唐突だが、先日アマゾン・プライムで、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』を見た。
今さら言うまでもなく、マイケルが亡くなったのは2009年6月、久々のイギリス・ツアーを一ヶ月後に控えていた時で、ほんと衝撃的な出来事だったけど、その大規模ツアーのリハーサル映像をまとめたのが『THIS IS IT』で、ツアーのタイトルでもあった。聞いた話だと、元々映像ソフトとして発表する予定はなく、ただ単に記録として撮影されたものらしいが、そのせいか、マイケルはじめ出演者たちが、実に"素"の状態で記録されていて、なかなかに面白い。
いわゆるツアーやレコーディングのリハーサル映像って、ミョーにピリピリとした緊張感に支配されていて、アーティストやディレクターからの怒号や叱責が飛び交う中、戸惑いながらも指示に従おうとするスタッフの様子を記録した物が多いように思うが、この『THIS IS IT』では適度な緊張感は漂っているものの、怒号が飛び交ったりといった殺伐とした雰囲気はなく、マイケルも積極的にアイデアを出したり、演奏やダンスにアドバイスをしたり、とかはするが、怒鳴りつけたりなんてことはなく(カットされたのかもしれないが^^;)、スタジオ内は非常に良い雰囲気に思える。
公演の約4ヶ月前の映像らしく、構成やら振付やら色々な事がまだ未完成で、試行錯誤の最中でもあり、下手するとダラダラしてしまいそうだけど、出演するシンガーやダンサーの大半が、マイケルに憧れてこの世界に入ってきた、という人たちで、その憧れのマイケルと同じ舞台に立てる、という非常に幸運で光栄な境遇にあり、そういう人たちが憧れのマイケルを目の前にしてダラダラするはずもなく、マイケルを見る目つきや指示を受ける態度にしても尊敬の念に溢れ、尚且つ真剣で良い意味での緊迫感でいっぱいだ。ガチガチに緊張しているのではなく、適度に心地よい緊張感なので、良いパフォーマンスが出来るだろうし、実際良い雰囲気。マイケルも、ひたすら良いショーにしようと、自分でも考えるし、スタッフに意見を求めたりもする。それが決して尊大な態度でないのが大スターなのに凄いな、と感じてしまった。
と、まぁ、そんな(どんな?)マイケルの『THIS IS IT』なのだが、これのサントラ(?)には、個人的に好きな曲が多く収録されていて、映像を見たのを機に買おうかな、なんて思ったのだが、結局こちらにした。
という訳で、最近買ったCDから。
たった2枚のアルバムで、80年代を席巻してしまったマイケルが、世話になったクインシー・ジョーンズから離れ、テディ・ライリーやビル・ボットレルと組んで、1991年に発表したのが本作である。驚いたのはビル・ボットレルと組んでる事で、ご存知シェリル・クロウの初期のプロデューサーだ。シェリルのアルバム聴くまで知らない名前だったけど、実はマイケルのアルバムで共同プロデューサーを務めるほどの人だったのである。知らなくてすいませんでした(爆)
という訳で、大成功を納めた80年代を経て、マイケルが90年代を迎え新たな地平に踏み出したアルバム、と言っていいのだろう。テディ・ライリーと組んだ曲が並ぶ前半は、ダンス系で占められているが、このリズムを強調した音が、(今更だが^^;)なんというか斬新な響きである。この方面は疎いのでよく分からないのだが、こういうのニュー・ジャック・スイングって言うの? ドラムを大きくミックスし、ボーカルなどを控えめにして、ひたすらリズム主体のアレンジで聴かせる音楽。やや単調に感じるかもしれないが、よく聴けば大きくミックスされたドラムの裏で、意外と曲も展開されてたりしてて、決して一本調子ではない。90年代以前から、ブラック系にはこういうアプローチ多かったけど、でも、なんか全く違うものに聞こえる。ブラコンを定着させたのは、クインシー・ジョーンズとマイケルの功績と思うが、この『デンジャラス』では、既にブラコンを見切っている感じがする。
後半のビル・ボットレルと組んだ曲は、ロック寄りのアプローチで、ジャンルにとらわれない音作りを目指していたようだ。あのスラッシュが参加した「ブラック・オア・ホワイト」は、当時から好きな曲だった。そして、自身のプロデュースによる、自然保護を訴える「ヒール・ザ・ワールド」も、好みはともかく名曲である。
このように、『デンジャラス』でマイケルは、新たなブラック・ミュージックの確立、ジャンルにとらわれないサウンド、環境問題等の社会的メッセージの発信、といった90年代ならではの、新たな方向性を打ち出した。これまでのスタイルに安住しない姿勢は素晴らしい。『デンジャラス』は大きな転機だった。
続いては、
さすがにマイケルはベスト盤多くて、2枚組で1枚目はベスト・2枚目はオール新曲、なんてアルバムも出してるし、前述の『THIS IS IT』もベスト盤と言えなくもないのだが、本作は比較的早い時期のものでは、と思う。1979年以降の主要なヒット曲はほぼ網羅されている。個人的には、空耳アワーでもお馴染み「スムース・クリミナル」や「アイ・ジャスト・キャント・ストップ・ラビング・ユー」といった『BAD』収録の曲が聴きたかったんだけど、『BAD』を買うのも何だし、ってとこだったので、このベスト盤はちょうど良い(笑) タイトルだけ見ると、1位獲得曲ばかりが収録されてるのか、と思うけど、実際はそうでもない。シングル・カットされてない曲もあるし(笑) よってアルバム・タイトルの意味は不明(笑)
ま、改めて聴いてみると、やっぱマイケルは凄い。シンガーとしてもパフォーマーとしてもソングライターとしても、とてつもない才能の持ち主である。90年代後半から2000年代の頃の曲は、今回初めて聴いたが、やはり素晴らしい。『デンジャラス』から続くダンス系もいいし、R・ケリーと組んだメロウ路線もいい。本当に惜しい人を亡くしたなぁ、と今更ながら思うのである。
今生きていれば、マイケルはどんな音楽を作っていたのだろう。存命なら64歳、まだ引退する年齢でもない。全く意味のない事と分かっているけど、つい夢想してしまう。マイケルに限らないけどね。