。シリクは礼儀を整えつつ、翼をすぼめ、大天使ヴァスハエルのもとに飛び降りて、かしこまりつつ、言いました。

「お上、参上つかまつりました」

しかし、その姿を見て、驚いたのはヴァスハエルの方でした。

「おや、シリクよ、おまえが来たのか」

「お呼びの声が聞こえましたので」

「あの声が、おまえに届いたのか。なぜだろう」

ヴァスハエルは片目を小さくして、かすかに首を傾けました。シリクは少し不安になり、尋ねました。

「何か間違いをしましたでしょうか」

「いや、間違いなどない。おまえにあの声が聞こえたのなら、おまえが行かねばならないのだろう。しかし、ちょっと困ったな。どうしたものか」

ヴァスハエルはシリクを見ながら言いました。そのとき、後ろの方からまた翼の音がしました。もう二人の天使が、ヴァスハエルの声に導かれて、やってきたのです。

「ユヌスに、セロムか、やってきたのだな」

「お上、呼ばれて参上いたしました」
「何の御用でしょうか」
二人もヴァスハエルのもとにかしこまり、次々にあいさつしました。大天使ヴァスハエルは少々安堵して、彼らを見ました。そして片手をあげ、呪文をして、河原に大きな銀の車を出現させました。それはすてきな車で、かすかに翡翠色を帯びていて、馬よりもすてきな美しい形をしていて、小山のように大きいのですが、虹のように軽いのです。

小さな天使たちは、大天使の見事な魔法に目を見張りました。

「これからおまえたちは、わたしとともに、これに乗って、人間世界に向かうのだ」

「人間世界に?」
とシリクが叫ぶように言いました。
「何をしに行くのですか?」
とユヌスが尋ねました。

「それは道々説明しよう。とにかくは、乗りなさい。運転はわたしがしよう」
そういうと、ヴァスハエルは車の扉をあけました。すると、三人の天使たちは、吸い込まれるように車に乗ってしまったのです。
車の中はとても広く、柔らかな絹のクッションが敷かれていて、とても快適でした。水仙のような不思議な香りがして、とても行儀のいい空気の精が住んでいました。空気の精は、澄んだ瞳をして天使たちを見上げ、うっとりとため息をつきました。天使たちがとても美しく、かわいらしかったからです。とくにシリクときたら、魅力的でした。少女のようにあどけない顔をしていて、亜麻色の髪がとても長くて、腰まであったからです。

シリクは空気の精を見つけると、にっこりと笑いかけました。空気の精は、笑い返しましたが、ぼんやりとシリクに見とれてしまいました。シリクは目に影がなくて、明るすぎて、それゆえに、この人は本当にいるのかしら、まばたきしている間に、消えてしまうのではないかしらと思うほど、はかなげに見えたのです。でもまばたきしても、シリクはまだそこにいました。天使たちは、車の後ろの席に、翼をすぼめて行儀よく並んで座りました。

大天使ヴァスハエルは、天使たちが席についたのを確かめると、自分は運転席に乗り、車を運転し始めました。ヴァスハエルが、紫水晶でできた小さな舵を回すと、車は空気のように浮かび上がりました。天使たちは小さく驚きの声をあげました。空気の精は、エンジンの中に飛び込んで、一生懸命車を動かしました。


(つづく)





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長い髪のシリク①

2016-07-22 04:24:26 | 夢幻詩語

  1

小天使シリクの仕事は、天国における神の花園で、白いひなぎくを育てることでした。ひなぎくはとても規律正しい花で、それを雪のように白くすることは、正しいことをもっと正しくすることだったのです。

「まことの道は美しい。まことの道はすきとおる」
シリクは歌いながら、ひなぎくたちに、蜜を混ぜた水をやりました。川底からとってきた藻を乾かし、それをくだいて肥料にしました。時に吹き付ける冷たい風から守ってやるため、葦の茎で硬い布をこしらえ、それをついたてにしました。

「ああ、神の愛のために働くのは、なんと幸せなことだろう。このひなぎくたちがもっと白くなれば、まことの道がもっと世界に広がるのだ」
シリクは言いながら、ひなぎくの顔をもっと見るため、足を前に出しました。そのとき、ふと足の下で、何か小さな音がしました。シリクは気付いて足元を見ました。するとシリクは、自分の足が、小さなコオロギを踏んでいることに気付いたのです。

「おや、これはいけない」
シリクはあわてて、小さなコオロギを拾いました。コオロギは、シリクに踏まれて足を一本失っていました。シリクは突然泡がはじけるような悲しみを感じて、あわてて謝りました。
「ああ、ごめんよ、気付かなかったのだ。どうすればいいだろう」
足を失ったコオロギの気持ちを思うだけで、シリクの心は破れそうにつらくなるのでした。

「どうすればいいだろう。君の失った足はどこだろう」
シリクは足元の草むらを探って、コオロギの足を探しましたが、それはどうしても見つかりませんでした。シリクは涙を落としました。
「どうすればいいだろう。どうすればいいだろう。何かよい方法はないものか」
草むらを探しながら、シリクは言いました。するとシリクの指に、細い針のような薔薇の小枝が触ったのです。それはとても小さく、枯れていましたが、とげはなく、かすかに薔薇の香りを残していました。シリクは突然顔を明るくしました。

「そうだ、これを細工して、君の足にしてあげよう。わたしはすてきなものを作るのがうまいのだ。工房で長いこと、神の歌を奏でるオルゴールのばねを作る修行をしていたことがあるのだよ」
そういうとシリクは、片手の人差し指と中指を使って、小枝をちょいちょいといじりました。すると小枝は、たちまちのうちに、すてきなコオロギの足の形になったのです。
シリクはそれを、コオロギにつけてやりました。そして愛の呪文をコオロギにかけてやると、それはもう、立派なコオロギの足になったのです。コオロギは前よりも自分がすてきになったと言って、とても喜びました。

「ああ、よかった。本当によかった」
そう言ってシリクは、コオロギを放してやりました。コオロギは喜んで、天使のためにお礼の歌を一節歌って、草むらの中に消えていきました。

「よいことをするのは幸せだな。みんなが幸せになって、わたしの中にも幸せが満ちてくる。ずっとよいことをしていきたいな」
シリクはそう言って、またひなぎくの方に向き直りました。


(つづく)





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