感染症診療の原則

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先日の感染症学会イブニングセミナー(補足)

2009-11-08 | Aoki Office
先日、東京ドームホテルで開かれた東日本の大会で、都立駒込病院感染症科の味澤部長がHIV感染症とHBVをはじめとする合併症関連のお話をされました。
(編集長は座長)

味澤先生は1980年代から日本のHIV感染症を支えてこられた方で、味澤先生のもとで学んだ若いドクター達が各地でHIV診療を支える力となっています。
主治医として対応している症例の多さは日本1-2ではないかとおもわれます。
(現場での経験と実績にもとづいた回答を座長席で必死にメモりました)

このセミナーでは若い先生がたからよい質問が出ていました。フロアの方も勉強になりましたね・・。

一つ解説をしたいのは「どうして受診時に精液のウイルス量も量らないのだ?」という質問についてです。

「ん?」と思った方もいるとおもいます(関連の質問がきています)ので少し解説です。

HIVの治療を始め、効果があらわれると、血中のウイルス量が低下し、検出限界の値より低くなるようになります。

これにより免疫へのダメージ等をくいとめることになるのですが、血液と精液の中のウイルス量は必ずしもパラレルではなく、例えば淋菌やクラミジアなどの性感染症で炎症があれば生殖器周囲のウイルス量が一過性に増えることもわかっています。

STDの合併は、他者への感染リスクを高め、またその人にSTDがあるとHIV感染リスクを高めることがわかっています。

質問をされたのは性感染症をご専門とする先生ですので、予防という視点で指摘をされたわけです。

現実的な話としては、

1)病院や検査会社で精液中のウイルスを測定できない
2)その結果がでたとしても治療の選択が変わるわけでもない
3)そもそも受診時に「トイレで精液とってきてください」とはいえない(!)

ということです。

実は「研究」としては意味があることで、倫理委員会を通して実施されている報告は国外には多数あります。

治療により他者への感染力が低下するならたいへんよいことですが、治療をしているからウイルス量が低下しているので、コンドームをはずしても大丈夫だ、と受け取られかねないことに注意が必要です。

実際に、先進国の医師の中には、ウイルスの量が低く、STDがなく、パートナーが特定ならコンドームをしなくてもいい、と説明する人たちもいます。

法律の概念から言うと、第三者への健康リスクの責任が問われますので、感染予防の話は診療の中でかなり重要な話でもあります。

精液を毎回検査することよりも、アウエアネスに関与するのが第一歩です。

HIV陽性とわかったあとも、実は全員がSafer Sexをしている、継続できているわけではないことも国内で報告がありますので、今後感染者が増加する中で、地味なのですが大切な会話のひとつになるでしょう。

サイエンス系のえらい先生方はこのような話題を扱いませんが、名古屋のエイズ学会のために来日されるAnn Khalsa先生のようなプライマリ重視の先生方はどのように説明をすればよいかという経験知にたけておられますので、そのような話も楽しみにしています。(編集部)
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