尖閣をめぐっては、大変たくさんのコメントをいただき
ました。
ありがとうございます。
コメントの中で、オーストラリアの方からの指摘が、大変
気になりました。
オーストラリアの報道では、日本が尖閣を一方的に占拠
したいという見方になっているーーというのです。
これは、実は私も、当初から、ずっと心配していたこと
なのです。
日本政府からの情報発信が、あまりに貧弱なのです。
日本政府には、尖閣をめぐる日本の立場、主張、あるい
は、尖閣の歴史、今回の経緯などを、海外に説明しよう、
広報しようという姿勢が、ほとんど感じられないのです。
日本のことを分かってもらおうという姿勢、日本のこと
を広く知ってもらおうという考え、簡単にいえば、「広報
マインド」がないのです。
中国は、国連にアピールするなど、いろいろと手を打っ
ています。
それを見て、日本政府は、官房長官が、広報体制を作る
という趣旨の発言をしていました。
いかにも遅いのです。
中国がアピールし始めてから、日本も広報体制をーー
というのでは、遅すぎます。
遅いというより、やる気がない、といったほうがいいで
しょう。
広報マインドがないのは、尖閣に限ったことではありま
せん。
もともと、日本政府には、日本の立場を海外に知っても
らおうという姿勢がありません。
これは、政府の怠慢、外務省の怠慢、霞が関の怠慢です。
日本の官僚組織には、「広報しよう」というDNAが組
み込まれていないのです。
1990年の夏から秋にかけて、イラクのフセイン大統
領(当時)は、クウェートに攻め込みました。
いわゆる湾岸戦争の始まりです。
このとき、アメリカを中心とする多国籍軍が反撃して、
翌1991年春にクウェートを解放し、フセイン大統領を
退陣させました。
アメリカは、ブッシュ大統領(お父さんのほう)のとき
です。
このとき、日本は、自衛隊こそ派遣しませんでしたが、
アメリカに対し、多額の資金援助をしました。
総額130億ドル(1兆3000億円)もの資金援助を
したのです。
もちろん、この資金援助は、我々の税金から拠出されま
した。
ところが、政府・外務省は、これだけの資金援助をして
いることを、海外に向かって、ほとんど広報しなかったの
です。
イラクがクウェートに侵攻してすぐ、アメリカを中心
とした多国籍軍が組織され、日本政府は、アメリカに対し、
10億ドル(1000億円)の資金援助をしました。
しかし、これでは少ないという批判が出て、しばらくし
てから、30億ドル(3000億円)を追加して援助しま
した。
その段階で、合計40億ドルの拠出です。
ところが、これだけの援助をしていることを、日本政府
は、海外で、本当に何もPRしなかった。
日本が当初の10億ドルに加えて、30億ドルを追加し
たころ、ニューヨークで国連総会が開かれており、アメリカ
の国務省の報道官が、湾岸情勢をめぐって記者会見をしま
した。
たまたま、そのときの会見の様子を見たのですが、日本
人として、がっかりするような内容でした。
というのも、アメリカ人の記者が、国務省の報道官に、
こう質問したのです。
「日本は何をしているのか。資金援助をするというが、
たった10億ドルしか資金を出していないじゃないか。ア
メリカ政府はどう考えているのだ」
この記者は、日本がすでに30億ドルの追加援助をして
いることを知らなかったのです。
この記者の勉強不足というよりは、当時、日本が30億
ドルの追加援助をしたことを、アメリカ人は、だれも知ら
なかったと思います。
というのも、当初の10億ドルに加えて、すでに30億
ドルの追加援助をしたことを、日本政府がアメリカで積極
的に会見したり発表したりしたことはなかったからです。
さすがに、アメリカの国務省は、30億ドルの追加援助
を知っています。
そこで、国務省の報道官は、質問をしたアメリカ人記者
に、
「いや、とんでもない。
日本は初め10億ドルを出し、その後、追加で30億
ドルを出してくれました。
だから、日本は、いま合計40億ドルを援助してくれ
ているのです」
と解説していました。
変でしょう?
日本が30億ドルを追加拠出したことを、日本政府では
なく、アメリカの国務省が一生懸命、説明してくれたので
す。
変というより、日本人として、恥ずかしい限りです。
日本は10億ドルと30億ドルで、合計40億ドルの資
金援助をしました。
しかし、当時、日本経済は最強の時代です。
当然、アメリカからは、日本の資金援助は少ないという
批判が高まります。
そこで、年が明けて、1991年の初め、日本は思い切
って90億ドル(9000億円)の追加援助を決めました。
初めは10億ドル、続いて30億ドル、そして、今度は
90億ドルで、合計130億ドル(1兆3000億円)で
す。
すごい金額です。
湾岸戦争の戦費に役立ててほしいというわけで、これを、
日本政府はアメリカ政府に渡したのです。
このお金をまかなうために、たしか日本は、車の税金を
2年間ほど引き上げたはずです。
要は、130億ドル、1兆3000億円というお金は、
私たち国民が税金で支払ったのです。
さて、湾岸戦争は、首尾良く、多国籍軍の勝利で終わり、
クウェートは自由になりました。
戦争が終わったあと、クウェートは、ニューヨーク・タ
イムズやワシントン・ポストに、大きな広告をだしました。
広告には、
Thank you,friends
という大見出しがありました。
「友人のみなさん、どうもありがとう」
というわけです。
そして、その下に、クウェートを支援した世界各国の名
前が書いてありました。
アメリカ、イギリス、カナダ、フランス・・・と、たく
さんの国の名前が列強されています。
ところが。
その中に、JAPAN がなかったのです。
これは、問題になりました。
それはそうでしょう。
130億ドル(1兆3000億円)も資金援助したのに、
クウェートが感謝した「友人」に、入っていなかったので
すから。
130億ドルも援助したことを、日本政府は、ほとんど
まったく広報しなかった。
だから、世界は、日本がそんな巨額のお金を出したこと
を知らないのです。
こんなこと、日本国内だけで発表したってしようがない
でしょう。
これは、海外で発表しないと、意味のないことです。
ところが、日本政府、外務省は、こういうとき、本当に
海外で、何も広報しません。
尖閣も、まったく同じ構図です。
まず、尖閣は、ずっと日本の領土だったということを、
海外で説明しないといけません。昭和の初期には、ここに
海産物工場があり、日本人が働いていました。そのことを
政府・外務省が、海外で、きちんと説明しないといけませ
ん。もちろん、中国ででも、説明する必要があるでしょう。
さらに、なぜ国有化したのか、その理由、目的を、しっ
かりと説明しないといけません。
たぶん、中国は、日本政府が尖閣を国有化した狙いや背
景を、分かっていません。それは、日本政府が、ちゃんと
説明しないからです。
そうしたことを、なによりも、アメリカや欧州、そして、
オーストラリア屋ニュージーランド、さらにはまた、ベト
ナムやフィリピンなど東南アジア諸国で、各国の政府に対
してだけではなく、各国の報道機関と、各国の人々に、ち
ゃんと説明しなくてはなりません。
それには、各国で、外務省や現地の大使館が、積極的に
記者会見を開く必要があります。
しかし、不幸にして、海外諸国で、日本の外務省や大使
館が、尖閣について日本の立場を説明する記者会見を開い
たという話は、聞いたことがありません。
尖閣のことを、日本政府は、海外に向かって、ほとんど
何も広報していないのです。
これでは、もう、初手から負けでしょう。
もとより、官僚に、そうした広報マインドを期待するの
は、無理です。
であれば、政治家が、しっかりとした広報マインドを持
ち、官僚を指揮して、海外に情報発信しなくてはなりませ
ん。
このままでは、尖閣をめぐり、日本は、「情報戦争」で
負けてしまいます。
政治家でも官僚でもいい。
とにかく、日本政府の奮起が必要です。