国立台湾海洋科技博物館の陳麗淑博士を訪問しました。
潮境研究センター3階より撮影
台湾では,2010年に国家プロジェクトとして海洋教育がスタートし,小学校において海洋教育が導入された。基隆市には国立海洋科技博物館ならびに付属潮境研究センターが全台湾の海洋教育の中心的な役割を担っている。
(1)海洋体験施設「潮境研究センター」
潮境研究センターは本館から車で10分のところにある。
小学校の学校教育の一環として小学生を対象としたダイドープール学習,海洋科学研究の手法を学ぶ水槽施設,深海生物,海洋基礎調査を紹介する展示スペースを解放している。
潮境研究センター近くのタイドプール。ここでは,地元小学生の授業の一環としてタイドプール学習会を定期的に行っている。
小学校教師に対する海洋教育に関するリカレント教育も実施されている。
海洋研究だけではなく,研究の様子を理解するための施設として工夫されている。サンペドロのカブリロ水族館のレイズナーサリー施設と同様のコンセプトである。残念ながら日本でこのような施設は見た事がない。
センター内の水槽。クマノミが水族館施設展示のため乱獲され,減少している事から増殖に取り組んでいるという。
ここの白いラインの外側が見学ゾーン。誰でも見学しやすいように整備されている
また,夏休みは台北を中心とした政府関係者への施設案内を行っている。私が訪れた際にも,大型バス2台のった関係者が台北市から見学に訪れていた。
海洋だけでなく淡水も重要であると陳博士は語っていた
深海の特別展
深海の甲殻類が展示されていた
しんかい6500のパネル。台湾近海の深海は日本の潜水艇で調査されている
海洋を調査するための器具の展示
(2)海洋教育プログラムの模索
海洋教育の具体的なプログラムについては,現在模索中でありどのようなプログラムがよいのか現在試行錯誤をしている,という。台湾では,座学を最初にした方がいいという意見と,実際の現場が重要でありその後に講義した方がいい,という2つの意見があるという。学校の状況に依存しているので一概には言えないが,子どもたちの環境をよく理解した上で,プログラム開発を行う必要性があるのではないか,環境に対する意識を高め,生態系の重要性を教えるのは大変時間がかかるので,段階的にステップバイステップでプログラムを組み立てる必要があることのではないか等の意見交換を行った。
台湾では生き物には興味を示すが,海洋科学的なことにはあまり興味を示さない。どこの国でも共通の課題であろうか。特にアジアの国は西洋生まれの科学について理解を進めるためのプログラムが必要である,また質問をどう組み立てるかによって子どもたちの興味関心を高めることができる「質問をもとにした学習」(Inquiry based learning)の共同研究の必要性を提案した。
(3)基隆市小学校での海洋教育の実際
現在,市内の3つの小学校が博物館と連携して海洋教育を推進しておりウエブページで紹介されている。
基隆市和平國小での陳さんの講演のようす
八斗国小海洋日活動
(3)各郡に設置されている「海洋教育資源センター」
また,台湾はカウンティー(郡)ごとに海洋教育資源センターを設置しており,将来的にはこのセンターが博物館と連携し全国のネットワークを形成して海洋教育が全国的に組織的に展開されるという。日本型シーグラントに求めている理想の形である。
また,博物館が中心となって毎年9月にICCの一環としてビーチクリーンアップも行っており,日本の大学とも連携しているという。
(4)海洋科技博物館本館の「区域探索コーナー」
本館の海洋科技博物館は,船の形をした5階建ての建物。現在は区域探索コーナーだけが開館している。
海洋科技博物館の区域探索コーナーは,地元の基隆市の昔の港町を再現したフロアである。7月に開館したばかりであり,7月は地元,8月は基隆市の全市民を対象に開講している。
展示内容は,50年ほど前に実際に行われていた地元の漁業が紹介されている。子どもの頃体験した漁村生活を懐かしみ涙ぐむ来館者もいるという。
海女の展示コーナーでは珊瑚石で作ったハウスで子どもたちに海産物を食べされている光景が再現されていた。
海女さんの家庭での一般的な食事風景
この地域はかつて資源が豊富だったが,50年前に港湾施設ができてから水産資源が減少の一途をたどったという。
港湾施設が出来た現在の八斗子漁港 青い建物は完成予定の海洋科技博物館(ここはかつて日本が戦前に建てた発電所。最近まで稼働していたという)
八斗子地域の新造船の餅巻き風景(日本の方式が受け継がれているという)
(5)海洋教育における「国際協力の必要性」
陳博士はオーストラリアの大学の海洋生物学科で博士をとり10年前に博物館職員として採用された。元々コーラルリーフフィッシュの専門であったが,博物館就職とともに海洋教育研究に専念している,という。今は,来年度以降に開館する海洋科技博物館の新館準備と,海洋教育プログラムの開発と作成に取り組んでおられる。
研究室外観。研究室には日本の大学で博士を取得した研究員が勤務していた。不景気のため博物館の開館が遅れているという。
教育は重要であるが,予算の面から後回しになりがちである。海洋の価値を高めていくためには研究のみならず教育に関する国際的な連携が重要であり,これからも綿密な連携を図っていくことを約束して,再会を誓った。陳麗淑博士が作成した基隆市海洋教育資源中心をご覧いただきたい。
台湾の海洋教育には韓力群・佐々木剛論文「東アジアにおける海洋教育 : 台湾の地域連携教育 を中心にして」に取り上げられている。
潮境研究センター3階より撮影
台湾では,2010年に国家プロジェクトとして海洋教育がスタートし,小学校において海洋教育が導入された。基隆市には国立海洋科技博物館ならびに付属潮境研究センターが全台湾の海洋教育の中心的な役割を担っている。
(1)海洋体験施設「潮境研究センター」
潮境研究センターは本館から車で10分のところにある。
小学校の学校教育の一環として小学生を対象としたダイドープール学習,海洋科学研究の手法を学ぶ水槽施設,深海生物,海洋基礎調査を紹介する展示スペースを解放している。
潮境研究センター近くのタイドプール。ここでは,地元小学生の授業の一環としてタイドプール学習会を定期的に行っている。
小学校教師に対する海洋教育に関するリカレント教育も実施されている。
海洋研究だけではなく,研究の様子を理解するための施設として工夫されている。サンペドロのカブリロ水族館のレイズナーサリー施設と同様のコンセプトである。残念ながら日本でこのような施設は見た事がない。
センター内の水槽。クマノミが水族館施設展示のため乱獲され,減少している事から増殖に取り組んでいるという。
ここの白いラインの外側が見学ゾーン。誰でも見学しやすいように整備されている
また,夏休みは台北を中心とした政府関係者への施設案内を行っている。私が訪れた際にも,大型バス2台のった関係者が台北市から見学に訪れていた。
海洋だけでなく淡水も重要であると陳博士は語っていた
深海の特別展
深海の甲殻類が展示されていた
しんかい6500のパネル。台湾近海の深海は日本の潜水艇で調査されている
海洋を調査するための器具の展示
(2)海洋教育プログラムの模索
海洋教育の具体的なプログラムについては,現在模索中でありどのようなプログラムがよいのか現在試行錯誤をしている,という。台湾では,座学を最初にした方がいいという意見と,実際の現場が重要でありその後に講義した方がいい,という2つの意見があるという。学校の状況に依存しているので一概には言えないが,子どもたちの環境をよく理解した上で,プログラム開発を行う必要性があるのではないか,環境に対する意識を高め,生態系の重要性を教えるのは大変時間がかかるので,段階的にステップバイステップでプログラムを組み立てる必要があることのではないか等の意見交換を行った。
台湾では生き物には興味を示すが,海洋科学的なことにはあまり興味を示さない。どこの国でも共通の課題であろうか。特にアジアの国は西洋生まれの科学について理解を進めるためのプログラムが必要である,また質問をどう組み立てるかによって子どもたちの興味関心を高めることができる「質問をもとにした学習」(Inquiry based learning)の共同研究の必要性を提案した。
(3)基隆市小学校での海洋教育の実際
現在,市内の3つの小学校が博物館と連携して海洋教育を推進しておりウエブページで紹介されている。
基隆市和平國小での陳さんの講演のようす
八斗国小海洋日活動
(3)各郡に設置されている「海洋教育資源センター」
また,台湾はカウンティー(郡)ごとに海洋教育資源センターを設置しており,将来的にはこのセンターが博物館と連携し全国のネットワークを形成して海洋教育が全国的に組織的に展開されるという。日本型シーグラントに求めている理想の形である。
また,博物館が中心となって毎年9月にICCの一環としてビーチクリーンアップも行っており,日本の大学とも連携しているという。
(4)海洋科技博物館本館の「区域探索コーナー」
本館の海洋科技博物館は,船の形をした5階建ての建物。現在は区域探索コーナーだけが開館している。
海洋科技博物館の区域探索コーナーは,地元の基隆市の昔の港町を再現したフロアである。7月に開館したばかりであり,7月は地元,8月は基隆市の全市民を対象に開講している。
展示内容は,50年ほど前に実際に行われていた地元の漁業が紹介されている。子どもの頃体験した漁村生活を懐かしみ涙ぐむ来館者もいるという。
海女の展示コーナーでは珊瑚石で作ったハウスで子どもたちに海産物を食べされている光景が再現されていた。
海女さんの家庭での一般的な食事風景
この地域はかつて資源が豊富だったが,50年前に港湾施設ができてから水産資源が減少の一途をたどったという。
港湾施設が出来た現在の八斗子漁港 青い建物は完成予定の海洋科技博物館(ここはかつて日本が戦前に建てた発電所。最近まで稼働していたという)
八斗子地域の新造船の餅巻き風景(日本の方式が受け継がれているという)
(5)海洋教育における「国際協力の必要性」
陳博士はオーストラリアの大学の海洋生物学科で博士をとり10年前に博物館職員として採用された。元々コーラルリーフフィッシュの専門であったが,博物館就職とともに海洋教育研究に専念している,という。今は,来年度以降に開館する海洋科技博物館の新館準備と,海洋教育プログラムの開発と作成に取り組んでおられる。
研究室外観。研究室には日本の大学で博士を取得した研究員が勤務していた。不景気のため博物館の開館が遅れているという。
教育は重要であるが,予算の面から後回しになりがちである。海洋の価値を高めていくためには研究のみならず教育に関する国際的な連携が重要であり,これからも綿密な連携を図っていくことを約束して,再会を誓った。陳麗淑博士が作成した基隆市海洋教育資源中心をご覧いただきたい。
台湾の海洋教育には韓力群・佐々木剛論文「東アジアにおける海洋教育 : 台湾の地域連携教育 を中心にして」に取り上げられている。