人間のプロ棋士とコンピュータが将棋の対局をする「電王戦」
が5局実施され、人間側が1勝4敗で、負け越しました。
さて、人間は、コンピュータに負けるのでしょうか?
電王戦は今年で3回目です。
1回目は2012年、米長邦雄・前将棋連盟理事長ひとりが、
コンピュータと1局だけ指して、負けました。
2回目は、2013年、プロ棋士5人が、コンピュータと、と
いうより、5つのソフト(プログラム)と対局し、プロ棋士が1
勝1引き分け3敗という結果でした。
そして、今年が3回目で、プロ棋士が1勝4敗だったのです。
私は将棋ファンです。
それだけに、この結果は、本当に残念でした。
さて、将棋は、このまま、人間がコンピュータに勝てなくなる
のでしょうか。
もし、人間が、しかも、プロ棋士がコンピュータに勝てないと
いうことになると、どんな影響が出るでしょうか。
私が心配するのは、将棋をする人間、将棋のファンが、減って
しまうのではないかということです。
考えてもみてください。自分がいま指している将棋で、プロ棋
士でさえコンピュータに勝てないということになると、
「なんだ、自分もどうがんばっても、コンピュータに勝てない
のか」
と思ってしまいます。
将棋が好きな友人と将棋を指していても、
「しょせん、コンピュータに勝てない弱い人間同士が指してい
るんだもんなあ」
と思ってしまうかもしれません。
そう。「なーんだ」という気持ちになってしまうのです。
そうなれば、将棋をしようというモチベーションが下がるでし
ょう。
チェスの世界では、もう10数年前、世界チャンピオンがコン
ピュータに敗北を喫しました。
これで、チェスの人気が一気に下がったように思います。
それまでは、だれがチェスの世界チャンピオンになるか、毎年、
欧米の新聞では大きく扱われ、日本の新聞でもちゃんとそれなり
の大きさで記事が出ていました。
しかし、世界チャンピオンがコンピュータに負けてからという
もの、今年の世界チャンピオンはだれになったかという記事を、
見かけなくなりました。
世界チャンピオンはだれになるか、そのことに、チェスファン
が興味を失ったような感じがします。
それはそうでしょう。
せっかく、何局も戦って世界チャンピオンを決めても、その世
界チャンピオンより強いコンピュータがあるというのでは、世界
チャンピオンを決める意味が薄くなってしまいます。
では、世界チャンピオンを決める対局に、人間だけではなく、
コンピュータも出せばどうかというアイデアもありそうです。
人間にまじって、コンピュータも出場する。
しかし、それで、毎年、コンピュータが優勝するというので
は、じゃあ、コンピュータだけの世界選手権をすればいいなじ
ゃいかという話になります。
実際、世界チャンピオンがコンピュータに負けて以来、チェス
の人気は、世界的に、ずいぶん落ちたと思います。
チェスがコンピュータに負けた当時、日本の将棋は、まだ余裕
がありました。
というのは、チェスは取った相手の駒を、盤上から取り除きま
す。ですから、手が進むにつれて盤上の駒が減っていき、終盤
になれば、盤面がシンプルになります。シンプルになればコン
ピュータが強い。
シンプルになればコンピュータが強いのはなぜかという、その
理由は、人間とコンピュータの違いを示しており、このことは、
次回、改めて記したいと思います。
ともかくも、チェスは終盤になれば盤面がシンプルになり、コ
ンピュータが読み間違えなくなるのです。
しかし、将棋は、取った相手の駒を、そのまま自分の駒として
使います。ですから、終盤になればなるほど、盤面が複雑にな
ります。終盤のほうが、難しいのです。
ここが、チェスと将棋の決定的な違いです。
終盤になればなるほど盤面が複雑になるのだから、将棋では、
コンピュータが人間に追いつくのは、まだまだ時間がかかるだ
ろうと思われていました。
ところが、この3年間、プロ棋士とコンピュータの対局をや
ってみて、人間が負け越すという結果が出てしまったのです。
とくに今回、よく、1人、勝ったものです。
もしこの1人も負けれいれば、電王戦は、人間が5戦全敗と
いうことになっていました。
そんなことになれば、衝撃は大変なものだったでしょう。
(続く)