いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

女子サッカーとインタビュー・・・豪州戦、敗戦後のインタビューは最悪でした。勉強してませんね。

2016年02月29日 22時22分07秒 | 日記


 女子サッカーのリオ五輪の最終予選が、29日、大阪で始まりま
した。
 日本は、大事な初戦、オーストラリアに1-3で敗れました。
 どうにも点が取れる雰囲気がなく、残念ながら、完敗だったよう
に思います。
 あとは、残る4試合、全部勝ってほしいですね。

 きょうは、それよりなにより、試合後のインタビューのひどさを
指摘しておきたいと思います。
 スポーツの試合後のインタビューが拙劣なことは、このブログで
も2回ほど指摘したことがあります。また同じことを書きたくはな
かったのですが、きょうのインタビューはひどかった。

 放送はNHKでした。インタビュアーも、NHKのアナウンサー
だと思います。

 若手のアナウンサーなのでしょう。
 1-3で完敗して、選手も監督も、観客席も、テレビで見ていた
私たちも、みんながっくりしているのに、インタビュアーの声が妙
に明るく、軽いのです。
 それが、第一の問題です。
 もっと悲しい感じで聞くとか、そうでなければ、静かな落ち着い
た感じで聞くとか、工夫するべきでしょう。
 このアナウンサーは、なんだか、体育会のノリで、明るく、軽く、
敗戦後というのに、気合いが入っているのです。
 これはもう、それだけで、最悪です。 

 次に、インタビューの質問が、これまた、最悪でした。
 質問の内容が陳腐なのです。
 インタビューに応じたのは、佐々木監督、宮間選手、大儀見選手
の3人です。

 冒頭、陳腐も陳腐、佐々木監督に、いきなり
 「厳しい試合でしたが、どうだったでしょう」
 というような質問をしました。
 こんな負け方をした後、「どうだったんでしょう」と聞かれても、
答えようがありません。
 せめて、「監督、残念でした」ぐらいにしておけば、佐々木監督
も、「うーん、本当に残念でした」ぐらい答えていました。
 佐々木監督は、明らかに、いろいろ話したそうな雰囲気でした。
 マイクさえ向けておけば、もっと話してくれたのではないでしょ
うか。
 それなのに、このアナウンサーは、試合の内容にはほとんど触れ
ません。
 試合を見ている私たちとすれば、後半、日本がずっと押し気味に
進めていたのに、点が入らないもどかしさがありました。せっかく
インタビューしているのですから、監督に対して、「後半、ずっと
押し気味でしたが、点、入りませんでしたね」ぐらいのことを聞い
てほしかった。そう聞かれたら、佐々木監督も、「そうなんですよ。
点が入らなくて、私も、どうしようかと」ぐらいのことは答えてく
れて、もしかすると、もっといろいろ話してくれたかもしれません。
 ところが、このアナウンサーは、それもせず、やおら、「1日お
いて韓国戦ですが、どんな試合を見せてくれますか」と聞いたので
す。
 どんな試合もこんな試合も、もう、次は勝つしかないでしょう。
 それなのに、「どんな試合を見せてくれますか」と聞いたら、聞
かれた方も、答えようがありません。
 そして、最後は、おきまりの「お疲れさまでした」です。ところ
が、佐々木監督は、この「お疲れさまでした」を受けて、自分から、
「みなさん、せっかく応援していただいたのに、期待に応えられず、
申し訳ありません」と話してくれました。
 そうなんです。佐々木監督は、この敗戦に納得がいかず、いろい
ろ話したくて仕方なかったんだと思います。
 それなのに、このNHKのアナウンサーは、インタビューで、佐
々木監督が話そうとしているところを、ことごとく、邪魔してしま
いました。
 これほどひどいインタビューは、ちょっとないでしょう。

 次に、宮間選手と大儀見選手のインタビューです。
 このアナウンサーは、いよいよ、とんちんかんな質問をしていま
した。
 最初に、やはり、おきまりの「どうでしたか」というつまらない
質問をした後、もっとひどい質問をしました。
 なんと言ったか。
 宮間選手には、「この試合、物足りなかったですか」と聞いてい
ました。
 大儀見選手には、「この試合、物足りないところがあるとすれば、
どういうところでしょう」と聞きました。
インタビューの部分は、録画していなかったので、正確な言い方
は覚えていませんが、この二人の選手に対し、「この試合、物足り
ない」という言い方をしていたことは、間違いありません。
これはまた、なんというひどさでしょう。
 1-3で負けたんですよ。
 それなのに、「物足りない」とはいったい、何ということでしょ
う。
 物足りないとか、そんなことではないでしょう。
 そんなことではなく、選手にしてみれば、いや、私たちも、悔し
くて悔しくてしようがないというところでしょう。
 それを、「物足りない」と言葉を使って質問するというアナウン
サーは、もう、失格でしょう。
 
 この質問に、宮間選手も、大儀見選手も、むっとした顔をしてい
ました。とくに、大儀見選手は、怒ったような雰囲気でした。

 そして、この二人の選手にも、判で押したように、「1日置いて
韓国戦、どんな試合を見せてくれますか」と聞いていまいした。
 このアナウンサーには、大阪弁で「あほか」と言いたい。
韓国戦のことを聞くのは、100歩譲って、まだ、よしとしまし
ょう。しかし、「どんな試合を見せてくれますか」とは、いったい、
なんという質問でしょう。
どんな試合もなにも、勝つしかないでしょう。
 
 ここで、このアナウンサーが聞いた質問は、試合を見てなくても、
聞けた質問です。
 アナウンサーは、インタビューをするために、大阪のキンチョウ
スタジアムで、一番いい場所で、試合を見ていたわけです。
 それなら、その試合を、間近で観戦した人ならではの質問をしな
さい。
 
 今夜は、日本が完敗し、がっくりしました。
 そして、その後のインタビューで、インタビュアーの稚拙さに、
情けなくなって、敗戦の痛みが倍加してしまいました。

 NHKも、民放も、試合後のインタビューを、もっと訓練しない
といけません。社内で、指摘する人はいないのでしょうか。
 こんなことやっていると、せっかくのスポーツ中継が、台無しに
なってしまいます。
猛烈に反省してほしいですね。





大統領候補とTPP反対・・・アメリカはどんどん内向きになってきました。世界が混沌としていきます。

2016年02月28日 23時39分50秒 | 日記

 アメリカの大統領選挙を見ていて、いちばん心配になるのは、ど
の候補者も、言うことが、どんどん内向きになっていることです。
 いま、アメリカ以外に、世界を牽引できる国は、ちょっと見つか
りません。
 アメリカは、もともと19世紀から、世界から孤立して独自の道
を行きたいというモンロー主義を取る傾向のある国です。
 今回の大統領選挙を見ていると、伝統のモンロー主義が、顔を出
しているようで、それが非常に心配です。

 典型的な例がTPP(環太平洋経済連携協定)です。
 TPPは、オバマ政権が音頭を取ってスタートした構想で、中国
を除く太平洋諸国で自由貿易圏を作ろうというものです。
 中国を除くというところにミソがあります。もちろん、台頭する
中国を牽制しつつ、アメリカとその同盟国で、経済圏を作ろうとい
うわけです。
 日本も、甘利前経済相を中心に厳しい交渉を続け、昨年末、よう
やく合意にこぎつけました。
 各国は、これから、それぞれの国内で批准する作業に入ります。
 
 ところが、ここへ来て、当のアメリカの大統領候補者が、ことご
とく、TPP反対を打ち出しているのです。

 民主党の有力候補であるヒラリー・クリントン氏は、はっきりと、
「TPPには反対する」と明言しました。

 その理由は、TPPは、アメリカに雇用増加をもたらさないから
だそうです。雇用増加をもたらさず、所得格差も広がると言うので
す。そして、前回の当ブログでも書いたように、「中国や日本の通貨
安誘導には断固たる措置を取る」と言います。


 TPPは、ひとことで言えば、自由貿易圏を作ろうというもので
す。
 簡単に言えばヒラリー氏は、自由貿易には反対という立場を打ち
出しているということになります。

 せっかく、アメリカがリードして自由貿易圏を構築するという構想
を打ち出し、各国との交渉もまとまったのに、ヒラリー氏は、
それよりもアメリカの雇用が大事だ、というわけです。
 国際的な自由貿易圏を作るより、自国の雇用のほうが大事だと、
ヒラリー氏は、そういうわけです。
 ヒラリー氏が、これほど内向きなことを言い始めるとは、ちょっと
思いませんでした。

 
 民主党でヒラリー氏に対抗するバーニー・サンダース候補は、「T
PPを含め、自由貿易協定に反対」と、はっきり、自由貿易に反対
するという考えを示しています。


 民主党は、もともと、労働組合をバックにしているので、海外か
ら安い製品が入ってきてアメリカの労働者の仕事が厳しくなるのを
避けようとします。
 しかし、有力候補者が、ここまで、自由貿易に反対という姿勢を
見せるのは、労働組合に配慮しすぎです。
 
 とくにヒラリー氏は、TPPを始めたオバマ政権の国務長官を務
めていました。それが、大統領候補になったら、一転、TPPに反
対とは、いったい、何を考えているのだろうと言わざるをえません。
 こんなに簡単に、手のひらを返すように、政策や考え方を変えて
しまっていいのでしょうか。

 民主党と違って、共和党は、伝統的に、自由貿易を推進してきま
した。
 ところが、今回の大統領選挙では、様子がまるで違います。
 異色の有力候補ドナルド・トランプ氏は、「TPPは最悪の協定
だ」と切り捨て、ヒラリー氏と同じように、「中国と日本は自国通
貨を安くして輸出している」と指摘しています。「とくに中国から
の輸入には45%の関税をかける必要がある」と、言いたい放題で
す。

 対抗馬のマルコ・ルビオ氏は、共和党の主流派として、初めはT
PPに賛成としていたのに、最近の流れを見て、「賛否を保留する」
と言い始めました。



 もうひとりの共和党の候補、テッド・クルーズ氏も、やはりTP
Pには「反対」を明言しています。

 アメリカは、民主党と共和党とに考えが分かれていても、アメリ
カという国の共通の価値観に関する部分では、党派の違いを超えて、
同じ行動を取るというところがありました。
 アメリカが世界をリードするという考え方が、まさにその共通の
価値観のひとつでした。

 ところが、今回、ヒラリー氏も、サンダース氏も、トランプ氏も、
ルビオ氏も、有力な候補者は、みな、「世界のことより、アメリカ
が大事」という考えを強調しています。
みな、内向きなのです。
 もう、アメリカが世界のリーダーたることをやめて、アメリカ一
国のことだけを考える。
 今回の大統領選挙で、そういう傾向が、はっきり見えてきました。

 こうなると、欧州や中東は、「アメリカは頼りにならない」と考
えるでしょう。中国とロシアは、「アメリカを恐れる必要はない」
「アメリカ、恐るるに足らず」と思うでしょう。

 アメリカが内向きになって、アメリカ国内のことしか考えなくな
ると、世界はさらに混沌としてきます。もう、それは、目に見えて
います。
 今回の大統領選挙を見ていて、我々は、日本は、これから先、混
沌とした世界とどう付き合っていくのか、ちょっと気が重くなって
きました。




トランプ氏と国際情勢への無知・・・駐留米軍はアメリカのためにあります。

2016年02月27日 23時11分17秒 | 日記

アメリカの大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ氏の勢い
が止まりません。
 その発言を聞いていると、ほとんど、暴走といっていいほどです。
 トランプ氏は、事実を誤認して、発言しています。あるいは、時
事実を表面だけなぞって、発言しています。
 それが、一番やっかいです。

 2月25日にテキサスで開かれた討論会では、在日米軍をめぐっ
て、こんなやりとりがありました。

 トランプ氏「アメリカは、いつまでも、日本や韓国を守ることは
出来ない」
 マルコ・ルビオ候補(上院議員)「いや、日本は、駐留米軍の費
用を一部負担している」
 「駐留米軍がいなくなれば、日本も韓国も、核保有国になるだろ
う」
 トランプ氏「駐留米軍がいなくなるなんて言ってない。日本にも
っと金を払わせたいんだ」
 
 ここで問題になるのは、「アメリカは、いつまでも、日本を守る
ことは出来ない」という部分です。
 この認識だと、米軍は、日本を守るために、日本、具体的には、
沖縄や岩国、横須賀、佐世保、厚木などに駐留しているということ
になります。

 これは、根本的に間違っています。
なぜか。
 米軍が日本にいるのは、実際のところ、その最も大きな理由は、
それがアメリカに必要だからです。
 もちろん、日米安保条約で、アメリカは有事には、日本を守ると
いうことになっています。
 
 しかし、根本的には、米軍が日本に駐留するのは、日本を守るた
めではなく、日本に駐留するのが、アメリカにとって必要だからです。
 米軍が日本に駐留しているのは、根本的には、アメリカ自身のため
です。

 第二次大戦が終わって、東西冷戦が始まりました。
 そのとき、ソ連が太平洋に進出してくるのを抑えるには、日本が
必要だったのです。
 日本は、ユーラシア大陸から見ると東の端に当たりますし、太平
洋から見ると西の端に当たります。
 もし、日本がソ連の陣営に属していれば、ソ連は、何の抵抗も受
けず、太平洋に出てくることが出来ました。
 かつて、中曽根首相が、アメリカのレーガン大統領に「日本を不
沈空母と考えてほしい」と言ったのは、まさしく、その認識に基づ
いたものでした。不沈空母として、ソ連の太平洋進出を阻むという
わけです。

 ソ連が崩壊し、東西冷戦はひとまず解消しました。
 ところが、その代わり、突然、中国が海に進出してきました。
 中国は、いま、西沙諸島、南沙諸島を埋め立て、南シナ海を自国
の領海にしようとしています。
 これは、中国の南方の海です。
 しかし、東方の海、太平洋に進出しようとしても、中国から見て、
まさに太平洋への出口に、日本があります。
 日本が中国の同盟国なら、中国は、いくらでも太平洋に出て行け
るでしょう。
 実際は、日本がアメリカの同盟国で、米軍が駐留しているからこ
そ、中国は、南シナ海には出ていっても、太平洋にはなかなか出て
いけないのです。

 ですから、米軍に日本に駐留するのは、まさしく、アメリカが自
国の利益だと考えるからなのです。

 もちろん、同盟国である日本を守るという意味があることも間違
いないでしょう。
 しかし、それはあくまで二番目の理由、サブの理由です。
 一番目の理由、メインの理由は、アメリカの利益のためです。
 
 尖閣諸島を中国が占拠しようとしたら、アメリカは尖閣諸島を防
衛するかどうか、という問いを、日本側が、何度かアメリカに投げ
かけたことがあります。
 アメリカの答えは、大変あいまいでした。
 アメリカの答えがあいまいだったというのが、米軍が日本に駐留
する意味をよく示しています。
 アメリカにとって、尖閣諸島の存在は、そう重要な問題ではない
のです。
 日本にとっては重要な問題であっても、アメリカからすれば、も
し尖閣を中国が占拠しても、それほど、死活的な問題ではない。
 尖閣が太平洋側にあれば、アメリカは間違いなく、尖閣を防衛し
ようとするでしょう。尖閣が太平洋側にあれば、それは、アメリカ
にとって非常に重要な存在になるからです。

 さて。
 こうやって見てくると、トランプ氏が、「アメリカは、もう、あ
まり、日本を守ることが出来ない」というのは、そもそもおかしい
のです。
 というのは、アメリカは、自国の利益のために日本に米軍を置い
ているからです。日本を守るという意味ももちろんありますが、そ
れは、二義的な目的です。一義的な目的は、アメリカを守るためで
す。

 もちろん、アメリカは、決して、駐留米軍はアメリカを守るため
に置いてあるなどとは、決して言いません。
 言わないのが、外交というものでしょう。

 日本も、それを知りつつ、駐留米軍に日本を守ってもらうよう、
持っていくわけです。
 それが外交というものです。

 トランプ氏は、簡単に言って、そういう事情を知らないで発言し
ています。
 ひとことで言えば、国際情勢、国際関係を何も知らないというこ
とです。

 国際情勢を知らない人が、アメリカの大統領になるというのは、
ほとんど悪夢でしょう。

 ワシントン・ポストが、25日の社説で、トランプ氏を強く批判
し、トランプ氏の大統領就任は「考えるだけでも恐ろしい。止めな
くてはならない」と主張しました。
 そして、「共和党は、このまま何もせつに堕落していくのか」と、
共和党に対しても、激しく批判しました。

 まったくその通りだと思います。
 本当に、アメリカは大丈夫かと心配します。


クリントン氏の古い認識・・・国際経済の変革を全く認識していません。アメリカは大丈夫か?

2016年02月24日 21時58分41秒 | 日記

 アメリカの大統領選挙を見ていて、がっかりすることが多くなり
ました。アメリカという国は、知性が後退してしまったのではない
かと、心配してしまいます。
 トランプ氏のような候補者が支持を集めていることを指すのかと
いうと、いや、今回は、むしろ、クリントン氏のことです。

 民主党の有力候補、ヒラリー・クリントンは、もちろん、クリン
トン元大統領の奥さんで、オバマ大統領の第一期の国務長官でした。
 アメリカの知識層を代表するような人物です。

 このヒラリー氏が、23日、中国や日本、ほかのアジア諸国は、
自国通貨を安くすることで人為的に商品の価格を下げてきたと指
摘、不正は商慣行と戦うと主張しました。
 また、TPP(環太平洋経済協力協定)にも、TPPはアメリカ
の雇用創出や賃金引き上げにつながらないので、反対だと主張しま
した。
 これは、アメリカの新聞にヒラリー氏が寄稿したもので、それを、
23日の朝日新聞の夕刊が伝えました。
 ヒラリー氏は、その前から、すでに、そういう感じの主張をし始めていました。

 同じように、共和党のトランプ氏も、もう早くから、中国と日本
は、不公正な貿易でアメリカに輸出を増やし、アメリカの富を奪っ
ているということを訴えています。

 トランプ氏は、まあ、ごらんのような人物ですから、いかにも、
そういう主張をするだろうと受け止めることが出来ます。

 しかし、ヒラリー・クリントン氏は、アメリカの知識層を代表す
るような人物であり、長く、ワシントンで政治の世界に携わってき
た人です。
 そういう人が、いまさらのように、日本は円安誘導で輸出してい
るというようなことを主張するようでは、がっかりしてしまうので
す。

 というのも、ヒラリー氏の主張は、1970年代から1990年
代前半まで、とくに、1980年代の日米貿易摩擦が華やかだった
ころのアメリカの言い分です。
 ヒラリーさん、あなた、いったい、いつの話をしているんですか?
と問い正したいようなことです。

 80年代、日本はアメリカに対し、ものすごい額の貿易黒字を出
していました。
 80年代、日本の貿易黒字は、ひと月で50億ドル、いまの為替
レートでいえばたった一か月で6000億円の黒字を出していたの
です。当時の為替レートは1ドル=240円ぐらいでしたから、5
0億ドルといえば1兆2000億円です。それだけの黒字を、その
ころの日本は、わずか一か月で出していたのです。
 ですから、1年間の日本の貿易黒字は、年によって違いますが、
だいたい、500億ドルから1000億ドル、いまのレートで6兆
円から12兆円ぐらいに達していました。

 この貿易黒字で、日本は、アメリカや欧州から激しい批判を受け
ます。
 批判の一番手は、アメリカでは、自動車のビッグ3です。とくに、
クライスラー自動車のリー・アイコッカ会長は、日本は円安で安い
車をアメリカに輸出していると、口を極めて批判していました。
 欧州では、イギリスのサッチャー首相です。サッチャー首相は、
当時の1ドル=240円ぐらいの円相場を、「日本は為替を円安水
準に維持する政策を取っている。日本の為替は、表面的には自由な
相場ということになっているが、実際は、政府が管理するダーティ
・フロート(汚い自由相場)だ」と、批判していました。

 こういう批判を受け、1985年9月に、ニューヨークのプラザ
ホテルに日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスの5か国(G
5)が集まり、それまでの円安・ドル高を円高・ドル安似変えよう
という合意を結んだのです。
 それをプラザ合意といいます。

 ここから、円高が始まり、紆余曲折を経て、現在の1ドル=11
0円台という水準になるわけです。

 そして、こうした円高で、日本の輸出はすっかり減り、企業は海
外に工場を移転しました。
 いま、日本の貿易収支は、巨額の黒字どころか、赤字基調となっ
ています。

 もう、日本の貿易、いや、経済構造は、すっかり変わってしまっ
たのです。
 「日米貿易摩擦」という言葉も、2000年代に入ってから、聞
くこともなくなりました。
 日本がかつてのような貿易黒字を出していない以上、貿易摩擦と
いうものは、アメリカとの間では、まず、ありえないのです。

 ヒラリー氏の夫、ビル・クリントン氏が大統領になった1990
年代前半は、日本が貿易黒字を抱えて、まだまだアメリカから批判
されていたころです。
 ヒラリー氏の「日本は円安で輸出している」という言い方は、夫
のビル・クリントン氏が大統領だったことなら、まだ、通用しまし
た。
 しかし、それから20年以上の時を経て、日本経済のありようは
もうすっかり変化し、アメリカとの間で、当時のような貿易摩擦を
抱えることもなくなってしまったのです。

 ところが、ヒラリー氏は、いま、2016年という年に、突然、
「日本は円安で輸出をしている」というようなこと言い始めたので
す。
 ヒラリーさん、あなたは、いったい、いつの話をしているのです
か、というのは、まさにそのことです。

 もしかすると、ヒラリー氏は、夫のビル氏が大統領をやっていた
ころの感覚で、まだ、モノを言っているのかもしれません。
 ヒラリー氏は、さっきから書いているように、アメリカの知性を
代表するはずの人物です。
 その人が、いまさらながら、日本は円安で輸出を、みたいなこと
を言い出すと、私は、がっかりしてしまいます。
 ヒラリーさん、あなた、この20年、30年の国際経済の変化を、
まったく分かってないんですね?と。
そう。
 分かってないとしか言いようがありません。

 いま、当時の日本の位置にいるのは、中国です。
 中国に対しては、ヒラリー氏の言い方は、まだその通りでしょう。
 しかし、中国と日本を一緒くたにするようでは、つい最近まで国
務長官をやっていたのは、いったい何をしていたのですかと、尋ね
たくなるような話です。

 トランプ氏のことも触れておきましょう。
 トランプ氏は、1980年代から90年代前半にかけ、若き不動
産王として、ニューヨークで名前をはせました。
 そう。年代的には、日米貿易摩擦が激しいころです。
 ですから、トランプ氏は、当時の「日本は円安で輸出を増やして
いる」という批判のまっただ中にいました。
 そして、いまも、そのときの考え方のまま、話をしているのです。
この人もまた、国際経済がすっかり変わってしまったことに、思
い至らないのです。
 
 ヒラリー・クリントン氏は、民主党で最有力の大統領候補です。
 トランプ氏は、いっときはエキセントリックな候補でいずれは消
えると思われていましたが、いまや、共和党で最有力といっていい
ような候補になってきました。

 このままでは、オバマ大統領のあとは、クリントン大統領か、ト
ランプ大統領です。

 困ったことに、クリントン氏も、トランプ氏も、1980年代、
90年代の、古いイメージで、政策を訴えているのです。
 時代は、もうとっくに変わってしまったのに、なお、80年代、
90年代の認識で、政策を語る。
 超大国アメリカの大統領候補が、古い認識で、いまという時代を
語ろうとしている。
 もちろん、いまここでは、経済分野のことを取り上げて記しました。
 しかし、経済は、国のもっとも基礎をなすものです。
 その経済でその程度の認識しかないのなら、政治も軍事も、科学
も、同じように、古い認識で、いまという時代を見ているのではな
いか。
 そういう不安、大いなる不安を抱かせます。

 こういう人たちが、有力な大統領候補であるということを見てい
ると、アメリカという国は、いったい、どうしてしまったのか。い
ったい、人材はどこに消えてしまったのか。
 アメリカという国は、もしかすると、知性が後退してしまったの
ではないかと、そう心配せざるをえないのです。

 本当に心配です。
 大丈夫か、アメリカ?










苗場のスキーW杯と懐かしい名前・・・文化はこうやって豊かに蓄積されていきます。

2016年02月16日 17時13分04秒 | 日記


 2月13日、14日の週末、新潟県の苗場スキー場で、スキー
のワールドカップ(W杯)が開かれました。日本は、かつて、スキー
のW杯が毎年開かれており、会場は、新潟の苗場か、北海道の富
良野でした。
 しかし、バブルの崩壊後、スキーの人気が低迷し、スキー人口
も減ったため、W杯も、日本では開かれなくなってしまいました。
 スキーファンとしては寂しい限りです。
 苗場のW杯は、10年ぶりの日本開催だったということです。
 今回の苗場大会は、にわかに気温が上がり、雨も降って、
必ずしも良いコンディションではありませんでした。でも、コー
スは日本特有の丁寧さできれいに仕上がり、観客も予想以上に集
まったため、各国から参加した選手には、非常に好評だったよう
です。そのため、来季以降も、開催が検討されているということ
で、スキーファンにとっては、うれしい話です。

 さて、その中で、各国から来た選手に、非常に懐かしい名前が
いくつかありました。

 まず、14日の男子回転で優勝したフェリックス・ノイロイタ
ー選手(ドイツ)です。
 ノイロイターという名前は、スキーの世界では、有名な名前で
す。お父さんのクリスチャン・ノイロイターさんは、かつて、回
転の名手で、1973年、75年の苗場W杯で、2位、3位に入
っています。
 それになにより、ノイロイター選手のお母さんです。
 お母さんは、ロジ・ミッターマイヤーさんといいます。
 あっ、覚えている、という人もいらっしゃるでしょう。
 1972年の札幌五輪に出場し、当時の記録を探してもちょっ
と見当たらないのですが、回転で5位に入賞していたはずです。
苗場では、73年のW杯で4位でした。
 ロジ・ミッターマイヤー選手が花開いたのは、札幌の次のイン
スブルック五輪で、回転と滑降の2冠に輝きました。
 その二人が結婚して、息子さんが、今回優勝したフェリックス・
ノイロイターだったというわけです。
 フェリックス君は、苗場から、インターネットを通じて、苗場
のゲレンデやホテルを両親に見せ、両親は、「40年前とまったく
同じだ」と喜んでいたということです。

 ドイツだけではありません。
 アメリカチームには、ティム・ケリー、ロビー・ケリーという
兄弟の選手が来ていました。
 この二人のお母さんとおばさんが、なんと、あのコクラン姉妹
なのです。
 といっても、スキーファンであっても、ちょっと分からないなあ
という方がいらっしゃるでしょう。
 説明しましょう。
 
 72年の札幌五輪で、女子回転で優勝したのは、バーバラ・コ
クラン選手でした。優勝後、表彰台で笑顔が、いかにもアメリカ
人らしい、あけっぴろげで、はじけるような笑顔でした。
 コクラン選手は、コクラン3姉妹として、有名でした。
 長女が、マリリン・コクランさん
 次女が、バーバラ・コクランさん
 3女が、リンディー・コクランさん
 です。

 次女バーバラ・コクランさんが、札幌五輪の回転金です。
 長女マリリン・コクランさんは、73年の苗場W杯で、女子大
回転を制しています。
 そして、3女のリンディー・コクランさんが、ティム・ケリー
とロビー・ケリーのお母さんなのです。

 今回、ティムとロビーは、73年の苗場で優勝した伯母のマリ
リン・コクランさんから、優勝したときの苗場のゼッケンを託さ
れ、それを、苗場に持ってきました。
 東京の新聞ではそのことは報道されませんでしたが、地元・新
潟の新潟日報(2月14日朝刊)には、マリリン・コクランのゼッ
ケンを持つティムとロビーの兄弟の写真と記事が掲載されてい
ます。




 新潟日報によると、2人はにっこり笑いながらゼッケンを持ち、
ティム選手は、「伯母は、苗場では、人は優しく、すごくいい思い
出だったと話していました。ゼッケンを見せることで、苗場の人
に恩返しになると、今回、ゼッケンを持たせてくれました」と話
しています。
 
 ロジ・ミッターマイヤーと、バーバラ・コクランの名前を、こ
んなところで、聞くとは思いませんでした。
 ロジ・ミッターマイヤーは、ドイツ人らしい名前で、いかにも
力強い滑りでした。
 バーバラ・コクランは、さっきも書いたように、アメリカ人ら
しいはじけるような笑顔が素敵でした。 

でも、本当に、これは、いい話です。
 札幌五輪や、苗場のW杯に出場し、名前を残した選手の子供
たちが、また、日本に来て、試合をする。
彼らも、また、日本のことを、親や伯母の名前とともに、心
に刻むことでしょう。
日本のスキー文化は、スキーを文化というのも変ですが、こ
の場合、文化といいたいような気分です。日本のスキー文化
は、こうやって、日本から海外に、海外からまた日本に、そ
して、親から子へ、人から人に受けつがれ、文化として、底
辺を広げ、蓄積されていくのです。
文化は、こうやって豊かになっていくんだと、そういう思い
がして、どこか、うれしくなります。

72年の札幌五輪も、70年代の苗場W杯も、開いた甲斐が
ありましたね。
本当に、よかったと思います。



献金で政策に影響は「ない」ことを証明?・・・民主党の岡田代表には、がっかりです。それは怠慢です。

2016年02月10日 17時03分56秒 | 日記


 民主党の岡田代表の発言を聞いていると、正直、がっかりするこ
とが少なくありません。
 さきごろ、国会で、岡田代表と安倍首相のやりとりがありました。
 甘利・前経済相が、不透明なお金をもらったという疑惑を受け、
辞任したことで、岡田代表が、次のように質問しました。
 「そこで首相、2日の本会議での質問で、安倍内閣の政策が政治
献金で影響を受けることはないと断言されたが、何を根拠に断言し
たのか」。

 安倍首相は、むっとして、ひとこと「ないからです」と答えまし
た。

 これに対し岡田代表は、
 「政治献金で影響を受けることはないと断言した以上は、その根
拠を示さなければならないのは、あなたではないか」
 と迫りました。

 安倍首相は「ないものをないと証明するのは、悪魔の証明だ。あ
るものをあるというのなら、具体的な例をあげてほしい」と応じま
した。
 思想信条は別にして、これはもう、安倍首相の言うことが正しい。
 ないものをないとは、証明できないのです。

 小学校で、だれかの消しゴムがなくなったとします。
 いじめられっ子がいて、かわいそうに、そのいじめられっ子に疑
いがかかります。
 もちろん、身に覚えのないその子は、
 「ぼくはやってない」
 と言います。
 そこで、いじめっ子を筆頭にして、周囲のみんなが、
 「やってないなら、証明してみろ。盗ってないのなら、証明だき
るだろう」
 と迫ります。
 いかにも、ありそうな光景です。

 しかし、「やってないもの」を証明するのは、不可能です。
 これを、大げさな呼びかたですが、「悪魔の証明」と呼びます。
 悪魔がキリストを試したという聖書の話に基づくともいわれます
が、そこは、たぶん、諸説あるのでしょう。
 ともあれ、ないものを、ないと証明するのは、不可能です。
どんなに「ない」といってみても、たったひとつ、実例が発見さ
れれば、それまでです。
 逆に、あることを「ある」と証明するのは、可能です。たったひ
とつ、実例を見つければいいのですから。

安倍首相は、「献金によって政策が影響されることはない」と言
いました。影響されることは「ない」というのです。

 これを証明するのは、ほとんど不可能です。
 少なくとも、現在までは、「ない」。
 じゃあ、これまでの政策で、影響されたことは本当に「なかった
のか」、説明しなさい、証明しなさいーーと要求されたら、いった
い、どうやって、証明しますか?

 これは、論理展開がおかしいのです。
 「ないことを証明せよ」と、相手に証明を求めるのであれば、実
は、そうではなくて、それを要求した人が、「ある」「あった」こ
とを証明するのが筋なのです。

 小学校の例でいえば、いじめられっ子に「やってないことを証明
しろ」と責めるのではなく、責める側が「やったのを目撃した」と
いうふうに、説明しないといけないのです。

 ですから、岡田代表も、この場合、
 「安倍内閣の政策が、献金によって影響された例を、私は、知っ
ている。具体的には、これだ」
 と、説明しないといけないのです。

 悪魔の証明は、証明を求める側は、なんの労力もいりません。
 ただ、「ないことを証明しろ」と迫れば、それですむのです。
 岡田代表も、同じことで、安倍首相に、
 「政策が献金に影響されないということを証明せよ」
 と、ただ、言えばすんでしまうのです。

 もっといえば、岡田代表は、あるいは民主党は、安倍内閣の政策
が献金に影響された例を、独自に探したり、掘り起こしたり、とい
う努力を、何もせずに、すんでしまうのです。

 そうです。
 甘利・前経済相の疑惑で、民主党の追及がだるいのは、なにか独
自に掘り起こそうという姿勢や努力が、ほとんど見られないからで
す。
 ただ、「証明せよ」と、言葉だけで追及しても、まったくなんの
意味もありません。

 甘利氏の辞任で、安倍首相の支持率が上がったという世論調査が
ありました。
 民主党も首をかしげているそうです。

 しかし、そんなことは、簡単な理由です。
 国民が、最大の野党である民主党に求めているものは、民主党な
らではの政策、民主党ならではの政治です。
 甘利氏のケースは、それは、もう、けしからないことです。
 しかし、その疑惑を追及すれば、それで国民がいまより民主党の
を支持するようになるかというと、そんなことはないのです。

 岡田代表の、ただ言葉だけの追及の背後に、民主党の怠慢がある
ことは、すぐにわかってしまうのです。

 それがわからない限り、民主党の未来は、暗いですね。




政治家と口利き・・・口利きが違法というわけではありませんが、甘利氏はゆるすぎました。

2016年02月04日 18時07分36秒 | 日記


 千葉県の建設会社が、再生機構(UR)への口利きを、甘利経
済相とその秘書に依頼し、秘書にお金を渡していたという疑惑が
報じられ、甘利経済相は、辞任しました。

 ここで、問題になるのは、「口利き」です。

 普通の市民が、市や県、警察、あるいは、公的組織に、何かし
てもらいたい。しかし、普通の市民は、市や県に働きかけるすべ
もない。市や県に足を運んでも、何課に行けばいいのかわからな
いでしょう。行ったところで、門前払いされるかもしれません。

 そういうとき、どうするか。

 そういうときは、よくあるのは、地元の市会議員、県会議員、
国会議員に頼みに行くことです。
 どうやって頼むかといえば、いくらなんでも、議員に直接頼み
に行くことは難しい。議員は、議会のあるときは、議会にいて地
元にいません。
 しかし、地元には、議員の事務所があります。
 その事務所には、秘書がいて、市民からの依頼や陳情、クレー
ムを受け付けています。

 市議、県議、国会議員、いずれを問わず、もし、有権者がその
事務所に来て、何か相談事を持ち込んだら、決して、門前払いに
したりはしません。だいたい、秘書なり、事務スタッフなりが、
話を聞いてくれるのではないでしょうか。
 相談事とか、陳情とか、なんでも、話を聞いてくれます。

 知り合いの議員に話を聞くと、とにかく、いろんな相談が持ち
込まれるそうです。
 地域のゴミ出しの曜日や方法を再調整してほしいとか、小学校
の通学路の安全を確保してほしいとか、そういう相談にまじって、
駐車違反で切符を切られたがもみ消してもらえないだろうかとか、
就職や資格試験でなんとかならないだろうかとか、いわゆる
「便宜を図ってほしい」という相談もよく来るそうです。

 小泉首相の秘書だった飯島勲氏が、今週号の週刊文春に、政治
家と口利きについて、おもしろいことを書いています。もちろん、
首相になる前のことです。
 引用します。

 「国家試験絡みの陳情も多くてさ。政治家に頼めば、合否の結
果まで変えられると信じている受験者もいてね。冗談じゃないよ。
合格者の発表まで20分を切ったら、その結果の連絡だけは許す、
ってルールで仕切ったけどね」
 「悪質な議員事務所は、陳情を受けても何もせず、ごうかくお
めでとうって連絡だけ早くてさ。口利きのおかげと思い込んじゃ
う受験者から、体よくお礼を巻き上げるんだから。
 はっきり言っとくけど、そんな裏口合格、ありえないぜ」
 
 ――というのです。
 
 これで分かるのは、まず、いまでも、試験絡みで議員にお願い
する人がいるということです。
 しかし、議員が合否に影響を与えることは、さすがに無理です。
 そうはいっても、合否の正式な発表の前に、合否の連絡
を受ける程度の影響力を持った議員もいるということです。
 そしてまた、合否が早く分かることを悪用する秘書もいるらしい
ということですね。

 実は、与党ではなく、むしろ、野党の議員、議員事務所のほう
が、まじめに、きちんと、陳情や相談を受け付けてくれたりしま
す。次の選挙のことを考えると、野党こそ、陳情をたくさん受け
付けて、支持を増やしたいからです。

 陳情や相談を受けた議員や議員事務所、秘書は、市や県、国に、
働きかけます。
 これは、議員にしてみれば、日常的な活動です。
 これを「口利き」といえば、間違いなく、「口利き」です。
 口利きという言葉のイメージが良くないのですが、有権者の陳
情や相談を、行政、まあ、具体的にいえば、役所につなげるのは、
議員の日々の仕事のひとつでしょう。
 市会議員の選挙公約を見ると、必ずといっていいほど、
 「地域のみなさんのために働きます」
 という意味の言葉が掲げてあります。
 これは、まさしく、そういうことです。

 口利きは、与野党の議員を問いません。
 甘利前経済相の「口利き」で、民主党をはじめとする野党が国
会で追及していますが、有権者からの陳情を受けるのは、与野党
問わず、議員ならだれでもやっています。
 議員なら、口利きの問題は、いつ、自分の所にブーメランのよ
うに回ってくるか、という心配があると思います。

 もちろん、口利き自体は、違法ではありません。
 問題は、口利きに対し、有権者からお金を受け取ることです。
 お金を受け取って口利きをすれば、汚職になりかねません。
 ただ、普段から、正式な政治献金をしている有権者がいるとし
ます。このお金は、ちゃんと、政治献金として書類に記載し、届
けているとします。
 その人が陳情してきて、その陳情に応じた場合は、さて、どう
なるかというと、献金は献金、陳情は陳情ですから、別に法に触
れるわけではありません。

 口利きとお金は、どうしたって、微妙な関係になってしまいま
す。
 野党は、この問題、うまく追及しないと、なかなか追及しきれ
ないでしょう。

 ただし、甘利氏は、口利きとお金の問題について、いかにもゆ
るすぎたとしか、言いようがありません。



18歳の「少年」が国会議員を選ぶ?・・・川崎の事件と選挙権との矛盾を考えます。

2016年02月03日 17時39分50秒 | 日記

 昨年、川崎市で、中学生が、年上の仲間に、河原で首をカッターナイ
フで刺され、殺されるという事件がありました。2月3日には、その公判
があり、被告は、おおむね、罪状を認めました。
 ここで、いつもながら、おかしな話があります。死んだ少年は、名前も
明らかにされ、顔写真も出ています。
 しかし、複数の被告(犯人)は、少年A,少年Bとなっていて、名前も
分かりません。主犯とされる少年は19歳で、犯行のあった去年は18歳
でした。被告は、犯行当時、みな、20歳未満で、「少年」だったのです。

 ところが、昨年、公職選挙法の改正で、選挙権を持つ年齢が、長年
の20歳以上から、「18歳以上」に引き下げられ、今年夏の参院選から、
18歳以上の人たちが、参院選に投票します。

 これは、どう考えても変です。

 少年法では、18歳、19歳は、「少年」とされます。
 一方、選挙は、18歳から投票できす。
 なるほど、国会議員は、「少年」が選ぶことになるわけですか。
 そのことを、国会議員のみなさんは、おかしいと思わなかったのでしょ
うか。
 国会議員を、「少年A」や「少女B」が選ぶわけです。
 国会は、何を考えているのでしょうか。

 国会議員は、我々国民の代表です。国民の代表だからこそ、国民が、
自らの投票で選ぶわけです。
国民の代表を、たとえば、幼稚園児や小学生が、選ぶことができるか
というと、それは無理でしょう。

国民の代表を選ぶのですから、選ぶ側にも、それなりの資格が必要
です。国政のことを考えることのできる知識や知恵、経験があると思
われる人に、投票権は、付与されます。
簡単にいえば、「大人」です。大人が、国政選挙に投票できるのです。

では、大人とは何か。
日本では、20歳を成人とします。20歳で成人式をするのが、まさに、
それです。
ですから、選挙できる権利、選挙権は、戦後長い間、20歳以上とさ
れていたのです。

18歳、19歳で事故を起こしても、それは、「少年の犯罪」とされてき
ました。「少年」だから、善悪もまだ判断できないかもしれない。だか
ら、事件を起こしても、それを勘案しよう、というのです。
それを具体的に定めたのが、少年法です。
少年法は、よく言及されますが、実際には読んだことはないという方
が多いでしょう。そこで、少年法を、ちょっと引用してみましょう。
           
第一条 この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対
して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の
刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。
第二条  この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、
「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。
      

   ご覧のように、少年法は、第二条で、20歳未満を「少年」とし、
20歳から「成人」とすると、はっきり定めています。

  少年法は、少年が事件を起こしたときの措置も定めています。
          
第三条  次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一  罪を犯した少年
          

第三条において、20歳未満で罪を犯した「少年」は、通常の裁判ではなく、
まず、家庭裁判所で審判することと、定めています。

次に、第二十条を見てみましょう。
          
第二十条  家庭裁判所は、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件について
、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは
、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致し
なければならない。
         
第二十条によると、家庭裁判所が、この少年は刑事事件としての処分が
必要だと認めて、そこで初めて、検察庁に送るのです。

 簡単にまとめると、18歳、19歳で事件を起こしても、「少年」なので、
まずは、家庭裁判所に行く。家庭裁判所で、これは悪質だと認定され
て、初めて、検察庁に送られるのです。

 川崎の事件は、まさにこのケースです。
 事件当時、犯人は18歳だったので、「少年」とされたのです。

 しかも、事件当時、少年だと、量刑も軽くなります。

第五十一条 罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、
死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。

2  罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、
無期刑をもつて処断すべきときであつても、有期の懲役又は禁錮を
科することができる。
 この場合において、その刑は、十年以上二十年以下において言い渡す。

 この条文によると、「少年」といっても、18歳未満の若い少年
には、死刑は、適用されないということになっています。
 これがときに論争を引き起こすのですが、少年といっても、
18歳、19歳であれば、死刑も適用されるよ読めます。

 また、18歳未満の少年には、無期懲役もなく、10年から20年
の刑と定めています。
 重い犯罪を犯して刑務所に入っても、必ず出所してくるわけです。
 
 
 少年法は、少年だから、罪を犯しても、厳しくは罰しない。少年だから、
まだ判断ができず、罪を犯すこともあるだろうという前提に立っています。
 ただ、18歳、19歳は、同じ少年でも、少々、大人に近い扱いをされ
ていることになります。

 18歳というのは、法的には、微妙な年齢になることがわかります。
 しかし、大枠では、18歳、19歳も、「少年」です。
 
 その「少年」が、夏の参院選から、国会議員を選ぶようになるのです。
 
 これは、どう考えてもおかしいでしょう。

 選挙権を付与するということは、「大人」と認めるということです。
 ところが、少年法では、18歳、19歳は、「少年」なのです。
 自分では判断のつかない少年なのです。
 その自分では判断のつかない少年が、国民の代表である国会議員を
選ぶ選挙で投票するのです。
 
 こんなおかしなことはありません。

 選挙権を与えるのは、大人と認めるからでしょう。
 それなら、18歳、19歳は、大人です。
 少年法も改正して、第二条を、「18歳未満を少年とする」
とするのが、当然でしょう。

 いや、少年法の改正は慎重にするべきだというのであれば、同じように、
公職選挙法の改正も慎重にするべきだったでしょう。

 川崎の事件、初公判のニュースを見ながら、改めて、国会と国会議員は、
いったい何を考えているのかと、疑問を抱かざるをえませんでした。