安倍首相が、経済界に対して、盛んに、賃上げを求めて
います。
26日の木曜日には、自民党の高村副総裁が、経団連の
米倉会長に会い、はっきり、賃上げをしてほしいと要請し
ました。
こういうのは、珍しい。
珍しいというより、ほとんど初めて、空前絶後のことで
はないでしょうか。
日本の伝統的な経済学、とくにマルクス経済学の考え方
では、
資本 対 労働
という図式が打ち出され、政府は、資本の同じ側に立ち
ます。
政府・資本 対 労働
という図式になります。
政府・資本に対し、賃上げを求めるのは労働側でした。
労働側という場合、具体的には、労働組合とその連合体、
そう、かつては、総評や同盟、いまは連合です。
労働側が資本に対して賃上げを求める運動が、
春闘
だったのです。
ところが、いまや、政府が、資本に対して、賃上げを求
めている。
これは、珍事といえば語弊があるかもしれませんが、ま
ことに空前絶後のことです。
経済学、とくに近代経済学的には、安倍政権の賃上げ要
請は、まったく正しい。
日本の国内総生産(GDP)は500兆円です。
そのうち個人消費が300兆円を占めます。
政府が公共投資を増やすより、個人消費が増えるほうが、
経済成長には、よほど効果があります。
もし、国民ひとり一人が、明日から買い物を10%だけ
増やそうと決めたとします。
きょうまで毎日の買い物を1000円で我慢していたも
のを、明日から1100円に増やすわけです。
そうすると、個人消費300兆円は、330兆円に増え
ます。
その結果、GDPは、500兆円から530兆円に増え
ます。
500兆円が530兆円に増えたわけですから、30兆
円の増加、ということは、500兆円分の30兆円で、6
%の増加になります。
GDPが6%増えたわけで、それはつまり、日本経済が
6%成長というものすごい高成長になるということを意味
するのです。
私たちひとり一人が明日から10%多くものを買おうと
決めただけで、日本経済はたちまち6%成長という高成長
を実現させてしまうわけです。
個人消費というのは、そのぐらい、大きな影響力を持っ
ている。
日本経済がデフレから脱却し、成長軌道に乗るには、個
人消費の拡大が、なによりも必要になります。
ところが、この20年間、個人消費は、全然増えてこな
かった。
それはなぜかといえば、ひとつには、長い不況で、給料
が上がらなかったからです。上がらないどころか、給料が
下げられた。
個人消費は、賃上げがなければ、増えません。
逆にいえば、賃上げがあれば、給料が増えて、個人消費
が増え、日本経済は成長に向かうのです。
アベノミクスがこれから先もうまく行くかどうか、それ
は、とにもかくにも、個人消費の拡大にかかっています。
だから、安倍首相と政府が、経済界に対し、賃上げを求
めるのは、まったく、正しいのです。
大胆な金融緩和とそれに伴う円安で企業業績は回復して
います。
しかし、企業の利益が増えても、企業がその利益を内部
留保に回してしまえば、賃金が上がりません。
そんなことになったら、ここまで順調に来た経済政策の
好循環が、そこで切れてしまいます。
企業は、大胆な賃上げを実行するべきでしょう。
それこそが、日本経済が復活するための切り札です。
しかし、それにしても、と思うのです。
労働組合は、そして、労働組合の連合体である連合は、
いったい、何をしているのかと。
いま、企業が賃上げをしそうなこの時期に、行動しない
連合とは、いったい何なのでしょうか。
マルクス経済学における 資本 対 労働 という図式
は、どこかに消えてしまったように見えます。
この図式は、戦後、長い間、日本の基本モデルみたいな
ところがあったのです。
とくに、社会主義系の人たちは、みな、この図式を信じ
てきました。
戦後の日本の基本モデルであったこの考え方は、いま、
深刻な見直しを迫られているように見えます。