あの衝撃のデビューから、もう30年だそうだ...
ボストンのデビューアルバム『幻想飛行/Boston』と2ndの『Don't Look Back』の、その30周年を記念しての、トム・シュルツ自身によるリマスタリング盤が発売された。当初の発表では、本編のリマスターにボーナス・トラックとして70年代のライブ音源が収録されるという事だったが、これはレコード会社が勝手に決めた事で、トム・シュルツが猛抗議して、結局リマスターのみでの発売に落ち着いたそうな。残念だな、ライブ音源興味あったのに(笑)
僕は、ボストンのファンではない。(目下の所)最新作の『Corporate America』以外は全て聴いてるけど。でも、1stの『幻想飛行』は名盤として崇め奉っている。このアルバムは素晴らしい。最後の2曲が今いちな所を除けば(笑)文句のつけようがない。このアルバムが出た頃、僕はまだロックを聴き始めて日の浅い中学生だったが、最初に「宇宙の彼方へ」を聴いた時の衝撃は、今でも覚えている。ギターの音も斬新に感じられたし、ハイトーンのボーカルに爽やかなコーラス、歯切れの良いアコギのリズム、プログレッシブなオルガン、ハードだけどクリアなサウンド、そしてどの曲にも漂う浮揚感...今思うと、特別新しい事はやっていなかったような気もするが、ハードロック、プログレ、ウェストコースト等色々な音楽の要素をひとまとめにして、独特のオリジナリティのある世界をボストンは作り出していた。僕のようなガキでも、「並みの新人ではない」と思わせるものがあったのだ。これからのアメリカン・ロックを背負って立つのはこのボストンだ、と誰もが期待したに違いない。ところが、その後のボストンはというと...
いきなり何だが、ここでボストンのディスコグラフィーなぞ(笑)
1. Boston(1976)
2. Don'T Look Back(1978)
3. Third Stage(1986)
4. Walk On(1994)
5. Greatest Hits(1997)
6. Corporate America(2002)
なんと、デビュー以来30年でこれだけ(笑) あまりに寂しいんでベスト盤も入れてしまった(笑) 1stと2ndの間が2年空いている以外は、きっちり8年毎にアルバムを発表している。何か意味があるのか(笑) ま、寡作といえは聞こえはいいけどね。前述の通り、僕は『Corporate America』は聴いてないので何とも言えないが、それ以外は正直言うと、8年もかけて同じ事やってる、としか思えない内容である。ま、ファンからすれば、それがまた嬉しいものなのだろうから、それを批判するつもりはない。でも、8年待たせたのだから、それなりの内容であって欲しい、と思う。何か新機軸を打ち出すとか、選りすぐられた名曲のオンパレードとか。だが、残念ながら、そういうのは感じられない。売れるのだから、それはそれでいいんだけど。
何故、ボストンというかトム・シュルツは、こうなってしまったのか。ま、僕の言う事なんかどうでもいいのだけれど(笑)、その鍵は2ndの『Don't Look Back』にあるように思うのだ。
1stと2ndには、2年のインターバルしかないけど、この2作は明らかに違う。何が違うのか?すばり“作風”が違うのだ。“芸風”と言ってもいい。この2枚の、共にA面一曲目の「宇宙の彼方へ」と「ドント・ルック・バック」を聞き比べてみると、その違いははっきりする。どう違うか? 前者は歌モノであるのに対し、後者はギターのための曲なのである。試しに歌詞カード片手に歌ってみて下さい。「宇宙の彼方へ」の方が、メロディラインがはっきりしてて歌いやすいでしょ? 「ドント・ルック・バック」だってカッコいいけど、この曲を聴いてて印象に残るのは、繰り返し出てくるリフやサビのギターーのフレーズだったりする。歌メロは、そのギターのフレーズに絡んではいるが、メインはあくまでギターなのだ。「宇宙の彼方へ」を鼻歌で歌うと♪もぁざなふぃ~り~ん、となるけど、「ドント・ルック・バック」だとギターのメロディしか出てこないだろう。
そう、この「宇宙の彼方へ」だけでなく、1st収録曲は“歌曲”として優れている曲が多いのだ。「ピース・オブ・マインド」しかり「ロング・タイム」しかり「ヒッチ・ア・ライド」しかり。まず歌があり、それを引き立てる、又は拮抗すべくギターが存在する。そして、それらを盛り立てるバンド・サウンドがある。パッと見は物珍しかったけど、実は非常に古典的なロックバンドのフォーマットに則って、ホストンのサウンドは作られていた。そんな古典的なフォーマットの中で、色々な要素を試しているからこそ、この『幻想飛行』は素晴らしく、また30年経っても色褪せないのだ。
しかし、ボストンつーかトム・シュルツは、2ndで路線変更した。タイトル曲をはじめ、クリアなギターの音とフレーズは素晴らしいけど、“歌モノ”としての面白みは減った。しかし、この路線変更でボストンのイメージは確立され、以来このパターンでアルバムを作り続けるようになるのだ(少ないけど^^;)。象徴的なのが、「ドント・ルック・バック」と「ア・マン・アイル・ネバー・ビー」である。ノリのいい曲とバラード系という違いはあるが、構造的には同じだ。サビになると歌でなく、ギターがもっとも印象的なフレーズを奏でる。ギターのためにある曲。この後のボストンは、全てこのパターンを踏襲して曲を作っている。ギターさえあれば、他はどうでもいい。そんな風に僕には聴こえた。確かに、その後それがボストンのトレードマークとなるのだが、僕のボストンに対する興味は2ndの時点で薄れてしまい、『幻想飛行』ばかりを絶賛するようになってしまったという訳だ(笑)
その『幻想飛行』が、トム・シュルツのデモテープを基に制作された、というのは有名な話で、ボーカル以外のほとんどの楽器を、シュルツが担当しているという。対して、2ndはバンドでレコーディングされたらしい。とてもバンドらしい1stがシュルツのワンマンショーで、バンドらしさが希薄な2ndがバンド演奏によるもの、とはなんとも皮肉な話だ。
以前、喫茶店で「宇宙の彼方へ」のカバーを耳にしたことがある。誰かは分からない。そのカバーは、なんとアカペラだった。ショッキングであった。あのアルペジオやサビ前のギターのフレーズがなくても、歌だけでこの曲は立派に成り立つのだ。「ドント・ルック・バック」だと、そうはいくまい。改めて「宇宙の彼方へ」の素晴らしさに気づいたような気がした。
ここまで書いた事は、あくまで僕の主観である(分かってるって)。だから、初めてボストンを聴いてみよう、という人がいたら、1stと2ndの両方を購入する事をお薦めする。両方聴いてみて、どっちがいいか判断して貰いたい。両方いいと思うなら問題はない。だけど、1stの方がいい、と感じたら、あなたはボストンにハマる事はないだろう。何故なら、ある意味本当にボストンらしいのは2nd以降である、と思うからだ。くどいようだが、僕は好きではないけどね(笑)