教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

全国学力調査について~改訂

2008年09月17日 | 教育行政・学校運営
「かけはし」に学力テスト問題を掲載することについては、校区3校の各校長と何度も協議を重ねました。その結果、以下のような内容に改訂して発行することとなりました。改訂は2点です。第1は、私の個人的な経験に基く記事(東京の友人との会話を含む第2節の内容)を避ける方が記事の質を高める、という点にあります。第2は、「就学援助と学力の関係」という表現です。新聞記事の内容は、たとえそうであっても、そのまま引用すると就学援助を受けている多くの保護者を傷つけることになるのでは、という指摘です。私は、そのどちらの指摘も受け入れ、以下のように改定し発行しました。
ある校長は、「敢えてこの記事を載せるか」と苦笑いをしていましたが、「これだけ話題となっているのに、触れない方が不自然」と説明すると、納得してくれました。「かけはし」は、校区3校の校長の「度量の大きさ」にも支えられ、発行ができている新聞なのです。

【公開された結果】
8月29日、再開二度目となった学力調査の結果が文部科学省から公開されました。文部科学省のHPには、膨大なデーターが掲示されています。今後、各教育委員会レベルで分析・検討がなされると思いますが、新聞を見ながら私が気になった項目をいくつか書き留めます。
①新聞では各教科の正答率が都道府県ごとに明らかになり、大阪府の子どもたちの正答率が昨年に続いて振るわなかったことが報道されていました。特に正答率の上位と下位が共に増え学力二極化の進行が浮き彫りになったと言われています。また、全国的にみると②正答率が高い地域や学校の取り組みについては、少人数学級でのきめ細かい指導、自宅学習の習慣付け、ボランティアによる授業サポート、授業中に私語が少なく落ち着いているといったことがらが挙げられました。③学力と家庭生活との関連では、学力調査と同時に行われた生活アンケートの分析を行い、朝食を毎日食べる児童は全く食べない児童に比べすべての科目で正答率が大幅に上回っていること、さらに『読書好き』で『家族と学校での出来事について話をしている』という児童ほど正答率が高いとなっています。④家庭の経済力についても関心を向け、「経済格差=学力格差」(8/30産経新聞)という見出しをつける新聞もありました。

【学力向上と無縁なテスト対策】
現在、学力テストの平均点を公開し、市町村や学校ごとの順位付けを行うことが、教職員の努力を生み出し、結果として子どもたちの学力向上につながるという意見が見られます。しかし日弁連は、学力テストの結果を公開している地域の実態を調べたうえで、学力テスト実施方法の是正を求める意見書を文部科学省へ提出(2008年2月15日)しています。意見書を読むと、点数公開による学校間競争が、子どもたちの学力向上とは無縁な方向に向かいつつある現状がわかります。例えば、「教育委員会が類似した問題集を作成配布し、時間配分や問題の解き方を児童・生徒に指導すること」「問題集を解かせたページ数や正答率等を報告する」(広島県北広島町)というように学力テストのための授業を行うことが、市町村ぐるみで行われていることが明らかにされています。更に、テストの成績の伸び率に応じて学校予算を傾斜配分するとした東京都足立区では、昨年度の東京都学力テストで「教員が児童の誤った回答を指差し、正解を誘導する」「学力テストの採点・集計から、障害のある児童の答案を本人や父母に無断で除外する」といった人権侵害を伴う不正があったことも指摘されています。

【学力向上のための取り組みとは】
教員であれば、学校や教育が子どもたちの可能性を広げる場になることを願わない者はないと思います。親世代の経済格差が子どもたちの学力格差にストレートに繋がるようでは、格差は後の世代に受け継がれ、学校や子どもたちから希望は消え去ります。全国学力調査で数値化された点数が、子どもたちの学力の全てを表現しているとは考えられませんが、私たちは子どもの学力向上への道筋を引き続き考えていく必要があります。しかし学力向上の道筋は、決して「練習テストの繰り返し」や「欠席扱い」などの平均点競争であってはなりません。市町村や学校ごとの平均点の公開が、教員や子どもを無意味な競争に巻き込んでいる現状を改める必要があります。