さまざまに、人がこの世を生きる。ともかく生き抜かねばならない。この著作は一種のルポルタージュだ。色々な人の人生の紹介。著者は、彼らの幸福を願う。以下、いくつか紹介する
(1)「わたしはリカちゃん」:30歳代後半・男
小学校の頃から、彼は自分の顔が嫌いだった。顔を自ら物に思い切りぶつけ、壊そうとして、血だらけになった。
当時、通知表をもらって、成績が悪いと、父親が、自分を思い切り殴りつけた。自己嫌悪に陥った。
去年(30歳代後半)、父親に「絶対許さない」と告げ、対決した。父親は今や、彼に体力で勝てず、黙っていた。
小4の時、「リカちゃん人形」に出会う。胸にずしんと来た。以後、「人形」になりたいと思うようになった。
高校卒業後、公務員となり、家を出て自活する。
彼は、今や、やっと念願の「リカちゃん」になる(女装する)。
《感想》
女装する男性の、これまでの経験と感情が描かれる。父親の暴力、自己嫌悪が、彼を、「人形」になりたいと思わせた。結果として、彼は女装するにいたる。
(2)「愛想笑い」:52歳・男
市の広報課の若く居丈高な係長(32歳・男)に、愛想笑いする中年のビデオ制作会社営業(52歳・男)の話。
《感想》
役所には、業者に対し、居丈高になる職員がいる。「虎の威を借る狐」だ。あるいは下請け企業も、親企業職員から嫌な思いを、さんざんさせられる。取引関係で力がある側は、弱い側を苛め抜く。「絆」とは、ほど遠い暗い現実だ。
(3)「六十八回目の恋愛」:35歳・女
何度も何度も、恋をし、セックスして、今35歳の女性。15歳からそうして、20年で60人以上だから、1年に平均3人の異なる男と恋をしセックスし、別れる。「相手を、好きにならないとセックスしない」、「同時に二人の男と付き合わない」とのこと。別れるのは、「自分が相手を嫌いになる」か、「相手の男が自分を好きにならない」からだという。
《感想》
彼女は、「特定の相手と長く一緒に暮らす」ことを考えない。「恋すること」が好きだ。「子供を持ちたい」とは思わない。
(4)「インポテンスの耐えられない重さ」:40台後半・男
38歳からインポテンスになって、5年間のセックスレス後、45歳で離婚。独身になり、彼には、次々と彼女ができる。だが、インポテンスのため長続きしない。ようやく6人目の女性Kが、彼をリードしてくれて、インポテンスが治った。しかし彼には、「いつまた、白い風が吹き、しぼむかもしれない」との不安がある。
《感想》
ここから分かることは、以下の通り。(a)インポテンスは、男女の関係を壊す。また(b)性的快感を得ることは、人生の重要な目的のひとつだ。さらに(c)男にとってインポテンスは、敗北の象徴として感じられる。
(5)「実演販売の男」:50歳・男
高校中退して、ふらふらしていた時、デパートでアルバイトしていると、実演販売をしている男から、「お前、口が達者だから、この仕事をやらないか」と誘われた。以後、28年続け、今50歳。実演販売は、実力次第で、かつ体力・気力が勝負だ。しかし「ひとりぼっちの仕事」だという。
《感想》
生きていくのは大変である。仕事との出会いは、偶然だった。彼は、商売に楽しみも見出す。それが彼の救いだ。彼は孤独で、また実力で生き抜く「一匹オオカミ」の人生だ。
(6)「黄昏時(タソガレドキ)」:79歳・夫、70歳・妻
息子・49歳、娘・46歳は、別に住み、この老夫婦のみ二人で住む。(結婚して51年。)夫・79歳は、週に2日、公園掃除のアルバイト。(8時半~12時半で2640円/日。)彼は共産党員で、退職前は、組合と党活動がすべてだった。退職の日に、多くの社員から感謝される夫を見て、妻は、「彼がこれまで家庭を全く顧みなかった」ことを、許した。妻・70歳は、今、ダンス教室の助手をつとめる。
《感想》
仲の良い老夫婦だ。夫婦関係のスパンは長い。(結婚して51年。)家庭を顧みない夫を、妻が許すのに20年以上かかった。退職後すでに20年以上。この夫婦は、男女の関係の幸せな一形態だ。そして「終わりよければ全(スベ)てよし」(All's Well That Ends Well)と言う。
(7)「子殺し」:49歳・女
彼女は、中2の時から、継母にひどく虐待され、怒鳴られ、びくびくし生きてきた。24歳で結婚。「やっと母親の暴力から解放された」と喜ぶ。3人の子供。しかし、彼女は長女を虐待する。何かにつけ、腹が立ち、怒り、叩く。実は、娘(長女)が継母と仲が良かったので、憎んだ。「長女を殺すかもしれない」と、彼女は思った。そんな時、彼女(36歳)は、「子殺し」の事件の新聞記事を見る。この記事に、心動かされ、それ以後、「人はなぜ子供を殺すのか知りたい」と、「子殺し」の裁判を傍聴するようになった。彼女は、客観的に事実を捕らえるようになる。かくて、継母にびくつかなくなり、長女への虐待もなくなった。「子殺し」の原因は、「貧困と無知(Ex. 生活保護を知らない)だ」と、彼女は思う。
《感想》
「何かにつけ、腹が立ち、怒り、叩く」、これが子供への虐待の感情形式だ。原因があるはずだが、本人には、それが何かわからない、あるいは原因を知りたくない。(フロイト的な無意識の問題!)
(8)「我にはたらく仕事あれ」:39歳・男
彼は、昨年の7月、10年間つとめた会社を辞めた。彼は、芭蕉を尊敬し俳句を作り、俳句の会の機関誌の編集長をつとめる。晴耕雨読の生活を漠然と夢見ていた。雇用保険の給付が、あと3か月となった時、彼は、あわてて会社の就職試験に応募し始めるが、すでに21社に落ちた。深い、絶望感。今年の4月で雇用保険の給付が終わる。彼は、22社目で、合格できた。地獄が天国になった。彼は、「会社に合格したときの喜び」は一生忘れないと思う。
《感想》
これは1990年代後半(20年前)の話。まだ正規雇用が主流の時代だ。当時、会社に合格するとは、正規雇用されることだった。現在(2018年)は、非正規雇用が4割だ。非正規雇用は有期契約、また極端な場合は日雇い契約であり、一生忘れないような「会社に合格したときの喜び」はない。
(9)「会社がなくなった」:全員解雇4年後の元社員の状況
1994年(4年前)、栃木新聞社が、赤字で廃刊(実質倒産)。社員は、全員解雇。各人の現在(1998年)の状況。(年齢は現在時点。)
(ア)38歳・男、保険代理店開業に向け現在、研修中。研修3年目で、これが終われば、開業できる。
(イ)32歳・男、中学校教員になってすでに3年。「教員は向いている」と思う。
(ウ)37歳・男、トラック運転手になる。(プライドを捨てる。)
(エ)41歳・男、組合幹部だったので就職が困難。パチンコ屋店員、その後、派遣社員。
(オ)49歳・女、自治医大の研究者の補助員となる。
(カ)51歳・男、妻と別居し、宮古島に一人で住む。
(キ)著者は、さらに23人の話を聞いた。解雇後、20代は再就職で希望が叶う。30代は希望の職種に就けない。
《感想》
「人生、山あり谷あり」だ。「七転び八起き」と言う。あきらめるわけにいかない。「捨てる神あれば拾う神あり」だ。
(1)「わたしはリカちゃん」:30歳代後半・男
小学校の頃から、彼は自分の顔が嫌いだった。顔を自ら物に思い切りぶつけ、壊そうとして、血だらけになった。
当時、通知表をもらって、成績が悪いと、父親が、自分を思い切り殴りつけた。自己嫌悪に陥った。
去年(30歳代後半)、父親に「絶対許さない」と告げ、対決した。父親は今や、彼に体力で勝てず、黙っていた。
小4の時、「リカちゃん人形」に出会う。胸にずしんと来た。以後、「人形」になりたいと思うようになった。
高校卒業後、公務員となり、家を出て自活する。
彼は、今や、やっと念願の「リカちゃん」になる(女装する)。
《感想》
女装する男性の、これまでの経験と感情が描かれる。父親の暴力、自己嫌悪が、彼を、「人形」になりたいと思わせた。結果として、彼は女装するにいたる。
(2)「愛想笑い」:52歳・男
市の広報課の若く居丈高な係長(32歳・男)に、愛想笑いする中年のビデオ制作会社営業(52歳・男)の話。
《感想》
役所には、業者に対し、居丈高になる職員がいる。「虎の威を借る狐」だ。あるいは下請け企業も、親企業職員から嫌な思いを、さんざんさせられる。取引関係で力がある側は、弱い側を苛め抜く。「絆」とは、ほど遠い暗い現実だ。
(3)「六十八回目の恋愛」:35歳・女
何度も何度も、恋をし、セックスして、今35歳の女性。15歳からそうして、20年で60人以上だから、1年に平均3人の異なる男と恋をしセックスし、別れる。「相手を、好きにならないとセックスしない」、「同時に二人の男と付き合わない」とのこと。別れるのは、「自分が相手を嫌いになる」か、「相手の男が自分を好きにならない」からだという。
《感想》
彼女は、「特定の相手と長く一緒に暮らす」ことを考えない。「恋すること」が好きだ。「子供を持ちたい」とは思わない。
(4)「インポテンスの耐えられない重さ」:40台後半・男
38歳からインポテンスになって、5年間のセックスレス後、45歳で離婚。独身になり、彼には、次々と彼女ができる。だが、インポテンスのため長続きしない。ようやく6人目の女性Kが、彼をリードしてくれて、インポテンスが治った。しかし彼には、「いつまた、白い風が吹き、しぼむかもしれない」との不安がある。
《感想》
ここから分かることは、以下の通り。(a)インポテンスは、男女の関係を壊す。また(b)性的快感を得ることは、人生の重要な目的のひとつだ。さらに(c)男にとってインポテンスは、敗北の象徴として感じられる。
(5)「実演販売の男」:50歳・男
高校中退して、ふらふらしていた時、デパートでアルバイトしていると、実演販売をしている男から、「お前、口が達者だから、この仕事をやらないか」と誘われた。以後、28年続け、今50歳。実演販売は、実力次第で、かつ体力・気力が勝負だ。しかし「ひとりぼっちの仕事」だという。
《感想》
生きていくのは大変である。仕事との出会いは、偶然だった。彼は、商売に楽しみも見出す。それが彼の救いだ。彼は孤独で、また実力で生き抜く「一匹オオカミ」の人生だ。
(6)「黄昏時(タソガレドキ)」:79歳・夫、70歳・妻
息子・49歳、娘・46歳は、別に住み、この老夫婦のみ二人で住む。(結婚して51年。)夫・79歳は、週に2日、公園掃除のアルバイト。(8時半~12時半で2640円/日。)彼は共産党員で、退職前は、組合と党活動がすべてだった。退職の日に、多くの社員から感謝される夫を見て、妻は、「彼がこれまで家庭を全く顧みなかった」ことを、許した。妻・70歳は、今、ダンス教室の助手をつとめる。
《感想》
仲の良い老夫婦だ。夫婦関係のスパンは長い。(結婚して51年。)家庭を顧みない夫を、妻が許すのに20年以上かかった。退職後すでに20年以上。この夫婦は、男女の関係の幸せな一形態だ。そして「終わりよければ全(スベ)てよし」(All's Well That Ends Well)と言う。
(7)「子殺し」:49歳・女
彼女は、中2の時から、継母にひどく虐待され、怒鳴られ、びくびくし生きてきた。24歳で結婚。「やっと母親の暴力から解放された」と喜ぶ。3人の子供。しかし、彼女は長女を虐待する。何かにつけ、腹が立ち、怒り、叩く。実は、娘(長女)が継母と仲が良かったので、憎んだ。「長女を殺すかもしれない」と、彼女は思った。そんな時、彼女(36歳)は、「子殺し」の事件の新聞記事を見る。この記事に、心動かされ、それ以後、「人はなぜ子供を殺すのか知りたい」と、「子殺し」の裁判を傍聴するようになった。彼女は、客観的に事実を捕らえるようになる。かくて、継母にびくつかなくなり、長女への虐待もなくなった。「子殺し」の原因は、「貧困と無知(Ex. 生活保護を知らない)だ」と、彼女は思う。
《感想》
「何かにつけ、腹が立ち、怒り、叩く」、これが子供への虐待の感情形式だ。原因があるはずだが、本人には、それが何かわからない、あるいは原因を知りたくない。(フロイト的な無意識の問題!)
(8)「我にはたらく仕事あれ」:39歳・男
彼は、昨年の7月、10年間つとめた会社を辞めた。彼は、芭蕉を尊敬し俳句を作り、俳句の会の機関誌の編集長をつとめる。晴耕雨読の生活を漠然と夢見ていた。雇用保険の給付が、あと3か月となった時、彼は、あわてて会社の就職試験に応募し始めるが、すでに21社に落ちた。深い、絶望感。今年の4月で雇用保険の給付が終わる。彼は、22社目で、合格できた。地獄が天国になった。彼は、「会社に合格したときの喜び」は一生忘れないと思う。
《感想》
これは1990年代後半(20年前)の話。まだ正規雇用が主流の時代だ。当時、会社に合格するとは、正規雇用されることだった。現在(2018年)は、非正規雇用が4割だ。非正規雇用は有期契約、また極端な場合は日雇い契約であり、一生忘れないような「会社に合格したときの喜び」はない。
(9)「会社がなくなった」:全員解雇4年後の元社員の状況
1994年(4年前)、栃木新聞社が、赤字で廃刊(実質倒産)。社員は、全員解雇。各人の現在(1998年)の状況。(年齢は現在時点。)
(ア)38歳・男、保険代理店開業に向け現在、研修中。研修3年目で、これが終われば、開業できる。
(イ)32歳・男、中学校教員になってすでに3年。「教員は向いている」と思う。
(ウ)37歳・男、トラック運転手になる。(プライドを捨てる。)
(エ)41歳・男、組合幹部だったので就職が困難。パチンコ屋店員、その後、派遣社員。
(オ)49歳・女、自治医大の研究者の補助員となる。
(カ)51歳・男、妻と別居し、宮古島に一人で住む。
(キ)著者は、さらに23人の話を聞いた。解雇後、20代は再就職で希望が叶う。30代は希望の職種に就けない。
《感想》
「人生、山あり谷あり」だ。「七転び八起き」と言う。あきらめるわけにいかない。「捨てる神あれば拾う神あり」だ。