世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

風の断旗③

2018-05-31 04:17:51 | 夢幻詩語


さて、時代は下り、二十世紀も後半にさしかかろうとする今、シリル・ノールはそのシラテスにいた。シラテスの郊外には、旧知の友人が経営している農場があり、そこでジャガイモを買い付けるためだった。

キール海の決戦で、アマトリアがロメリアに大敗したことを、ジャルベール大統領は何も国民に知らせていなかったが、国民はうすうすと気づいていた。あれから急に、エルヴィジア諸国から輸入していた小麦などが手に入らなくなり、国民の生活に深刻な食糧不足が押し寄せてきたからだ。

おそらくタタロチアの仕業だろう、とシリルは読んでいた。エルヴィジアからの補給は、タタロチア経由でなければ届かない。タタロチアが、何らかのずるをかまして、エルヴィジアからの補給路を断ったのだ。

はさみ打ちか。予想通りの展開になったな。シリルは葉巻を噛みながら、苦い顔をした。ロメリアとタタロチアの静かな反目は、冷たい太陽のようにこの東海世界を照らしていた。タタロチアは統一書記制という、個人支配の国だった。統一人民議会という元老院が選ぶ、ひとりの統一書記が、終生国を支配する。

それは、民主革命によって倒された王制の、亡霊かとも思われる体制だった。

民主制を敷くロメリアにとっては、旧王制の特色を色濃く残すタタロチアは、宿敵に等しかった。その展開を封じるためにも、ロメリアはアマトリアを押さえておかねばならない。

「最前線なのだ、この国は」シリルはシラテスの空を見上げながら、ひとりごとのように言った。アマトリアはロメリアとタタロチアの間のちょうど中間にあった。タタロチアもロメリアも、このアマトリアに拠点が欲しいのだ。

馬鹿なジャルベールは、そんなことを読むことすらできないのだ。

このままいけば、アマトリアはロメリアの属国にされるか、いや最悪の場合、タタロチアが口を出し、国が分断される恐れがある。

どうにかせねばならない。だがどうすればいいのか。今の自分には、何の力もないのだ。

(つづく)




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風の断旗②

2018-05-30 04:17:08 | 夢幻詩語



旧都シラテスは歴史の町だった。

第二夫人の親戚を重用したことでスキャンダルをねつ造されたギー十八世が、傭兵あがりの大臣、カジミール・ダントスと戦った町だ。

実際は、ギー十八世が閨で寵姫にたのまれてその人物を抜擢したのではなく、単純に人物がすばらしかったので、重責を伴う仕事をまかせてみただけだ、というのが今の通説になっている。閨閥というには、一人だけが重用されているのでは、数が少なすぎるのだ。それにその第二夫人は、臣籍と言えど、王家の血流を引く名家の出だった。王の寵愛をいいことに、傍若無人にふるまった形跡もない。

ギー十八世は、スキャンダルに汚されてはいるが、かなりの良君だったと言われている。父である先王の時代、人頭税をとったりなどして、人民を苦しめた政治を根底から改めようとしていた。財政をたてなおすために質素を奨励するなどのこともしていた。よい人物を抜擢するのも、そのための良策だったと言ってよい。

しかし、後宮に入り浸り、国に財政危機をもたらした先王の不徳は、ギー十八世にも響いていた。カジミールがねつ造した閨閥のスキャンダルを、人民はあっけなく信じた。

騒乱は十三世紀に起こった。スキャンダルをねたに地方の大貴族を味方につけたカジミールは、三万騎を率いて旧都シラテスに襲い掛かった。対するギーの軍勢は、先王の失政の影響から離反者が続出し、一万騎に満たなかった。

王統の凋落は明らかだった。勝敗は戦う前から見えていた。早朝に火ぶたを切った戦乱は、夕方にはもうケリがついた。圧倒的不利を悟ったギーは、数少ない味方の軍勢を引き連れて、復讐を誓いながらシラテスの王宮を逃れ、トレガドの別宮に逃げた。

勝利を手にしたことを確信したカジミールは、堂々と王宮に入り込み、玉座につく前に、その背後にかけてあった王家の紋が入った旗を、一刀両断に切り裂き、王家の墜落と自らの即位を宣言した。

これをシラテスの乱、あるいは断旗の乱という。

アマトリア人なら、誰もが知っている歴史的事件だ。中世史のテストには必ず出てくる問題だが、答えられないやつは滅多にいない。

(つづく)




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風の断旗①

2018-05-29 05:15:08 | 夢幻詩語



考え事をしているうちに、ふと集中力が途切れた。

ロメリア空軍司令官ギルバート・メースは、一息入れるために、ポケットのたばこに手を伸ばした。目の前の壁には、大きなアマトリアの地図が貼ってある。メースは目を細めながら、たばこに火を点けた。

司令室には今、彼ひとりしかいなかった。他の者はみな別の任務についている。そのために室内は凍り付いたように、しんとしていた。それがかすかに彼の心臓を不安にもんだ。だがメースには、とにかくひとりで考える時間が必要だった。重い決断を要する仕事には、時に孤独が最適の相談者であることがある。

メースは左手に握りしめている小さなライターを見た。銀色の小さなライターだ。そっけないデザインだが、角をゆるやかにまるめた形が、旧型であることがわかる。最近の流行では、何でもやたらと角をとがらせる傾向があった。

「戦争のせいだろう」と、メースはぽつりと独りごちた。

メースはまた壁の地図を見た。アマトリアは三つの大きな島と、百五十二の小さな島々からなる、東海の島国だ。クローバーの葉の形に並んだ三つの島の名は、大きな方からタナキア、コロメド、ウリムズと言う。なかなかに美しい地形だ。山が多く、河川の豊かなこの国には、みずみずしい農業が営まれ、人々は手先を繊細に動かすことにすぐれ、小さな精密機械を作る産業がよく栄えていた。

だがその産業も今はめためたになっていることだろう。ロメリアとアマトリアの間に起こった戦争は、激大な害をアマトリアに起こしていた。キール海の決戦でロメリアが圧勝して以来、アマトリアは連戦連敗、おまけに北方のタタロチアに補給路を断たれ、深刻な食糧不足に陥っているという。

ロメリアはいくつかのルートを通じて、アマトリアに降伏をすすめる通知を送った。だが返事はない。

「首都はタナキア島のアミスコット」と言いながら、メースは地図上に刺された赤いピンに触った。

「そしてクラシル、トレガド、エーヴァクトス、タイカナ・・・・・・」

メースはアマトリア各地の都市に刺されたピンに、冷たく触っていった。たばこの煙がはねかえり、目にしみた。涙がかすかににじんだのは、そのせいだけではなかったかもしれない。

民主法を仰ぐロメリアにとって、アマトリアは属国として是非に欲しい国だった。アマトリアの背後には、民主制を憎む、統一書記制の国、タタロチアが不気味に鎮座しているのだ。

「かわいそうだが」と言いながら、メースはかすかににじんだ涙を指でふいた。そして続けた。

「本土攻撃だ」

(つづく)




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反転の自己

2018-05-28 04:16:49 | 黄昏美術館


フランツ・フォン・シュトゥック

原題「自画像」。


この画家は心を閉じている。あまりにこの世界が苦しいからだろう。自己活動のほとんどを守護霊にまかせている。そしてその表現に自分が加担するという、ほとんど、本霊と守護霊が逆転したかのような活動をしているのである。

ゆえにこの画家の作品群には常に異様な苦しさがつきまとう。本霊が常に、これらは自分の作品ではないことを感じているからだ。

シュトゥック自身は、もっと繊細な絵を描く画家なのである。だが彼の守護霊は大胆な構図を描く。それもまたよいが、自分とは違う絵を自分が描くのが、本霊にはきついのだ。

馬鹿と矛盾の吹きすさぶ世の中を、芸術家の魂を守って生きるための、これは彼が選んだ方便だろう。できあがった作品は実におもしろいものになっている。大胆な構図の中に、繊細で奥ゆかしい魂のおののきがあるのだ。

本霊は美しいものを描きたいのに、守護霊はなかなかそれをしてくれない。彼の守護霊は、矛盾の世の中でもある程度生きることのできる痛い人格なのだ。それにまかせていれば、自分はそれほど傷つくことはない。だが思うように自分の表現はできない。

人間の、自分というものが、おそろしいほど歪んでいた時代を生きようとした、繊細な魂の、これはひとつの試みなのである。

この自画像は、自分を描いているようで、自分とは違う人間と、奇妙に融合した不思議な人格を描いているのである。





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破壊

2018-05-27 04:17:08 | 黄昏美術館


ルイス・ウェルデン・ホーキンス

原題「マスク」。


整った顔をしているが、目つきが恐ろしい。

何かを破壊してやろうともくろんでいる顔である。

馬鹿な女はこういう顔をすることがある。人の心を勉強していない者は、単純な動機であらゆるものを破壊しようとする。自分に危険を及ぼすものはすべて破壊せよと言う、動物的エゴの装置の中に生きているのである。

そういう未熟な魂が、他人から美女の形を盗む時、こういう妖怪的に醜い女ができるのだ。

他人の顔で隠している本当の顔は実に醜いが、実際はまだそのほうがましなのである。

美女の顔をかぶって、恐ろしい魔的な表情をすると、醜悪というより、破壊的なのだ。

愛がすべてを裏切り、破壊しようとしているという、恐ろしいメッセージを投げているからである。

顔と中身が違いすぎると、こういう恐ろしくいやなものができるという例である。






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偽物の顔

2018-05-26 04:17:31 | 黄昏美術館


リン・フォアークス

原題不明。


人類は今、ほんとうの自分の姿をいやがり、おおかたの人間が、他人から盗んだ顔を自分の顔に貼りつけて生きている。

その姿を、霊界から見ればこういう感じに見えるという絵である。

こっちの側から考えれば、高等な技術のように思えるが、実情はこういうことなのだ。神が人間の姿を作ってくださる時の技術を、他人からはぎとって、ほかの人間に貼り付けるだけなのである。

本人はこのことに一生気付かない。だがバックの霊界から見ている守護霊や、勝手に人生を改造してる馬鹿の霊は、本人のこういう姿を常に見ているのである。

あまりにも馬鹿らしい。

とんでもない嘘なのだ。

しわくちゃの饅頭のような顔をしたブスが、目の覚めるような美女の顔をつけていることもある。その女は他人の顔を自分だと信じて、ずいぶんと自信たっぷりにものをいうのである。他人への態度も高飛車だ。

平気で人を馬鹿にする。

馬鹿は常にこういうことをしてはばからないが、このさまをずっと見ていると、いやにもなってくる。だから時に、バックの馬鹿の霊がいやになって本人のための活動を突然やめたりすることもある。

嘘というものは、やはりきついものなのだ。目のくらむようないい人生を送っているものが、突然暗転したりすることがあるのは、バックの馬鹿の霊が馬鹿のための援助活動を突然やめることがあるからである。

嘘の人生は常にそういう危険をはらんでいるということを、考えておくがよい。






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バレエ・ダンサー

2018-05-25 06:34:56 | 黄昏美術館


エドガー・ドガ


ドガは女性をもののように描く。

絵を見れば、女は馬鹿だ、という画家の心がそのまま描いてある。

そういうことももう人間にはわかるようになった。今後、このような画家の作品を名画に数えることはなくなるだろう。

こういう絵を見ていると、男も女も女性を馬鹿にするようになる。女性が魂のない傀儡のように描かれているからだ。

女がこんなものなら、自分のエゴのために利用しても別にかまわないと、思う者も出る。馬鹿というものは常に人を利用しようとするからだ。

絵画作品は、見る者の心を美しい方向にかきたてなければならない。その使命に反するものは、駄作よりも低い愚作である。

ピカソ同様、ドガも廃棄対象にせねばならない。






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バーレスク・ダンサー

2018-05-24 04:17:33 | 黄昏美術館


クライド・シンガー


バーレスクとはストリップショーのことである。要するに女性が裸を男に見せて稼ぐ仕事だ。

弱い女性にはそれしかできなということがある。

暗い客席に群れている男たちの影。その視線を浴びているダンサーは背を向けている。画家は心がないかのごとき筆で淡々と描いている。

すぐれて美しい肉体ではない。幻のような美女を求めてくる男はいささか落胆するだろう。だが金を払って入った限りはすべてを見ていく。そういうところに落ちた女性を、みんなで遊ぶのだ。

裸を大勢の男に見せるという仕事は女性にとって酷なのだ。ライトを浴びながら踊る女性は自分の心を忘れない限りそれができない。

これが地獄と言われなくて何だと言うのだ。

何のために人はこういうことをするのか。

いつまでもこの現実を肯定することを許されると思うのか。






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くすのきと犬

2018-05-23 04:17:47 | 花と天使・第2巻


緑の木はすずやかでいいですね。

一度は描いて見たかったテーマです。

あのくすのきはかのじょにとって、人生でほとんど唯一の友達でした。

白い犬の形をした雲を追いかけようとしています。





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女は

2018-05-22 04:17:09 | 言霊ノート

女は男よりプライドが弱いという性質上、邪に流れると、自分のない妖怪のようなものになるのだ。それは自己存在でありながら、自己存在の性質というものがまったくないというものだ。


ゾスマ






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