銀座に来た中国人の観光客は、バスを降りて、まず、
博品館・トイパークに入る。トイパークの次に、そこ
から一番近いデパート松坂屋に行く。そこまでが前回
の話だった。
今回はその続きだが、実は、トイパークから松坂屋に
行く間に、もうひとつ、大事な店がある。
それは、バーバリーだ。
トイパークのすぐ隣りにバーバリーの店がある。
バーバリーは、銀座3丁目あたりのマロニエゲート付
近にも店があるのだが、中国人は、トイパークのほう
のバーバリーでないとだめなのだ。
旅行社に勤める私の友人は中国を担当しているのだが、
彼によると、中国におけるブランドといえばバーバリ
ーにとどめをさすらしい。ほかのどのブランドより、
ブランドといえばバーバリーなのだそうだ。
しかも、バーバリーならなんでもいいというものでは
ない。バーバリーの中でも、バーバリー・ブラックレ
ーベルというブランドでなければならない。
ブラックレーベルというのは、バーバリーを少し
カジュアルに振った商品で、コートやジャケットが中
心だ。メンズとレディスの両方がある。
ブラックレーベルは、日本のバーバリーが開発し
たものだ。日本のバーバリーというのは、コートで有
名な三陽商会がオペレーションしている。
つまりは、バーバリーのブラックレーベルは、三陽
商会が開発したもので、まあ、日本で企画・生産され
た商品ということになる。
デザイン的には、どちらかといえば黒系の色合い
のものが多く、バーバリーのチェック柄は服の一部に
残してあるが、それも黒系の色合いなので、一見して
「これぞバーバリー」という感じではない。
しかし、これが、中国人に大人気なのだ。
銀座3丁目のほうのバーバリーの店には、こ
のブラックレーベルが置いてない。実は、3丁目のバー
-バリーは、三陽商会ではなく、本店のバーバリー・イ
ンターナショナルが経営する店なのだ。誤解を恐れずに
いえば、3丁目のほうが本店系のバーバリーだ。
しかし、中国人の観光客は、そちらには見向きも
せず、トイパークの隣りのバーバリーに来る。
そこに、お目当てのバーバリー・ブラックレーベルが
置いてあるからだ。
これには、
「へえ、中国では、そんなことになっているんだ」
と、驚くばかりである。
ブランドというのは、どこでどう評価されるのか、
さっぱり分からない。
実際に行ってみると、ブラックレーベルを扱う
バーバリー(三陽商会のほうね)は、博品館・トイパーク
のすぐ隣りのビルだ。ほとんどっくっついているので、
銀座8丁目の歩道は、トイーパークに出入りする中国人
観光客と、バーバリーを訪れる中国人観光客とで、大に
ぎわいとなっている。
さて、博品館・トイパーク、バーバリー、そして松
坂屋と重要な3つの店で買い物をしたら、もうお昼になる。
では、どこでお昼を食べるのか。
銀座だから値段はそれなりに高いし、観光バスの
大勢のお客さんがいっぺんに入られるドライブインのよ
うな施設もない。
ところが、よくしたもので、それがあるのだ。
観光バスが駐車する銀座8丁目と新橋の境の高架下には、
もともと、「肉のはなまさ」という大きな肉の店がある。
いまも一階は「はなまさ」のスーパーとしてにぎわっ
ていて、二階は居酒屋になっている。
この店の裏側、昭和通りに面したビルの地下に、はな
まさ直営の「カルネステーション」という焼肉レストランが
ある。
カルネステーションは、一人1000円で焼肉食べ放
題、1200円で焼肉食べ放題、ソフトドリンク飲み放
題――という格安の焼肉レストランだ。食い放題という
が、好きな肉や野菜を取るスタイルで、いってみれば、
焼肉バイキングだ。しかも広い。
場所も、ちょうど、バスが駐車するあたりのすぐ裏側
にある。
トイパークも、バーバリーも、松坂屋も近い。
そんなわけで、買い物を済ませた中国人の観光客は、
大挙して、このカルネステーションに来て、焼肉の食い放題
でお昼をとる。
食後はどこへ行くかということなのだが、これも決ま
っている。
よくできたもので、カルネセンターのすぐ隣りが、雑
貨スーパーの「ドンキホーテ」だ。
知っている人は自らドンキホーテに行くし、知らない
人には、添乗員が、「隣りに、ドンキホーテという安い雑
貨を扱う店があります」とアドバイスする。
ドンキホーテに行ってみると、なるほど、店内の表示
は中国語だらけだ。
商品は、腕時計、置時計、文房具、ライター、ゲーム機、
おもしろグッズと、トイパークの商品の廉価版を並べた
イメージだ。
旅行会社に勤める友人の解説によると、
「トイパークとか松坂屋で買う商品は、自分のも
の、あるいは、家族のものです。ドンキホーテで買う
ものは、それ以外の、会社の人とか、そういう人へ
のお土産のようですね」
だそうだ。
これで、銀座の買い物ツアーは、もうかなりの
時間がたっている。
しかし、ここでもうひとつ、隠れた買い物の
名所がある。
どこだと思いますか?
ちょっと考えてみてください。
******
答えは、マツモトキヨシだ。
銀座4丁目の交差点から、晴海通りを日比谷の
方に向かうと、左側、並木通りの入り口に新しいマツ
モトキヨシがある。
ここが人気スポットだ。
何が人気かというと、
・バファリンのような鎮痛剤
・風邪薬
・湿布薬
などだ。
とくにバファリンは、一番人気らしい。
バファリンのような鎮痛剤は、痛みや熱に対し
て即効性がある。
中国は漢方の大国だが、すぐに効き目がほし
いというときは、バファリンのほうがいいのだそ
うだ。そこで、みんな、バファリンを大量に買っていく。
湿布薬も同様だ。
最近の日本の湿布薬は、インドメタシン配合とか、
効果が強力になっている。
旅行社の友人によると、マツキヨに案内した中国
人の観光客は、サロンパスの湿布薬「フェイタス」を気
に入り、これはいいというので、80箱買って帰ったそ
うだ。
日本で買い物するには、ちょっと前なら、人民元を円
に交換する必要があった。そんな面倒なことをしていたら、
買い物なんかできない。
そこで切り札となったのが、中国のカード「銀聯」(ぎ
んれん)だ。
銀座の主要な店では、いまや、どこでも「銀聯」が使
える。トイパークでも、レジの所に、中国語で、「銀聯
が使えます」と表示してある。
私は、銀聯は中国のクレジットカードだと思い込んで
いたが、あれは、クレジットカードではなく、デビッ
トカードなのだという。
つまり、レジで精算すると、自動的に、銀行口座から
代金が引き落とされるのだ。クレジットカードならあ
とで払えませんでしたということが起こりうるが、デ
ビッドならその心配がない。店にとっても安心なのだ。
さて、買い物も食事も終わって、いま、中国人の観光
客が一番よく泊まるホテルはどこだろうか?
答えは、品川と高輪のプリンスホテルだ。
プリンスは、大きいし、そう高くない。
有名だ。
そして、プリンス自身も、中国に売り込みに熱心だっ
たのだという。
その結果、中国では、プリンスホテルがブランドに
なったそうだ。
尖閣列島の衝突の影響はあっただろうか?
統計を取れば話は別かもしれないが、銀座で見ている
限り、尖閣のあと、中国人の旅行者が減ったという印
象はない。
銀座という街、東京という都市に、中国人が大きな魅
力を感じていることは間違いない。
あるいは、日本という国にも、魅力を感じているとい
っていいのだろう。
MADE IN JAPAN のブランドの力も依然
として大きい。
なにか教訓的なものを引き出すなどというつもりはな
いが、銀座で中国人観光客のありようを見ていると、日
本という国の魅力、あるいは、「観光」のあり方を考えさ
せられる。
長くなったので、それはまた明日にでも。
では。
(続く)