アジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐり、アメリカと中
国が対立していることを、前回のブログで取り上げました。
その後、オーストラリアやロシア、韓国、なんとブラジルまで
参加を表明しました。
主要国で参加しないのは、アメリカ、日本、カナダぐらいです。
これをどう見ればいいのでしょう。
基本的には、
「アメリカによる世界秩序」
いわゆる「パックス・アメリカーナ」
の動揺ということでしょう。
あえて、終焉とは書きません。
現在の世界は、というより、第二次大戦後の世界は、アメリカ
と旧ソ連の東西陣営に分かれてやってきました。
「米ソ」ですね。懐かしい言葉です。
しかし、世界的な組織は、本部をアメリカに置いたものが、圧
倒的に多いのです。
軍事的には米ソが拮抗していましたが、経済力は、アメリカが
ソ連を凌駕していました。
世界の先進国も、アメリカの同盟国が多数をしめていたのです。
ですから、いろんな分野の国際機関、国際組織の本部をアメリ
カに置くのは、自然な流れでした。
その代表格は、国連でしょう。
国連本部は、ニューヨークにあります。
かつてのソ連や東欧諸国の代表は、きっと、なんで俺たちがニ
ューヨークまで行かなくっちゃいけないんだと不満に思ったの
ではないでしょうか。
国連で演説するためには、北朝鮮もニューヨークに出向きます。
中国なんか、いまでもそう思っているかもしれません。なんで
国連は、ニューヨークにあるんだ。中国は国連の常任理事国な
んだから、国連が北京にあってもいいじゃないか。
だから、国際的な金融機関、今回は、アジアインフラ投資銀行
(AIIB)のことですが、ひとつぐらい、本部が北京にあっ
てもいいじゃないかと、中国が思っても不思議はありません。
むしろ、GDPで日本を抜き、アメリカに次いで世界第二位の
経済大国になったのですから、そのぐらいのプライドを持って
もおかしくないでしょう。
国連だけではありません。
国際的な金融機関の本部は、だいたい、ワシントンにありま
す。IMF(国際通貨基金)の本部も、世界銀行の本部も、ワ
シントンにあります。
IMF・世銀の会議は、参加国の持ち回りで開かれますが、し
かし、秋の総会は、ワシントンで開くと決まっています。
IMF・世銀は、いまでも活発に活動しています。
日本が戦後の混乱から立ち直り、たとえば、東京に首都高速道
路を建設したときには、世銀から融資を受けました。
1997年にアジア金融危機で韓国が財政破たんに瀕した際に
は、IMFが全面的に支援に入りました。
いまでも、世界の途上国にとっては、IMF・世銀はなくては
ならない存在です。
IMFには、世界のほとんどの国が入っていますから、なにか
あると、いまのロシアも、中国も、みな、ワシントンに出向く
のです。
国連も、IMF・世銀も、アメリカが最大のスポンサーです。
ニューヨークの国連本部のビルは、アメリカのロックフェラー
財閥が土地の取得費用などを寄付しています。
IMF・世銀は、ワシントンの官庁街に立っていて、ほとんど、
米政府の建物のような感じになっています。
先進国サミット(G7、G8)や財務省・中央銀行総裁会議(G
7)は、本部や事務局はありませんが、アメリカが運営の主導
権を握っています。
もちろん、アメリカ以外に本部を置く国際組織もありますが、
その場合、中立国であるスイスのジュネーブというケースが多
くなります。
アジアの開発のための国際機関であるアジア開発銀行(ADB)
は、本部をマニラに置きました。さすがに、ワシントンに置く
わけにはいかなかったのでしょうが、しかし、アメリカと日本
がともに最大の出資国で、いずれも15%を超す出資をしてい
ます。
もうひとつ、重要な組織にOECD(経済開発協力機構)があ
り、これは、珍しく、パリに本部を置いています。しかし、こ
れは、第二次大戦後の欧州の復興を支援するため、アメリカが
マーシャル・プランを策定し、OECDがその事務局的な役割
を担ったため、本部を欧州に置いたという経緯があります。
こうやってチェックしていくと、いまの国際組織、国際機関が、
いかにアメリカのリーダーシップで作られたかということが、
大変よくわかります。
アメリカが、世界の秩序を作ってきたのです。
第二次大戦で、日本も欧州も荒廃し、アメリカの力が突出して
しまったので、リーダーシップを取る国は、アメリカ以外には
ありませんでした。
それが、アメリカによる世界秩序、パックス・アメリカーナだ
ったのです。
これをおもしろくないと思う国があっても、不思議はありませ
ん。
かつて、一番手は、ソ連でした。
しかし、ソ連は崩壊し、すっかり変わってしまいました。
代わって登場したのが、中国です。
中国の台頭は、この10年、目覚ましいものがありました。
しかし、経済規模すなわち、GDPにおいて、1位はアメリカ、
2位が日本、そして3位が中国という状態が長く続いていまし
た。
中国は、どうしても、日本に勝てなかったのです。
ところが、2011年に、中国は経済規模で日本を抜き、GD
Pがアメリカに次いで世界第二位となりました。
そこに登場した習近平主席は、主席になった直後、アメリカで、
オバマ大統領と2人きりで2日間、過ごしました。
このころから、中国は、はっきりと変わります。
人民軍の幹部が「太平洋は、アメリカと中国で二分するのに、
十分な広さがある」と発言したのも、このころです。
G7とかG8ではなく、これからはG2だという言い方が中国
から出てきたのも、このころからです。
G2とは、アメリカと中国の2か国です。
いま起きていることは何かというと、
中国は、アメリカによる世界秩序に挑戦している
ということです。
アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、その文脈で語るべき
ものです。
AIIBは、中国が50%を出資し、本部は北京とする。
これはもう、ワシントンに本部を置くIMF・世銀に対し、中
国に本部を置く国際金融機関を作りますよという、中国の宣言
です。
もう、アメリカによる世界秩序に、中国は賛成しません。これ
からは、中国による世界秩序を作りますと、中国は、そう、世
界に向かって宣言したのです。
それが、AIIBだと思います。
アメリカは、中国から挑戦を受けているわけです。
日本は、アメリカにとって重要な同盟国です。
私の考えを先に書いておくと、アメリカか中国かと問われたら、
日本はアメリカを選ぶべきだと思います。
しかし、それならそれで、日本とアメリカは、がっちりと論議
をし、考えをすりあわせていく必要があります。そこが、どう
しても、心もとない。
日本は、アメリカによる世界秩序の恩恵を最も受けてきた国の
ひとつです。
その世界秩序が動揺しています。
AIIBは経営の透明性が疑問だとか、ガバナンスがどうの
とか、そんな問題ではありません。
そんな問題は、枝葉末節の話です。
AIIBの本質は、アメリカによる世界秩序に対し、中国が
激しいゆさぶりをかけているということです。
アメリカによる世界秩序にゆさぶりをかける方策、ツールと
して、中国は、AIIBを利用しているのです。
地理的にアジアから遠い欧州諸国、イギリス、ドイツ、フランス、
イタリアは、まんまと、中国の思惑にのってしまったということ
になるのです。
欧州諸国がAIIBに参加することを表明したのは、とりもな
おさず、欧州諸国が、アメリカによる世界秩序の維持ということ
に、あまり関心を持たなくなったということでしょう。
そしてまた、アメリカ自身、それを食い止めるだけの力を
もう見せることができなくなったということでもあります。
AIIBの成功に味をしめ、中国は、これから、
「中国による世界秩序」
を作ろうとするのではないでしょうか。
「パックス・チャイナ」
です。
中国は、共産党による一党独裁の国家です。
そんな国が、世界秩序を作ろうとするというのは、少々、
不気味な話ではないでしょうか。
これまでのところ、中国の狙いは、まんまと当たっています。
AIIBは、そういう文脈でとらえなければなりません。
アメリカによる世界秩序が動揺するなかで、日本はどう行動する
のか。
AIIBは、そういう根源的な問題を、日本につきつけているの
です。