2012年末のHPV関連疾患とHPVワクチンの話題。
メルボルンで開かれていた国際性感染症会議で、オーストラリアでの疫学データが話題になっていました。
それによると、HPVワクチンを接種した世代の助成では尖圭コンジローマが95%減、接種をしていない男性も減少、接種していない世代の女性でも減少。
治療もそうシンプルではなく再発もあり、当事者が大変な思いをするコンジローマ。それを重視した英国NHSが、今年の10月からHPVワクチンを2価から4価に変更をしました。
そして、オーストラリアは2013年からHPVワクチンを男子にも接種開始予定。
Read TR, Hocking JS, Chen MY, Donovan B, Bradshaw CS, Fairley CK. The near disappearance of genital warts in young women 4 years after commencing a national human papillomavirus (HPV) vaccination programme. Sex Transm Infect. 2011 Dec;87(7):544-7. Epub 2011 Oct 4.
オーストラリアはHPVワクチン接種のregistration制度をつくっており(作ってから接種を始めたわけですので、epidemiologistはじめ、このワクチンの安全性や有効性の評価の精度をあげようという意気込みが最初からすごかったです)、接種群と非接種群での10年後のデータ比較などもできるようになっています。
日本では、そのようなデータセットは最初からないですし、接種した人が「たしかに接種はしたけどどっちだかわからない」と答えるような話も聞きますので、健診が必要なんだよ、コンドームも必要なんだよという話をちゃんと聞かされているのか不安になります。
海外は「しきゅう」のワクチンではなく、他の1次予防も視野にいれています。例えば、4価に変更をする英国NHSの取り組み。
HPVは口の中のがんにも関連しますという啓発と無料スクリーニングを強化期間にやっています。
米国でも、症例群でみるとHPV16の関与は大きいですが、人口10万人対でみると有病率は現在そんなに大きくはありません。
今後、啓発が進んで検診を受ける人が増えると分子も増えるのかもしれません(そういったデータの変化の解釈には注意が必要)。タバコやがんとの関係性もいわれていますので、あわせてみていきたいとおもいます。
日本には「有害事象報告システム」がないので、現在いろいろ混乱がおきていますが、それでも臨床医が報告をしているデータは公開をされていますので、ワクチン接種や情報提供に関わる人は、どれくらいの質と量の問題があるのかの参考になると思います。
安全性のデータについては、臨床試験だけでは分母の数が足りませんので、市販後調査のデータが重要です。
たくさんの人が接種をしたときに、臨床試験で把握していた特定の有害事象がどれくらい大きくなるのか、特定の地域や年齢に偏った変化がみられないか、また、長時間経過した後に出てくるワクチン特有の問題はないかをみています。
下記の市販後調査結果は、MSDがまとめたもので、市販後6か月の直後のデータです。
この調査は"販売開始後に「医療機関に対し確実な情報提供、注意喚起を行い、適正使用に関する理解を促す」ことと、「重篤な副反応及び感染症の情報を迅速に収集し、必要な安全性対策を実施することにより、副反応等の被害を最小限にする」ことが目的"となっています。
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ガーダシル市販直後調査
期間:2011年8月26日~2012年2月25日 (発売開始より6ヶ月間)
推定接種者数(回数):最大 約394,759人(回) (医療機関納入数量より推計)
副反応報告数: 238例398件 (因果関係を否定できない有害事象)うち、重篤な副反応:27例41件
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分母分子を確認しましたね。もっとも多い副反応は接種部位の腫れや痛みでありますが、ここで重要なのは重篤な副反応です。
27例41件の全体をみてみましょう。色や太字は編集部による勉強メモです。
まず、多くの報告事象は回復されているようでよかったです。
先に認可していた外国と同じように、思春期独特の迷走神経反射が中心の報告となっています。
関連性を考えるときは、接種直後なのか、何日たってからなのか、その事象は他のことでもおこりうるのではないかということを考えます。
ちょっとみづらい表ですが、こちらの表は迷走神経反射/失神がおきたときの状況です。どれくらいの時間経過なのか、どのような姿勢だったのか、といったリアリティがわかります。
医療関係者的には、症例の経過と医療としての対応がどのように行われているのかが知りたいところです。
症例1:典型例
症例2:過去に迷走神経反射の既往がある例
症例3:痙攣をともなった例
症例4:立位から転倒した例
「血管迷走神経反射」はワクチンだけでなく、献血、採血、他の注射、歯の治療時にも起こりますが、特徴としては、思春期層に多いことが知られています。
日本でも麻疹(3期4期)ワクチンの接種の際に、小児科学会から注意喚起がありました。
意識はすぐにもどりますが、転んでけがをするのがあぶないためです。
米国では他の思春期に接種するワクチンとの比較があります。
Vaccine Safety Datalink (VSD) Projectは下記の医療データとのリンクを見ることができるプロジェクトです。
有害事象方向は報告ベースですが、医療記録ですと前後のことや既往等も把握がしやすく精度があがります。
Group Health Cooperative of Puget Sound, Seattle, Washington
Harvard Pilgrim Health Care, Boston, Massachusetts
HealthPartners Research Foundation, Minneapolis, Minnesota
Kaiser Permanente Northwest, Portland, Oregon
Kaiser Permanente Medical Care Program of Northern California, Oakland, California
Kaiser Permanente Colorado, Denver, Colorado
Kaiser Permanente of Georgia, Atlanta, GA
Kaiser Permanente of Hawaii, Honolulu, Hawaii
Marshfield Clinic Research Foundation, Marshfield, Wisconsin
Southern California Kaiser Permanente Health Care Program, Los Angeles, California
で、HPVだけが問題というわけではないということがわかります。
別の論文などでは、他の思春期ワクチンより多いという報告もあります。データの取り方が違うので関心ある方は分母分子に注意しながらご確認ください。
ちなみに、米国には誰でも有害事象を報告できるVAERSがありますが、誰でも報告できるゆえに、「因果関係」は全くわかりません(というか論じようがありません)。
面白いのは、経年変化です。
ガーダシル販売当初から2012年9月15日までのデータセットをみると、ガーダシルで届けられている有害事象全体数が減っています。接種している人が減っているわけではないので、「関心の低下」なのではないかとおもいます。
[ガーダシルのVEARS有害事象報告総数]
2006年(販売開始) 428件
2007年 5722件
2008年 6104件
2009年 3267件
2010年 2730件
2011年 2281件
2012年 1550件
特に、昨年は女性議員が「ガーダシルを接種しすると知的障害になる」という発言をして大問題になりました。
「その診断をした医師をつれてきなさい。実在する症例ならば賞金をあげようではないか」といったのはペンシルバニア大学の医療倫理の先生でした。
Bioethicists Up The Ante In Bachmann's HPV Brouhaha(カイザーヘルスニュース)
このあと、議員は「診断した医師の話ではなく、その娘さんのお母さんがそういってたんです」とトーンダウン。その後どうなったんでしょうね。(ゴシップ好きのテレビはけっこうもりあがっていたようですが)
ちなみに、日本では不妊になる!という途上国で定番型のデマが流行しましたが(とほほ)、公費支援のおかげか接種率は7割と高く、逆に米国では、「うちの娘はまだセックスなんかしません。きりっ」とか「セックスの話をするのはまだ早い」ということで接種率は4割程度と低いままです。コンドーム使用率は日本の方が断然高いですし、医療アクセスもよいので、このワクチンについては米国関係者からうらやましがられていたりもします。
メルボルンで開かれていた国際性感染症会議で、オーストラリアでの疫学データが話題になっていました。
それによると、HPVワクチンを接種した世代の助成では尖圭コンジローマが95%減、接種をしていない男性も減少、接種していない世代の女性でも減少。
治療もそうシンプルではなく再発もあり、当事者が大変な思いをするコンジローマ。それを重視した英国NHSが、今年の10月からHPVワクチンを2価から4価に変更をしました。
そして、オーストラリアは2013年からHPVワクチンを男子にも接種開始予定。
Read TR, Hocking JS, Chen MY, Donovan B, Bradshaw CS, Fairley CK. The near disappearance of genital warts in young women 4 years after commencing a national human papillomavirus (HPV) vaccination programme. Sex Transm Infect. 2011 Dec;87(7):544-7. Epub 2011 Oct 4.
オーストラリアはHPVワクチン接種のregistration制度をつくっており(作ってから接種を始めたわけですので、epidemiologistはじめ、このワクチンの安全性や有効性の評価の精度をあげようという意気込みが最初からすごかったです)、接種群と非接種群での10年後のデータ比較などもできるようになっています。
日本では、そのようなデータセットは最初からないですし、接種した人が「たしかに接種はしたけどどっちだかわからない」と答えるような話も聞きますので、健診が必要なんだよ、コンドームも必要なんだよという話をちゃんと聞かされているのか不安になります。
海外は「しきゅう」のワクチンではなく、他の1次予防も視野にいれています。例えば、4価に変更をする英国NHSの取り組み。
HPVは口の中のがんにも関連しますという啓発と無料スクリーニングを強化期間にやっています。
米国でも、症例群でみるとHPV16の関与は大きいですが、人口10万人対でみると有病率は現在そんなに大きくはありません。
今後、啓発が進んで検診を受ける人が増えると分子も増えるのかもしれません(そういったデータの変化の解釈には注意が必要)。タバコやがんとの関係性もいわれていますので、あわせてみていきたいとおもいます。
日本には「有害事象報告システム」がないので、現在いろいろ混乱がおきていますが、それでも臨床医が報告をしているデータは公開をされていますので、ワクチン接種や情報提供に関わる人は、どれくらいの質と量の問題があるのかの参考になると思います。
安全性のデータについては、臨床試験だけでは分母の数が足りませんので、市販後調査のデータが重要です。
たくさんの人が接種をしたときに、臨床試験で把握していた特定の有害事象がどれくらい大きくなるのか、特定の地域や年齢に偏った変化がみられないか、また、長時間経過した後に出てくるワクチン特有の問題はないかをみています。
下記の市販後調査結果は、MSDがまとめたもので、市販後6か月の直後のデータです。
この調査は"販売開始後に「医療機関に対し確実な情報提供、注意喚起を行い、適正使用に関する理解を促す」ことと、「重篤な副反応及び感染症の情報を迅速に収集し、必要な安全性対策を実施することにより、副反応等の被害を最小限にする」ことが目的"となっています。
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ガーダシル市販直後調査
期間:2011年8月26日~2012年2月25日 (発売開始より6ヶ月間)
推定接種者数(回数):最大 約394,759人(回) (医療機関納入数量より推計)
副反応報告数: 238例398件 (因果関係を否定できない有害事象)うち、重篤な副反応:27例41件
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分母分子を確認しましたね。もっとも多い副反応は接種部位の腫れや痛みでありますが、ここで重要なのは重篤な副反応です。
27例41件の全体をみてみましょう。色や太字は編集部による勉強メモです。
まず、多くの報告事象は回復されているようでよかったです。
先に認可していた外国と同じように、思春期独特の迷走神経反射が中心の報告となっています。
関連性を考えるときは、接種直後なのか、何日たってからなのか、その事象は他のことでもおこりうるのではないかということを考えます。
ちょっとみづらい表ですが、こちらの表は迷走神経反射/失神がおきたときの状況です。どれくらいの時間経過なのか、どのような姿勢だったのか、といったリアリティがわかります。
医療関係者的には、症例の経過と医療としての対応がどのように行われているのかが知りたいところです。
症例1:典型例
症例2:過去に迷走神経反射の既往がある例
症例3:痙攣をともなった例
症例4:立位から転倒した例
「血管迷走神経反射」はワクチンだけでなく、献血、採血、他の注射、歯の治療時にも起こりますが、特徴としては、思春期層に多いことが知られています。
日本でも麻疹(3期4期)ワクチンの接種の際に、小児科学会から注意喚起がありました。
意識はすぐにもどりますが、転んでけがをするのがあぶないためです。
米国では他の思春期に接種するワクチンとの比較があります。
Vaccine Safety Datalink (VSD) Projectは下記の医療データとのリンクを見ることができるプロジェクトです。
有害事象方向は報告ベースですが、医療記録ですと前後のことや既往等も把握がしやすく精度があがります。
Group Health Cooperative of Puget Sound, Seattle, Washington
Harvard Pilgrim Health Care, Boston, Massachusetts
HealthPartners Research Foundation, Minneapolis, Minnesota
Kaiser Permanente Northwest, Portland, Oregon
Kaiser Permanente Medical Care Program of Northern California, Oakland, California
Kaiser Permanente Colorado, Denver, Colorado
Kaiser Permanente of Georgia, Atlanta, GA
Kaiser Permanente of Hawaii, Honolulu, Hawaii
Marshfield Clinic Research Foundation, Marshfield, Wisconsin
Southern California Kaiser Permanente Health Care Program, Los Angeles, California
で、HPVだけが問題というわけではないということがわかります。
別の論文などでは、他の思春期ワクチンより多いという報告もあります。データの取り方が違うので関心ある方は分母分子に注意しながらご確認ください。
ちなみに、米国には誰でも有害事象を報告できるVAERSがありますが、誰でも報告できるゆえに、「因果関係」は全くわかりません(というか論じようがありません)。
面白いのは、経年変化です。
ガーダシル販売当初から2012年9月15日までのデータセットをみると、ガーダシルで届けられている有害事象全体数が減っています。接種している人が減っているわけではないので、「関心の低下」なのではないかとおもいます。
[ガーダシルのVEARS有害事象報告総数]
2006年(販売開始) 428件
2007年 5722件
2008年 6104件
2009年 3267件
2010年 2730件
2011年 2281件
2012年 1550件
特に、昨年は女性議員が「ガーダシルを接種しすると知的障害になる」という発言をして大問題になりました。
「その診断をした医師をつれてきなさい。実在する症例ならば賞金をあげようではないか」といったのはペンシルバニア大学の医療倫理の先生でした。
Bioethicists Up The Ante In Bachmann's HPV Brouhaha(カイザーヘルスニュース)
このあと、議員は「診断した医師の話ではなく、その娘さんのお母さんがそういってたんです」とトーンダウン。その後どうなったんでしょうね。(ゴシップ好きのテレビはけっこうもりあがっていたようですが)
ちなみに、日本では不妊になる!という途上国で定番型のデマが流行しましたが(とほほ)、公費支援のおかげか接種率は7割と高く、逆に米国では、「うちの娘はまだセックスなんかしません。きりっ」とか「セックスの話をするのはまだ早い」ということで接種率は4割程度と低いままです。コンドーム使用率は日本の方が断然高いですし、医療アクセスもよいので、このワクチンについては米国関係者からうらやましがられていたりもします。