いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

牛丼各社が一斉に値下げしたのは、日本経済にとっては悲しむべきことだ。なんでこんなことを。

2011年01月12日 00時40分44秒 | 日記

 吉野家、松屋など、牛丼チェーンの各社が11日、牛
丼を一斉に値下げした。各社平均すると100円前後の
値下げで、きのうまで一杯300円台だった牛丼が一杯
200円台になる。

 インタビューに答えた各社の経営陣は、値下げの理由
を「価格競争が激しく、勝ち抜くためには値下げしかあ
りません」と答えている。

 なんということだろう。
 こうした無意味な値下げ競争が、デフレを長引かせ、
日本経済をここまで低迷させたのである。
 企業経営者ともあろうものが、どうして、そんなこと
に気がつかないのだろう。
 企業経営者がこんな感覚では、日本経済の成長は、ま
だ遠い先のことかもしれない。
 今回は、その理由を書く。

 景気の気は、気分の気だ。
 景気は気分で決まる。
 
 バブルが崩壊し、日本は長期のデフレ局面に入った。
いまもなお、そこから脱出できないでいる。

 デフレが始まってまだ間もないころ、そう、1990
年代に、こういう言い方があった。
 物価が下がっているから、給料が据え置きのままでも
使いでが増えて、実質的には、給料は増えているーーと。
 
 日本経済全体で見ると、GDP(国内総生産)の名目
成長率は低成長で横ばいのままだが、物価が下がってい
るから実質成長率は上がっているーーということになる。
 実際、いまの日本経済は、そんな状況になっている。

 しかし、景気の気は気分の気だ。
 
 給料が横ばいでも、物価が下がっているから、給料は
実質的には上がっていると言われても、決して喜べない。
 キツネにつままれたというか、タヌキにばかされたと
いうか、「そんなこと言われても、給料が増えたなんて、
とても思えませんよ」というところだ。
 
 それより、少々物価が上がっても、実際にもらう給料
が増えているほうが、はるかに気分がいい。
 高度成長期というのは、物価が上がっても、手にする
給料が物価よりはるかに増えていった時代のことだ。
 
 物価が下がれば、我々は、もう少し待てばもっと下が
るかもしれないと思って、すぐには物を買わなくなる。
 それが買い控えだ。
 買い控えが続くと、物が売れなくなって、景気がまた
悪くなる。
 景気が悪くなるから、企業は、商品を売るために値下
げをするしかなくなる。
 それがデフレだ。
 そうやって、景気後退とデフレが、負のスパイラルに
入ってしまう。
 いまの日本経済は、その状態にある。

 それにしても、牛丼各社は、なぜ、わざわざ一斉に
値下げをするのだろう。
 どこか一社が値下げをするのなら、消費者はそこの牛
丼を食べに行くだろうから、話は分かる。
 しかし、一斉に下げたのなら、消費者がどこの牛丼を
食べるか、別に昨日までと変わりはない。

 結局、牛丼各社は、日本経済のデフレをより深刻にす
る方向に動いただけのことだ。

 300円台の牛丼を200円台に、100円も下げた
ら、どこかにしわ寄せがくる。
 店員さんの時給が下がるかもしれないし、店の照明が
節約で暗くなるかもしれない。店に置いてある醤油や
塩、胡椒の量だって、減るかもしれない。
 もっといえば、牛丼チェーンは、買い付ける牛肉やお
コメの値段を引き下げるよう、生産農家や食料商社に要
求する。
 いや、100円ものコストを下げるには、そうせざる
をえない。

 そうすると、生産農家や食料商社の売り上げは減り
、業績は悪くなるし、そこで働いている人の収入や給料
も減る。
 食料商社で給料の減った人が、「いやー、景気悪いか
ら、給料減っちゃったよ」とぼやきながら、街を歩いて
いると、牛丼200円台という看板が出ている。
 「おっ、牛丼、こんなに安くなったのかあ。ラッキー。
きょうのお昼は牛丼にしよう」と喜ぶ。
 
 そもそも牛丼チェーンが無理な値下げをしたから、生
産農家や食料商社で働く人の給料が減ったわけなのだが、
その人が安い牛丼を食べて喜ぶ。
 これは、もう、ブラックジョークの世界だ。
 しかし、このブラックジョークが、いまの日本で実際
に起きていることだ。
 これこそが、デフレスパイラルだ。

 ひとつひとつの牛丼チェーンにとっては、この値下げ
は、ライバルに勝つために「正しい」行動だったかもし
れない。
 しかし、日本の国民経済にとっては、それは、ちっと
も正しくなく、むしろ、大間違いの行動なのだ。
 個々の行動は正しくても、その全体をまとめてみると
間違っているという、経済学の「合成の誤謬」である。

 きょう、牛丼チェーンが実施した無理な値下げは、現
在の日本経済の陥っている状況、すなわち、デフレの負
の連鎖を、鮮明に表現している。
 
 この負の連鎖を、どこでどう断ち切るか。
 それが、本当は、民主党政権にとって、最重要な政策
課題でなければならないのだ。 
 
 
*** 追伸 ***
 
 牛丼というのは、もともと関東の食べ物です。
 筆者は関西生まれで、大学で東京に来るまで、牛丼と
いうものを、食べたこともなければ、そもそも見たこと
もありませんでした。

 では、関西では、丼で牛肉を食べることはなかったの
でしょうか? いや、ありました。
 関西は、丼で牛肉を食べるときも、牛肉に卵をからめ
るのです。

 え? それをなんと呼ぶかって?
 丼で、鶏肉に卵をからめるのを、親子丼というでしょう。
 もちろん、鶏肉と卵が、親子ということで、そう呼ぶ
わけです。
 それでは、鶏肉の代わりに牛肉を使い、それに卵を
からめると? そうです。牛と卵は、親子なんかでは
なく、他人同士ですね。

 ですから、関西では、牛肉に卵をからめた丼を、
「他人丼」と呼ぶのです。

 いまでも、大阪や神戸に行って、うどん屋さん(そば
屋さんはありません)に入り、メニューを見ると、親子
丼に並んで、ちゃんと、他人丼と書いてあります。
 だから、関西人は、牛丼には、別に思い入れとか、
感慨とかは、ありません。

 関西では、親子丼で、ツユが下のほうにたまりすぎる
のを嫌います。
 だから、牛丼でツユだく、というのは、ちょっと敬遠
したいところです。
 
 個人的には、吉野家や松屋で、牛丼が200円台の安さ
になっても、たぶん、食べることはないでしょう。
 
 しかし、それにしても、牛丼が200円台で、スター
バックスのコーヒーが600円、700円って、おかしい
と思いませんか。どうかしてますよ。
 その話はまた後日書きます。

 では。