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こどもの髄膜炎とワクチン

2011-09-26 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
(非医療者からよせられている質問に関して)

髄膜炎は本来ならそこに菌やウイルスが入って悪さをしてはまずいところに、菌やウイルスが入り込んで炎症を起こしている状態を言います。

人間の生命や機能をつかさどるところがダメージを受ける。これはとても怖いことです。

髄膜炎じたいが「重症」なのですが、重症化しますし、場所が場所なので救命できたあとに、様々な機能障害が残ることがあります。

菌には「抗菌薬」が一応ありますが、だからといって簡単に全部えいやっとやっつけられるわけでもありません。

きゃあ!背中に針!?と思われるかもしれませんが、必ず行われる検査です。
「るんばーる」です。 子どもも医師もたいへんです。


このように怖い病気なので、なるべくならないためのワクチン(予防接種)が求められるところですが、原因となりうる菌やウイルスは複数あり、すべてを予防するワクチンはありません。

乳幼児にとってその頻度が高く、怖いのはHib(ヘモフィルスインフルエンザb)や肺炎球菌ですが、日本でも先進国におくれること10年以上、やっと認可され、期間限定ですが公費支援となっています。
(多くのところは9割が国、1割が自治体、一部自己負担。※東京は自治体予算+自己負担)

「細菌性髄膜炎から子どもたちを守る会」の保護者や支援者の皆さんの署名活動や、後押しする議員さんの力によって費用支援にたどりついた、というのが実感です。

当時の長妻厚労大臣との面会の様子ロハスメディカル記事

生後2か月から接種できるので、特に保育園等で集団生活をしたり、年長のきょうだい(幼児)との接触のある、保護者の事情で外出する機会のある赤ちゃんではタイミングを逃さず早めに接種していくことが大切です。
(どの子もなるべく推奨スケジュールどおりに、が考え方の軸です。念のため)

この二つは「細菌」によるものですが、「ウイルス」でも髄膜炎になることがあり、ワクチンがあるものは、こちら(国立感染症研究所 無菌性髄膜炎のページの表)をごらんください。

ムンプス(おたふく)、水痘、麻疹、風疹など、ワクチンが有効な感染症がならんでいます。
水痘のヘルペスウイルス以外、治療薬(抗ウイルス薬)は存在しません。
治療がないからワクチンが開発されたともいえます。
病院にいったとしても、補助的な対応になります。

ちなみに「髄膜炎菌ワクチン」は「髄膜炎菌」という名前の菌のワクチンで、万能ワクチンではないです。日本では報告が少なく、ワクチンも未承認で、渡航・留学する人等が輸入ワクチンを接種しています。

しかし、今年、宮崎県の集団生活をする高校生でのアウトブレイク・死亡例報告があり、感染症対策を仕事とする人や教育関係者の間で関心が高まりました(ワクチンがないので、曝露後投与として抗菌薬を内服する方法があります)。


すべてを予防できない、逆に言えば、今あるワクチンを大切にして、少しでもそのリスクを下げようと考えるのが健康危機管理といえます。

実際、医師は患者を一目みてすぐ「髄膜炎だ」とはいいませんし、様々な検査が行われます。
具合の悪い子どもを抱え、救急車を待つ、あるいはタクシーに乗って病院に急ぐなかでの親御さんの気持ち。

病院に着いてからもバタバタしている診療の現場で「最優先で私(の子ども)をみてください」という人々の狭間で、「診療を待つ間の数分が数時間にも感じられた」、「もっと早く病院に連れて行けばよかった」「ワクチンがあるなんて知らなかった」という親御さんの話はとてもせつない気持ちになります。

成人や高齢者でも髄膜炎にはなりますが、菌ではなく主にウイルスでなる髄膜炎の7割は0-9歳

高校生における集団感染事例も報告されています。

まれな髄膜炎などが報告されると、医療機関・保健所・自治体、国立感染症研究所感染症情報センターなどを通じて、医療関係者への共有が図られます(同様の問題がおきていないか、のアラートでもあります)

「生後3カ月以内の乳児における不明熱等患者からのパレコウイルス3型の検出―山口県」
IASR 2011年9月13日
「Mycoplasma hominis による新生児髄膜炎の一例」
IASR 2008年11月

1例1例の情報も大切ですが、全体としてどうなのか?を知る必要があります。
そのために、多忙な現場の人たちが努力をして情報を集めてています。

「小児における侵襲性細菌感染症の全国サーベイランス調査」2010年4月

そこでのメッセージ。
「Hibと肺炎球菌は、小児期における侵襲性感染症の起因菌として頻度が高い。細菌性髄膜炎はその代表的な疾患であり、現在国内においては毎年Hibによる髄膜炎が400数十例、肺炎球菌による髄膜炎が150例程度発症していると推計される。さらには、抗菌薬投与前の血液培養採取など病因診断に心がければ、髄膜炎以外に毎年、Hibでは300例近く、肺炎球菌では1,000例以上の子どもたちが、これら細菌の脅威に曝されている。ワクチンの普及に努め、予防に努めることが何よりも大切である。」

例えば、Hibでも、怖いのは髄膜炎だけじゃないのですが、あまり知られていないですね。
 IASR 2010年4月
菌血症、敗血症、肺炎、急性喉頭蓋炎などの予防も目的としています。

現在は、公費で接種率もあがっているのですが、公費支援が導入される前の接種率は10-20%程度だったそうです。
行政の広報もなく、情報的にも厳しい中であっても20%の親が自費で接種をさせていたことに驚くべきなのか。

日本の予防接種行政の改善はこれからです。


【補足】コメント欄に、(原発で)抵抗力低下→髄膜炎はあるか?という質問があったのですが、感染症が疑われる場合には、まずその直接の原因精査が先です。免疫が正常な人でも髄膜炎になるリスクはあります。
感染症と思われる事例が複数、同時期におきている場合、ご不明な点は保健所にご相談ください。
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1 コメント

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Unknown (ボーイずママ)
2011-09-27 10:24:32
二歳三ヶ月男の子のママです。ヒブの予防接種はまだ接種しておらず病院(開業医)に早速予約しようとした所、二才すぎるとおたふくや水ぼうそうからくるウィルスで髄膜炎になりやすい。のでヒブはあまり必要ないのでは?との事でした。二才すぎての予防接種は必要ありませんか?
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