左右に動いたり、しゃがみ込んだり、多彩な立ち合いを見せる炎鵬は、この日「後退」を選択した。左脚を一歩引き、玉鷲の出方をうかがった。「相手は突いてくる。一歩引いて距離をとって、そこで中に入っていこう」との狙いだった。
面食らった表情の玉鷲は恐る恐る近づいてきた。待ってましたとばかりに頭を下げ、懐に飛び込んだ。頭を抱え込まれても、小手に振られても、耐えた。最後は相手の引きに乗じて寄り切った。相手を“罠”にかけ、見事に仕留めた。「必死に取っているだけ」の言葉とは裏腹に、思惑通りの土俵はさぞ痛快だろう。
身長169センチの炎鵬に対し、玉鷲は189センチと20センチもの差がある。体格差のある相手を倒すには知恵を絞るしかない。苦心の末に繰り出した奇想天外な技に、大声での応援を禁止されている観客は、惜しみない拍手で応えた。
3月の春場所から間隔が空き、相撲を研究する時間に多くをあてた。過去の力士の映像を見てイメージを膨らませた。集中力の高め方も勉強した。「今までやってこなかった、分かっていたけどほったらかしにしていたことができた」。 大柄な力士との対戦で傷だらけの体を癒やす有意義な期間にもなった。
4勝目を挙げ、これで白星が1つ先行した。「こういう相撲を取っていれば白星もついてくると思う」と力を込めた。小兵の相撲は勝っても負けても魅力にあふれている。8日目以降も土俵を盛り上げる。(浜田慎太郎)