いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

菅直人氏のスピーチ・・・言葉の耐えられない軽さと、たたずまいの悪さは、いったいなんだろう。

2011年01月14日 00時40分55秒 | 日記


  足利事件の再審で無罪となった菅家さんに刑事補
償金として8000万円が支払われることになった。
 無実なのに、17年間も服役していたのだ。
 8000万円は規定の最高額だというが、とても、そ
んな金額では足りないだろう。金額で償えるものではな
いが、国は、8億でも10億でも出すべきだろう。
 気の毒でしようがない。
 せめてこれから良い人生をと願います。

 さて、きょうは、民主党大会があった。
 きのうは、「首相」というポストに敬意を払う必要があ
ることを書いた。
 そのことを念頭に置いたうえで、きょうは、菅直人と
いう人物の「存在の耐えられない軽さ」を書きたい。

 菅直人という人の演説やスピーチ、答弁を聞いていて
感じるのは、言葉の軽さだ。
 政治家は言葉で仕事をする。
 政治家にとっては言葉が武器だ。
 国民を奮い立たせるのも、言葉だ。

 1990年代半ばにイギリスに登場したブレア首相は、
就任演説で国民を感動させた。
 彼は、就任演説で、国民に
 「かつてイギリスは、世界に領土を持ち、日の沈むこ
とのない国と言われる大国だった。
  しかし、いま、イギリスが、再度そんな大国になれ
るかというと、それは不可能だ。
そんな国を目指すべきでもない」
と語り、そして、こう続けた。
「我々は、もう、かつての大英帝国のような国には
なれないが、しかし、世界の人々が、イギリスはい
い国だ、イギリスに行ってみたいと思うような国に
なることはできる。
 我々は、そういう国を目指したい」

  この演説は、イギリスの人々の胸にしみわたり、イ
ギリスの人々はブレア首相の言葉に、明るい希望を感じ
た。
 日本の首相にも、このぐらいの演説をしてもらいたい。
 首相の言葉を聞いて、国民が明るい希望を持つような、
首相にはそんな話をしてもらいたい。

 そこで、菅首相だ。
 きょうの民主党大会で、彼は民主党の党首として、ま
ず、こんなことを言った。
 「自信を持とうじゃありませんか、みなさん」
 この言葉を菅党首は、大きな声で叫んだ。
 しかし、「自信を持とうじゃありませんか」というよう
な言葉は、大声で言われれば言われるほど、不安になる。

 さらに菅党首は、消費税の引き上げを含む税制改革の
議論を与野党の超党派で議論しようと呼びかけ、
 「野党がこの議論に応じないとすれば、それは歴史へ
の裏切り行為だ」
 と決めつけた。
 しかし、ちょっと待て。
 税制をどうするかというのは、政権党つまり民主党が
出すべき最重要な政策だ。まず、民主党が、民主党とし
ての政策を決めて提示しない限りは、何も始まらない。
 
 仮にもし野党が、初めから税制の協議に加わり、税制
改革、具体的には消費税率の引き上げが決まったとしよ
う。
 そして、その時点で、衆院の解散、総選挙があったと
しよう。
 そうしたら、国民は、与党の民主党と、野党の自民党
の、どっちに投票すればいいのだ。

 税金の引き上げを掲げて選挙に勝ったためしはない。
民主党が単独で消費税率の引き上げを決めたとすれば、
民主党は選挙で負けるだろう。
 その税金の引き上げに、民主党も自民党も両方とも
加わっていたら、国民はどっちに投票すればいいのだ
ろう。

 菅首相が、税制の議論に自民党を加えようとするのは、
選挙で民主党が負けたくないからだ。
 実際、菅首相は、昨年の参議院選挙で、消費税のアッ
プを打ち出し、それで大敗した。 

 あるいは、選挙のことまでは考えていないというかも
しれない。
 しかし、増税という難しい案件は、国会審議の紛糾が
必至だ。野党としては攻めやすい案件だ。そうなる前に
野党・自民党を取り込んでおきたいということなのだろ
う。


 どう考えても、そんなものに、自民党が乗るはずがな
かろう。そんなことをしたら、自民党自身が支持を失っ
て窮地に追い込まれる。

 それを、「議論に加わらなければ、歴史に反逆するも
のだ」とは、なんという言い草だろう。
 おおげさな言葉なのだが、実に軽い言葉になってしま
っている。

 この人は責任転嫁をする人だが、歴史にまで責任転嫁
をするとは、さすがに思わなかった。

 菅氏は、首相になったとき、就任演説をした。
 そこで使ったキャッチフレーズが、
「私は、日本を、最少不幸社会にしたい」
 だった。

「最少不幸社会」には、耳を疑った。
 
 不幸を最少にする社会ということなのだろうが、この
言葉に、「希望」を感じられるだろうか。
 
 ブレア首相の「世界の人が、イギリスに行ってみたい
と思うような国にしよう」という演説は、間違いなく、
明るい希望を感じさせてくれる。

 それに対して、「最少不幸社会」「不幸を最少にする社
会にしよう」とは、比べるのもブレア首相に申し訳な
いほど、恥ずかしい演説だ。
 
 こんな言葉を就任演説で口にする首相を持ったのは、
日本にとって、最小ではない不幸だった。

 菅首相は、選挙で消費税率のアップを持ち出したとき、
こんなことも言った。
 「強い財政にしようじゃありませんか、みなさん」。
このセンスのなさにはあきれる。
 「強い財政」を作るのは政府の役割である。強い財政
にしようじゃないですか「みなさん」と、呼びかけら
れても、国民は困る。
 そう訴えられても、国民としては
 「はあ、まあ、しっかりやってくださいよ。
  でも、強い財政って、私たちは、いったい、何をす
ればいいの?」
 と答えるしかないだろう。

 菅首相は、また、スローガンとして、
「1に雇用、2に雇用、3に雇用」
 と叫んだこともある。
 しかし、有力な雇用対策を打ち出さないまま、このセ
リフは、すぐに、つかわなくなった。

 この人は、
「強い財政を作りましょう、みなさん」
「そうじゃありませんか、みなさん」
「自信を持とうじゃないですか、みなさん」
というパターンで話すのが、定番となっている。
 これは、みずからの自信のなさの裏返しだろう。 
 自信がないから、「みなさん」を巻き込んで、責任を拡
散したいのだ。

 ここにあるのは、「言葉の軽さ」だ。
 言葉の耐えられない軽さだ。
 言葉の耐えられない軽さは、存在自体を、また、耐え
られない軽さにしている。

 別の言い方をすれば、たたずまいが悪すぎる。
 首相としてのたたずまいが、あまりにも悪いのだ。

 私たちの日本の首相には、たとえば、
 「日本は、経済大国と呼ばれたころの経済力はなくな
ったかもしれません。しかし、もう、そんな経済大国を
目指すだけが日本の針路ではない。
 世界の人が、日本はいい国だなあ、日本に行ってみた
いなあと、そう思ってくれるような国にしたいと思いま
す」
 というぐらいのスピーチをしてもらいたい。