宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『ナイチンゲールと薔薇』(オスカー・ワイルド)(1888)(その4):ナイチンゲールは《愛》の幻、《愛に真に生きる人》の幻、「愛の神秘」の幻を見ただけだった!今は、実用的・実利的な時代だ!

2024-02-08 15:45:44 | Weblog
※“The Nightingale and the Rose” (Oscar Wilde: 1854-1900)
(10)ナイチンゲールは「死によって完成する愛」について、「墓のうちで死に絶えることのない愛」について歌っていた!
So the Nightingale pressed closer against the thorn, and louder and louder grew her song, for she sang of the birth of passion in the soul of a man and a maid.
そこでナイチンゲールは薔薇の棘をより深く刺しこんだ、また歌声はどんどん大きくなった。なぜならナイチンゲールは男と女の魂における情熱(passion)の誕生を歌っていたからだ。
And a delicate flush of pink came into the leaves of the rose, like the flush in the face of the bridegroom when he kisses the lips of the bride. But the thorn had not yet reached her heart, so the rose's heart remained white, for only a Nightingale's heart's-blood can crimson the heart of a rose.
やがてピンクの微妙な輝き(flush)が薔薇の木の葉に射した、それは花婿が花嫁の唇にキスする時、花婿の顔に射す輝き(flush)のようだった。しかし薔薇の棘はまだナイチンゲールの心臓に達していなかった。だから薔薇の心臓はまだ白いままだった。なぜならナイチンゲールの心臓の血だけが薔薇の木の心臓を赤く(crimson)することができたからだ。
And the Tree cried to the Nightingale to press closer against the thorn. ‘Press closer, little Nightingale,’ cried the Tree, ‘or the Day will come before the rose is finished.’
そして薔薇の木が、ナイチンゲールにむかって、薔薇の棘をもっと深く刺さしこむように(to press closer against the thorn)と叫んだ。「かわいいナイチンゲール、もっと深く刺しこんで」と薔薇の木が叫んだ。「そうでないと赤い薔薇の花が完成する前に、昼が来てしまう。」
So the Nightingale pressed closer against the thorn, and the thorn touched her heart, and a fierce pang of pain shot through her. Bitter, bitter was the pain, and wilder and wilder grew her song, for she sang of the Love that is perfected by Death, of the Love that dies not in the tomb.
そこでナイチンゲールは薔薇の棘をより深く刺しこんだ、そして薔薇の棘がナイチンゲールの心臓に触れた、すると恐るべき激痛がナイチンゲールを刺し貫いた。苦痛はますますひどくなり、ナイチンゲールの歌はますます激しくなっていった。というのもナイチンゲールは「死によって完成する愛」について、「墓のうちで死に絶えることのない愛」について歌っていたからだ。

And the marvellous rose became crimson, like the rose of the eastern sky. Crimson was the girdle of petals, and crimson as a ruby was the heart.
そして(青白かった)不思議な薔薇の花は、(夜明けの)東の空の薔薇のように赤くなった。花びらの輪は赤かった、また(薔薇の木の)心臓はルビーのように赤かった。
But the Nightingale's voice grew fainter, and her little wings began to beat, and a film came over her eyes. Fainter and fainter grew her song, and she felt something choking her in her throat.
しかしナイチンゲールの歌声はより微かになり、彼女の小さな翼が痙攣し始め、そして薄い膜が彼女の眼を覆った。ナイチンゲールの歌はますます微かになっていき、そしてナイチンゲールは何かが彼女の喉を詰まらせるのを感じた。
Then she gave one last burst of music. The white Moon heard it, and she forgot the dawn, and lingered on in the sky. The red rose heard it, and it trembled all over with ecstasy, and opened its petals to the cold morning air. Echo bore it to her purple cavern in the hills, and woke the sleeping shepherds from their dreams. It floated through the reeds of the river, and they carried its message to the sea.
その時、ナイチンゲールが歌の最期の一声を上げた。白い月がそれを聞いた、そして月は夜明けを忘れ、空に漂い続けた。赤い薔薇はそれを聞き、そして恍惚で全身を震わせ、ついい赤い薔薇はその花びらを冷たい朝の空気のうちに開いた。(森のニンフである)木霊(コダマ)が、ナイチンゲールの歌の最期の一声を、丘の間にある紫の洞窟に運び、眠っている羊飼いたちを夢から醒めさせた。ナイチンゲールの歌の最期の一声は川の葦たちの上をはるかに漂い、葦たちはナイチンゲールの歌のメッセージを海にまで運んだ。
‘Look, look!’ cried the Tree, ‘the rose is finished now;’ but the Nightingale made no answer, for she was lying dead in the long grass, with the thorn in her heart.
「見て、見て!」薔薇の木が叫んだ。「赤い薔薇が今、完成した!」しかしナイチンゲールは答えなかった。なぜならナイチンゲールは、薔薇の棘が心臓に達し、死んで長い草の上に横たわっていたからだ。

《感想10》「死に値する《愛》」以外に「死に値する」ものがある!
Ex.1 「万死(バンシ)に値する」:「死をもって償うべき」とか「死んで詫びるべき」という場合で、「何度も繰り返して死ぬくらいの責め苦を負うべき、そのくらい罪深い」という意味・ニュアンスを込め用いられる。
Ex.2 「死にがい(甲斐)」:「生きがい」が生きるための希望(理由・意義・意味)であるのに対し、「死にがい」は死ぬにあたっての理由・意義・意味である。例えば「特攻」で「自分が死ぬことで平和がもたらされる」なら「死にがい」があるとされる。
Ex.3 朝井リョウの小説『死にがいを求めて生きているの』では、「死に甲斐」とは、「死」において完成する「生き甲斐」だ。「死」が希望となり、「死」が美化される。「存在」(有)の意味(「生き甲斐」)が「無」(死)の意味(「死に甲斐」)へと移行させられる。

(11)「わーすごい、何と素晴しい幸運だ!」学生は叫んだ。「ここに赤い薔薇がある!」     
And at noon the Student opened his window and looked out.
そして昼、学生は窓を開き、外を見た。
‘Why, what a wonderful piece of luck!’ he cried; ‘here is a red rose! I have never seen any rose like it in all my life. It is so beautiful that I am sure it has a long Latin name;’ and he leaned down and plucked it.
「わーすごい、何と素晴しい幸運だ!」彼は叫んだ。「ここに赤い薔薇がある!このような素晴らしい薔薇は自分の人生で見たことがない。この薔薇はとても美しく、きっと長いラテン名をもつだろう。」学生は体を下に傾け、薔薇の木から赤い薔薇を摘んだ。
Then he put on his hat, and ran up to the Professor's house with the rose in his hand.
それから学生は帽子をかぶり、赤い薔薇を手にもって教授の家にまで走って行った。

《感想11》ナイチンゲールが《命》にかけて、つまり《死》とひきかえに「赤い薔薇」を咲かせた出来事の始まりは、この若い学生が「僕が彼女に赤い薔薇持って行けば、あの人は僕とダンスしてくれると言った」、「でも僕の庭には赤い薔薇がない!」と叫んだのをナイチンゲールが聞いたことにある。
☆1. ナイチンゲールは、この学生について「ついにここに《愛に真に生きる人》(a true lover)がいる!」と思った。
☆2. ナイチンゲールは「愛」の至上性について語る。「愛はエメラルドより高価で、オパールより魅力的だ。真珠でもザクロ石でも愛を買えないし、愛は市場で売られていない。愛は商人から買えないし、金(gold)の重さで価値を計ることもできない。」
☆3 . 学生は「世界の真理」を求め学んできた。彼は「賢い人々が書いた本すべて」を読み、「哲学の秘密のすべて」を会得した。だが今や彼は、「世界の真理」以上の価値が「愛」にあると思った。(Cf.  学生のこの心理状況は、「恋は盲目」と呼べる。)
☆4. 「学生は、赤い薔薇がほしくて泣いてるんだ!」とナイチンゲールは思った。
☆4-2.  そして《愛に真に生きる人》(the true lover)のみが知る「愛の神秘」(the mystery of Love)が何であるかを、ナイチンゲールは知りたかった。
☆5 .  薔薇の木は、ナイチンゲールに言った。「《赤い薔薇》が欲しいなら、あなたは月光の音楽から形作った薔薇を、あなた自身の心臓の血で染め上げなければならない。あなたはあなたの胸に棘を突き刺して私に歌を歌わなければならない。一晩中ずっとあなたは私に歌い続けねばならない。そしてその棘があなたの心臓を貫かねばならない。あなたの心臓の血が私の葉脈へと流れ入り、そして私の血にならなければならない。」
☆6. 「死は赤い薔薇に支払うべき偉大な対価です」とナイチンゲールが叫んだ。「《愛》は《命(life)》以上(better than)です。」
☆7. 「幸せになって!」とナイチンゲールが心の中で、学生に向かって叫んだ。「幸せになって!あなたは赤い薔薇を手に入れるでしょう。」「私は赤い薔薇の対価として死を受け入れました。《命》を支払いました。」「お返しとして私があなたにお願いするのはただ、あなたが《真に愛に生きる人》(a true lover)になることです。」「というのは①たとえ《哲学》が賢いとしても、《愛》は《哲学》よりも賢いからです。また②たとえ《力》が強大だとしても、《愛》は《力》よりも強大だからです。」

(12)「《愛》などなんてバカバカしいんだ」と学生が歩き去りながら言った!
The daughter of the Professor was sitting in the doorway winding blue silk on a reel, and her little dog was lying at her feet.
教授の娘は玄関にいて、座って糸巻きに青い絹糸を巻いていた。そして小さな犬が彼女の足元に横たわっていた。
‘You said that you would dance with me if I brought you a red rose,’ cried the Student. ‘Here is the reddest rose in all the world. You will wear it to-night next your heart, and as we dance together it will tell you how I love you.’
But the girl frowned.
「あなたは、私が赤い薔薇をあなたにあげれば『私と踊る』と言いました」と学生が言った。
‘I am afraid it will not go with my dress,’ she answered; ‘and, besides, the Chamberlain's nephew has sent me some real jewels, and everybody knows that jewels cost far more than flowers.’
「赤い薔薇は、私のドレスに似合わないのではないかと私は心配だわ」と教授の娘は答えた。「それにまた、チェンバレンの甥が私にいくつかの本当の宝石を贈ってくれたわ。宝石が花よりずっと高価なことはみんなが知っているわ。」
‘Well, upon my word, you are very ungrateful,’ said the Student angrily; and he threw the rose into the street, where it fell into the gutter, and a cart-wheel went over it.
「何ということだ、あなたはとてもひどい人だ。」学生が怒って言った。そして学生は赤い薔薇を道路に投げ捨てた。それは道路の溝に落ち、馬車の車輪が赤い薔薇の上を通った。
‘Ungrateful!’ said the girl. ‘I tell you what, you are very rude; and, after all, who are you? Only a Student. Why, I don't believe you have even got silver buckles to your shoes as the Chamberlain's nephew has;’ and she got up from her chair and went into the house.
「失礼だわ!」と娘が言った。「私があなたに何を言ったって言うの、あなたはとても無作法だわ。結局、あなたが何様だというの?ただの学生にすぎないわ。」
‘What a silly thing Love is,’ said the Student as he walked away. ‘It is not half as useful as Logic, for it does not prove anything, and it is always telling one of things that are not going to happen, and making one believe things that are not true. In fact, it is quite unpractical, and, as in this age to be practical is everything, I shall go back to Philosophy and study Metaphysics.’
「《愛》など、何てバカバカしいんだ」と学生が歩き去りながら言った。「《愛》は《論理》の半分も役に立たない。というのは《愛》は何も証明しないからだ。そしていつも《愛》は、起きることのない出来事のひとつを語り、また真実でないことをいつも人に信じさせる。実際、《愛》はまったく非実用的・非実利的だ。そして今の時代は、実用的・実利的(practical)であることがすべてだから、私は《哲学》にもどり、そして《形而上学》を研究しよう。」
So he returned to his room and pulled out a great dusty book, and began to read.

《感想12》学生は失恋し、「愛の神秘」(the mystery of Love)が何であるかを知る《愛に真に生きる人》(the true lover)にならなかった。
《感想12-2》《愛に真に生きる人》のみが知る「愛の神秘」が何であるかを、ナイチンゲールは知りたかったので、ナイチンゲールは《命》を捧げた。だがナイチンゲールは《愛》の幻、《愛に真に生きる人》の幻、「愛の神秘」の幻を見ただけだった。
《感想12-3》教授の娘は「愛の神秘」や「愛」の至上性を信じない。彼女は実用的・実利的(practical)である。「宝石が花よりずっと高価なことはみんなが知っているわ」と彼女は言う。これに対し「愛の神秘」や「愛」の至上性を信じるナイチンゲールは言う。「愛はエメラルドより高価で、オパールより魅力的だ。真珠でもザクロ石でも愛を買えないし、愛は市場で売られていない。愛は商人から買えないし、金(gold)の重さで価値を計ることもできない。」

《参考》『ナイチンゲールと薔薇』(オスカー・ワイルド)(1888)(その1)~(その4):表題一覧!
★『ナイチンゲールと薔薇』(その1):《愛に真に生きる人》のみが知る「愛の神秘」が何であるかナイチンゲールは知りたかった!
(1)「世界の真理」以上の価値が「愛」にある!
(2)《愛》は商人から買えないし、金(gold)の重さで価値を計ることもできない!
(3)《愛に真に生きる人》のみが知る「愛の神秘」が、何であるかナイチンゲールは知りたかった!
(4)「白い」薔薇、「黄色い」薔薇においては、「愛の神秘」が開示されない!
★『ナイチンゲールと薔薇』(その2):《愛》は《命(life)》以上です! Cf. さまざまの「愛」がある!
(5)《赤い薔薇》が欲しいなら、あなたは月光の音楽から形作った薔薇を、あなた自身の心臓の血で染め上げなければならない!
(6)《愛》は《命(life)》以上です!
★『ナイチンゲールと薔薇』(その3):「赤い薔薇の花」を創造する秘儀は「夜」なされる! Cf. 「夜」は様々の象徴的意味を持つ!
(7)私があなたにお願いするのはただ、あなたが《真に愛に生きる人》(a true lover)になることです!
(8)「形象」(style)としての芸術に対する学生の批判:ナイチンゲールの「美しい調べ」(歌)は単なる「形象」(style)としての芸術であり、「誠実さ」はなく、「情熱」(feeling)もなく、何の「意味」もなく、何の「実践的な利点」(good)も持たない!
(9)昼が来る前に、夜のうちに、「赤い薔薇の花」を完成させねばならない!最初は青白い!
★『ナイチンゲールと薔薇』(その4):ナイチンゲールは《愛》の幻、《愛に真に生きる人》の幻、「愛の神秘」の幻を見ただけだった!今は、実用的・実利的な時代だ!
(10)ナイチンゲールは「死によって完成する愛」について、「墓のうちで死に絶えることのない愛」について歌っていた!
(11)「わーすごい、何と素晴しい幸運だ!」学生は叫んだ。「ここに赤い薔薇がある!」
(12)「《愛》などなんてバカバカしいんだ」と学生が歩き去りながら言った!

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『ナイチンゲールと薔薇』(オスカー・ワイルド)(1888)(その3):「赤い薔薇の花」を創造する秘儀は「夜」なされる! Cf. 「夜」は様々の象徴的意味を持つ!

2024-02-08 11:47:35 | Weblog
※“The Nightingale and the Rose” (Oscar Wilde: 1854-1900)
(7)私があなたにお願いするのはただ、あなたが《真に愛に生きる人》(a true lover)になることです!
The young Student was still lying on the grass, where she had left him, and the tears were not yet dry in his beautiful eyes.
ナイチンゲールが若い学生を残して飛び去ったその場所で、学生はまだ草の上に横たわり、涙はその美しい目にまだ乾かずとどまっていた。
‘Be happy,’ cried the Nightingale, ‘be happy; you shall have your red rose. I will build it out of music by moonlight, and stain it with my own heart's-blood. All that I ask of you in return is that you will be a true lover, for Love is wiser than Philosophy, though she is wise, and mightier than Power, though he is mighty. Flame-coloured are his wings, and coloured like flame is his body. His lips are sweet as honey, and his breath is like frankincense.’
「幸せになって!」とナイチンゲールが叫んだ。「幸せになって!あなたは赤い薔薇を手に入れるでしょう。私は赤い薔薇を月光の音楽から形作り、そしてそれを私自身の心臓の血で染め上げるでしょう。お返しとして私があなたにお願いするのはただ、あなたが《真に愛に生きる人》(a true lover)になることです。というのはたとえ《哲学》が賢いとしても、《愛》は《哲学》よりも賢いからです。また、たとえ《力》が強大だとしても《愛》は《力》よりも強大だからです。《真に愛に生きる人》(a true lover)の翼は炎の色となり、彼の身体は炎のように色づきます。彼の唇は蜜のように甘く、彼の息は乳香のようです。」
The Student looked up from the grass, and listened, but he could not understand what the Nightingale was saying to him, for he only knew the things that are written down in books.
学生は草地から上方を見ていた、そして聞いていた。しかし彼はナイチンゲールが語りかけることを理解できなかった。というのも学生は書物の中に書かれていることしか知らなかったからだ。
But the Oak-tree understood, and felt sad, for he was very fond of the little Nightingale who had built her nest in his branches.
しかし樫の木は理解し、そして悲しみを感じた。というのは樫の木は、自分の枝に巣を作っていた小さなナイチンゲールをとても好きだったからだ。
‘Sing me one last song,’ he whispered; ‘I shall feel very lonely when you are gone.’
「私のために最後の歌を一曲歌ってください」と樫の木が囁いた。「あなたが行ってしまったら、私はとても寂しくなるでしょう。」
So the Nightingale sang to the Oak-tree, and her voice was like water bubbling from a silver jar.
そこでナイチンゲールは樫の木に歌を歌った。ナイチンゲールの声は銀の壺から泡立ち流れ出る水のようだった。

《感想7》「《愛》は、《哲学》よりも賢く、また《力》よりも強大だ」また「《愛》は《命(life)》以上(better than)だ」とのオスカー・ワイルドの見解は、「恋愛至上主義」だ。

(8)「形象」(style)としての芸術に対する学生の批判:ナイチンゲールの「美しい調べ」(歌)は単なる「形象」(style)としての芸術であり、「誠実さ」はなく、「情熱」(feeling)もなく、何の「意味」もなく、何の「実践的な利点」(good)も持たない!
When she had finished her song the Student got up, and pulled a note-book and a lead-pencil out of his pocket.
ナイチンゲールが歌を歌い終わった時、学生は起き上がり、ポケットからノートと鉛筆を取り出した。
‘She has form,’ he said to himself, as he walked away through the grove—‘that cannot be denied to her; but has she got feeling? I am afraid not. In fact, she is like most artists; she is all style, without any sincerity. She would not sacrifice herself for others. She thinks merely of music, and everybody knows that the arts are selfish. Still, it must be admitted that she has some beautiful notes in her voice. What a pity it is that they do not mean anything, or do any practical good.’ And he went into his room, and lay down on his little pallet-bed, and began to think of his love; and, after a time, he fell asleep.
学生は木立を抜け立ち去りながつぶやいた。「ナイチンゲールの歌は彼女にとって否定しえない事実だ。でも彼女は情熱(feeling)を得たのか?得てないと思う。実際、ナイチンゲールは大部分の芸術家と同じだ。彼女(の歌)は、いかなる誠実さ(sincerity)もないただの形象(style)にすぎずない。彼女は他者のために自己を犠牲にしない。彼女はただ音楽を考えるだけ。誰もが芸術家は利己的と思う。ナイチンゲールがその声で美しい調べを奏でたことは確かだ。だがその美しい調べは何の意味も持たず、あるいは何の実利的な利点(good)も持たないのは残念なことだ。」学生は自室にもどり、自分の小さなパレット・ベッドに横たわり、あの娘との愛について考え始め、しばらくして彼は寝てしまった。

《感想8》オスカーワイルドは単なる「形象」(style)としての「芸術」(art)を否定する。「芸術」(art)ha
は「誠実さ」(sincerity.)または「情熱」(feeling)に基づかねばならない。つまり「芸術」は何らかの「意味」を持たねばならない。
《感想8-2》ただし一般に「芸術」は、何らかの「実利的な利点」(good)のために創作されることもある。Ex. 商品の宣伝。Ex. 権力のプロパガンダ。

(9)昼が来る前に、夜のうちに、「赤い薔薇の花」を完成させねばならない!最初は青白い!
And when the Moon shone in the heavens the Nightingale flew to the Rose-tree, and set her breast against the thorn. All night long she sang with her breast against the thorn, and the cold crystal Moon leaned down and listened. All night long she sang, and the thorn went deeper and deeper into her breast, and her life-blood ebbed away from her.
そして月が天空に輝くとナイチンゲールは薔薇の木へ飛んで行き、それから彼女の胸に薔薇の棘を突き刺した。一晩中ナイチンゲールは、胸に薔薇の棘を突き刺したまま歌を歌い、そして冷たい水晶のような月は下へと傾き、ナイチンゲールの歌を聞いた。一晩中ナイチンゲールは歌を歌い、また薔薇の棘は深く深く彼女の胸に刺さっていき、そして彼女の命(イノチ)の血液は彼女から失われて行った。
She sang first of the birth of love in the heart of a boy and a girl. And on the topmost spray of the Rose-tree there blossomed a marvellous rose, petal following petal, as song followed song. Pale was it, at first, as the mist that hangs over the river—pale as the feet of the morning, and silver as the wings of the dawn. As the shadow of a rose in a mirror of silver, as the shadow of a rose in a water-pool, so was the rose that blossomed on the topmost spray of the Tree.
ナイチンゲールは最初、青年と乙女の心の内での愛の誕生を歌った。すると薔薇の木の天辺の枝に、不思議な薔薇の花が咲き、花びらに花びらが続き、その間、ナイチンゲールの歌が続いた。薔薇の花は最初、川にかかる霧のように青白かった。朝の地上のように青白く、また夜明けの翼のように銀色だった。あたかも銀の鏡に映る薔薇の像、あたかも水たまりに移る薔薇の像、木の天辺の枝に咲いたのはそのような薔薇の花だった。

But the Tree cried to the Nightingale to press closer against the thorn. ‘Press closer, little Nightingale,’ cried the Tree, ‘or the Day will come before the rose is finished.’
しかし薔薇の木が、ナイチンゲールにむかって、薔薇の棘をもっと深く刺さしこむように(to press closer against the thorn)と叫んだ。「かわいいナイチンゲール、もっと深く刺しこんで」と叫んだ。「そうでないと赤い薔薇の花が完成する前に、昼が来てしまう。」

《感想9》「赤い薔薇の花」を創造する秘儀は「夜」なされる。まず①薔薇の木の天辺の枝に「不思議な薔薇の花」(a marvellous rose)が「夜」、出現する(=咲く)。それはだが②「青白い」薔薇の花だ。そして③「夜」のうちに「赤い」薔薇の花を完成させなければならない。

《感想9-2》「夜」は様々の象徴的意味を持つ。
★(A)世界が闇に包まれる「夜」は、多くの文化において否定的な意味を持ち「死」、「危険」、「不吉」、「脆弱性」(ゼイジャクセイ)、「曖昧さ」、「不明瞭」、「苦境」、「混沌」、「悪」の象徴とされる。
(A-2) 夜は「妖怪」(Ex. 百鬼夜行)、「幽霊」、「吸血鬼」、「狼男」などが、活動的になる。
(A-2-2) 夜は「魔法」の時間である。
★(A-3)文学や映画ではしばしば、「恐怖」、「不安」、「絶望」、「喪失」を示すために夜が利用される。
(A-3-2) 感情においては、夜はさらに「悲しみ」、「憂鬱」をしばしば象徴する。
★他方(B)夜は「静けさ」、「穏やかさ」、「静穏」、「平穏」、「平静」であり、「休息」、「睡眠」、「内省」の時間だ。
(B-2)人によっては夜は、創造力を発揮しやすい時間帯であり、「創造性」、「直感」の象徴である。
(B-3)また夜は「愛」、「恋愛」の時間だ。
★(C)夜は暗いので「陰」(カゲ)、「暗闇」、「黒」、「謎」、「秘密」、「未知」である。また夜は「夢」、「無意識」の時間でもある。
★(D)夜は宗教的にはしばしば「再生」、「魂」の象徴でもある。

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『ナイチンゲールと薔薇』(オスカー・ワイルド)(1888)(その2):《愛》は《命(life)》以上です! Cf. さまざまの「愛」がある!

2024-02-07 08:31:09 | Weblog
※“The Nightingale and the Rose” (Oscar Wilde: 1854-1900)
(5)《赤い薔薇》が欲しいなら、あなたは月光の音楽から形作った薔薇を、あなた自身の心臓の血で染め上げなければならない!
So the Nightingale flew over to the Rose-tree that was growing beneath the Student's window.
そこでナイチンゲールは学生の窓の下に生えている薔薇の木に飛んで行った。
‘Give me a red rose,’ she cried, ‘and I will sing you my sweetest song.’
「赤い薔薇を私にください」とナイチンゲールは叫んだ。「私は甘美な歌をあなたに歌いましょう。」
But the Tree shook its head.
しかしその薔薇の木は首を振った。
‘My roses are red,’ it answered, ‘as red as the feet of the dove, and redder than the great fans of coral that wave and wave in the ocean-cavern. But the winter has chilled my veins, and the frost has nipped my buds, and the storm has broken my branches, and I shall have no roses at all this year.’
「私の薔薇は赤い」とその薔薇の木は答えた。「鳩のように赤いし、海の洞窟で波に洗われる珊瑚の大きな枝よりも赤い。でも冬が私の葉脈を凍らせ、霜が私の蕾を枯らし、嵐が私の枝を折り、だから今年、私は花をつけないでしょう。」
‘One red rose is all I want,’ cried the Nightingale, ‘only one red rose! Is there no way by which I can get it?’
「私が欲しいのはただ1本の赤い薔薇です」とナイチンゲールは叫んだ。「たった1本の赤い薔薇!私が赤い薔薇を手に入れる方法は何もないのですか?
‘There is a way,’ answered the Tree; ‘but it is so terrible that I dare not tell it to you.’
「ひとつ方法がある」と薔薇の木が答えた。「でもそれはあまりにも恐ろしいものなので、あなたに告げたくない。」
‘Tell it to me,’ said the Nightingale, ‘I am not afraid.’
「私に教えてほしい」とナイチンゲールが言った。「私は恐れない。」
‘If you want a red rose,’ said the Tree, ‘you must build it out of music by moonlight, and stain it with your own heart's-blood. You must sing to me with your breast against a thorn. All night long you must sing to me, and the thorn must pierce your heart, and your life-blood must flow into my veins, and become mine.’
「もしあなたが《赤い薔薇》を欲しいなら」と薔薇の木が言った。「あなたは薔薇を月光の音楽から形作り、そしてそれをあなた自身の心臓の血で染め上げなければならない。あなたはあなたの胸に棘を突き刺して私に歌を歌わなければならない。一晩中ずっとあなたは私に歌い続けねばならない。そしてその棘があなたの心臓を貫かねばならない。あなたの心臓の血が私の葉脈へと流れ入り、そして私の血にならなければならない。」

《感想5》「薔薇を月光の音楽から形作り、それをあなた自身の心臓の血で染め上げる」とは恐ろしい提案だ。しかしナイチンゲールは《愛に真に生きる人》(the true lover)のみが知る「愛の神秘」(the mystery of Love)を知りたかった。

(6)《愛》は《命(life)》以上です!
‘Death is a great price to pay for a red rose,’ cried the Nightingale,
「死は赤い薔薇に支払うべき偉大な対価です」とナイチンゲールが叫んだ。
‘and Life is very dear to all. It is pleasant to sit in the green wood, and to watch the Sun in his chariot of gold, and the Moon in her chariot of pearl. Sweet is the scent of the hawthorn, and sweet are the bluebells that hide in the valley, and the heather that blows on the hill. Yet Love is better than Life, and what is the heart of a bird compared to the heart of a man?’
「《命(life)》はすべての人にとって大切なものです。緑の森に巣をつくるのも、黄金の車に乗る太陽、また真珠の車に乗るを月を見るのも楽しいです。サンザシの香りは甘く、谷間に隠れたブルーベル、そして丘で風に揺れるヘザーは愛らしい。でも《愛》は《命(life)》以上(better than)です。そして鳥の心は、人の心と比べたら、いったい何ほどのものでしょう?」
So she spread her brown wings for flight, and soared into the air. She swept over the garden like a shadow, and like a shadow she sailed through the grove.
こうしてナイチンゲールは飛ぶために茶色の翼を開き、空中に上昇した。ナイチンゲールは庭の上を影のように飛び過ぎ、そして影のように木立を通り抜け飛んだ。

《感想6》《命(life)》以上の《愛》とは何か? Cf.  江戸時代の人形浄瑠璃『曽根崎心中』(近松門左衛門)(1703)は相愛の若い男女の心中の物語だ。「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」と道行の最後の段は始まり「未来成仏うたがひなき恋の手本となりにけり」と結ばれる。、お初と徳兵衛が命がけで恋を全うした美しい人間として描かれている。これは1703年、大坂堂島新地天満屋の女郎「はつ」(21歳)と内本町醤油商平野屋の手代「徳兵衛」(25歳)が曾根崎村の露天神社(お初天神)の森で情死した事件を題材とする。この演目を皮切りとして、「心中もの」ブームが起こる。こうした心中ものの流行の結果、「来世で二人の愛が結ばれる」ことを誓った心中事件が多発したため、江戸幕府は享保8年(1723年)より上演や脚本の執筆や発行を禁止し、また心中者の一方が生存した場合は極刑を申し渡すなど心中事件に対して苛烈な処置を行った。

《感想6-2》さまざまの「愛」がある。
①ナイチンゲールが問題にする「愛」は男女(Cf. カップル)が互いにいとしいと思い合うこと。Ex. 『舞姫』(1890)〈森鴎外〉「貧きが中にも楽しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛」。
①-2 性愛(エロース)。Cf. (a) 古代ギリシア・ローマ神話の神「エロス」は、元はカオス、ガイア、タルタロスと同じく、世界の始まりから存在した原初神である。「エロス」は恋心と性愛を司る神である。後に軍神アレースと愛の女神アプロディーテーの子とされた。さらに近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿(キューピッド)で描かれ、手には弓と矢を持つようになった。Cf. (b)サンスクリット語の「カーマ」は性愛である。Cf. (c)仏教では「性愛」の抑制を説いたが、真言密教には、男女の性的結合を絶対視するタントラ教の影響を受け、男女の交会を涅槃あるいは仏道成就とみなす傾向もあった。性愛を表す「愛染」はこの流れにある。

②動物を非常に気に入って、いちずにかわいがる「愛」もある。Ex. 『堤中納言』(11C-13C頃)「虫めづる姫君」「この虫どもを朝夕(アシタユフベ)にあいし給ふ」。
③好意を相手への行動として示す。また特に、なでさする、愛撫する。
④物事に対して心が引かれる。(品物などに)ほれこんで大切に思うor愛玩する。Ex.「慈照院殿、愛に思召さるる壺あり」(『醒睡笑』(1628)「八」)。Ex. 「硯」を愛(メ)でる(『今昔物語』1120頃?「一九」)。Ex. おいしい食べ物を「愛し食らふ」(『今昔物語』「二〇」)。Ex. 「春を愛する」(『去来抄』(1702‐04)「先師評」)。
⑤子供などをかわいがること。幼児をあやすこと。Ex. 鷺(サギ)伝右衛門本狂言『縄綯(ナワナイ)』(室町末‐近世初)「てうちゃくは致しませぬ愛を致しました」。Ex. 『今鏡』(1170)「八」「若宮」を「あいし申給ける」。
⑥人が一般に、相手の人格を認識し理解して、いつくしみ慕う感情。Ex. 親子、兄弟の愛。
⑦人との応対が柔らかいさま。あいそ。Ex. 浮世草子『好色二代男』(1684)三「まねけばうなづく、笑へばあいをなし」
⑧「愛」とは 顔だちや態度などがかわいらしくて人をひきつけることだ。あいきょう。Ex. 浮世草子『風流曲三味線』(1706)二「都に名高き芸子瀬川竹之丞といへる美君に、今すこし愛(アイ)の増たる生れつき」

⑨キリスト教の「アガペー」(愛)。あらゆるものをいつくしむ神の愛。Ex. 詩人ブラウニング(1890)〈植村正久訳〉「我は上帝を信じ真理を信じ愛を信ずるなりと」。

⑩仏教で「愛」は「十二因縁」の一つで、ものを貪(ムサボ)り執着すること。広義には「煩悩」を意味し、狭義には「貪欲」と同じ。欲愛(性欲)・有愛(生存欲)・非有愛(生存を否定する欲)の三愛その他がある。Ex. 道元『正法眼蔵』(1231‐53)「十二因縁といふは、一者無明、二者行、三者識、四者名色(みゃうしき)、五者六入、六者触、七者受、八者愛(※苦楽の受に対して愛憎の念を生ずる段階)、九者取、十者有、十一者生、十二者老死」 。
⑩-2  また仏教で「愛」は、浄・不浄の二種の愛、法愛と欲愛、善愛と不善愛などをいう。

⑪仏教で「愛」は「慈悲」を意味する場合もある。大乗仏教では「愛」を「慈悲」として説く。仏や菩薩が人々のことを思い喜びを与えることを「慈」、人の苦しみを取り除くことを「悲」と言い、それらをあわせて「慈悲」という。一切衆生に対する純化された想いとしての慈悲。

⑫儒教では、「仁」は人の間の愛であり、また徳である。孔子は仁の根源を血縁愛であるとした(「孝弟なるものはそれ仁の本をなすか」)。「仁」は自己犠牲としての愛、また自己保存欲としての血縁愛を基礎として、さらに恭(道に対するうやうやしさ)、寛(他者に対する許しとしての寛大)、信(他者に誠実で偽りを言わぬ信)、敏(仕事に対する愛)、恵(哀れな人に対するほどこし)などを含む。

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『ナイチンゲールと薔薇』(オスカー・ワイルド)(1888『幸福な王子その他』所収)(その1):《愛に真に生きる人》のみが知る「愛の神秘」が何であるかナイチンゲールは知りたかった!

2024-02-06 14:14:32 | Weblog
※“The Nightingale and the Rose” (Oscar Wilde: 1854-1900)
(1)「世界の真理」以上の価値が「愛」にある!
‘She said that she would dance with me if I brought her red roses,’ cried the young Student; ‘but in all my garden there is no red rose.’
「僕が彼女に赤い薔薇持って行けば、あの人は僕とダンスしてくれると言った!」若い学生が叫んだ。「でも僕の庭には赤い薔薇がない。」
From her nest in the holm-oak tree the Nightingale heard him, and she looked out through the leaves, and wondered.
樫の木(ヒイラギガシ)にある巣でナイチンゲールが学生の言葉を聞き、葉の間から覗き、驚きの目を見張った。
‘No red rose in all my garden!’ he cried, and his beautiful eyes filled with tears. ‘Ah, on what little things does happiness depend! I have read all that the wise men have written, and all the secrets of philosophy are mine, yet for want of a red rose is my life made wretched.’
「僕の庭にはどこにも赤い薔薇がない!」学生は叫び、彼の美しい目は涙で一杯だった。「ああ、なんて些細なことに幸福は依存しているのだ!僕は賢い人々が書いた本すべてを読み、哲学の秘密のすべては僕のものになったのに、一本の赤い薔薇がないだけで僕の人生は惨めだ。」

《感想1》学生は「世界の真理」を求め学んできた。彼は「賢い人々が書いた本すべて」を読み、「哲学の秘密のすべて」を会得した。「世界の真理」以上の価値が「愛」にあると今や学生が思う。
《感想1-2》学生のこの心理状況は、「恋は盲目」と呼べる!

《参考》オスカー・ワイルド(1854-1900)は、アイルランド出身の詩人・作家・劇作家。耽美的・退廃的・懐疑的な19世紀末文学の旗手とされる。男色を咎められて収監され、出獄後、失意のうちに没した。(梅毒による脳髄膜炎で亡くなった。)『ドリアン・グレイの肖像』(The Picture of Dorian Gray)(1890)。戯曲『サロメ』(Salomé)(1893)。

(2)《愛》は商人から買えないし、金(gold)の重さで価値を計ることもできない!
‘Here at last is a true lover,’ said the Nightingale. ‘Night after night have I sung of him, though I knew him not: night after night have I told his story to the stars, and now I see him. His hair is dark as the hyacinth-blossom, and his lips are red as the rose of his desire; but passion has made his face like pale ivory, and sorrow has set her seal upon his brow.’
「ついにここに《愛に真に生きる人》(a true lover)がいる!」とナイチンゲールが言った。「毎晩、私は学生のために歌った。でもそのことを彼は知らない。毎晩、私は学生のことを星々に話した。今、私は彼を見る。その髪はヒアシンスの花のように黒く、その唇は欲望の薔薇のように赤い。しかし情熱が彼の顔を青白い象牙に変え、悲しみがその印を彼の眉毛に刻印した。」
‘The Prince gives a ball to-morrow night,’ murmured the young Student, ‘and my love will be of the company. If I bring her a red rose, she will dance with me till dawn. If I bring her a red rose, I shall hold her in my arms, and she will lean her head upon my shoulder, and her hand will be clasped in mine. But there is no red rose in my garden, so I shall sit lonely, and she will pass me by. She will have no heed of me, and my heart will break.’
「王子様が明日の晩、舞踏会を開催する」とその若い学生が呟いた。「私の愛する人(my love)も出席するだろう。もし私が赤い薔薇を持って行けば、彼女は夜明けまで私と踊ってくれるだろう。もし私が赤い薔薇を持って行けば、私は彼女を腕に抱いて、彼女は頭を私の肩にもたせ、彼女の腕は私の腕の内に抱かれるだろう。でも私の庭に赤い薔薇がないので、私は一人ぼっちで座ったままで、彼女は私を通り過ぎてしまう。彼女は私に注意を払うことなく、私の心は壊れるだろう。」
‘Here indeed is the true lover,’ said the Nightingale. ‘What I sing of, he suffers: what is joy to me, to him is pain. Surely Love is a wonderful thing. It is more precious than emeralds, and dearer than fine opals. Pearls and pomegranates cannot buy it, nor is it set forth in the market-place. It may not be purchased of the merchants, nor can it be weighed out in the balance for gold.’
「ここに確かに《愛に真に生きる人》(the true lover)がいる」とナイチンゲールは言った。「わたしが歌うもの(※「真の愛」)に関して、彼は苦しむ。私にとって喜びであるもの(※「真の愛」)は、彼にとって苦痛だ。確かに愛は素晴しいものだ。愛はエメラルドより高価で、オパールより魅力的だ。真珠でもザクロ石でも愛を買えないし、愛は市場で売られていない。愛は商人から買えないし、金(gold)の重さで価値を計ることもできない。」

《感想2》ナイチンゲールは《愛》の至上性を語る。ナイチンゲールは《愛に真に生きる人》(the true lover)を捜し続けていた。

《参考1》日本では北村透谷(1868-1894)が恋愛至上主義を唱えた。「恋愛は人生の秘鑰(ヒヤク)(※秘密を解く鍵)なり、恋愛ありて後人生あり、恋愛を抽き去りたらむには人生何の色味かあらむ」(『厭世詩家と女性』)。
《参考2》さらに大正時代、厨川白村(クリヤガワハクソン)(1880-1923)はエレン・ケイ(1849-1926)の影響を受けて『近代の恋愛観』(1922)を著し、「恋愛は悠久永遠の生命の力がこもる」と述べた。恋愛のない「見合い結婚」は「売春結婚」・「畜生道」と非難し、「恋愛結婚」を理想化し話題になった。

(3)《愛に真に生きる人》のみが知る「愛の神秘」が、何であるかナイチンゲールは知りたかった!
‘The musicians will sit in their gallery,’ said the young Student, ‘and play upon their stringed instruments, and my love will dance to the sound of the harp and the violin. She will dance so lightly that her feet will not touch the floor, and the courtiers in their gay dresses will throng round her. But with me she will not dance, for I have no red rose to give her;’ and he flung himself down on the grass, and buried his face in his hands, and wept.
「楽士たちが舞台に座るだろう」とその若い学生が言った。「そして弦が張られた楽器が演奏される。私の愛する人がハープとバイオリンに合わせて踊るだろう。愛する人がとても軽やかに踊り、その足は床に触れることがない。そしてご機嫌取りの男たちが派手な服を着て彼女に群がるだろう。しかし彼女は私とは踊らない、というのは私には彼女に渡す赤い薔薇がないからだ。」学生はそう言って、身を草の上に投げ出し、顔を腕に埋め、そして泣いた。
‘Why is he weeping?’ asked a little Green Lizard, as he ran past him with his tail in the air.
「なぜ学生は泣いてるんだ?」と小さな緑色のトカゲが、尻尾を宙に振り上げ通り過ぎながらたずねた。
‘Why, indeed?’ said a Butterfly, who was fluttering about after a sunbeam.
「いったい、なぜだ?」太陽の光線を追ってひらひら飛んでいた蝶が言った。
‘Why, indeed?’ whispered a Daisy to his neighbour, in a soft, low voice.
「いったい、なぜだ?」ヒナギクが隣のヒナギクに向かって、静かに低い声でつぶやいた。
‘He is weeping for a red rose,’ said the Nightingale.
「学生は赤い薔薇がほしくて泣いてるんだ!」ナイチンゲールが言った。
‘For a red rose!’ they cried; ‘how very ridiculous!’ and the little Lizard, who was something of a cynic, laughed outright.
「赤い薔薇が欲しいってどういうことだ!」トカゲと蝶とデイジーが叫んだ。「なんてひどく馬鹿げてるんだ!」小さなトカゲは少し皮肉っぽく無遠慮に笑った。
But the Nightingale understood the secret of the Student's sorrow, and she sat silent in the oak-tree, and thought about the mystery of Love.
しかしナイチンゲールはその学生の悲しみの秘密を理解していた。ナイチンゲールは樫の木に黙って座っていた。そして「愛の神秘」(the mystery of Love.)について考えていた。

《感想3》《愛に真に生きる人》(the true lover)のみが知る「愛の神秘」(the mystery of Love)が何であるかを、ナイチンゲールは知りたかった。

(4)「白い」薔薇、「黄色い」薔薇においては、「愛の神秘」が開示されない!
Suddenly she spread her brown wings for flight, and soared into the air. She passed through the grove like a shadow, and like a shadow she sailed across the garden.
突然、ナイチンゲールは飛ぶため茶色の翼を開き、空中に上昇した。ナイチンゲールは木立を影のように飛び過ぎ、そして影のように滑らかに庭を横切った。
In the centre of the grass-plot was standing a beautiful Rose-tree, and when she saw it, she flew over to it, and lit upon a spray.
草地の真ん中に美しい薔薇の木が立っていた。ナイチンゲールは薔薇の木を見ると、木に向かって飛んでいき、その小枝に止まった。
‘Give me a red rose,’ she cried, ‘and I will sing you my sweetest song.’
「赤い薔薇を私にください」とナイチンゲールは叫んだ。「私は甘美な歌をあなたに歌いましょう。」
But the Tree shook its head.
しかし薔薇の木は首を横に振った。
‘My roses are white,’ it answered; ‘as white as the foam of the sea, and whiter than the snow upon the mountain. But go to my brother who grows round the old sun-dial, and perhaps he will give you what you want.’
「私の薔薇は白い」とその薔薇の木は答えた。「海の泡のように白いし、山上の雪よりも白い。でも古い日時計のまわりに生えている私の兄弟のところに行けば、あなたが欲しがっているものをたぶん彼がくれるでしょう。」
So the Nightingale flew over to the Rose-tree that was growing round the old sun-dial.
そこでナイチンゲールは古い日時計のまわりに生えている薔薇の木に飛んで行った。
‘Give me a red rose,’ she cried, ‘and I will sing you my sweetest song.’
「赤い薔薇を私にください」とナイチンゲールは叫んだ。「私は甘美な歌をあなたに歌いましょう。」
But the Tree shook its head.
しかしその薔薇の木は首を振った。
‘My roses are yellow,’ it answered; ‘as yellow as the hair of the mermaiden who sits upon an amber throne, and yellower than the daffodil that blooms in the meadow before the mower comes with his scythe. But go to my brother who grows beneath the Student's window, and perhaps he will give you what you want.’
「私の薔薇は黄色い」とその薔薇の木は答えた。「琥珀の玉座に座る人魚の髪のように黄色いし、草刈り人が大鎌を持ってくる前に草地に花咲く水仙よりも黄色い。でも学生の窓の下に生えている私の兄弟のところに行けば、あなたが欲しがっているものをたぶん彼がくれるでしょう。」

《感想4》「愛の神秘」(the mystery of Love)は「赤い」薔薇のみにおいて、明かされる。「白い」薔薇、「黄色い」薔薇においては、「愛の神秘」が開示されない。

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叢小榕『老荘思想の心理学』第7章28「杞人の憂い――予知の限界を乗り越える」(『列子』天瑞):「気にかける」べきは、現実が内包する「無限にある起こりうる全ての事態」ではない!

2024-02-02 18:20:42 | Weblog
※叢小榕(ソウショウヨウ)編著『老荘思想の心理学』新潮新書、2013年:第7章「何を判断の基準とすべきか」
(28)「杞人の憂い――予知の限界を乗り越える(『列子』天瑞)
杞(キ)の国に、「天が崩れ、地が陥る」ことを心配する者がいた。それに対して列子が言った。「そもそも天地崩壊を心配するのは間違いだし、崩壊しないと断言するのも間違いだ。崩壊するかしないかは我々の知りうるところではない。天地が崩壊しようとすまいと、どうして我々が気にかけることがあろうか。」(『列子』天瑞)

★。「そもそも天地崩壊を心配するのは間違いだ」と『列子』が言うのは、「無限にある起こりうる全ての事態(可能性)を想定していては、行動できない」という意味だ。
★「現実世界の中で起こりうる事態は無限にある」ので、たとえコンピューターのように相当高速な計算能力があっても処理しきれない。経験を通して、生起確率の低い事態や、関連性(relevance)の低い事態を無視する
ことで、「起こりうると想定する事態」の数を減らし、かくて行動の選択肢を決めることが可能となる。

★現実が内包する「無限にある起こりうる全ての事態(可能性)」を考えることは不要だ。つまり「気にかける」必要はない。そう『列子』は言う。

《感想1》「気にかける」べきは、現実が内包する「無限にある起こりうる全ての事態」ではなく、「生起確率が高い事態」や、「関連性(relevance)の高い事態」のみだ。人は、そのように行動している。
《感想2》AI・人工知能は現実が内包する「無限にある起こりうる全ての事態(可能性)」を考えてしまう。かくて「フレーム問題」(後述)が生じる。現実内において、AI・人工知能が取り扱うべき事態を「生起確率が高い事態」や、「関連性(relevance)の高い事態」などに限定するならば、「フレーム問題」は解決できるだろう。

(28)-2 《参考》AI(人工知能)の「フレーム問題」:問題解決に不要な選択肢を無限に計算し続け、処理しきれずにAIが稼働を停止する問題!
★AI(人工知能)が抱える「フレーム問題」とは「問題解決に不要な選択肢」or「問題解決には必要のない背景」を無限に計算し続けてしまい、処理しきれずにAIが稼働を停止する問題である。
☆例えば、「スーパーに行って、卵を購入する」という問題をAIが受け取ったとき、卵を購入するまでの道中には、さまざまな出来事が起こる可能性がある。しかし一般的には、それらの大半は考慮しなくても、卵の購入を完了することは可能だ。ところがAIは「自宅を出発してスーパーに卵を買いに行こう」と考えたとき、「自宅とは反対側の方向に1時間歩いてから、方向転換して目的のスーパーへ向かおう」と思ったりする。人間であれば不要と思われる選択肢を排除し最適なプロセスを計画するが、AIは人間が考えもしないような「あらゆる可能性」を考慮した上で、最終的な結論を導き出す。
★そのため、AIが無限に計算を行わないように、ある程度の枠組みの中で思考するための「フレーム」を作成するが、「複数作成したフレームのうちどれを計算に使用するか」を決定する過程でも無数の計算が発生するという問題に直面する。
★「フレーム」とはコンピュータやプログラムが思考するための枠組みであり、「フレーム」を定義することによって、AIは「世界に生じる無限の事象」を計算せずに、一定の前提に基づいて枠組みのうちで計算を行う。

★「フレーム問題」を解決するためには、AIに扱わせる情報に「重要度と優先順位」を設定し、本来は必要のない情報まで無限に思考しないよう制御する必要がある。すなわちAIに情報の「重要度と優先順位」を指示し、「フレーム問題」の発生を回避する。Ex. ロボット(AI)に爆弾を取り出させるとき、「爆弾を取り出そうとすると壁の色が変化しないか?」といった、人間であれば選択肢として思い浮かべないような思考までロボット(AI)は行う。このような「答えを導き出すためには不要な思考」を除外するために、例えば「ロボット(AI)の現在位置からnメートル以内にある情報を優先的に処理せよ」という命令を与えておく。すると「重要度」の低い思考は行われなくなり、「フレーム問題」を回避できる。

★人間はロボットのように「全ての可能性(選択肢)」を考慮して結論を出すのではなく、自身の過去の「経験」からある程度「選択肢」を絞り込み、「有限の選択肢」の中から最適な行動を導き出す。かくてロボット(AI)にも、人間のように「あらかじめ思考の選択肢を絞り込ませる」プログラムを実装する。つまり「無視してよい選択肢」の条件をAIに指示する。ただしロボット(AI)に与える選択肢が狭すぎると最適な解が出ないが、選択肢が広すぎると「フレーム問題」を解決できず大量に存在する選択肢によってAIが動作を停止する。

★そもそも人間は「フレーム問題」を解決しているわけでない。1991年に人工知能研究者の松原 仁氏が提唱した「暗黙知におけるフレーム問題」では、「電子レンジと猫」という「フレーム問題」の例が挙げられている。
《あるアメリカの主婦が、雨に濡れたペットの猫を乾かそうと思い、電子レンジに入れて温めようとした。当然ながらその猫は死んでしまう。事件を起こした主婦は「電子レンジの説明書に『生き物を入れて温めてはいけない』と書いていないのだから、猫が死んだのはメーカーの責任だ」という理由で、損害賠償請求を起こした。》
この例は、「一般的な人間の解釈からいえば、猫を電子レンジに入れることは考えないが、絶対ということはなく、猫を電子レンジに入れることも無限の選択肢のひとつである」という「フレーム問題」を表している。「電子レンジに入れてはいけないもの」という項目に「猫」を記載しなかったために、選択肢が制御されなかった。
☆このように、本質的には人間も「フレーム問題」を解決できているわけではない。そこで過去の「経験」によって「無限の選択肢」に悩まされずに済んでいる状態は、「フレーム問題を疑似解決している状態」と呼べる。

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叢小榕『老荘思想の心理学』第6章27「恩賞を辞退した羊殺し――なりたい自分よりなりうる自分」(『荘子』雑篇・譲王):与えられた境遇に安んじること、つまり「足るを知る」者であろうと考えた!

2024-02-01 14:38:22 | Weblog
※叢小榕(ソウショウヨウ)編著『老荘思想の心理学』新潮新書、2013年:第6章「どうすれば欲望から解放されるか」
(27)恩賞を辞退した羊殺し――なりたい自分よりなりうる自分(『荘子』雑篇・譲王)
楚の昭王が、呉に攻め込まれ国外に亡命した時、屠羊説(トヨウエツ)(羊殺しの説)も昭王に従って逃げた。昭王が国にもどると、自分のあとについて従った者に恩賞を与えることにした。屠羊説も恩賞にあずかることになったが、「羊殺しの仕事がもとどおりになったので、さらに何の恩賞をいただくことがありましょうか」と断った。昭王は「無理にも受けさせよ」と臣下に命じたが、屠羊説(トヨウエツ)は再び断った。昭王が「引見」しようとすると屠羊説は「その国の法律では大功をたて重賞を受けて初めて大王にお目通りできます。私はそのようなことはしていないのでお断りします」と言った。そこで昭王は「屠羊説は身分こそ卑賤だが、高い見識をもつ人物である」と爵位を与えようとしたが、「爵位ほしさに、わが君(昭王)の亡命に従ったわけではありません」と爵位をことわった。(『荘子』雑篇・譲王)

★屠羊説(トヨウエツ)は、「欲望によって身を滅ぼす」ことをおそれたのだ。「恩賞」、王の「引見」、「爵位」のいずれも屠羊説は断った。彼は「なりたい自分」になることを辞退した。
★屠羊説(トヨウエツ)は、「欲望を断ち切る」こと、そして「なりうる自分」(羊を屠殺する仕事を続けること)に留まることこそ、「天寿を全うする」道と考えた。つまり羊殺しの説(エツ)は、与えられた境遇に安んじ、現状に甘んじること、「足るを知る」者であろうと結論を出したのだ。

《感想1》道家のように「足るを知る」ことこそ正しいと考えるのは、現実の社会では①「弱肉強食」、「生存競争」の社会では、上手くいかないときor「敗者」となった時の正当化の議論であることが多い。あるいは②権力者が支配の強化のために、被支配者に学ばせる「道徳」であることも多い。

《感想2》他方で、道家の「足るを知る」という考え方は一つの目指すべき理念でもある。

《感想3》道家の「足るを知る」という理念は、今日の「反成長」(「脱成長」)の理念と通じる。
A「反成長論」(「脱成長論」):「欲望の無限増殖」の正当化である「(経済)成長論」から脱却すべきだという考え方。☆「The First International Conference on Economic Degrowth for Ecological Sustainability and Social Equity of Paris 」(2008)では、資本主義の非有効性ならびに、それによって引き起こされる金融、社会、文化、人口、環境における危機について「反成長の基本原理」が論じられた。☆「The Second International Conference of Barcelona」(2010)では「反成長社会」を実施する方法が論じられた。
B「資源枯渇」への警鐘:「ローマクラブ」が1972年『成長の限界』と呼ばれる報告書を提出した。
C「エコロジスト」:環境保護のため「反成長」を唱えることがある。気候変動・地球温暖化対策をめざす。またクリーンエネルギーの推進(Ex. 太陽光・風力・水力・地熱・太陽熱・大気中の熱その他の自然界に存する熱・バイオマス等)をめざす。
D E.F. シューマッハーは『スモール イズ ビューティフル』(1973)の中で、(ア)エネルギー危機への対応、(イ)大量消費を幸福度の指標とする現代経済学批判、(ウ)簡素(少欲知足、無執着)と非暴力、最小資源での最大幸福、また自利とともに利他も目的とする「仏教経済学」を主張。

E 2019年、『スローモビリティ』・『スローライフ』を提唱した『ゆっくリズムのまち桐生』が桐生市長によって宣言された。

F マルクス主義者は「人類にとって有益」な成長と、「諸企業にとって利益を増大するためだけ」の成長を区別する。なお彼らは「成長」は社会と経済の発展を可能にする柱だと信じる。

《感想3-2》国連は「持続可能な開発」の理念を掲げ、「持続可能な開発目標」(17目標)Sustainable Development Goals(SDGs エス・ディー・ジーズ)を定めた。(2015年国連サミットで採択、2030年が目標年。)「持続可能な開発」とは「将来の世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、今日の世代のニーズを満たすような開発」である。全人類(人間)の幸福をめざし、かつ「反成長」(「脱成長」)の理念も考慮した上で、「成長」(「開発」)をめざす。
目標1「貧困をなくそう」あらゆる場所、あらゆる形態の貧困を終わらせる。
目標2「飢餓をゼロに」飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
目標3「すべての人に健康と福祉を」あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
目標4「質の高い教育をみんなに」すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。
目標5「ジェンダー平等を実現しよう」ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児のエンパワーメントを行う。(※エンパワーメントとは「社会的弱者や被差別者が、自分自身の置かれている差別構造や抑圧されている要因に気づき、その状況を変革していく方法や自信、自己決定力を回復・強化できるように援助すること」。)
目標6「安全な水とトイレを世界中に」すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的なエネルギーへのアクセスを確保する。
目標8「働きがいも経済成長も」包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る。
目標10「人や国の不平等をなくそう」国内及び各国家間の不平等を是正する。
目標11「住み続けられるまちづくりを」包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
目標12「つくる責任 つかう責任」持続可能な消費生産形態を確保する
目標13「気候変動に具体的な対策を」気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
目標14「海の豊かさを守ろう」持続可能な開発のために、海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
目標15「陸の豊かさも守ろう」陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
目標16「平和と公正をすべての人に」持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。

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宮沢賢治(1896-1933)『銀河鉄道の夜』(1934遺作)青空文庫:銀河鉄道のジョバンニの切符は「天国・浄土・極楽の永遠性」を示す!

2024-02-01 09:54:57 | Weblog
「1.午后の授業」:先生が「銀河」の話をした。ジョバンニとカンパネルラは、二人で「博士」(カンパネルラの父)の本を見ていたので「銀河」のことを知っていた。
「2.活版所」:ジョバンニは活版所で活字拾いのアルバイトをする。
「3.家」:ジョバンニの母は病気で、また父は漁師で漁に出ていて不在だ。
「4.ケンタウル祭の夜」:子供たちが川に烏瓜(カラスウリ)の灯りを流す。
「5.天気輪(テンキリン)の柱」:ジョバンニはひとり、丘の頂上で銀河の頂(イタダキ)の「天気輪(テンキリン)の柱」を見る。
「6.銀河ステーション」:ジョバンニが気づくと、そこは「銀河ステーション」だった。ジョバンニは銀河鉄道に乗っていた。カンパネルラも乗っていた。
「7.北十字とプリオシン海岸」:銀河は、銀と宝石と光の川だ。
「8.鳥を捕る人」:鳥をつかまえて押し花のように平らにして売る。チョコレート菓子のような味がする。
「9. ジョバンニの切符」:ジョバンニの切符は最高の切符で、どこまでも永遠に銀河鉄道に乗れる。やがて突然、カンパネルラが消え去った。銀河鉄道も消え去り、ジョバンニは丘の頂上で寝入ってしまっていたのだ。丘を降りると、ジョバンニはカンパネルラが川で溺れ死んだと知る。

《感想1》カンパネルラは川で死んでしまった。川に落ちた友だちを助けるためだった。「いい人」だ。
《感想2》「銀河鉄道」はジョバンニが丘の上で寝てしまった時に見た「夢」だ。「美しいキラキラ輝く不思議な夢」だ。
《感想3》銀河鉄道のジョバンニの切符は「永遠に乗れる最高の切符」だ。銀河鉄道は「楽しい」。永遠の楽しみの保障!つまりジョバンニの切符は「天国・浄土・極楽の永遠性」を示す!
《感想4》カンパネルラは、「夢」の中で銀河鉄道にジョバンニとともに乗るが、カンパネルラは突然消え去る。それは「現実(うつつ)」の世界でのカンパネルラの死と符合する。ジョバンニの「夢」はカンパネルラの死の「予兆」だ。

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