オール・タイム・ベスト、とは何か? ただのベスト盤とは、ちと違うのだ。オール・タイム・ベストと銘打つ場合、アーティストのデビューから現在に至るまでの全作品を対象に、ヒット曲や代表曲を収録し、そのキャリアを俯瞰する事の出来るベスト盤、ということになる。当然、オール・タイム・ベストが出るアーティストは芸歴が長い訳であり、たまにデビュー2~3年のアーティストのベスト盤をオール・タイム・ベストと謳うケースもあるが、基本的には、20~30年以上活動している人の全キャリアを網羅したベスト盤が、オール・タイム・ベストと呼ばれるのである。
やや問題もある。20~30年ものキャリアを持ち、まだ現役である場合、過去にもベスト盤を出したことのある人がほとんどであり、そうすると、全キャリアを網羅するオール・タイム・ベストが出てしまうと、過去のベスト盤と曲がダブるのである。ひどい場合だと、10年前のベスト盤に2~3曲追加した程度のオール・タイム・ベストだったりする。また、コンスタントにヒットを出している人の場合だと、前回のベスト盤から何曲か削られて、新しい曲と差し替えられるケースもある。
と、こんなオール・タイム・ベストなんてのが出ると、買おうかどうしようか、悩むファンも多い。が、反面、レコード会社が華々しくオール・タイム・ベストと煽っても、コアなファンは手を出さないケースも多々ある。既に所有済の曲ばかりであるケースも多いからだ。そうなると、一体誰が買うのか不思議になるが、ベスト盤特にオール・タイム・ベストって売れるのである。洋の東西を問わず。
ベスト盤=入門編、という考え方がある。とあるアーティストを初めて聴こうという場合、とりあえずベスト盤から入るのである。有名曲・ヒット曲は一通り聴けるし、オール・タイム・ベストであれば、全キャリア満遍なく聴く事も出来る。そういう人たち、つまり大物・ベテランだけど全然聴いたことない、という若い人(とは限らないけど)たちに、入門編としてベスト盤は需要がある、という事になる。ま、まずはベスト盤を聴いて、それからオリジナル・アルバムを聴くようになれば万々歳だが、実際には、ベスト盤だけで止まってしまう人が多いので、結果として洋楽CDはベスト盤以外は売れない、という事になってしまうのだ。
それにしても、ここ数年、レコード屋の洋楽の棚を見てると、ベテランであればあるほど、ベスト盤しか置いてない、というのが目につく。そのベスト盤も、1アーティストにつき数種類出てるのはざらだ。『ベスト・オブ・○○』『○○グレイテスト・ヒッツ』は言うに及ばず、“エッセンシャル”“ディフィニティブ”“アルティメット”“アブソルート”等のタイトルを冠されたベスト盤が、呆れるほど並んでいる。入門編としてベスト盤を買う人が多いというが、その人たちは“エッセンシャル”と“ディフィニティブ”のどちらを買えばいいのか? 初心者であれば、曲目で判断する、というのも難しいだろうし。両方買う人は、まずいないだろうね。ベスト盤の乱発は、結局レコード会社のクビを絞めるだけ、という気もする。
かくいう僕も、ベスト盤はたくさん買っている。入門編として買ったケースもあるが、ほとんどの場合、ヒット曲をまとめて聴きたい、けどオリジナル・アルバムは今イチ興味ない、という理由で買っている。シングル曲をコレクションするみたいなもんだね。ベスト盤が複数存在する時は、○○と△△が収録されていること、というのが選択の条件となる。“エッセンシャル”には○○は未収録だけど△△は入ってる、だけど“ディフィニティブ”は全く逆だ、という場合、悩んだ挙句、結局どちらも買わない、という事になったりもする。
だいたい、僕が洋楽を聴き始めた頃、入門編としてベスト盤を買う、という考えは全くなかった。FM等でかかるのは、基本的に最新のヒット曲であり、最新アルバムの曲であったから、古い曲を知るのはもっと後の事であり、気に入った曲があると、ドーナツ盤を買うか、その曲が入っているオリジナル・アルバムを買う、というのがフツーだった。それに、ベスト盤が出てるという事は、そのアーティストがベテラン尚且つヒット曲が多い、という事であり、70年代半ばにベスト盤が出てる人、というのは限られていたのだ。それに、そういうベテランは一部の例外を除けば、その時既に過去の人、という感じで、当時の僕からすると興味の対象外というのがほとんどだった。そういう訳で、ベスト盤をよく買うようになったのは、CD時代になってからである。LPと違って、収録時間も長いCDは、正にベスト盤向きのフォーマットと言える。
という訳で、オール・タイム・ベストだ。考えてみると、キャリアが長くヒット曲も多いアーテストであればあるほど、だかだか20曲やそこらを聴いただけで、一体何が分かるのだ、という気はする。かといって、2枚組とか4枚組のボックスセットとかだと、初心者には手を出しにくいし、デモ音源とかライブテイクとかが入ってるようなボックスセットは、入門編とは言い難い。
と、こういったことを踏まえて(は?)、最近出たオール・タイム・ベストを斬ってみたい、いや、そんな大それたものではなく、まぁ、ツッコミを入れてみたい、と思うのである(笑)
ビートルズ・リマスター・モノボックスの半分も話題にならなかった(泣)、ジョージ・ハリスンのオール・タイム・ベストである。過去、ジョージはアップルとダークホース、それぞれのレーベルでのベスト盤を出しているが、全キャリアを網羅したのは初めて。ただ、そう言う割には、色々疑問の多い内容である。
ま、とにかく、内容である。なんでも、未亡人のオリビアが選曲したらしいが、なんというか、ヒット曲集とは言い難いし、ビートルズ時代の曲がライブ・アルバムから収録されてるのもヘンだし、『オール・シングス・マスト・パス』から5曲も収録されてるくせに、『ダーク・ホース』『ジョージ・ハリスン帝国』からはゼロというのは納得いかないし、1ファンとしては、素直に喜べないオール・タイム・ベストである。なんか、中途半端なのだ。どうせなら、シングル曲に絞るとかした方が、よっぽどすっきりする。「サー・フランキー・クリスプのバラード」を収録したいのなら、マニアックな選曲に徹底すればよかろう。
という訳で、こういう内容にした方が、オール・タイム・ベストの名にふさわしいと思うけど。
1.マイ・スイート・ロード
2.美しき人生
3.ギブ・ミー・ラブ
4.バングラ・デシュ
5.ディン・ドン
6.二人はアイ・ラブ・ユー
7.ディス・ソング
8.人生の夜明け
9.ブロー・アウェイ
10.愛はすべての人に
11.過ぎ去りし日々
12.ウェイク・アップ・マイ・ラブ
13.セット・オン・ユー
14.FAB
15.チアー・ダウン
この選曲の方が、少なくとも納得はいくけど、当たり前過ぎて面白みに欠けるのも確かだ(笑)。難しいねぇ(笑)
マドンナも、いつの間にやら25年選手である。時の流れは非情だ(なんのこっちゃ)
その25年間、ずっと第一線で活躍し続けてきた人だけに、やっぱり膨大なヒット曲がある訳で、はっきり言って、それを1枚(これは2枚組だけど^^;)に詰め込もう、って事自体無謀なのである。マドンナは、過去2枚のベスト盤を出しており、その2枚はいわば、グレイテスト・ヒッツVol.1&Vol.2みたいなもので、曲のダブりはない。本来なら、こんなオール・タイム・ベストを出すより、グレイテスト・ヒッツのVol.3が出てしかるべきなのだ。つーか、オール・タイム・ベストを1枚出すより、曲のダブりのないグレイテスト・ヒッツが数枚出てます、という方が、よっぽどステイタスだという気がするけど。それぞれに、新曲を1曲づつ収録すれば、ファン・サービスにもなるし。それが出来る人だと思う。
とはいえ、このオール・タイム・ベスト、なかなか頑張ってます(笑)。全米No.1ヒットの洩れはないようだし、主要なヒット曲も押さえている。2枚組にしたのは正解だ。新曲も入れてるし。ケチつける箇所は、とりあえず見当たらない。買うかどうかは別として(笑)
クイーン初の、世界標準のオール・タイム・ベストである。クイーンって、オフィシャルの『グレイテスト・ヒッツ1~3』以外にも、各国でベスト盤が編集されてるらしく、日本でも『イン・ビジョン』とか『ジュエルズ』のシリーズが出ているし、実は意外とベスト盤多いバンドなのである。そのベスト盤たちが、それぞれに特徴のある内容になっていて、これはこれで結構面白いので、わざわざオール・タイム・ベストなんて出さなくても...という気がするけど、ま、色々と事情があるのでしょう(笑)
興味あるのは、どういう人たちが買うのか、ということ。本国イギリスでは、史上最も売れたアルバムがクイーンの『グレイテスト・ヒッツ』だというくらいで(『グレイテスト・ヒッツVol.2』も、上位10枚に入ってるそうな)、ベスト盤は浸透しまくってるのでは、なんて思うし、日本では、前述のように、日本独自編集のベスト盤が、これまたよく売れてるので、わざわざ今回のオール・タイム・ベストを買う人は少ないような気もする。無難というか妥当な選曲だし(笑)
と言いつつ、よく売れてるらしい。結局、クイーンを知らない世代が入門編として買ってるのだろう。相変わらず、若いファンが増え続けている、というのが凄い。30年前、いや20年前ですら、こんな状況になろうとは、想像も出来なかった。ま、このオール・タイム・ベストを買った若い人たちに、次はオリジナル・アルバムを是非聴いて欲しい、と切に願うのみである(笑)
さて、ここで質問。記事中に“オール・タイム・ベスト”という言葉は、何回出てきたでしょう?(爆)