いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

コロナウイルスのPCR検査はなぜ増えないか?・・・現場の医者に聞きました。彼は全員入院が問題だったというのです。

2020年05月08日 19時36分53秒 | 日記

 コロナウイルスに感染しているかどうかを調べる
PCR検査の数がなかなか増えないというので、不
満が高まり、政府が批判されています。
 メディアでもこの問題をよく取り上げますが、検査
が増えない原因について、すっきりした説明を聞い
たことがありません。
 大学時代からの友人が医学部を出て、いまは、
大手企業の産業医をしています。彼に、PCR検
査はなぜ増えないのかを、聞いてみました。
 
 ――PCR検査、なぜ、こんなに増えないのだろう
か。政府は、早い時期から、検査を増やすと言い
続けているが、なかなか増えないね。君は現場に
いて、どう考えているのかね。
 「先に私なりの結論を言うと、初めに、感染者を
すべて入院させたのが原因だと思っている」
 ――ほほう。
  「感染しても、重症でない限り、入院させなくて
もよかったんだ。軽症者は、自宅とか、それこそ、
借り上げたホテルで療養していればよかったんだ
よ。まあ、公平にいうと、いまだからこそ、振り返って
言える話なんだけどね」
 ――順を追って、話してください。
 「初めのころ、中国の武漢が都市閉鎖され、現
地に駐在している日本人が取り残されただろう」
 ――うん。
 「その人たちを、政府がチャーター機を出して、
救出したよね」 
 ――1月末のことだ。はるか昔の話のように思うけ
れど、まだ3か月前のことだね。
 「で、そうやって帰国した日本人が何人かコロナ
ウイルスに感染していた。この人たちを、陰圧室を
備えた特別な病院に隔離し、対応した」
 ――そうだった。
 「その後、今度は、東京のタクシー関係の人たち
が東京湾の屋形船で宴会をし、そこでコロナの集
団感染が出た」
 ーーこのときも大騒ぎしたよ。
 「そう。このころは、まだ感染者は10人単位に留
まっていて、本当に数が少なかった。一方で、コロ
ナは大変な病気だと受け止められていた。大変な
病気だというので、感染者が少ないころから全員を
隔離病室に入院させたわけだ」
 ――あのころは、感染者が少ないから、全員、入
院させられたわけだね。
 「振り返ると、それが、PCR検査の増えない原因
ではないかと思うんだ」
 ――というと?
 「あれで、医者は、あるいは、厚労省も医師会も、
とにかく、医療関係者は、いずれコロナ感染者を
入院させる病室が足りなくなると、思ってしまった」
 ――お医者さんなら、直感的にそう感じるというこ
とだね。
 「病室が足りなくなるという心配をし始めると、PC
R検査をどんどんして、感染者がどんどん増えた
ら、いったい、どうするんだと、心配が募るわけだ」
 ――そうだね。
 「それで、PCR検査を積極的にやろうという空気
がなくなる。というと語弊があるが、PCR検査にな
んとなく消極的な感じになったと思う」
 ――だれが、ということではなく、空気として、とい
うことだね。
 「そこへ、今度は、2月3日だったか、ダイヤモンド
・プリンセス号が横浜港に入港して、船内に感染
者のいることが分かった」
 ――あれは、日本は対応が悪いというので、各国
から批判された。ニューヨークタイムズなんか、ここ
ぞと日本を批判していたが、あのころは、アメリカも
欧州も、コロナの感染は対岸の火事だったね。
 「ダイヤモンド・プリンセスの船内で、感染者がど
んどん増えただろう。さすがに、その全員を入院さ
せるわけにはいかなくなって、重症の人から下船し
てもらって、入院させたよね」
 ――そうだった。
 「まさにそのとき、感染者を全員入院させると、病
室が足りなくなって、医療崩壊が起きるということが
分かったはずなんだ」
 ――そうだろうなあ。
 「ダイヤモンド・プリンセス号で分かったことがいく
つかある。
まず第一に、このコロナウイルスによる新型肺炎
は、感染力が強く、大勢の人に感染が広がると
いうこと。
第二に、しかし、感染しても、全員が重症に
なるわけではなく、むしろ、軽症のまま治る人
が多いということだ。健康な人は感染しても自
覚症状のないまま治ってしまうこともある」
 ――そういえば、そのころ、俳優のトム・ハンクスが
オーストラリアでコロナに感染して入院したけれど、
1週間ほどで退院していたね。
 「そうなんだ。だから、PCR検査で陽性が判明し
ても、軽い症状の人は入院する必要がないという
ことは、武漢からの帰国者、東京湾の屋形船、ダ
イヤモンド・プリンセス号と、続けて経験し、分かっ
ていたはずなんだ」
 ーーなるほど。それで?
 「武漢、屋形船、ダイヤモンドプリンセスと、けっこ
う長い日数があったんだよ。武漢が1月末だ。屋形
船が2月13日だ。ダイヤモンドプリンセスが横浜港
に入港したのが2月3日で、5日に感染者がいるこ
とが分かった。そこから14日間の船内待機となっ
たわけだ。武漢から数えると、まあ、20日間ぐらい
の日数があった」
 ――対策を練る日数が十分あったわけだ。
 「ダイヤモンドプリンセスで右往左往している間
に、国というか、政府・厚労省が、横浜港に近いホ
テルを、どこでもいいから、まるまる一棟、借り上げ
ればよかったんだ。
 そして、感染が分かっても軽症の人は、どんど
ん、そのホテルに入ってもらえばよかったんだよ。
 私が知っている限りでは、ダイヤモンド・プリンセ
スの対策で走り回ったのは神奈川県や横浜市
で、厚労省は県や市に任せていた感じがある。も
っと厚労省がしっかりするべきだった」
 ――武漢から帰国した人を、勝浦のホテルで2
週間、待機してもらっただろ。あんな感じかな。
 「そうそう。せっかく、勝浦のホテルが、よい前例
になったんだからさ」
 ――そうすれば、船内での感染拡大も防げたと
いうわけだ。
 「陽性でも自覚症状のない感染者や、軽症の感
染者は、どんどん、借り上げたホテルに入ってもら
えばよかったんだ。どうして、そのことに、気が付か
なかったのかねえ」
 ――なるほど。
「ダイヤモンドプリンスで政府の対応が後手に回
ったという批判があったけれど、批判している人
は、どこがどう後手だったのか、分かってなかっ
たんじゃないのかな。
 私が思うのは、いま言ったこと、すなわち、早く
ホテルを借り上げて、軽症者は病院ではなホテ
ルに入ってもらえばよかったのに、ということだ」
 ――対策が後手に回ったというのは、一般的
には、乗客を船内に閉じ込めたことを指してい
て、欧米のメディアもそれを批判する。でも、君
のいうのは、軽症者は入院しなくていいというこ
とを、なぜ早く判断できなかったのだ、ということ
だね。
「ダイヤモンドプリンセスが入港して、2週間以
上、乗客を待機させたわけだから、判断する時
間が少なくとも2週間はあった。繰り返しになる
けれど、その間に、①この肺炎は軽症のまま治
ることも多い②それなら全員を入院させる必要
はない③だから軽症者は入院させなくてもいー
ーということが分かったはずだ。分かっていたと
思うよ。
それなら、その2週間の間に、横浜市内のホテ
ルを1棟、借り切ればよかったんだ。そこは厚労
省がリーダーシップを取るべきだったと思う。そ
れが出来なかったのが、本当にもったいない」
――なるほどと思うけれど、でも、検査の数が増
えないのは、それだけが原因ではないだろう。
「もちろん、それだけが原因というわけではない。
でもね、4月に、さいたまの保健所長が、検査数
が少ない理由を聞かれ、意識的に減らしている
というようなことを言って、批判されただろう。あれ
は、本音みたいなものだろうね。PCRで陽性に
なったら、全員を入院させるというようなことで
は、病院はすぐに、立ち行かなくなる。
ダイヤモンドプルンセスのころから、盛んに、医
療崩壊という言葉が使われた。厚労省や専門
家、医師たちは、なによりもまず、医療崩壊を心
配したんだよ。どうして医療崩壊するかというと、
陽性者を全員、入院させるからだ」
――うん。
「それがよく分かる話がある。4月に東京の小池
知事が、ホテルを借り上げて、軽症者は入院せ
ず、そのホテルで療養してほしいと発表しただ
ろ」
――外出自粛中で、ホテル側も宿泊客が激減
していたから、都がまるまる借り上げてくれるの
は、ちょうどよかったね。
「小池知事が、軽症者のためにホテルを借り上
げます、軽症者は入院せず、そこへ入ってくださ
いと発表したら、まもなく、今度は、医師会が、
医師会としてPCRの検査センターを用意します
ということを発表したんだ」
――そうそう、あれは、連係プレーかね。
「いや、それは、分からない。でもね、医師会とし
ては、軽症者は入院しなくてもいい、ホテルでい
いです、そのホテルは東京都で用意しますーー
ということが決まったのは、大きかったんだよ。
それまでなら、PCR検査で陽性になれば、入院
させなければならないから、病室の心配をしない
といけない。医師会としても、迂闊には動けな
い。ところが、ホテルでいいというのなら、PCR検
査を、どんどんすればいいんだ。医者の立場で
いえば、それは本当にありがたいことで、それな
ら、いくらでもPCR検査をしましょうという空気が
生まれるわけだ」
――なるほどなあ。
「誤解がないように言っておくけれど、もちろん、
それだけが原因じゃないよ。保健所の人が足り
ないとか、役所仕事とかも、原因がある。保健所
の人は本当に気の毒だった。
しかし、PCRで陽性になったら全員を入院させ
るというやり方を、長くとり続けたのが、大きな原
因だと思う」
――そこを決断したのが、小池都知事だったと
いうことか。医者でもないし、いわゆる専門家で
もない。小池都知事は、政治家だ。軽症者はホ
テルに入れる、そのホテルも都で借り上げるとを
決断するのは、都知事という政治家だったわけ
だ。大事なことは、政治決断しかないということ
だな。
「そう思うよ。だってさ、軽症者はホテルにとか、
ホテルを借り上げるとか、医者とか、専門家委
員会には、そんなこと、言えないよ。言う権限も
ないしね。政治決断しかないと思うよ」
――そうだよなあ。大事なところは、政治家が責
任を持って決断するしかないね。その意味でも、
小池都知事は、えらかったね。
「そうだろ。医者には、そんなこと言えないよ」
――政府は、なにかというと、専門家の意見をと
いうんだが、まあ、それが大事なことは間違いな
いんだが、しかし、最近、専門家の意見を聞い
て、と言いすぎるね。もっと政治が判断してほし
い。
「なあ」
――ダイヤモンドプリンセスの間に、政府がホテ
ルを借り上げ、軽症者はホテルへ、と決断して
いればよかったわけだな。政府が批判されるとす
れば、そのことだね。
「あの日数は、無駄に使ってしまって、もったい
なかった」
――うん。
「ただし、公平に言えば、政府がその判断という
か決断をできなかったのには、ひとつ、大きな原
因があると思う」
――というと?
「それは、WHO(世界保健機関)だ」
――おお、WHOか。やはり、問題あるかね?
「問題ありだよ。プリンセス号の感染者が発覚し
たとき、日本だけではなく、世界各国が、まだま
だその危険性を真剣にはとらえていなかった。ア
メリカも欧州も、遠いアジアの出来事という感じ
で受け止めていたしね。日本でも、船の中に閉
じ込めておけばいいだろうという意識だったよ」
――そうだなあ。感染者を船に置いておけば、
感染は広がらないという感じだったね。
「政府も、ちゃんと対応しようとしていたけれど、
実際には厚労省に丸投げだったろ」
――そういえばそうだったなあ。あのころは、加
藤厚労相ばかり出ていたね。安倍首相はまだ
表に立っていなかった。それに、野党は相変わ
らず、桜を見る会ばかり取り上げて首相を批判
していた。
「WHOがパンデミックを宣言していれば、あのと
き、日本の対応も、各国の対応も、全然違った
と思うよ。武漢の段階でWHOがパンデミックを
宣言していれば、日本政府も、ダイヤモンドプリ
ンセス号への対応は、もっと危機感があったと思
うんだよ。医者として、パンデミックが宣言されて
いたかどうかの違いは、大きかったと言わざるを
えない」
――WHOの責任は大きいか。
「大きいと思う。武漢という大きな都市が中国政
府によって都市封鎖されたのだから、これは、ど
う見ても、パンデミックだよ。
 武漢の段階でパンデミックを出さなかったの
が、そもそもの、大間違いだと思う」
                 (止)

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