日々の覚書

MFCオーナーのブログ

想い出のアルバム-Best of MOONRIDERS 1982→1992 Keiichi Suzuki sings MOONRIDERS

2023年03月05日 21時49分28秒 | 想い出のアルバムシリーズ

Best of MOONRIDERS 1982→1992 Keiichi Suzuki sings MOONRIDERS/ムーンライダーズ(1994)

1.涙は悲しさだけで、出来てるんじゃない
2.駅は今、朝の中
3.D/P
4.ガラスの虹
5.さよならを手に
6.Who's gonna die first?
7.スカーレットの誓い
8.ダイナマイトとクールガイ(シングル・ミックス)
9.9月の海はクラゲの海
10.くれない埠頭
11.幸せの洪水の前で
12.Yer Blues

皆さんご存知の通り、ムーンライダーズの岡田徹氏が亡くなった。享年73歳。まだ若いのに残念だ。ムーンライダーズのメンバーで鬼籍に入ったのは、2013年に亡くなったかしぶち哲郎氏に続いて2人目。「Who's gonna die first?」がシャレでは済まなくなってきてる。悲しい現実だが仕方ない。

実は、僕が初めてムーンライダーズを聴いたのは、この『Best of MOONDIDERS』なんである。えらそーな事を言ってるが(爆)、意外とムーンライダーズとの出会いは遅いのだ(笑) もちろん、ずっと前、中学生くらいの頃から名前は知ってた。『火の玉ボーイ』とか『カメラ=万年筆』といったアルバムを出してるのも知ってたし、興味も持ってたけど、残念ながら当時は全く聴く機会がなかったのだ。リーダーの鈴木慶一をはじめとするメンバーたちが、ムーンライダーズ以外でも活発に活動してるのも知ってて、興味だけはつのるものの、いかんせんムーンライダーズがラジオでかかる事はあまりなかったし、周囲にムーンライダーズ持ってるのもいなかったし、レンタルでも見かけなかったし、結局ムーンライダーズ未体験のまま歳月だけが流れてしまった。ついに僕がこの『Best of MOONRIDERS』を手にするのは、1994年のこと。初めてムーンライダーズの名前を知ってから17~8年が経過していた。

ムーンライダーズ初体験ではあったが、特に先入観はなく、そのせいか、すんなりと聴く事が出来た。タイトルが示すように、1982年から1992年にかけて発表された7枚のアルバムから、満遍なく収録されたベスト盤だ。後で知ったのだが、この時期のムーンライダーズは結構大変で、70年代に所属していたクラウン・レコードからジャパン・レコードに移籍するものの、レコーディングしたアルバムが難解過ぎるとされて発売中止になったり(数年後に発売)、その影響か、コンスタントにアルバムは作るものの、都度レコード会社は変わってたり、80年代後半からはメンバーの病気等もあって約5年間活動を休止したり、と色々な事があったらしい。90年代になってから復活し、東芝EMIと契約して2枚のアルバムを出した後に、本ベスト盤の登場となる訳だ。先程1982年から1992年に出たアルバムから満遍なく選曲されている、と書いたが、本ベスト盤が東芝から出ている事もあり、1991年の『最後の晩餐』と1992年の『A.O.R.』から3曲づつ、それ以外の5枚からは1曲づつの収録となっている(残る1曲はビートルズのカバー)。ただ、この東芝での6曲が実に素晴らしい。

1991年に『最後の晩餐』で久々に復活したムーンライダーズは、一見王道を行くアダルトな雰囲気のサウンドを提示し、1992年の『A.O.R.』も同じ路線である。この2作、どちらも傑作であり、ベテランらしい風格と聴きやすいけど決して迎合はしない姿勢を感じる曲作りやサウンド・プロダクションが実に素晴らしい。僕はこの東芝時代の6曲(↑の曲目でいうと、1.4.5.6.8.11)にすっかりハマってしまい、それからムーンライダーズを色々と聴き始めたのである。思えば長い道のりだった(笑)

90年代中頃、ムーンライダーズの旧作もかなりCD化されていたので、70年代も80年代も遡って色々と聴いてみた。ベスト盤以降の新作も『月面讃歌』あたりまでは聴いてた。ライプも見に行った。今はなき、新宿の日新パワー・ステーションだ。調べてみると、1996年に2回行っている。ほんと、この頃はムーンライダーズにハマってたな。ムーンライダーズというかリーダーの鈴木慶一は、意外とテレビに出てたので(いわゆる歌番組ではなく、深夜枠やBSのややマニアックな音楽番組)、そういうのもよく見てた。

ムーンライダーズ自体は、一般的には決してメジャーな存在ではなかったが、メンバーはそれなりに知られてたと思う。はっぴぃえんどやミカ・バンドほどではないにしても、歌謡曲系の歌手に曲を提供したり、プロデュースやアレンジを手がけたり、コンサートでバックを務めたり等々の活動はしてたしね。鈴木慶一は「恋のぼんちシート」や「いまのキミはピカピカに光って」といったヒット曲に関わってたし、かしぶち哲郎は岡田有希子の曲作ったりしてた。CMも結構やってたみたいで、ここいらは大瀧詠一みたい。そういえば、1995年にもビールのCM音楽を担当し、「冷えたビールがないなんて」というシングルも出してたっけ。こういう活動は、バンドの経済的基盤を安定させる為に始めたんだそうだが、逆に言えば、そういう活動にも別に抵抗はなかった、という事になる。ムーンライダーズがメジャーではなかった、つまり売れなかった(ヒット曲がなかった)のは結果であり、彼らはメジャーを否定したりはしてなかったと思う。

ムーンライダーズのアルバムを何枚か聴いてみると分かるが、彼は決してアングラでも難解でもない。70年代は今風に言うと無国籍サウンドを志向し、『カメラ=万年筆』では後のサンプリングの方法論を既に実践していて、発売中止となった『マニラ・マニエラ』にしても、当時のテクノ或いはエレクトロ・ポップの方法論を大胆に取り入れた作品であり、要するに、アイデアがあまりにも先鋭的過ぎて、ほとんどの人には理解出来なかった、というだけなのだ。ま、早過ぎたんだな。それと、ムーンライダーズの音楽には、なんとなく捻れたところがある。王道のように見せかけて、実はちょっと道がずれている、というか。決して、コースアウトはしないのだが、メインではない。歌詞にしてもサウンドにしても。そんなとこも、熱心なファンは多いが、一般にはウケづらいのだろう。

そんなムーンライダーズだが、前述したように『最後の晩餐』と『A.O.R.』の2枚は傑作である。キャリアを積み重ねたベテランが作り上げたオトナのロックがここにある。売れ線のように見えるが、決して迎合はせず、メインストリームではないが、マニアックでもない、そういった要素が絶妙なブレンドで楽しめる。そういうあたりに、僕も惹かれるものがある。ちょっとひねくれてるというか、照れてるというか、本音をはっきりと言わないというか、そういう歌詞もいい。少しは売れて欲しい、と思ったけどね(笑)

そのムーンライダーズだが、かなり長い事こっちもご無沙汰してたんで^^;、動向もよく知らなかったのだが、かしぶち哲郎の死を挟んで、無期限活動休止宣言や無期限活動休止の休止宣言やらを繰り返していたようだが、2020年から活動を再開し、新作も発表したらしい。が、この度の岡田徹の逝去を受けて、その活動はどうなるのか。やはり、ムーンライダーズは令和になっても注目のバンドである。

ところで、余談だが、つい最近知ったのだが、初音ミクによるムーンライダーズのカバー・アルバムが出ていた。これなんだけど、ムーンライダーズと初音ミクの組み合わせって、めちゃ意外だけど、ハマってる気もする。こんなとこにも、ムーンライダーズの独特の立ち位置が見えるような気がして面白い。

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想い出のアルバム-Delight Slight Light KISS

2022年11月20日 00時03分37秒 | 想い出のアルバムシリーズ

Delight Slight Light KISS/松任谷由実(1988)

1.リフレインが叫んでる
2.Nobody Else
3.ふってあげる
4.誕生日おめでとう
5.Home Townへようこそ
6.とこしえにGood Night(夜明けの色)
7.恋はNo-return
8.幸せはあなたへの復讐
9.吹雪の中を
10.September Blue Moon

前にも書いたが、ユーミンこと松任谷由実は、今年でデビュー50周年だそうな。おめでとうございます。50年とは、ほんと凄い。この世界で50年も、それも、ほとんど第一線をキープしたまま続けてこれた、というのは賞賛に値する。他国でも、そんな人はほんの一握りだろう。ほんとに凄い人だと、つくづく思う。

これも書いたが(笑)、そのユーミンのデビュー50周年記念のベスト盤『ユーミン万歳!』が発売された。3枚組全50曲、ファンのリクエスト(人気投票?)を基に収録曲を決めたという。我が家でも早速購入して聴いているが、とにかく聴けば聴くほどユーミンの凄さを思い知る。なんというか、どの曲もメロディが立っているのだ。50曲あるけど、似たようなメロディが見当たらない。どの曲も歌詞と共にメロディが立っている。Aメロもサビも絶妙の歌詞とメロディ。“どこかで恋をしてるなら、今度は諦めないでね”とか“私を許さないで、憎んでも覚えてて”といった印象的なフレーズに印象的なメロディがついている。ほんと凄い。また、50曲全て名曲ばかりなのに、あれがないこれがない、というのに後から気づくのも凄い。「スラバヤ通りの妹へ」「まぶしい草野球」「夕闇にひとり」「DANG DANG」「14番目の月」ちょっと思いつくだけでも、人気曲がこれだけ漏れてる。凄い。

と、そんなユーミンなのであるが、僕も80年代の頃は結構ユーミン聴いてた。80年代のユーミンは、前半は年2枚という精力的なリリースペースで、その才能を見せつけていたが、80年代半ばあたりから、アルバムは年1枚それも毎年11月頃に発売して、年末商戦に向けてテレビCM等とタイアップし、メディアで宣伝しまくってアルバムを売る、というパターンで商売をするようになり、個人的にはついて行けなくなって、徐々に聴かなくなっていった、という経緯がある。ユーミン側としては、この戦略を90年代まで続けてアルバムを売りまくり、ユーミン全盛期を築いた。正にバブル(笑)

という訳で、ここに紹介する『Delight Slight Light KISS』なのだが、言うならば、僕にとって最後に聴いたユーミンのアルバムである。なんと想い出深いことか(笑)

とはいえ、露骨な商法に反発しつつも、グレードの高さ故、よく聴いていたアルバムでもある。この頃、ユーミンはプロモーションの為か、新作が出ると、アルバムのテーマを設定し、より分かりやすくアピールする方法をとっていた。この『Delight Slight Light KISS』のテーマは“純愛”だったような気がする。ま、ユーミンに限らず、ポップソングはラブソングが大半だったから、純愛も何もいつもと同じじゃん、としか思えなかったけどね(笑) ちなみに、この2年後の『Love Wars』のテーマは“愛の任侠”だったかと思う。はいそうですか、って感じだけど(笑)

という訳で『Delight Slight Light KISS』である。アルバムはいきなり「リフレインが叫んでる」で始まる。この曲は名曲だ。初めて聴いた時、ほんと固まってしまったのを覚えている。一度聴いただけなのに、歌い出しの“どうしてどうして”が何度も頭の中でリフレインされていた。ファンの間で人気投票をしても、TOP5に入るという人気曲でもあり、とにかく名曲なのだ。ただ、別れというか恋愛の終わりがテーマになっているが、あまりに悲しすぎて救いがない。他の曲だと、失恋がテーマでも、本人が強がったり嫉妬したり拗ねたり、或いは、相手の男の方が黙ってしまったり涙を見せたりして、なんとなく救いがある。だけど、この「リフレインが叫んでる」は救いがない。出会ってはいけないのに出会ってしまった自分たちの運命を嘆きながら、この男女はこのまま心中するのではないか、という気がしてきて、こちらも暗く悲しくなってしまうのだ。なので、まともに聴いていられなかったりする。

その人気と作品の完成度故か、ユーミンの曲は色々深読み出来たりする。つーか深読みする人多い。ユーミンはしたたかなんだから、この人の言うことを額面通りに受け取っちゃいけないよ、って感じなんだろうか。本作の「Home Townへようこそ」もそういう曲。フツーに聴いてると、都会育ちの女性が恋人(婚約者?)のふるさと、つまり田舎を初めて訪れて、ここでこれから始まる愛する人との新しい生活に思いを馳せる、という内容だが、当時この曲を紹介したFMのDJが、都会でさんざ遊んでた女性が、そろそろ潮時かな、と思って、地方出身の純朴な資産家の息子をゲットし、田舎で悠々と暮らせる、とにんまりしてる、という歌なのでは、と正に深読みしてた(笑) なんとなく、ユーミンならあるかも、なんて思ってしまうのが怖いが、そんな下世話な深読みをさせてしまうものが、ユーミンの作品にはあるのは確か。そこがユーミンの凄いとこかも。ちなみに、深読みはしないけど、僕もこの曲は好きである。

「とこしえにGood Night」も好きだな。いなたい雰囲気とテンポが良い。「恋はNo-return」は『オレたちひょうきん族』のエンディング・テーマだった気がする。ユーミンとか山下達郎とか、こういうタイアップ意外と好きだよね(笑) “天国の前にハートを見せて”というのは、ユーミンならではのキラー・フレーズ。個人的にはラストの「September Blue Moon」が一番かな。サンバのリズム、ユーミンにしては捻りのないメロディも良い。

という訳で、なんというか、実に色々な事を思い出してしまうアルバムである。時代は正にバブル絶頂期、アルバム自体も当時の世相を反映している気もするが、考えてみると、早い時期から、言葉は悪いが、ユーミンはやや浮き世離れした音楽を作ってきたので、この時ようやく時代がユーミンに追いついた、と言えなくもない。とにかく凄い。50周年は通過点なので、まだまだ60年、70年目指して頑張って欲しい、と思うのであります(マジ)

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想い出のアルバム-冒険王

2017年10月14日 15時04分51秒 | 想い出のアルバムシリーズ


冒険王/南佳孝(1984)

1.オズの自転車乗り
2.八十時間風船旅行
3.素敵なパメラ
4.COME BACK
5.PEACE
6.浮かぶ飛行島
7.火星の月
8.宇宙遊泳
9.真紅の魔都
10.スタンダード・ナンバー
11.黄金時代
12.冒険王


孤高のシンガー・ソングライター(笑)、南佳孝が1984年に発表した、いわゆるコンセプト・アルバム。松本隆が全曲を作詞してプロデュースにも参画するという、デビュー・アルバム『摩天楼のヒロイン』以来の全面タッグである。知らない人も多いと思うが、松本隆と南佳孝って、実は意外にも仲良いのだよ(笑) 松本隆が南佳孝と組んで発表した楽曲の数は、筒美京平と組んだ曲の次に多いとすら言われているくらいなのだ(笑)

前述したが、この『冒険王』はコンセプト・アルバムという事で、そのテーマはずばり「いつもこころに冒険王」「こころは少年少女」。確かに、松本隆が好きそうなテーマではある(笑) で、実際その通りで、言うならばアルバム丸ごとジュブナイル。知ってる人は知ってると思うけど、タイトルの『冒険王』というのは、昔の少年漫画誌のタイトルでもあり、このアルバムが出た1984年頃には既に廃刊になっていたけど、僕が小学生の頃は発行されてた。僕自身は読んだ事はないけど、おそらく、冒険とか探検とかがテーマの漫画が大半を占めていたのではなかろうか。そういう漫画誌をタイトルに持ってきてる訳なので、聴く前からある程度内容は想像出来るかもしれないが(笑)、ま、そういうアルバムだ(爆)

せっかくなので、発売当時のLPに貼ってあったステッカー(このLPは、帯ではなくステッカーだった)を見て頂きたい。



“心の少年少女に贈る 大冒険浪漫絵巻”というコピーがなかなか(笑)

ついでもう一点。当時のLPに封入されていたシール。これはレアだと思うよ。



ジャケット・デザインやアートワーク全体も、大正というか昭和初期の雰囲気で、ここいらも松本隆の趣味っぽい(笑) 前述した南佳孝のデビュー作『摩天楼のヒロイン』も、そんな雰囲気だった。もっとデカダンな感じだったけどね。

収録曲は、冒険譚というかジュブナイルというか、小説をそのまま歌にしたような感じのもの(八十時間風船旅行、真紅の魔都、黄金時代、等)と、昔の事を懐かしんでいるようなもの(オズの自転車乗り、PEACE、等)との2種類に大別される。そういう意味では、フツーにラブソングな「素敵なパメラ」や、当時、薬師丸ひろ子との競作となった「スタンダード・ナンバー」あたりは、やや浮いてるかも^^; けど、どちらも名曲だ。他の曲も粒よりで、コンセプト・アルバムという事で、広く聴かれる機会が少ないと思われるのが、実に勿体ない佳曲揃い。南佳孝の全アルバム中、3本指に入るのではなかろうか。何度も言ってるけど、南佳孝は松本隆が全面プロデュースした『摩天楼のヒロイン』でデビューを飾っているが、このアルバム、松本隆の趣味が色濃く反映されたアルバムで、南佳孝自身も後年「あれは松本隆のアルバムだ」と発言してたりするくらいで、不満も多かったのだと思うが、10年の時を経て再びタッグを組んだ『冒険王』の出来映えには、大満足だったのだろう。次作『Last Picture Show』でも、続けて松本隆とタッグを組んでいる。ちなみに、このアルバムのテーマは“映画”。ま、タイトルで想像出来るだろうけど(笑)

という訳で、曲も構成も素晴らしい、南佳孝の会心作なのだが、ラストを飾るタイトル曲、これがまた名曲なのだ。格調高いオーケストラをバックに、南佳孝が朗々と歌い上げる壮大なスローバラードで、テーマとしても曲調としても、アルバムを締めくくるにふさわしい名曲なのだが、ちと問題作でもある(笑) 何がどう問題作なのか。ちょっと長いが、歌詞を引用する。

密林に浮かぶ月 川岸の野営地で手紙を記すよ
元気だと書きながら もう二度と会えぬかもしれないと思う

伝説の魔境に明日旅立つ 古い地図を胸に抱いてエルドラド探す

君を愛してる 分かるだろう
もしも帰れなくても 泣かないでくれよ

黒豹の瞳が闇を走る ガイドさえも震え上がる禁断の土地へ

君を愛してる 分かるだろう
もしも帰らなければ 忘れてくれよ
忘れてくれよ


以前、NHK-BSの松本隆特集を見た事があるが、その時のテーマは、松本隆自身が選ぶ、ヒット曲や有名曲ではないけど、思い入れの深い曲10選、というもので、その10曲の中に「冒険王」も入っていた。うん、深く納得(笑) 実に、松本隆らしい曲だと思う。

この曲の主人公は、愛する女性がいるにもかかわらず、生きて帰れぬかもしれない冒険に向かう。愛と夢とは全くの別物なのだ。これは男のロマンなのか、単なる我が儘、男の身勝手なのか。普通なら、こんな事を言われた女性は怒るだろう。もしも帰れなくても、なんて言ってるより前、冒険に行く、などと言い出した時点で、この男を見限るのではないか。しかし、この曲に出てくる女性は、そんな事は言わず、ただひたすら愛する男が無事に帰ってくるのを待ってるタイプと思われる。で、もし、帰って来なかったら? 多分、ずっと彼の事を想いながら、一人で生きていくのだろうね。なんて都合の良い女性なんだ(笑)

沢田研二の「サムライ」という曲があって、これを作詞した阿久悠は、男のやせ我慢或いは強がり、といったものを表現したかったそうだが、似たようなテーマではあるものの、「冒険王」の場合は、やせ我慢や強がりを超越している。ただひたすら男のロマン。一点の曇りもない。純粋なのか世間知らずなのか(苦笑) やはり松本隆・南佳孝コンビの曲に「曠野へ」というのがあって(アルバム『Daydream』収録)、この曲では、世を捨てて人里離れた、星が降る曠野で暮らす男がテーマだ。もう都会に戻る気はないから、彼女からの手紙も読まずに暖炉に投げたりする。世を捨てた割には、都会から手紙が届くという事は、住所が分かってるのではないか、なんかヘンだなぁ、というツッコミは置いといて(笑)、このコンビは、こういうテーマが好きらしい(笑)

また、この「冒険王」の男は、本当に冒険や探検がしたいだけで、古代の財宝や移籍を掘り当てて一攫千金を狙う、なんて事はこれっぽっちも考えてない、というのは、歌詞を見ても分かる。一攫千金野郎なら、もしも帰らなくても、なんて言わないからね。絶対に財宝見つけて無事に帰ってきて君と結婚する、くらいの事は言うだろう。女性からすると、そっちの方が嬉しいのかな。結局帰ってこないのは同じなんだけど(笑) ま、とにかく、「冒険王」の彼が欲しいのは、金ても名誉でもなく、ただひたすらロマンなのだ。邪心も野心もない。正に、“こころは少年”なのである。

良くも悪くも、松本隆の女性観やら人生観やら、その他諸々が100%前面に出た曲と言える。一連のヒット作にも、彼なりの理想の女性像、或いは人生観、憧れ、といったものが見え隠れするのも多く、この「冒険王」はその延長線上というか集大成というか、松本隆なりのロマンや憧れをこれでもか、とぶつけてみた曲という事になるのである。身勝手と言えば身勝手なんだけど。他の歌手に提供する場合には、大っぴらに表現出来ないテーマでも、南佳孝となら好き放題。本人の思い入れが強いのも当然の名曲だ。

また、こんな歌詞を朗々と歌い上げるのが南佳孝だというのが良い。他の歌手だと、ちょっと違和感がある。“孤高”という言葉が似合う南佳孝だからこそ、堂々と歌えるのだ。正にベストマッチ。共にアウトロー気質で相性ピッタリ、あんまり相性ピッタリ過ぎて、時に気持ち悪かったりもする(笑)松本隆・南佳孝コンビが作り上げた傑作が、『冒険王』であり「冒険王」なのである。あれから33年、その素晴らしさは今でも色褪せない。

このアルバムが出た年の秋、僕が通っていた大学の学園祭に、南佳孝がやってきた。もちろん、構内の体育館に見に行った。『冒険王』の曲も結構やってた気がする。アンコールで、南佳孝はピアノの上に座って、2~3曲歌ったが、その時「冒険王」を実に気持ち良さそうに歌ってたのを、今でも覚えている。感動的だった。若かったなぁ、あの頃は(爆)

この「冒険王」ですが、歌詞はともかくとして、曲自体は、ゆったりとしたテンポとキーで、実に歌いやすいので、カラオケで見つけたら、是非お試し下さい(笑)
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想い出のアルバム-SLOWHAND

2013年02月02日 18時28分52秒 | 想い出のアルバムシリーズ

Slowhand

スローハンド/エリック・クラプトン(1977)

1.コカイン
2.ワンダフル・トゥナイト
3.レイ・ダウン・サリー
4.ネクスト・タイム・ユー・シー・ハー
5.ウィー・アー・オール・ザ・ウェイ
6.ザ・コア
7.メイ・ユー・ネバー
8.ミーン・オールド・フリスコ
9.ピーチズ・アンド・ディーゼル

今いくつかは知らないが、相変わらず精力的に活動するエリック・クラプトンには、ほんと頭が下がる。同世代のジェフ・ベックもそうだけど、決して勿体ぶることなく、自らをカリスマ化する事もなく、いつでもどこでも誰とでも、ギターを弾き歌う、その姿勢が素晴らしい。ただひたすら、ギターが音楽がブルースが好きなんだな、というのが伝わってくるのだ。聞く所によると、今年新作も出るらしいし、ジェフ・ベック共々、体力の続く限り頑張って欲しいと思うのである。

と、そんな(どんな?)クラプトンの1977年のアルバム『スローハンド』の、35周年記念エディションが出た。ちょっと意外な感じもする。というのも、このアルバム、確かに当時ベストセラーとなり、全米TOP10となった「レイ・ダウン・サリー」や、ライブの定番でもある「コカイン」「ワンダフル・トゥナイト」を含むアルバムでもあり、何よりクラプトンの昔からのニックネームがアルバム・タイトルにもなっていたりして、クラプトンの代表作と言ってもいいのかもしれないが、そういう派手な印象が全くない。今になって記念エディションが作られるほど、高い評価を受けてきたアルバムとも思えないのだ。つーか、クラプトンの代表作って、一体何なんだろう?

そうなのだ。クラプトンは偉大なミュージシャンではあるが、代表作は?と問われると、考えてしまう。つい『いとしのレイラ』なんて言ってしまいそうだが、あれはデレク&ザ・ドミノスというバンドのアルバムであり、クラプトンのソロという事になると、すぐには思い浮かばないのだ。う~ん、しばらく考えて、やっぱり『461・オーシャン・ブールバード』かなぁ、それとも『アンプラグド』か、って感じ。『スローハンド』と一発で答える人は少ないだろう。

不思議だなぁ。これだけのキャリアと名声のある人なのに。しかも、クラプトンのアルバムは売れない、なんて事は全くなく、この『スローハンド』にしても、次作の『バックレス』にしても、ビルボードのアルバム・チャートのTOP10に入るベストセラーだった訳だし、決して『アンプラグド』で急に売れた訳ではないのだ。“作品”より“人”の印象が強いミュージシャンなんだろうか。

と、訳の分からない事言ってるけど(爆)、『スローハンド』である。実は、このアルバム、出た当時にFMで聴いて気に入って、2年くらいしてから友人にLPを借りてよく聴いてた。中学生が聴くにしては、かなりシブい内容と思うのだが(笑)、ま、とにかく、好きだった訳だ。「コカイン」も良かったけど、個人的には「ザ・コア」が良かったな。クラプトンとマーシー・レビィが交互にボーカルをとる長い曲だけど、途中のギターやサックス(なんと、メル・コリンズである)のソロ合戦がスリリングでよろしい。淡々とした歌を披露する「ネクスト・タイム・ユー・シー・ハー」や「メイ・ユー・ネバー」もいいね。当時はシブいと思ったけど、今聴くとそれほどでもなく、聴きやすい印象を受ける。クラプトンって、ギターやブルースの神様なんて崇め奉られていたけど、実際には鹿爪らしく音楽をやる人ではない。そこいらが、今でも続く人気の秘密なのだろうし、名盤を残してない理由なのかもしれない。

レコード・コレクターズ最新号の特集は、この『スローハンド』35周年記念エディションである。発売と同時に売れ、全米アルバムチャート初登場一位となった、という記述は、どこのチャートを指しているのか分からないが、ビルボードだとすれば、明らかに誤りというか嘘なので(笑)、訂正して欲しい所だが、それ以外では興味深い記述もある。特にアルバム・タイトルについてだけど、何故クラプトンのニックネームが“スローハンド”なのか、昔から不思議だったが、ヤードバーズ時代のクラプトンはステージでよく弦を切っていて、張り替える間観客がゆっくり手拍子(Slow Hand Clap)しながら待っていた、というのが真の由来らしい。手があまり動かないのに、音がたくさん聞こえるから、というのではないようだ(笑)

そういえば、学生の時やってたバンドで「コカイン」をコピーした事がある。例の決めのフレーズを、その場にいる全員で叫んだりして、なかなか楽しかったな(笑) とまぁ、こんな事も思い出してしまうアルバムなのであった。あ、ジャケットはGを押さえてるな、クラプトンもGなんて使うんだ、しかも同じ押さえ方だし、なんて事で感激したりもしたっけ(笑)

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想い出のアルバム-REBECCA Ⅳ

2010年02月23日 23時17分04秒 | 想い出のアルバムシリーズ

Rebecca4

Rebecca Ⅳ~Maybe Tomorrow(1985)

1.HOT SPICE
2.プライベート・ヒロイン
3.Cotton Time
4.76th Star
5.光と影の誘惑
6.Bottom Line
7.ガールズ・ブラボー!
8.フレンズ
9.London Boy
10.Maybe Tomorrow

今週末、「London Boy」を演奏する。去年夏のフォリナー・セッションでお世話になって以来、時々お邪魔させて貰っている新宿のロック・バーCrawdaddy Club主催のセッションが、今度の日曜日に行なわれるのだが、そこで、この曲をに参加する事になったのだ。そう、今回のセッションは「邦楽セッション」なのである。

この「London Boy」、知る人ぞ知る、今から25年前に大ヒットしたレベッカの名盤『レベッカⅣ』の中の一曲である。このアルバムは、当時テープに録音して、文字通り聴き倒したが(笑)、その中でも一番好きな曲が「London Boy」だった。どことなく哀愁を漂わせたメロディに、少々センチな歌詞がたまらない。“抱きしめたい”とか“Yesteday”とかいった言葉を使って、イギリスを表現したつもりの歌詞が、ステレオタイプだけどいいのだ(笑) 誰がなんと言おうと名曲である。

そう、この『レベッカⅣ』の最大の魅力は、収録曲のグレードがどれも高い所にある。捨て曲とかやっつけ仕事みたいな曲が全くないのだ。フツーのアルバムなら、目玉曲として下にも置かぬ扱いを受けて然るべき曲たちが、一枚のアルバムにまとまっている。かといって、グレイテスト・ヒッツみたいな雰囲気を漂わせている訳でもない。どの曲にも、アルバムを構成する一曲としての役割があり、必要以上に出しゃばったり、また怠けたりする事もなく、それぞれの任務を全うしている。しかも、その全てがグレード高いのだ。ほんと、奇跡と呼んでもいいアルバムである。『レベッカⅣ』がレベッカの最高傑作である事に、異議を唱える人はいないだろう。

一曲目の『HOT SPICE』が強烈だ。インストかと思わせてサビだけ歌が入る、という構成も意表をつくが、メロディがなくギターのカッテイングだけで曲が進んでいくのもカッコいい。しかも、そのカッティングがミョーに歌心あるし。この先どうなるんだろう、という期待と緊張感。アルバムのオープニングとしては最高の曲だ。

先ほど、「London Boy」が一番好きだ、と書いたが、3曲目の「Cotton Time」も素晴らしい曲である。地味な部類の曲だと思う。けど、メロディと歌詞の融合具合は絶妙だし、アレンジも完璧。2番からギターソロに移るあたりの展開なんて、何度聴いてもゾグソクする。実は、前述した「邦楽セッション」で、レベッカは4曲演奏されるのだが、なんとこの「London Boy」と「Cotton Time」もリストに入っているのである。地味なようでも名曲としての評価は高いのだ。それにしても、これほどの名曲がシングルカットもされず、A面の3曲目として“隠れた名曲”の名を欲しいままにしているとは...恐るべし『レベッカⅣ』。

4曲目の「76th Star」は、テレビCMでも使われた記憶がある。実にキャッチーな曲だ。続く、「光と影の誘惑」は正真正銘のインスト。ベースの高橋教之の作曲で、ベーシストの作った曲であるのなら、フレットレスで主旋律を奏でるのは鉄則中の鉄則。しっかり守ってます(笑)

B面一曲目の「Bottom Line」も好きな曲である。シニカルな歌詞と、間奏部分でのベースとギターの絡みがたまりません。「フレンズ」は、当時ヒットしてTBSの『ザ・ベストテン』にも出演したくらいだから、なんだかんだ言っても、レベッカの代表曲であろう。歌いだしの一行がいいよね。

口づけをかわした日は、ママの顔さえ見れなかった

初めて恋を知った少女の戸惑いと歓びが、見事に表現された歌詞である。素晴らしい。そういえば、去年の暮れ、偶然見た歌番組にNOKKOが登場し、オーケストラをバックに「フレンズ」を歌っていたが、声量も声の艶もなくなっていて、とても残念だった。つーか、悲惨なくらいだった。彼女、しばらく歌ってなかったのか、などと思わせるものがあった。確かに、元々上手い人ではなかったけど...

そんな訳で、珠玉の10曲なのである。今聴いてみて、実にLPらしい構成になっているのを再認識した。だからこそ、10曲が生きるのである。CDだとこうはいかない。

このアルバム、とにかく売れてた。当時で130万枚売れたというから、LP時代では驚異的な数字である。ま、売れたから言うのではないが、『レベッカⅣ』は文句なしの名盤である。個人的には、80年代J-POPの名盤ベスト3に、確実にリストアップされるアルバムであるのは間違いない。今回、久々に聴いたけど、やっぱり素晴らしい。洋の東西は関係なく、名盤は時を超える。

ところで、セッションでの「London Boy」実は、僕がリクエストしたのである(笑)。知ってる人は少ないと思われたし、乗ってくる人がいるのかなぁ、なんて思ってたが、すぐに成立してしまった(笑)。喜ばしいことだ。ちなみに、「Cotton Time」を叩くのは僕ではない。残念だ(爆) でも間近に迫った“邦楽セッション”、楽しみである。

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