いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPと安倍首相とボゴール宣言・・・ボタンの掛け違えを、ようやく直せそうです。

2013年02月27日 01時31分10秒 | 日記

 安倍首相は、オバマ大統領と会談し、TPP(環太平洋
経済協力)の交渉に参加する考えを明らかにしました。
ようやく、という感じです。

 TPPは、太平洋を取り囲む国々で、貿易をどんどん自
由化しようというのが大きな狙いです。簡単にいえば、関
税をなくそうというものです。
 これに、日本では、農業団体が猛反対しています。アメ
リカやオーストラリアから、安い農産物が入って来たら、
日本はやっていけないというのです。
だから、関税をなくすなんて、とんでもないというわけです。

 これまでに何度か書いたことがあるのですが、きょうは、
改めて、書き直します。
 何かというと、TPPに反対する人たちが、
   「えっ?」 「本当?」
と驚くような話です。

 1994年の11月、インドネシアで、APEC(アジ
ア太平洋経済協力会議)が開かれました。 
 東南アジア諸国に、日本とアメリカが入った会議で、い
まのTPPよりはるかに多くの国が参加した会議です。
 
 このとき、まことに画期的な合意が採択されました。
 合意内容を、次に掲げますので、ちょっと読んでみてく
ださい。びっくりしますよ。

 「APEC加盟国は、貿易と投資の自由化を、
  先進国は2010年までに達成する。
  途上国は2020年までに達成する」

 どうですか。
 貿易と投資の自由化を、2010年までに達成するとは
っきりうたっているのです。

 このときのAPECは、各国から首脳が参加する大がか
りな会議で、日本からは村山富市首相や橋本龍太郎通産相、
アメリカからはクリントン大統領が出席していました。。
 村山首相やクリントン大統領、アジア諸国の大統領、首
相による首脳会議で、この合意を採択したのです。
 
 目を疑うでしょう?
 「先進国は2010年までに自由化を達成する」
 と宣言したのです。

 これを、ボゴール宣言 といいます。
 ボゴールは、APECを開いたインドネシアの都市の名
前です。
 
 すごい宣言です。
 貿易と投資の自由化を、2010年までに達成するーー
というのですからね。

 でも、よく考えてください。
 この宣言は、これから交渉に入ろうというTPPが掲げ
る目標と同じです。

 それにしても、2010年に自由化を達成?
 そうです。
 ボゴール宣言が貿易と投資の完全自由化の年と掲げたの
は、2010年でした。
 いまは2013年ですから、とっくに過ぎてしまいまし
た。
 ところが、いまも、別に何も変わっていないでしょう。
 貿易と投資の完全自由化は達成されていません。
 ボゴール宣言、すっかり忘れ去られてしまったのです。

 ボゴール宣言って、本当にそんな合意、あったの?ーー
と、疑う方もいらっしゃるでしょう。
 しかし、本当にありました。
 当時の新聞をちょっと見てもらうと分かりますが、その
ころ、新聞の一面トップは、連日のように、インドネシア
のAPCECとボゴール宣言を取り上げています。
 私は、このとき、インドネシアの現場にいましたが、現
地は、すごい熱気でした。

 ところが、このときは、日本では、ほとんどなにも、と
いうより、まったく、反対運動は起きませんでした。
 農業団体も沈黙していました。

 ボゴール宣言が採択されたのは1994年です。
 いまからもう19年前です。
 そんなときに「貿易と投資の自由化」を宣言しているの
です。
 ところが、何も反対運動が起きなかった。

 それなのに、それから19年後のいま、ボゴール宣言と
同じような内容のTPPに、今度は、なぜ反対するのでし
ょう。

 おかしいでしょう。
 こんな不思議な話はありません。
反対するなら、19年前に反対してくれ、というところで
す。

 では、こんなとんでもないボゴール宣言に、なぜ、日本
で反対運動が起きなかったのでしょう。
 逆に、なぜ、TPPでは反対運動が起きるのか。
  
 ボゴール宣言を採択したAPECは、もともと、年に一
回開かれる国際会議なのです。 アジア太平洋地域の経済
協力など、経済問題をいろいろ話し合いましょうという会
議でした。
 その会議を続けているうちに、貿易と投資の自由化とい
うテーマが出てきました。
 国際会議を開くなかで、ごく自然に、貿易と投資の自由
化というテーマが出てきた。
 だから、交渉に入るにあたって、国会での承認も求めら
れることもなく、自由化の論議が始まりました。
 別にだれも、何を隠すわけでもなく、会議のプロセスは、
いつも、ちゃんと報道されていました。
 
 それなのに、何の反対もなかったのです。
どうしてでしょう。
 
 ひとつは、自由化の目標とする年がかなり先だったとい
うことです。
 ボゴール宣言を採択したAPECは、再三書いているよ
うに、1994年に開かれています。
 自由化の目標とする年は、2010年と定めました。
 16年も先のことでした。
 
当時の実感としてはどうだったかというと、
 「えっ? 2010年までに貿易と投資の自由化を達成
する? えらい先の話だなあ」
 というものでした。

 16年先も先なんて、日本もアメリカも、政権がどうな
っているのか、見当もつきません。16年後にまったく別
の政党が政権についていて、「ボゴール宣言なんて、知ら
ない」と言ったら、どうするのでしょう。
 16年も先のことなど、約束したってしようがないだろ
うという感じでした。

 しかし、紛れもなく、貿易と投資の自由化を実現すると
書いてあります。
 ものすごい合意です。
 こんなにあっさり合意しちゃっていいの?
 
 農水省も農業団体もなんで反対運動しないんだろうと
思いましたたが、なにしろ、16年も先のことですから、
反対運動をしようという気にもならなかったというのが、
正直なところではないかと思います。

 実は、16年後のことを決めるというのは、ほとんど精
神論の世界です。
 というよりも、簡単にいえば
 「加盟国のみなさん、自由化に向けて、努力しましょう
ね」
 という呼びかけです。
 そう。あれは、呼びかけだったのです。
 努力目標だったのです。
 それが分かっているから、どの国も、ボゴール宣言に賛
成したのです。

 同じように、今回のTPPも、政府が、一番初めに、あ
っさりと、
 「日本も交渉に参加します」
 と言って、交渉に加わっていれば、なにごともなかった
かのように、交渉が始まっていたと思います。 
10か国も加わった交渉ですから、一筋縄で進むはずが
ありません。
 何年もかかる。
 各国とも、それぞれに事情があるから、自由化の例外に
してほしいという話が各国から出てくる。
 いつ終わるともしれない交渉になります。
 しかも、最終的にまとまったところで、ボゴール宣言の
ように、自由化の目標は10年後とか、そういう話になっ
たら、結局のところ、「呼びかけ」に終わります。

 2009年、鳩山首相が、国連で「日本は温暖化ガスの
排出量を25%削減します」と宣言して、拍手を浴びまし
た。しかし、あれ、もう、だれも覚えていないでしょう。
 あれは、呼びかけというか、意気込みの表明だったので
す。

 TPPも、そうやって、すっと参加していれば、なにほ
どのことはなかった。

 TPPが、これほどもめてしまったのは、民主党政権の
菅首相の責任です。
 菅首相は、2010年に横浜で開かれたAPECのあと、
にわかにTPPを言い始め、
 「平成の開国をしなければならない」
 と訴えました。

 振り返れば、これが、ボタンの掛け違えでした。
 なにしろ、いきなり「平成の開国」とやったものだから、
みんな、びっくりしてしまいました。
 「平成の開国」などといわれると、それは、だれだって
ぎょっとしますよ。
 
 菅首相は、「平成の開国」という言い方で、なにか、新
しい日本を作るんだというようなイメージがあったのでし
ょう。
 しかし、実のところ、これだけ、人も物もお金も、自由
に行き来できていて、開国なんて、とっくに済んでいます。
 それなのに、なにか、新しい政策であるように、ことさ
ら「平成の開国」というものだから、みんな、びっくりし
ました。なにかあるのだろうかと。
 それが、すべての失敗の始まりです。

 菅首相という人は、本当に、センスの悪い人でした。
 菅首相が、初めに、ボタンを掛け違えてしまったのです。

 いまようやく、掛け違えたボタンをいったんはずし、ち
ゃんと掛け直すその第一歩が始まったということです。
 
 本当に、えらい遠回りをしたものです。




安倍首相が賃上げを要請しました・・・画期的なことです。時代も変わりました。

2013年02月19日 18時14分30秒 | 日記

 先週のことですが、安部首相が、経団連の米倉会長ら財
界トップに会い、サラリーマンの給与の引き上げを要請し
ました。

 自民党の首相が、賃上げを求めたわけで、これは、少し
前なら、ありえないことです。
 非常にいいことで、素晴らしいと思いますが、しかし、
時代は変わったものです。

 日本では、戦後長い間、経済学はマルクス経済学の強い
影響下にありました。
 有力な国立大学の経済学部は、大内兵衛氏、大内力氏ら、
マルクス経済学の教授が力を持っていました。

 マルクス経済学のポイントは、次のようなものです。
 サラリーマンという名の労働者は、1日に8時間なり
9時間なり働きます。マルクス経済学では、労働者は、
労働力という商品を企業に売るーーととらえます。
働いた時間だけ、労働者は、モノを生産します。企業は
、そうしたモノを販売します。
企業にとっては、販売価格と、生産コストの差額が利
益(利潤)となります。
さて、そこで、企業は、労働者が働いた分だけを、ち
ゃんと給与として還元しているのかーーというのが
ポイントです。
労働者が働いた分をすべて給与として還元すればい
いのですが、そうはいかない。企業は、働いて作った
モノを販売し、その代金の何割かを、次の投資にあて、
あるいは、将来必要なときに備えて準備金として積み
立てます。
労働者にとっては、働いた分のすべてが給与として戻
ってくるのではなく、戻ってくるのは、働いた分の何
割かにしかすぎません。残りは、企業が、投資に使っ
たり、準備金として積み立てたりするわけです。
マルクス経済学は、企業が労働者に還元せずに、企業
の中に積み立てた資金を、「搾取」とするのです。
これが、マルクス経済学における「搾取」の概念です。

この「搾取」の部分は本来、労働者のものだから、搾
取したものは労働者に返せーーというのが、労働運動の
原動力です。

 戦後の日本で、社会党は、はっきりそういう考えを持っ
ていましたし、労働組合も、そういう考えに立って、毎年、
春闘をして、賃上げを要求してきたのです。
 春闘というのは、そういうことでした。

 もちろん、企業は、違う論理を組み立てます。
 働いた分をすべて労働者に還元すれば、投資をはじめと
する次の企業行動は成り立ちません。企業の手元にも余裕
資金が必要です。
 それを搾取というから、話がおかしくなる。
 そもそも、生産されたモノの価値には、労働者の働いた
分以外にも、経営手腕とか投資計画とか、経営者の努力や
能力も含まれている。
 とまあ、そういう理論です。
 それは、いわゆる近代経済学の理論です。
 政治的にいえば、自民党です。

 ところが、今回は、自民党の総裁である安倍首相が、企
業経営者に対し、準備金を働く人に還元して、所得を上げ
てほしいと要請したのです。
 そうやって、所得が増えてこそ、個人消費が活発になり、
日本経済が元気になるからです。

 しかし、本来なら、これは、かつての社会党の流れを引
く民主党の野田首相が言うべきことだったのです。
 それを、自民党の安倍首相が言うというのは、驚くべき
ことでした。
 
           (続く)



円安で日本は息を吹き返しました・・・円安批判やデメリット論は跳ね返さなければなりません。

2013年02月12日 18時46分33秒 | 日記

 円安の進行で、欧州(EU)が、G7(日米欧7か国の
財務相・中央銀行総裁会議)の開催を検討していることが、
伝えられています。
 円安・ユーロ高の進行を、防ぎたいというわけです。
 こういうときの常套句は、
「為替は市場が決めるものだ」
という言葉です。

 日本でも、円安が進むと、必ず、
 「円安によるデメリット」
 が取り上げられます。

 しかし、現在の1ドル=92円程度の為替水準は、「円
安」などというような円安水準ではありません。
 5年ほど前の為替水準はいくらだったかというと、
1ドル=100円台だったのです。

 2008年にアメリカの投資銀行リーマン・ブラザーズ
が倒産し、それが、世界的に波及して、日米欧が経済の低
迷に苦しみます。とくに、ひどかったのが、震源地のアメ
リカです。次が欧州です。日本は、それでもまだ、直接の
影響は、比較的、小さかった。
 そこへ、ギリシャの国家財政が破たんしそうだというの
で、欧州で財政危機が起きました。ギリシャだけではなく、
イタリアもスペインも危ないのではないかという話にな
ってきました。
 
 そういう状況で、アメリカと欧州がどうしたかというと、
自国通貨安です。
 すなわち、ドル安、ユーロ安 です。

 自国通貨が安くなると、輸出が有利になり、輸出が増え
ます。経済は、輸出に牽引されて、回復に向かいます。

 ドル安、ユーロ安といっても、為替の場合は、ドル安、
ユーロ安の相手になる通貨が必要です。
 そこで、標的になったのが、我らが「円」です。
 日本は、リーマンショックの影響は少ないし、欧州財政
危機の影響も小さい。だから、日本は、アメリカや欧州に
比べて、経済の状態はいい。
 それっーーというわけで、ドル安、ユーロ安の相方に円
が選ばれました。
 そうして起きたのは、円高・ドル安、円高・ユーロ安で
す。

 円は一時、ドルに対して1ドル=77円、ユーロに対し
て1ユーロ=98円ぐらいまで、高くなりました。

 これは、猛烈な円高です。
 しかし、当時は、ほとんど機能停止状態となっていた民
主党政権です。円高に対し、何も文句をいいません。
 その結果、日本の主力産業、電機や自動車は、ものすご
いダメージを受けました。

 とくに電機は円高によって競争力を失い、韓国や中国の
企業に追い抜かれていきました。
現実に、三洋電機はパナソニックに吸収合併され、その
パナソニックは、白物家電(洗濯機、冷蔵庫)を、中国
企業に売却しました。
パナソニックは、そこまでしても、なお、2年連続で7
000億円を超す赤字を出しました。
ソニーに至っては、モノづくりをあきらめてしまったか
のような状況になりました。
シャープは、液晶で韓国企業に負け、企業秘密の詰まっ
た液晶工場を、中国企業にたたき売ってしまいます。

もちろん、それぞれに、技術的な問題や、経営手腕の問
題があります。
しかし、苦境の陥った最大の原因は、この急激な円高に
ありました。

それに、手をこまねいてきて民主党政権の怠慢は大きい。
民主党の財務相は、円高対策を聞かれても、みな、判で
押したように、
「為替は市場で決めるものですから」
と答え、何もしませんでした。

私は、必ずしも自民党を支持するものではありませんが、
しかし、安部政権になって、ようやく、それまでのとん
でもない円高が是正されてきました。
 それは高く評価するべきだと思います。
 あの円高を放置していては、日本企業は、みな、海外
に逃げ出していたでしょう。
 トヨタの豊田社長は、いつも「なんとか、日本で車作
りを続けたいのです。円高になっても、日本で車を作る
体制を維持したい」と話していました。しかし、豊田社
長は「でも、これだけ円高になってしまうと・・・」と、
苦しそうに付け加えていました。
 もし、トヨタが生産拠点を全面的に海外に移転させた
ら、日本経済は、立ち上がれないほどのダメージを負っ
たでしょう。

 あの円高は、そうした危機を内包していたのです。
 安倍政権になってからの円安で、そうした危機が、や
っと、薄らぎました。
 その意味で、アベノミクスというのは、非常に効果が
あったのです。評価してしかるべきでしょう。

円高に警鐘を鳴らしていた日産のカルロス・ゴーン氏は、
「90円ぐらいでは円安とはいわない。100円でも円
安ではない。円安というのは、1ドル=120円ぐらい
になって初めて言うのです」
 と強調しています。

麻生財務相もよく分かっていて、
「リーマンショックのあと、アメリカも欧州も、ドル安、
ユーロ安、円高に誘導した。しかし、そのとき、日本は
何も文句を言わず、じっと、受け止めたじゃないですか。
それを、90円になったぐらいでとやかくいわれるのは、
筋としておかしい」
 と明言しています。

いま、欧州から円安批判が出て、円安進行をふせぐため
にG7を開きたいという声が出ているのは、欧州のエゴ
です。
つい5年前、1ドル=100円だったとき、欧州は何も
言わなかった。
それを、自分の国の都合がわるくなったからといって、
90円で文句をいうのは、まったく、筋が通らない。

しかし、それを、怒ってもしようがないのです。
なぜなら、外交、そう、これは、経済外交です。円相場
をめぐる外交交渉なのです。で、外交というのは、自国
の利益がすべてです。
自国の利益を通すために、外交交渉をするのです。
欧州が円安批判をしたら、日本は反論あるいは再批判を
しないといけない。
国際協調というものはない。
あるのは、自国の利益だけです。
「国際協調」の名のもとに、自国の利益を通すのです。
そこを、日本は、分かっていない。
とくに民主党は分かっていなかった。
円相場は、外交交渉であると覚悟を決めて、日本は臨ま
なければならないのです。

さて、そこで、円安に対する「デメリット」論です。
テレビのニュースは、必ずといっていいほど、円安のデ
メリットを取り上げます。
しかし、ニュースを見ると、おかしい話が多い。
円安で、不利益になるのは、もちろん、輸入商品です。
輸入商品って、何がありますか?
まず、原油です。
ほかには?
ちょっと考えてみてください。
・・・。
なかなか、ピンとこないでしょう?

 先日、NHKニュースを見ていると、円安進行で困る企
業というので、東京の輸入雑貨店から中継していました。
この店で、NHKの記者は、何を中継していたと思いま
すか?

 まず、ギリシャ産のオリーブ・オイルです。
 次に、イタリア産の高級パスタでした。
 記者はオリーブ・オイルと高級パスタを手に取って、
「こうした輸入品が、円安の影響で、じわりと値上がり
しています。こうした食料品は、私たちの台所にも影響
が出ます」
 と、もっともらしく話していました。

 しかし。
 ちょっと考えてみてください。
 オリーブ・オイル?
 そんなもの、日本のどの家庭で使っていますか?
 イタリアの高級パスタ?
 それも、だれが、どこで料理するのです?

 そうなんです。
 円安になって影響が出るものを、テレビは、無理やり、
探そうとするのです。
その結果が、オリーブ・オイルというのでは、これは、
お粗末というしかありません。

 ちょっと冷静に、身の回りで、円安で値上がりしたもの
を探してみてください。
 まず、ないと思いますよ。

 むしろ、天候の影響で野菜が高くなったというほうが、
はるかに大きな影響があるのではないですか。

では、原油は?
はい。それは、その通りです。
ガソリンは、間違いなく、値上がりしています。
それは、その通り。

しかし、もし、パナソニックやトヨタが、この円高で全
面的に海外に移転ししまったら、どうしますか?
国内の何万という雇用は、打ち切られるでしょう。
実際、ソニーは、各地で有力な工場を閉め、労働者を解
雇し始めていました。

そうした日本企業の苦境は、かなりの部分が円高でもた
らされた。
それが、安部政権の円安、アベノミクスの円安で、思い
切り、流れが変わってきた。
明らかに、日本の企業は、ひと息、つきました。

円安で、たしかに、ガソリンは上がりました。
円高が続けば、ガソリンは値上がりしなかったでしょう。
しかし、円高が続けば、企業が苦しくなって、私たちは
解雇されていたかもしれません。実際に、そういう動き
が全国で起きていました。
 さあ、それでも、なお、円安でガソリンが高くなった
ことに、文句を言いますか?
それで、庶民の生活がどうのと、言いますか?
円高のあおりで解雇された人が、
 「解雇されて生活が厳しくなったけれど、円高のおかげ
でガソリンだけは安くていい」
 と言うとすれば、それは、切ない光景でしょう。
 円安でガソリンが高くなったと文句をいうのは、それ
に似たところがあります。

円安が進んだことで、日本経済は、息を吹き返しました。
この円安は、本当に、干天の慈雨です。
円安のメリットは、実に大きい。

 円安のデメリットというものは、メリットに対し、本
当に小さいのです。
 いまは、目先のデメリットを、無理やり探してぶつぶ
つ言うときではありません。
 





日本はなぜ誤解されるのか(2)・・・フォリン・アフェアーズのリンド論文の後半です。

2013年02月08日 23時48分14秒 | 日記

 フォリン・アフェアーズのリンド論文の続きです。

 リンド准教授は、日本の姿を正しくとらえることが重要
だと指摘します。

 リンド氏は、国のパワーを測る尺度を次のように定義します。
 すなわち、

 「数百年にわたって、国のパワーは、 
 ・ 経済生産力(GDP)
 ・ 一人当たりの富
 ・ 人口の規模
 ・ 技術基盤
 ・ 政治的安定
 
 ーーによって形作られてきた。
 
 ・ 民主主義国家であるかどうか
 を加えることも出来るだろう」

 というのです。 
 
 ここには6つの要素が挙げられています。 
 その6つの要素を指摘したうえで、リンド氏は、次のよ
うに続けます。
 「この6つの要因のすべてで、日本を上回っているのは
アメリカだけだ。
 欧州では、経済力と人口において、日本を上回る国はな
い。
 たとえば中規模パワーであるイギリスは、人口でもGDP
でも、日本の半分程度にすぎない。
 欧州のパワーの中核であるドイツでも、人口とGDPの
規模は、日本の3分の2程度だ」
アメリカを除けば、欧州においても、日本を上回るパワ
ーを持つ国はないというわけです。

 では、中国はどうか。
 「6つの要素で日本をしのごうとするプロセスにある中
国は、ファンダメンタルズ面で、大きな問題を抱えている。
 すなわち、中国は膨大な数の勤勉な人口を抱え、GDP
も日本を上回る規模に達しているが、民衆の多くは依然と
して貧しい。
 政府は政治腐敗にまみれており、いまや、政治的安定を
維持していけるかどうかさえ、分からない状態にある」
 
 そこで日本です。
 「もちろん、日本も問題を抱えている。
 人口が高齢化し、労働力も低下している。
 この13年間で9つの政権が誕生するほど、政治は混乱
している。
 しかも、近隣諸国との歴史論争が間欠泉のように吹き出
す」
 これらは、日本人ならだれでも感じている弱点です。

 しかしと、リンド氏は言います。
 「ただ、こうした課題を抱えていても、日本は豊かだし、
民主的な社会を持っている。教育レベルも高く、力強い防
衛力も持っている」

 そのうえで、リンド氏は、日本を正しく評価することの
重要性を強調します。
 「その実像を見据えて日本のポテンシャルを見極め、こ
の国をノーマルにとらえれば、日本がいかに有意義なパワ
ーを持つ国であるかが、理解できるはずだ」
 日本は決して、衰退する国家ではないというわけです。


 次は、非常に示唆に富む指摘です。

 「もし、日本を(単なる何もしない)平和主義国家と
みなせば、東アジアにおいて日本が果たせるノーマルな
役割を見落としてしまう」

 「一方で、日本を軍事国家とみなせば、真のパートナー
として信頼するのをためらうようになる」
 
 世界は日本を、
 ただ何もしない平和主義国家か
あるいは
 ナショナリズムが台頭しかねない軍事国家か
 そのどちらか、極端な見方でしかとらえない傾向
あるーーというのです。

真理は中間にありーーです。

世界は日本を、どうして、もう少し素直に、ノーマル
に見ることができないのだろうか。
 日本をもっとノーマルに見よう。
 それが、リンド論文の核です。

 「この60年にわたって、日本は能力以下の活動しかし
てこなかった。安全保障をアメリカに依存してきただけで
はなく、安全保障政策を同盟関係の枠内に収め、ジュニア
パートナーの地位に甘んじてきた。
 アメリカも、同盟関係における日本の役割を最低限に抑
えるのが最善だと考えてきた。戦力は我々が提供するから、
日本は基地を提供してほしい、と言ってきた」

 そして、リンド論文の結論です。 
 「日本がそのポテンシャルをもっと生かすために、
日本は同盟関係や国際政治におけるノーマルな役割を
どう果たすべきか。
 ワシントンと東京は、それを考える時期に来ている」

       ***
 
 日本はなぜ誤解されるのか。

 「日本を、特殊な見方でとらえるのではなく、
日本を、ノーマルに認識しよう」
 
 示唆に富む論文でした。 


日本はなぜ誤解されるのか・・・海外メディアに動きがあります。

2013年02月06日 11時45分29秒 | 日記

 海外からの報道を見ていると、どうにも日本は誤解され
ているように見える。現に、誤解されている。
 それはどうしてなのか。

 政府・外務省が日本からの情報発信に怠慢だったことが
ひとつの理由だと、私は思うのですが、ここにきて、メデ
ィアで、注目すべき動きがありました。

 ひとつは、今週発売されたニューズウイークで、「日本
はなぜ誤解されるのか」という特集を組みました。ただし、
これは日本で発売される日本版なので、欧米で出る英語版
とは内容が違う可能性もあります。

 ふたつは、アメリカの外交専門誌「フォリン・アフェア
ーズ・リポート」で、「日本は何を間違え、どこへ向かう
のか」という特集を載せました。

 このフォリン・アフェアーズに、ダートマス大学のジェ
ニファー・リンド准教授が、「日本衰退論の虚構 見えな
い日本の等身大の姿」という論文を書いています。

 ニューズウイークの特集は、この論文がきっかけになっ
ているようで、ニューズウイークにはリンド准教授が同じ
趣旨の記事を寄せています。

 このリンド論文は非常に興味深いので、ここで、紹介し
ておきます。

 リンド氏は、
 「われわれ研究者、政策分析者、ジャーナリストは、な
んらかの理由で、日本をノーマルな国家とみていないことが
多い。人々は、極端なレンズを通して、日本を見ようとす
る」
 と書き始めます。

 アジアにあって西欧型の発展をした日本は、アジアなのか
西欧なのかという議論は昔からあって、
   「日本は特殊だ」
という言い方が、いっとき、なされました。

 リンド氏は、バブル時代には日本が経済力で世界を支配
するのではないかと欧米が恐れたことを指摘します。
 ところが、バブルが崩壊すると、今度は一転、日本は衰退
する国だという議論が一気に増えたことを指摘します。

 そう。
 日本に対する見方は、えらく極端なのです。

 リンド氏は、
 「いまや日本のイメージの振り子は、大きな揺り戻しを
見せている。日中関係の悪化によって、日本の平和主義は
終わり、ナショナリズムが台頭していると(海外では)言
われている」
 とします。

 「尖閣で緊張が高まり、(中国で反日暴動が起きたとき
でさえ)日本の野田首相(当時)は冷静な反応を示し、中
国政府に暴力行為を抑えるよう、穏やかに要請した 」
 
 さて、ここからです。
 「それでも世界の主要紙は、日本のナショナリズムの高
まりを警告する記事を掲載し、日本政治におけるタカ派台
頭の意味合いについて議論するようになった」

 次が、リンド論文のポイントです。
 「間違いのないように言っておくが、日本でいわれるタ
カ派とは、他国の政治パラダイムに照らせばハト派に過ぎ
ない」
 ここです。

 日本の右傾化とか、日本でタカ派が台頭したとか、そう
いう論調が、海外で増えている。
 しかし、それは、誤解としかいいようがありません。
 日本が右傾化したといわれると、日本人は、
   「え?」
 と首をひねってしまいます。

 タカ派といっても、日本は、海外の領土を自分のもの
にしようなどという領土的野心は持ち合わせていません。
 タカ派というなら、中国のほうが何万倍もタカ派で
しょう。
 
 リンド論文は、そのことを、
 日本でいわれるタカ派は、世界基準でいえばハト派に
過ぎない
 と、うまいぐあいに、分析しているわけです。

 リンド論文は、
 「結局、中国の過激なレトリックを前にしても、日本は
平和と国際法を尊重するメッセージを出しただけだった」
 とします。

 リンド氏は、別に日本を擁護するためにこの論文を書いた
わけではないでしょう。
 あくまで、学者として客観的な分析をしたのだと思います。

 以上が、この論文の前半です。
 後半は、次回、紹介します。

 興味のあるかたは、フォリン・アフェアーズなり、ニュ
ーズウイークをご覧になってみてください。ただし、
フォリン・アフェアーズは、丸善など大型書店でないと
置いてありません。それに、少々、高いです。
 ニューズウイークの宣伝をするわけではありませんが、
ニューズウイークはどこでも買えますし、掲載している
リンド論文は、フォリン・アフェアーズのリンド論文と
ほぼ同じです。



麻酔で眠った体験・・・ただただ「無」の世界でした。

2013年02月04日 16時32分18秒 | 日記

 左の足首を骨折し、昨年の初夏、入院して手術を受けま
した。もうすっかり良くなったのですが、そのときから、
ずっと気になっていたことがあります。
 きょうは、そのことを書いておきます。

 手術室に入り、主治医や麻酔医に迎えられました。
 まず、腰に注射をします。これは腰椎麻酔です。
 麻酔液が入ると、下半身が、じわーっと暖かくなりまし
た。
 麻酔医から、「冷たいものを肌に当てます。感じるかど
うか、答えてください」といわれました。
 太ももに冷たいものが当てられ、冷たさを感じました。
 「では、ちょっとだけ時間を置きます」

 10秒ほどして「では、もう一度、冷たいものを当てま
す」と言われ、同じものが足に当てられたのですが、今度
は、何も感じません。
 「何も感じません」
 「あ、では、麻酔が効きました」
 「はい」

  「もうこれで、下半身は感覚がありません」
「はい」
「では、睡眠導入剤を入れます」
「眠るんですね」
「そうです。すぐに眠ってしまいますよ」

点滴の管から、睡眠導入剤が入りました。
私は、職業柄、出来るだけ目を開いて、様子を見てい
ようと思ったのですが、麻酔医が「いま、睡眠導入剤が入
りました」と言った次の瞬間、意識がなくなってしまいま
した。
次に目がさめて、気がついたら、もう、手術が終わっ
て、手術室を出るところでした。
この間、2時間ほどです。

その後、ずっと気になっているのは、麻酔と睡眠導入
剤で眠ってしまったときのことです。

麻酔医から腰椎麻酔を受け、「睡眠導入剤が入りまし
た」と言われた瞬間、私は、意識が飛びました。

私たちは毎日、夜になると眠ります。
しかし、腰椎麻酔と睡眠導入剤で眠ったときは、
この毎日の睡眠とはまるで違う感覚がありました。

ひとことでいえば、
 「無」
  です。
 
 瞬間的に、意識が消えます。
 あとは、もう、なにもありません。
 
 これは、もしかすると、臨死体験ではないのでしょうか。
 
 毎日、夜が来て家でねるとき、布団の上で寝っころがると、
実に気持ちがいい。
 布団の上で体をのびのびさせると、本当に気持ちがいい。
 これから、快い睡眠がやってくるという感じで、なんと
なく、うれしくなります。

 しかし、麻酔と睡眠導入剤で眠ったときは、そんなことを
思う間もなく、一瞬にして意識が消えました。
 黒々とした世界です。

 音もなく、画像もなく、夢も見ません。
 なにもありません。
 先ほども書いたように、「無」という言葉がぴたりと当
てはまります。

 もしかすると、死ぬときは、こういう感じなのではない
でしょうか。
 死んだ瞬間、意識が途絶え、なにもかも消えてなくなっ
てしまう。
 ただただ、「無」です。

 もしそうだとすれば、「死後の世界」とか、そういうも
のは、何もないように思えます。

 「死」は、ただただ「無」ではないのか。

 あの日以来、ずっとそんな感じがしています。