Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

2019.11自然の恵みと災害(NCP)に向き合って生きていくために

2020-04-01 | 森川海に生きる人びと

世界最大級の風水害と事前準備

 この度の台風被害は,全国に巨大な爪痕を残した。被害に会われた方々にお見舞い申し上げる。私自身も,隅田川河口域の0m地帯に住んでおり,身の危険を感じ,車を高台へと移動した。東京23区東側の0m地帯には300万人が住んでいる。今回は,幸い被害はなかったが,いつ風水害にあってもおかしくない状況だ。東京23区東側が被災すれば,世界最大級の風水害となるだろう。安心するのではなく,予兆として準備してする必要がある。万が一に備え,どれだけ“事前準備”ができるかが最大の課題だが,十分とは言えない。【写真①】

IPCC特別報告書公表記念シンポジウム

 10月15日,虎ノ門で開催された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)海洋・雪氷圏特別報告書(SROCC)公表記念シンポジウムに出席した【写真②】。

IPPC第二作業部会共同議長のハンズ・オットー・ポートナー教授(ウェゲナー研究所)は,現在,世界中の極域や氷河が溶け出し,地球環境に大きな影響を与えているという。サンマが取れなくなっているのも関係があるようだ【写真③】。

さらに,注目すべきデータとして3点が挙げられた。

(1)20世紀では15cm海面が上昇したが,2100年にはこのままで行けば1.1m上昇,2300年には3〜4m上昇する。

(2)気温の上昇を2度に押さえれば,海水温は2−4倍だが,それ以上だと5−7倍の水温になる。

(3)今まで100年に一度だった大型台風は,1年に一度に発生する可能性が極めて高い。現在68億人が沿岸部に住み,6500万人が小さい島に住んでおり,世界中の大半の人々の生活に大きな影響を与えるだろう。

 地球環境の変化は,従来常識を遥かに超える。今までの考え方では,十分な対策を立てることができない。一度被害にあった場所は,再び被害に会うことを覚悟しないといけないだろう。実際に,我々が住む場所の大半は,かつて波の作用によって砂が運ばれたり,浸食作用によって削られたりした場所である。

 

国際シーグラントウィーク in 韓国

 8月27-31日,国際シーグラントウィークが韓国の浦項(ポハン)市のポハン工科大学にて開催された【写真④】。アメリカと韓国のシーグラントに所属する研究者の交流会だ。日本にも声がかかるが,日本にはそのような政府機関がない。シーグラントシステムの設置を提唱していることを知り,お声をかけていただいた。私の研究発表は,「アジア海洋教育学会のこれまでとこれから」と題して閉伊川での取り組みを中心に発表した。

 韓国シーグラントの元代表,韓国の国立済州大学の教授B.G.LEE(リー)氏によると,「気候変動は確実に起こっている。アメリカは,すでに膨大なデータを蓄積し被害予想を立てている。韓国と日本で,海面上昇についてのワークショップを開催しよう。」と声をかけられた【写真⑤】。私は,イエスと答えた。だが,日本にはシーグラントの組織がなく,市民始発型のボトムアップ式の組織がない。内発的な取り組みをサポートできる仕組みが十分とは言えない。

 これからは,市民一人一人が気候変動の意識を高め,内発的に行動するように社会システム環境を整える必要がある。被害が起きてからでは遅い。行政の仕組みも変えていく必要がある。国が決めてから動く仕組みではなく,市民が自治体を動かし国を動かすことで,強靭な国家体制となる。そのためにはどうするか。これが,シーグラントの役割だ。アメリカのシーグラントは,NOAA(アメリカ海洋大気庁)に本部があり,全米各地の33州の州立・私立大学に支部を置き,さらに自治体に地方拠点を持っている。フロリダ州には1自治体に一人のエージェントが配置され,市民の内発性を支援する重要な役割を担っている。

 実は,閉伊川の取り組みも港区での取り組みも,ともに日本にシーグラントシステムを導入するための研究活動の一環だ。研究者としてまず大事なことは,ネーチャー,サイエンス等世界的に著名な雑誌に研究を掲載する。そのための内発性を高めるための教育活動を行っている。両者とも地味な作業である。少なくとも後5年で駒を進めたい。

 

初めての中国海洋大学訪問

 8月20日〜8月25日まで,第3回アジア海洋教育学会研究発表会が山東省青島市で中国海洋大学国際協力交流センター所長 宋文紅教授,海洋教育センター所長馬勇教授【写真⑥】がホストとして盛大に開催された【写真⑦】。ヨーロッパ,アフリカ,アメリカからの7名の招へい研究者,中国国内の約300名の大学関係者,NGO,約50名の台湾他アジア各国の教育研究者が招かれ莫大な費用をかけて運営していただいた。海洋教育に,国家が積極的に資金を投じるパワーがみなぎる。世界の安寧をアジアから発信する「アジア海洋教育学会」の代表としてこの場をお借りし心から感謝申し上げる。会議,発表会はホテルの会場で行われ市内の見学はできなかったが,海洋教育を導入する小学校,中学校,高等学校を訪問し,海洋教育に莫大な予算が投じ進められていることを理解できた【写真⑧】。このような規模の海洋教育国際会議が,日本でも取り組めるよう地道な努力を続けたい。

国際森川海体験交流会 in 閉伊川

 今回の中国訪問の際にも,閉伊川での取り組みの紹介をさせていただいた。毎年行われている国際森川海体験交流会での台湾親子の様子,昨年のインドネシア大学生の様子を紹介した。この活動を紹介すると国籍は全く関係なく,笑みがこぼれ,心が和んでいる様子が発表者からもよく見える。心が和むのも当然だ。閉伊川流域の水,動植物,人々の優しさ等自然と人間の状態はユネスコが目指すSDGsの目標をほぼ網羅しているからだ。生態系サービスに変わり,NCP(自然の人間への寄与:恵みや災害も含めて)という自然の価値を示す新しい考えが提唱されているが,まさに閉伊川流域はNCPを理解する世界屈指の場所と言っても過言ではない。【写真⑨】

山東省と日本との関わり

 中国は,日本の25倍の陸地面積だ。広大すぎて,全容を把握するのが大変である。中国海洋大学のある青島市は山東省にあり【写真⑩】,日本と密接に関わりがある地域だ。秦の始皇帝時代,長寿の薬を求めて徐福が2000人の若者を連れて蓬莱(=日本:富士山のことを蓬莱山という)に渡ったとする伝説が存在する。この伝説は中国,特に山東省に伝えられている伝説であるが,実は日本でも各地に徐福が来たとする場所が各地にある。だが,漢字が導入された以降を歴史としている日本の歴史には登場しない。残念なことである。また,山東省は孔子の生まれた曲阜(キューフン)市がある。実は,曲阜市を訪問し,孔子廟(お墓)を訪問した。なんと渦巻き模様を多数発見した。徐福が日本に来たとする伝説があるとすれば,日本から山東省に渡ったとする伝説もあってもよい。さて,孔子廟と渦巻と日本との関係はどうなっているのだろうか(続く)。